ヘビィガンナーの帰還

 幸運。それはこういう巡り合わせを言うのだろう。まさか先日倒した、ハプルボッカの素材こそ、自身の求めている物に繋がるとは。必要な武器防具のリストと素材を提出し、ただ完成の時を待つ。途中、鍛冶場から使いが来た。本当に、このリストの通りでいいのかと。
「それでいいんだ。いや、それじゃなければいけないんだ」
 半ば強制的に納得させられた使いは、了の返事をそのまま伝えることとなった。それからまた一両日、ようやく望みの物が完成した。真新しい装備をチェックし、装着する。真新しくも、懐かしい装備。ポッケ村に置いてきた防具を纏い、ユクモ村でしか売っていないヘビィボウガンを装備する。新旧混合、それが今のヘイヘの姿だった。

 なめらかな皮を持ち、寒さを好み、電撃を吐く。これだけの情報を聞けば、誰とて怪物とはフルフルだと判断する。じめじめとした沼地や極寒の雪山を好む、雌雄同体の不気味な飛竜。あの制限知らずの怪物発電所に、一体どれだけのハンターが泣かされてきたものか。
 そんなフルフルらしき生き物が、初めてユクモ近くの凍土に現れた。ビリビリするという特徴だけ聞いて、簡単に物事を判断してしまったのが第一の失策。フルフルならば、見間違いでもギギネブラなら火炎弾で十分だと判断してしまったのが第二の失策。連れているアイルー達を落ち着かせることが出来ない程、自身が驚いてしまったのが第三の失策。
 失策が重なった結果、相手の姿形を見極めぬまま、撤退するハメになってしまった。予測はできている。しかし、相手を狩猟しなければ決定的な証拠にならない。証拠があってこそ、言質は真実となり、正しい記録となるのだ。
 久方振りの失策が、弛緩した身体と頭に活を入れ、ギラギラと上を目指していた頃の気持ちを取り戻させる。強大な敵相手に、装備も選ばずがむしゃらに立ち向かっていた頃。あの頃小脇に抱えていたのは、ずっとヘビィボウガンだった。
 失った物を取り戻す。準備完了から出立までの間、幾度も無謀だと言われた格好で、ヘイヘは一人、復讐の凍土へと向かった。

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ヘビィガンナーの憂鬱

 湯けむりで曇るから、ユクモ村と言うのであろうか。集会浴場やあちこちの温泉は、村の人やハンターで常に埋まっている状態。皆、和気藹々と世間話や情報交換を重ねている。
 そんな明るく煙る村で、部屋の戸や窓全てを締切り、僅かな明かりだけで作業している人間がいた。今の彼女にとっては、煙も喧騒も、作業を邪魔する雑事に他ならない。
 太刀の刃に砥石を滑らせ、ほんの僅か、窓の隙間から差し込んでくる光を反射させる。質も良く手入れも行き届いた太刀は、実用品ながらも美術品では出せない、重厚と戦歴に満ちた美しさを思うがまま放っていた。
 太刀を鞘に仕舞い、部屋を覆っていた暗幕を外す。部屋の床は、様々な武器で埋まっていた。片手剣、大剣、ランス、ガンランス、狩猟笛、双剣、スラッシュアックス、ライトボウガン、ヘビィボウガン、弓。ハンターが使うべき武器が、至る所に並んでいる。笛やランスの数が少なく、二種のボウガンがやけに多いのは、持ち主の趣味か。
 自分が所持する全ての武器の点検を終えた彼女は、こう結論づけた。
「ポッケ村とユクモ村、現状武器の技術においてはユクモ村が一歩リードしている。だが、しかし」
 急に落ちる声のトーン。先程までは武器を冷静に分析してたであろう口調だったのに、急に恨みや怒りを感じさせる、怨念溢れる重い口調に変わった。
「ボウガンの技術においては、残念ながらポッケ村の方が優れていると言わざるを得ない。なんて、悲しい話だろうか。これは、悲劇だ」
 彼女の名はヘイヘ。かつて、ヘビィボウガンを友とし、雪深きポッケ村で数々の怪物を狩猟してきた、純粋たるガンナーだ。そんな彼女にとって、優秀なユクモ村の装備群は屈辱的な品揃えだった。
 友であったヘビィボウガンの運用を諦め、ライトボウガンに転向したという事実も、彼女の妙な恨みを加速させていた。

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せめて狩人らしく

 ティガレックスの咆哮が地を揺らす。なまじ遠くで聞けば鼓膜が裂け、近くで聞けば身をも裂く咆哮も、遥か遠くであればただの大きな隙でしかない。
 轟砲【大虎頭】の照準がティガレックスの眉間に合わさる。轟砲というヘビィボウガンの素材はティガレックスであり、【大虎頭】は特に強力な個体の素材から作られた一品だ。多少当たりがブレる事があり、散弾や属性弾が一切撃てないものの、威力は絶大でリロードも早い玄人好みの一品だ。
 そしてこのティガの頭蓋に似たボウガンは、ティガレックスを大量に狩って来た証でも有る。
「グオォォォォォォォォォ!」
 同族の敵と言わんばかりに、ティガレックスは激しい雄叫びを上げ憎きハンターへと突撃する。怒りの余りに体の各所の血管が激しく膨張し、茶色の表皮を透かして浮き出ている。
 当たれば必死の突進を前にして、ハンターは構わず弾を撃った。通常弾がティガの頭をかすめ、何発かがティガの目をかする。しかし視界を少し邪魔されたくらいで、ティガの突進は止まらない。狩人と轟龍の距離はあと僅か、数秒後に狩人はティガの咢に砕かれ肉塊と化す。もはや回避も間に合わぬ、狩人の必死は絶対的であった。あそこで欲を張らずに素直に逃げていれば、避けられた物を。
 だが、必死の運命を容易く覆すのが狩人であり人の可能性。この可能性があるから、人は怪物と互角以上に渡り合えるのだ。
 絶対不可能なタイミングで、彼女は回避に成功した。自ずから転倒し、ボウガンをすぐに構えた。
 彼女の纏う衣装は、多少違う部分があれど迅竜ナルガクルガの素材で作られている。ナルガクルガは素早い竜であり、ナルガで作られた装備品は使用者に彼の竜の素早さを与える。この装備をしているからこその奇跡の回避であり、必然の回避であった。
 ティガレックスの牙は獲物を見失っても勢いが殺せず、とんでもない物を噛んでしまう。彼が噛んだのは巨壁。悠久の時を生き抜いてきた硬い岩壁を噛んでしまったのだ。ティガは牙を引き抜こうともがくが、怒りの牙は壁に深く食い込み抜けない。
 動けぬティガの各所を、貫通弾が貫いた。爪が割れ、牙が砕け、片目が潰される。だが、ティガの怒りはそれぐらいの痛みでは収まらない。轟竜の怒りは、負傷の残酷さを凌駕するほどに激しいのだ。
 牙が砕けたおかげで自由になったティガは、憎き狩人へと向き直る。向き直った瞬間、最後の貫通弾がティガの脳天を貫いた。

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