田んぼの中に一本足で立ってる物ってな~んだ?
「トリック・オア・トリート!」
「ほらよ」
我家の玄関に飛び込んできたカカシに、僕はチーカマを投げつけた。
「……チーカマってツマミだろ?」
「血迷ったスーパーなら、時たまお菓子売り場で売ってるぞ」
カカシは納得のいかない顔で、持ってる袋にチーカマを押し込んだ。袋には、バラエティ豊かなお菓子が沢山詰まっていた。
「一体どれだけ回ってきたんだよ」
「知り合いの家は全部だな。みんな、よく出来た仮装だって褒めてくれたぜ。なんとなく、カカシにはハロウィンのイメージがあるだろ」
「ふうん」
ハロウィンに似合うのは、ワラで出来た洋風のカカシであって、君の仮想している三度笠にどてらの和風カカシじゃないよと、正直に言ってやりたい気持ちを抑える。
まあでも言われるだけあって、カカシに仮装した彼は、カカシそのものに見えた。通学路の脇にある古びた田んぼに野ざらしのカカシそっくりだ、というか。
「ひょっとしてお前、あのカカシから色々貰ってきたんじゃないだろうな」
「い、いやー。三度笠やどてらをちょっとね! いいじゃんか、あの田んぼ、持ち主が死んでるんだし。カカシだってあのまま野ざらしにされるよりはいいだろ」
「まさか、引っこ抜いてそのまんまかよ!」
コイツ、バカだとは思っていたが、そこまでバカだとは。いくら持ち主が死んでいるとはいえ、不法侵入じゃないか。
「明日には、ちゃんと装備返して立たしておくよ。じゃあ、またな。仲間も待ってるんで!」
僕が呆れているのに気づいたのか、彼はそそくさと帰っていってしまった。それにしてもハロウィン。ウチの町は比較的ノリが良いから許されているけど、東京辺りじゃ不審者として逮捕されそうなイベントだ。
彼でなく、みんなハロウィンを楽しんでいる。そして僕は、チーカマを投げ続ける。なんてシュールな光景。
これが本当に、ハロウィンという代物なのだろうか。