Amecomi Katatsuki PUNISHER VS Kiritsugu Emiya~Side P~ 1
アメリカ最大の都市であり、人種の坩堝ことニューヨーク。この街には、人種という枠とは違う括りで、様々な人がいる。善人、悪人、中庸、どれも数が多い。そしてその結果、タガの外れた存在が生まれる。常識では考えられない、力を持つ者が。
ニューヨークの裏社会を支配する悪党は、五指に余る。巨漢巨悪のキングピン。石頭ならぬ鋼鉄頭のハンマーヘッド。善悪の強烈なまでの使い分け、ミスター・ネガティブ。
そんな悪党の中でも、異彩を放つ男が、フッドと呼ばれる男だ。近年突如出現し、瞬く間に勢力を築き上げた男。赤いクロークを目深に被る姿は、名前のとおりフッド、フードを被った者である。彼の武器は、魔術であった。弾道を曲げ、影から影を移動し、空中を気ままに散歩する。敵対勢力どころか、部下にすら何らかのトリックを使っていると思われていたが、彼の魔術は、本物であった。とある強大すぎる悪魔と契約した結果得た、怖ろしいまでの魔術だ。
ニューヨークに確固たる地位を築き上げたフッドは、一棟丸々支配しているビルに、手下を集めていた。
「時に」
フッドが口を開いた瞬間、緩慢だった空気が張り詰める。
「今、俺は、最大の危機を迎えている。闇が、俺に教えるんだ。あの狩人が、俺を狙っていると」
フッドが手をかざした途端、壁に貼り付けられたNYの大地図に、炎で髑髏が描かれる。髑髏を見た途端、手下たちに動揺が走る。ニューヨークで悪党をやっている以上、髑髏は、忘れてはいけない象徴。触れてはいけない、禁忌の存在であった。
「更に、かの狩人に匹敵する恐怖が、俺を狙っている」
フッドの手に、直接灯る炎。魔術により生み出された炎は、持ち主の肌にも肉にも無害であった。
ざわめき半分、困惑半分。おそらく手下の多勢は、かの恐怖と同じ存在などいるのかと、疑問に思っている。それはそうだろう。チンピラでは分からない。魔術師殺しの恐怖は、魔術を使うものでないと、理解が出来ない。
「だが、恐怖が二つあるのであれば、答えは簡単だ」
フッドの手の炎が、髑髏に焼かれる地図に投げつけられる。二つの炎は合体し、地図を一瞬で焼き尽くした。
「恐怖を、殺しあわせればいい。恐怖同士の対決は、必ずや死を招く。そして勝ち残り死にかけた恐怖を始末する。簡単な話の上に、あの災害を始末した俺達の名は、NYの新たなる恐怖として刻まれるだろう!」
しばしの沈黙の後、誰かがフッドの名を呼ぶ。名は激しく増えていき、数秒後には大歓声と化していた。
フッド! フッド! フッド! 色とりどりの彼らは、様々な銃火器を手にし、歓声を上げる。
ついこの間まで、あのひと山いくらの連中と同じ場所に居たフッドは、歓声を心地よく聞く。既にフッドの思惑通り、彼らは殺し合いを始めていた。おそらくこの後に聞く歓声は、もっと熱く激しい物になるだろう。
魔術やオカルトは嫌いだ。天使や悪魔なんて、もうコリゴリだ。だがそれでも、前に立ち塞がってきて、追いかけてくる以上、相対しないワケにはいかない。パニッシャー、フランク・キャッスルにとっての魔術とは、その程度の物だった。ミュータントだのミューテーツだのが持つ、特殊能力と何ら変わりない。
だからこそ、最近ニューヨークで起こっている、連続殺人事件の被害者の共通点が魔術師と知った時は、多少憂鬱になった。
「どうやら彼らは、フッドに狙われていたようだね。逃亡や彼への反撃を企んでいたら、先手を打たれたと」
複数のモニターとキーボードを同時にいじっている、小太りの男。鈍臭そうに見えるが、この電脳社会において、ネット上に構築された彼の情報網から逃げ出せる人間はおるまい。
実戦ではなく裏方、情報収集や武器の調達を得意とする男、マイクロチップ。性格や性質の都合上、交友関係が希薄なパニッシャーにとって、珍しく縁が長く続いている相手である。
「フッドか。面倒な奴だな」
「だが、どうやら実行犯は別にいるらしい。被害者は全員、トンプソン・コンテンダーで射殺されている。弾のタイプは、30の06の、スプリングフィールド弾だね」
「なんだそりゃ」
鉄面皮のパニッシャーにしては珍しい、呆れた表情。トンプソン・コンテンダーとは、どんな弾でも撃てる万能銃である。だが、一発ごとに装填が必要な単発銃と言うのは、武器として心もとない。しかも使っている弾は、威力重視のスプリングフィールド弾。おそらく、改造済みのモデルだ。コンテンダーの火力を嵩上げするという発想はわかるが、そ必要以上の威力を求めて、なんになるのか。どうせ、一発当てれば、人は死ぬ。超人相手なら、この程度では足りない。汎用性を捨ててまで、中途半端に威力を追求する意味が分からなかった。
実利を求めるパニッシャーにとって、意味の分からぬ浪漫だ。
「さあ。あちらの世界の事情は分からないから。ただおかげで、犯人と目される男に、アタリをつけられた。魔術師殺し、衛宮切嗣。組織に属さない、フリーランスの魔術師で、傭兵の真似事もしているらしい」
マイクロチップに渡された書類には、衛宮切嗣の簡単な経歴と行状。今まで彼がおこったと思われる仕事の内容が、簡潔に記されていた。
「見る限り、君と同じ容赦の無いタイプに見えるけどね。一人殺すのに、船を爆破。毒殺や狙撃もお手の物だ。それに、ヨレヨレのトレンチコートが、トレードマークだ」
「お前にもそう見えるんだな」
「ん?」
「いや。なんでもねえ。だが、魔術師殺しなんて御大層なあだ名があるんだ。奴の狙いも、絞りやすいだろうさ」
「ああ。任せろ。お膳立てをするのは、僕の仕事さ」
自身の作業に没頭し始めたマイクロチップを背に、パニッシャーは己の仕事を始める。
まずは、持ち込む武器の選定。この作業に浪漫の入る余地はない。目的に適しているのかどうかが、基準だ。
例え手元に伝説のエクスカリバーがあったとしても、あんなゴテゴテとしたデカい剣より、小回りが効く十把一絡げのナイフの方が何百倍もマシだ。
こんな、ワケの分からねえ武器の選び方をする、魔術師なんてのと一緒にするんじゃねえ。パニッシャーの偽りなき本音であった。
魔術は実利。思考は非情。戦略は悪辣。手段は外道。礼装は銃火器。何処をどう切り取っても、魔術師らしからぬ魔術師。衛宮切嗣とは、そんな魔術師であった。
魔術師を狩る生き方を決め、遂行してきた彼に与えられた異名は、魔術師殺し。並行し、破滅的な戦場にて傭兵として生きる男でもある。
だがそんな彼の、今日の戦場は大都会。そして殺し合っている相手は、只の人間だった。
散弾に襲われ、切嗣は間近にあったソファーの裏に飛び込む。瞬時、転がり、壁の後ろに姿を隠す。容易く穴だらけになるソファー。アレを盾になんて思っていたら、死んでいた。
携帯していたマシンピストルにて撃ち返す。マガジン装填数からバレルから、改造を重ねている自分用の銃を持ってしても、心もとない。なにせ相手は、ポンプ式ショットガンの二丁拳銃なんてバカをやらかしている、バケモノだ。
本来両手で扱うショットガンを放り投げ、肩と肘の動きでリロードを実行。そのまま休みなく、こちらを狙ってくる。曲芸じみたリロードを、左右の腕で行うことにより、曲芸を通り越した実利を生み出している。速射性に優れたマシンピストルでも、あんな無茶苦茶な相手との撃ち合いは、条理の外の更に外にある。
狭い部屋の中で飛び交う銃弾。その間には、絶息した魔術師の、切嗣をNYに呼び寄せた男の遺体があった。
彼が依頼したのは、現在ニューヨークの裏社会を魔術で支配しようとしている男、フッドの暗殺。フリーランスの魔術師である切嗣は、今日このアパートの一室にて詳細を聞く予定であったが、訪れた彼を出迎えたのは死体であった。
そして、何かする間もなく、ドアを蹴り放ち現れた、髑髏のマークのシャツを着たレザーコートの男。まず交わされたのは、言葉ではなく銃弾だった。
どうやら、あの男は、自分のことを犯人だと思っているらしい。魔術師殺しが無実の魔術師を殺した。なんとも、単純な筋書きである。
誤解だ。話を聞け。口にしようとする度に、かの男との間が縮まりそうなのが分かる。そして縮まった瞬間、訪れるのは絶命の二文字。アレに、聞く耳は無い。自分と同じように。
残弾の切れたマシンピストルを投げ捨て、自らの身も窓から投げ出す。四階の高さであったが、転げ落ちたのは隣のビルの三階相当の屋上。あまりに相手の土俵に居る現状、距離を取らなければ、このまま飲み込まれる。
髑髏の男は、切嗣が飛び出した窓に駆け寄ると、追って飛び出した。窓から撃つのではなく、あえて追撃する。多少の有利よりも、距離を離すこと、自分のペースが崩れることを恐れる。分かっている、彼は分かっている男だ。
髑髏のシンボルを付けた、犯罪者を狩る自警団員、パニッシャー。所詮、自己満足の正義と悪党の焚付に長けた、ニューヨーク名物正義の味方と同程度の存在と思っていたが、それは間違いだった。
アレは、摩耗しきった存在だ。あんなモノを、ありふれた自称正義の味方と同カテゴリーに入れてはいけない。殺害を、誇りある物ではなく、手段としか思っていない。
僅かな親近感と、妙な嫌悪感。湧き出そうな感情を抑え、切嗣は今現在、自分の周りにある武器と取れる手段の確認を始めた。