アメコミカタツキ~激ファイト! 水着メリュジーヌVSデッドプール~

※こちらのSSは2023年冬コミにコピー本として出したものの、ホームページ掲載版です。なので、情報やネタの鮮度は当時基準となっております。

 後に彼女はこう語った。

「勝ち負けで言ったら、当然僕の勝ちだけどさ。初めて、勝負に勝って試合に負けたってのを味わったよ」

 そう口にする彼女の苦々しさも、これまた新鮮な表情であった。
 なにせ彼女は、生まれてこの方、最強なのだから。

                  ◇

 2023年、ハワトリアの夏。虚数の海に消えたBB、サバフェス正常化委員会による弾圧混じりの規律、アルトリア縛りという枷、崩壊によるループが繰り返す日常、多すぎる黒幕、謎の神性の存在――
 平穏という字がまったく似合わない夏休み。だが、多くの英霊が事態に悩み奔走する中、彼女は事態に関わりつつも、一人平穏を過ごしていた。日がな高級ホテルプリスティンのビーチで寝そべることも、最強である彼女には許されるのだ。
 上半身も下半身も、危ういところが見えてしまいそうな際どい水着。軽くまとっている上着も、腰の両脇から生えた羽根も、際どさを隠すには心もとない。
 だがしかし、幼き肢体に秘められた、圧倒的な実在感に、何よりも儚く美しい肌に髪に顔立ち。美術品でありながら、どんな武器をも超えた圧があるという、矛盾を極めた存在。そんなものに、下品や下卑なんて形容詞がつけられようはずがない。
 妖精騎士ランスロットこと、メリュジーヌ。満を持して水着サーヴァントになった彼女は、夏を満喫していた。
 仕えるべき女王よりハワトリア唯一の海上保安騎士の名を授かったメリュジーヌだが、午前中はホテルのVIPルームでまどろみ、午後はこうしてビーチで日光浴を楽しむと、実に優雅な一日を過ごしている。
 もちろん、海上保安騎士である以上、誰かが溺れたらすぐ助けに行く。だが、そもそも頑強なサーヴァントが溺れることなんて、ほとんどない。それに、海は入るとベタつくので、あまり入りたくない。
 いつもは潔癖なまでに真面目で張り詰めた妖精騎士であるメリュジーヌだが、夏の空気に当てられた結果、常に余裕を持ち、おおらかに人と接する海上保安騎士になってしまった。正体は超越種である原初の竜であるのだから、むしろ夏の姿のほうが本性に近いのかも知れない。
 そんなのんべんだらりとしたメリュジーヌであったが、今日はわずかながらにテンションが高かった。現にビーチ仕様のリクライニングチェアに寝そべりながらも、うつ伏せになってぱたぱたと足を動かしている。まるで、親からのプレゼントを待ちきれていない子供である。

「ふんふ~ん 今日はマスターとデート♪ ボーっとして、その後はこの島全部のアトラクションを楽しんでー。待ちきれないなー」

 マスターと書いて、つがいと読む。
 メリュジーヌは、今日ホテルプリスティンに来る予定のマスターを待ちわびていた。
 メリュジーヌだけでなく、数多のサーヴァントと契約している、カルデアのマスター。今現在仕事に任務にたまに遊びと、ハワトリア中を東西奔走している。そんなマスターが、今日はホテルプリスティンにやって来る。
 本音で言うならば、すぐにでもマスターを拉致して、ずっと隣に居て欲しいものの、竜種独特の感覚で将来的にマスターと恋人になることを確信しているメリュジーヌに、焦りはなかった。長命種独特の呑気さとも言う。
 メリュジーヌの座るリクライニングチェアの脇に並ぶ、同型かつマスター用のリクライニングチェア。準備は万全である。別にマスターはホテルプリスティンに来るだけで、メリュジーヌに付き合うことは約束していないのだが、万全である。
 顔をうずめ、その時を待ちわびるメリュジーヌ。そしてついに、隣のリクライニングチェアに、誰かが寝そべった。

「マスター! 待ってたよ!」

「ドーモ、メリュジーヌ=サン。ニンジャスパイダーマンこと、デッドプール=サンです。ブラックフライデーセールのお陰で、全巻買えました。ワザマエ!」

 メリュジーヌは隣にあらわれた謎の不審者の胸ぐらをつかむと、腕の力だけで遠くにぶん投げた。
 水平線の向こうまで吹き飛ぶ、全身を赤いタイツで覆った謎の不審者。もしかしたら、ルルハワの外まで吹っ飛んでしまったかも知れないが、気にすることもないだろう。
 メリュジーヌは変なのが寝そべってしまったリクライニングチェアをタオルで拭くと、いろいろと全部忘れた。

「ふんふ~ん 今日はマスターとデート♪」

 鼻歌、テイク2である。

「カーッカッカ!」

「サメー!」

 奇抜な笑い方をするデッドプールが、FGOの珍妙生物の一体ことサメ兵士を、マスター用のリクライニングチェアにどかっと置く。デッドプールの手には、デカい中華包丁が握られていた。

「これからテメエはずんばらりんとさばかれて、サメの丸揚げだぜぇ! それも、生きたまんま丸揚げする断末ザメの油地獄だ!」

「サ、サメェ!?」

「ガガガー! 俺ちゃんもやったことはないけど、この間の割引セールで鉄鍋のジャンを全巻買ったからできるだろ! あん? 時事ネタっつうか、ついこの間あった話をネタにすると、後で後悔するぞって? いや大丈夫だって、今回はフットワークの軽さが売りのコピー本だから! その場こっきりだから許されるってのが……えー! 今回、ホームページに再掲されてるのかい!?」

 メリュジーヌのパンチにより、再び吹っ飛ぶデッドプール、そして謎のサメ兵士。時事ネタは許されたとしても、メリュジーヌは許してくれなかった。

「なんなんだろう、アレ。僕をイラつかせるために作られたホムンクルスか何か?」

「お前はイラつくってよく言われるけど、よく言われる以上、もう俺ちゃんは全人類をイラつかせるために生まれた存在と言ってもいいんじゃないかな」

 いつの間にか、デッドプールはまた戻ってきていた。あれだけ景気よく吹っ飛んで、どうやって即座に戻ってきたのだろうか。そもそも、メリュジーヌのパワー+アロンダイトを変形させたメリケンダイトのパンチをくらって、こうしてピンピンしているのもおかしいのだが。ガッツと不死身に定評がある黒髭でも、退去もしくは成仏する攻撃だ。
 本当に変な存在だなと、メリュジーヌはわずかにデッドプールへの興味を持つ。デッドプールもまた、メリュジーヌのそんな視線に気づいた。

「じゃあ、もう一度最初から説明するね。銀幕大スターとなった俺ちゃんは、MCU入りもしたし、ローガンも出るし、これでデッドプール3も安泰だぜ! と滅茶苦茶に気ぃ抜いてたんだけど、キャプテンなマーベルご一同や生臭い海の男の映画がひっでえことになってるのを見て、おっとこりゃマズいなって。だからこうして、弱小サークルの同人誌にも出て、草の根活動をコツコツと」

「うーん……メリケンダイトキック!」

 ああ、これはバーサーカーだ。会話をするだけ無駄なタイプのバーサーカーだ。そう判断したメリュジーヌの横蹴りが、デッドプールを襲う。普段は剣を使うランサーという立ち位置だが、海上保安騎士のメリュジーヌはルーラーであり、その武器はステゴロである。ルーラーは殴るものと、どこぞの聖女が証明したのだから仕方ない。

「U!」

 再び吹き飛ばされるかと思ったデッドプールだったが、なんと今回は二振りのニンジャソードと謎の掛け声で、メリュジーヌの蹴りをそらした。背中に背負った二振りの刀は決して飾りではない。
 続けざまに、今度はメリュジーヌの拳が振るわれる。

「M!」

 再びデッドプールはニンジャソードにてメリュジーヌのパンチをそらす。そらしたとはいえ、あまりの威力だったのだろう。デッドプールは無事でも、ニンジャソードの刃にヒビが入った。

「E!」

 それでもデッドプールは、諦めずにニンジャソードを振るう。メリュジーヌのパンチラッシュをさばくのと引き換えに、二振りのニンジャソードは粉々になった。

「H!」

 飛び退いたメリュジーヌの腰にあらわれた鉄の翼。翼から放たれた複数のミサイルが、銃弾にて撃墜される。デッドプールの二丁拳銃は、どこかの百発零中の戦神とは違い、百発九十中くらいには当たる。

「A!」

 デッドプールは、再び襲いかかってきたメリュジーヌの蹴りを、強引なゼロ距離射撃で弾く。爆発に近い音がしたものの、壊れたのはメリュジーヌの足でなく、拳銃の銃口であった。

「えーい、めんどくせえ! RA!」

 「U」「M」「E」「H」「A」「RA」と、謎の呪文を叫びつつ、メリュジーヌの攻撃をブロッキングしてみせたデッドプール。竜の攻撃をこうも捌いてみせたのは、快挙である。会場も大歓声だ。
 だが、今度のメリュジーヌのアッパーは、ガード不能でブロック不能、つよつよドラゴンらしいチートな一撃だった。

「グワー!」

 メリュジーヌのアッパーにより、再び射出されたデッドプール。海の方に飛んでいったのを見て、メリュジーヌは背を向ける。今度は着水まで確認した以上、三度目の帰還はないだろう。
 ふと、メリュジーヌは、腰の翼に僅かな重みを感じる。

「うわ。信じられない」

 いったい、いつやったのか。メリュジーヌの翼には、リング上に繋げられた、複数の手榴弾が引っかかっていた。ピンを始めとする安全装置など、当然全部解除されている。
 直後に起こった爆風が、メリュジーヌごとビーチの地形を変えた。

                  ◇

 デッドプール。どの武器を使わせても一流、頭はおかしいものの、戦いに関しての頭脳と嗅覚は並外れた傭兵である。
 だが、もっとも厄介なのは、ヒーリングファクターと呼ばれる再生能力であった。たとえ、腕を吹き飛ばされても、脳みそを削られても、そしてドラゴンに本気で殴られても数分で回復してしまう、無茶苦茶な再生力である。
 回復を終えたデッドプールは、海にぷかぷか浮かびつつ、ビーチで起こった爆発を見届けていた。

「たまや~ってな。さてと、龍殺しの伝説は作ったし……」

 ここでデッドプールは、自分と同じようにぷかぷか浮いているサメ兵士の存在に気がついた。おそらく、さきほどさばこうとした個体だろう。
 デッドプールは、サメ兵士の腹をぺしぺしと叩く。

「おい起きろー、お前が気絶してる間に、俺ちゃんは児ポ法ギリギリのドラゴンにひとあたりしてきましたー」

「サ、サメぇ!」

 ガバっと起きるサメ兵士。普通のサメのように無表情ながらも、その顔は恐怖に染まっているように見えた。

「やあ、デッドプールさんだよ! いやいや、食べないよ? ビビってるサメの肉は固くてしょうがないって、鉄鍋のジャンに書いてあったし。あれ? それダチョウだっけか? ダチョウ兵士っていたりしない? そもそもお前らなんなの? ネイモアの管轄?」

「サメぇ?」

 デッドプールに様々な疑問をぶつけられ、ハテナを浮かべるサメ兵士。そもそもこのサメ兵士がなんなのか、数多のマスターもサーヴァントもよくわかっていない。創造主ですらよく考えていないかも知れないし、ものすごい伏線があったりするかもしれない。
 キーーン――と甲高い音が、水面を震わす。

「あら? 鳥か、飛行機か、いやハイペリオンかしら?」

 呑気なことを言うデッドプールの間近を、ガトリングガンの弾幕が横切った。
 慌てて潜るデッドプールとサメ兵士。サメはそのまま潜って逃げられても、陸上生物のデッドプールはすぐに浮かぶしかなかった。

「ブハッ! マスク! マスクのまま、水泳するの無理! 鼻と口にぴったり貼り付くから、普通に死ぬ! 流れ弾にヘッドショットくらうよりキツい!」

 ナイフで頭に入った弾丸をえぐりつつ、叫ぶデッドプール。そんなアホの摘出手術を見下ろす、小柄な影があった。

「いつも、装備を使い切る前に相手が潰れちゃうんだけど、それぐらい頑丈なら全部使い切ってもいいよね?」

 当たり前だが、あの程度の爆発、メリュジーヌにとってはなんでもなかった。せいぜい、逆鱗にホコリがかかった。要はイラっとしただけだ。
 黒い水着から、白い水着を飛び越し、完全武装モードへ。高速飛行を可能とする鋼の蒼き翼に、ガトリングガンやミサイルといった火力を装備。それでいて、ガトリングガンの直殴りや尻尾による強烈な攻撃による格闘戦も可能と、もはや存在自体が規格外の戦闘機である。おそらく人類が滅びるまでの年月をすべて戦闘機の研究につぎ込んでも、この域に達することはできまい。
 そんなアロンダイトの怪物が、ホバリング状態でデッドプールを見下ろしている。

「正直、本気になったら負けだっていうのはわかっているけど、これから僕には大事な用があるからね!」

「大事な用? 俺ちゃんと絡むよりも大事なことなの?」

「なんでこの状況で、自分を比較対象にできるのかがわからない。これから恋人との用事がある。これ以上、言わなきゃいけないかな?」
 ちょっとイラッとしたのもあるが、この生き物をさっさと片付けないと、マスターとの時間が減ってしまう。メリュジーヌが換装してきたのには、そういう理由もあった。
 そんな生き物であるデッドプールは、唐突な一言を差し込んできた。

「でも、マスターはもういないじゃない」

「――なんて?」

 目を見開き、絶望的な顔をするメリュジーヌ。すぐに我を取り戻すと、ホテルプリスティンとの通信回線を開く。

「もしもし? メイド長? もしかして、もうマスター来たりしてる? ええっ! 帰った!? だってまだ僕と……珍しくビーチで誰かと楽しそうに遊んでたから、邪魔しちゃ悪いと思ったって? いやちょっと待って。いくらなんでもそれはつがいとして竜の心がわからなすぎっていうか。掃除で忙しいから切る? 待って!」
 メリュジーヌに構わず、プツンと切れる通信回線。これからマスターとのイチャイチャタイムに突入するはずだったのに、その予定は全部吹き飛んでしまった。別に確固たる約束はしていなかったものの、吹き飛んでしまった。
 いったいコレは、誰のせいなのか。

「おいサメ! 頑張れサメ! お前の頑張りに、俺ちゃんの命が! なんならMCUの今後がかかってる!」

「サメー!」

「サメーじゃねえよ! お前らそもそもなんなんだよ! アットゥマも誰だお前って聞いてくる謎生物だよ! 頑張れ! 生き延びたら、お前を名誉ボブにしてやるから!」

 全責任を負うべきデッドプールは、再び捕まえたサメ兵士の背中に乗って逃亡中だった。サメ兵士のおかげもあって、モーターボート並のスピードで逃げているが、今のこの状況におけるモーターボートは鈍亀より頼りなかった。

「着艦しなくても、あれぐらいは捕まえられるかな」

 本来は、カタパルトを必要とするフォーメーションである。だが、あの程度の速度なら、自力飛行をスタートとしても十分捕まえられる。
 メリュジーヌは、外部に展開している武装を、通常時のフェアリーパックから、火力と機動力を重視したドラゴンパックへと換装。えっちらおっちらと逃げるデッドプール(とサメ兵士)に照準を絞る。

「スプライト・アルビオン!」

 虹を架ける、無垢なる鼓動。マッハの速度によるオールウェポンアタックが、デッドプールを襲った。

 この日、ホテルプリスティン洋上にて、カルデアの記録でも上位に数えられるほどの、大爆発が起こった。

                  ◇

 ホテルプリスティンには主がいる。その主は、最も豪華な自室にてメイド長からの報告を聞いていた。

「帰還したメリュジーヌは、現在自室にて就寝中です。ふて寝ですね」

「ご苦労。海で暴れたせいで、随分とビーチが汚れたようだ。起きたら、清掃作業に駆り出すように。多少は働いてもらわないと、いい加減ビーチから追い出したくなるからな」

 筋骨隆々、たくましいメイドランキング上位のバーゲストに、妖精國の元女王にして現ホテルプリスティンのオーナーであるモルガン。時刻は遅いものの、二人は夜空を背に優雅なティータイムを楽しんでいた。

「のんべんだらりと過ごすメリュジーヌを苛つかせ、多少働かせることができ、なおかつカルデアの支配下にいない人材。カウンシル・オブ・モルガンズで紹介された時は半信半疑だったものの、あのデッドプールという男はいい仕事をしてくれたものだ。おかげで私も、邪魔が入ること無く、マスターとの逢瀬を楽しむことができた」

 マスターと書き、我が夫と読む。カルデアのマスターも大変だが、奪い合うサーヴァントも大変である。
 本来、モルガンのものであるはずのプライベートビーチにて、主以上にビーチを満喫しているメリュジーヌ。そんなメリュジーヌをからかい尽くしたデッドプールを呼んだのは、他ならぬモルガンであった。ビーチを我が物顔で使うなら、多少は働いてみせろというメッセージである。とはいえ、最強種であるメリュジーヌに迷惑をかけ、足止めもできる存在は、なかなかに探すのが難しかった。
 だが、そんなデッドプールの話より、もっと気になる単語が、モルガンの発言にはあった。

「失礼ですが、そのカウンシル・オブ・モルガンとはいったいなんでしょうか?」

「平たく言うなら、全次元のモルガンが集い話し合う評議会のようなものだ。自称征服者が、全次元の自分自身を集め、身の程知らずの評議会を開いているのだ。魔女モルガンにできないはずがない」

「なるほど」

 これは深く言及するとマズい組織だと判断したバーゲストは、無理やり納得する。カウンシル・オブ・モルガンでどんな光景が繰り広げられているのかは知らないが、きっと全次元のアーサー王が渋い顔をする光景に違いない。

「あのデッドプールを紹介したのは、向こう風に言うなら、アース616のモルガン……いや、モリガンだったか? とにかく、別次元のモルガンだ」

「ところで陛下、もう一つお聞きしたいのですが」

「身長190センチ♪ 体重120キロ♪ 巨体が吠えるぞ 地を行くぞ♪ その名はつよでかメイド その名は~バーゲスト! いやー、シーハルクもタイタニアもデケえ! と思ってたけど、さらにふっとくて美人! ねえねえ、今度はそっちが俺ちゃんの世界に来ない? うわーもう、ガンマ線とか浴びて、上乗せマッスルしてみない!?」

「いったいいつまで、この客人を置いておくのですか?」

 一見瀟洒なメイドとしての己を保っているものの、バーゲストの内から放たれているのは、暴威であった。
 モルガンたちのお茶会の脇で、キャッキャとはしゃいでいるデッドプール。頭が半分吹っ飛び、右腕がどこかにいって、脇腹がえぐれ臓物がちらちらしていても、とにかく元気であった。

「サメー」

 同じく生き延びたサメ兵士も、ポリポリとなにかをかじっている。かじっている物体が、成人男性の右腕に見えるのは気のせいだろう。

「そうだな。役割を終えた以上、即座に帰すべきだ」

 そう言うと、モルガンは上等な紅茶を口にする。一秒、十秒、返答を待つバーゲストには、とても長い時に思えた。
 モルガンが紅茶を飲み終えたところで、バーゲストは発言する。

「もしかしてなのですが……ひょっとして、喚び方は聞いたものの、返し方を聞いていなかったりするのでしょうか」

 まさかそんなことはないだろう。そんな感情がありありと込められたバーゲストの質問を聞いたモルガンは、目を夜空にやりつつ答えた。

「別次元とはいえ、流石はモルガン。悪辣なのは、変わらぬようだ」

 即日発送可能、しかし返却は不可能。人はそれを、厄介払いと呼ぶ。

「ねえねえ、ドクター・ドゥームって知ってる? 向こうのモルガンとデキてたらしいんだけど。なんなら紹介しようか? 素顔は俺ちゃんと同じくらいイケメンで、独裁国家の国王っていう優良物件だけど。一回さー仲人とかやってみたいんだよねー。スパイディやキャップより、既婚者の俺ちゃんの方が向いてると思うんだよね。あれ? スパイディは既婚者だったっけ? メフィストの悪意が、俺ちゃんを襲う!」

 モルガンが一瞥した途端、暴言を越えた何かを発したデッドプールはピチューンと消滅する。でもきっと、気がついたらまた戻ってくるのだろう。なにせ、最強であるメリュジーヌですら殺しきれぬ男である。
 残酷な失敗は何度も経験してきた。それとは毛色の違う、無様な失敗とはこういうものなのか。モルガンは改めて学んだものの、その代償はしつこくもまったりとして馬鹿みたいにデカそうだった。

~了~

  

Deadpool&TaskMaster~伝統芸能総本家~

 街を歩く彼を見て、誰もが振り返る。それは決して、彼が外人だからという訳ではない。
「デッドプール、INニッポーン! リターンズ!」
 中身が日本人だろうとなんだろうと、変な赤タイツを着たオッサンがハイテンションでスキップして、時折バレエのようにくるくる回りつつ移動してたら、誰だってちら見するし道を開ける。先程は、ヤクザもそそくさと避けてくれた。
「ニッポンの皆さん、コンニチワ。好きな食べ物はオスシ、ニンジャとゲイシャに会いたいデス。もうこーんなハリウッドアッピール!もいらない昨今。だってオレちゃん、日本デビューしちゃったからね。地上波で! 動画配信で! さあ見ろ見ろ、ニッポンよ! コレが、デッドプールだ!」
 かけられたタスキに金字で書かれているのは、“ディスクウォーズ 人気ナンバーワンヒーロー!”の称号。まるで宴会部長か今日の主役か、デッドプールは三次会の大学生レベルで浮かれ狂っていた。
「ディスクウォーズで1億5千万人のファンが増えた以上、今後露出は増やして行くべきだと思うんですよ。なんなら脱ぐことも厭わないので、コロコロは近日中にヌードピンナップのスペース開けとけよ!?」
 出版不況の荒波を乗り越えてきた、児童漫画雑誌潰す気か馬鹿野郎。
「ああん!? ヒップとかシットとか、子供にバカ受けなシモネタお下品なんでもありな雑誌に、全裸載ったっていいだろうがよ!? いや待て待て、全裸でオレちゃんがピシっとポーズを取ったら、その裸身はシモネタではなく芸術? おいおい、ありがとうな地の文。オマエのお陰で間違いを犯さずにすんだよ」
 極楽な勘違いをしているデッドプールは、ええじゃないかばりに踊り狂ったまま、目的地に到着する。
「この間、かのディスクウォーズも放映している大放送局テレビ東京にて日本の職人ピックアップな番組やってたんだけどさ、ハポネスの凝り性というか職人技すげえわホントーって事で、せっかく日本にいることだし、オレちゃんもそれを体感したくなりました!ということで、コンニチワー」
 ガラガラと引き戸を開け、中に入るデッドプール。やってきたのは、包丁やナイフがショーケースに飾られている、刃物の専門店だった。
「いらっしゃいませ……!?」
 一歩間違えれば強盗の格好をしたデッドプールにおののく店主、思わず机の下の警報ボタンに指が伸びかける。
「ワーオ! リッパーパラダイス! ちょっと聞きたいんだけどさ、ここって刃物研いでもくれるんだよね? 最近、使っている物の切れ味が落ちまくっててさー。だからメンテのついでに、職人技を体感してみたくてね」
「はあ、当店でも研磨請け負っておりますが、あまり特殊な物は対応できないので、一先ず品をお見せしていただけますか?」
「オーライ! 頼んだよーチミ」
 デッドプールの背中やタイツの下にベルトのポケットから、出るわ出るわの刃物類。日本刀、ナイフ、手裏剣、クナイ、サイ、ポケットモンキー……は間違いだったのでポケットに戻す。形大きさ、特殊すぎる刃物類。唯一ある共通点は、どれも使い込まれていて、凶器として扱われた痕跡があることぐらいだ。
「最近、出番が多いせいで、手入れ怠っちゃってさー。ダメなら新しいの買ってもいいから。でもこの日本刀は大丈夫だよね? 血がついてるとは言っても、デケえサメとナチス残党ぐらいしか斬ってないし。ああ、こっちのナイフはボブの膝に」
 デッドプールの言葉を遮り、鳴り始める警報。這々の体で逃げ出す店主。近づいてくるパトカーのサイレン。
「おいおい、いくら自分のところで請け負えないからって、店の自爆スイッチ押すコタぁ無いだろ? パラメーター“恥”が70以上になったら、HARAKIRIする民族なだけあるわー……」
 やって来た二人組の警察官に両手を引きずられ連行されても、デッドプールの口は止まらなかった。

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???

 夜のニューヨークを、赤が跳び回る。
 舌打ち。歓声。つばを吐く。手を振る。
 見た人間のリアクションは様々であったが、誰もが彼から目を離せなかった。摩天楼を跳び回る、自称貴方の親しき隣人。スパイダーマンは今日もNYを跳び回っていた。サイレンを鳴らすパトカーを、ウェブスイングで追い越す。
「お先にー。頭上の失礼、彼らは僕が捕まえておくから勘弁して欲しいな」
 スパイダーマンも警察も、同じ車を追跡していた。
 真昼の銀行に真正面から装甲車で乗り付け、金庫の中身全てを奪っていった銀行強盗団、その名をシニスターシックス。
 シニスターシックスがスパイダーマンを恨む最強の敵が組んだ巨悪の集団、だったのは昔の話。今は、衝撃を操るショッカー、飛行可能なコスチュームを着たビートル、高速で走るスピードデーモン、ブーメランの妙手であるそのものズバリなブーメランといった、多少路線が変わった悪のチームとなっている。身近というか、微妙というか。
 そして今回の犯罪に使われた装甲車を作り上げたのは、どんな乗り物でも容易に改造してしまうオーバードライブ。以上5名が、現在のシニスターシックスである。なお、シックスなのにメンバーが5人なのは「一人足りないほうが、最後の一人は誰なんだ!?って想像を膨らませられるだろ? ひょっとして最後のメンバーはドクター・ドゥーム!? ドーマムゥ!?なんてさ」という、彼らなりのイメージ戦略の結果である。決して、決してメンバーが見つからなかったわけではない。
「さて、スパイダートレイサーの反応はと。ああ、そこの角の先で止まっている。ひょっとして、発信機を捨てられた? それとも待ちぶせか」
 警察を随分と追い越したスパイダーマンは、スイングの最後に大きく飛ぶと、ひび割れた古いアスファルトに着地した。何が起こってもいいよう、構えもしっかりとっている。
「注意しておいて、悪いことはない。なら待ち伏せのつもりで! さあ来い、シニスターファイブ!?」
 角を曲がった先の光景を見て、絶句するスパイダーマン。何が起こっていいと身構えてはいたが、この状況は、予想だにしなかった。
 裏道へと繋がる、人通りの元来少ない通り。キルト製のコスチュームの至るところが食いちぎられているショッカー。傾いた街灯に引っかかっているビートル。壁にめり込んでいるスピードデーモン。自身のブーメランで地面に縫い付けられているブーメラン。ロープで縛られ転がっているオーバードライブ。戦闘能力を失ったシニスターシックスを、真っ二つに寸断された装甲車から出た炎が照らしていた。
「凄いな、色々と。でも誰が?」
 確かに最近(笑)な扱いを受けているシニスターシックスだが、決して弱いわけではない。性根が三下気味なだけで、今のメンバーも能力的には十分な物を持っている。ぽっと出の新人が、こうして無残に叩きのめせる存在ではないのだ。そして、見事に二つに割れた装甲車。対超人用の対策が施されているであろう装甲車を、ああも見事に斬れる能力者。ついでに、ショッカーのコスチュームの惨状からして、鋭い牙も持つヒーロー。顔の広いスパイダーマンでも、心当たりの無い存在だった。
「ば、バケモノだ……トカゲのバケモノだ……」
 衝撃吸収用のコスチュームの至るところがほころんでいるショッカーが、うわ言のように何やら呟いている。
「え? リザードにやられたのかい? 君たち」
「ち、違う。もっと、スマートで、マダラで、あんなの見たことが……無い。車で猫を跳ねそうになった次の瞬間、ビルの上から降ってきて、ベルトが光ったかと思ったら、あっという間に俺たちシニスターを……!」
 これだけ言って、ショッカーは意識を失う。コスチュームは大惨事だが、ショッカーの身体自体にはあまり外傷は無かった。
「ああもう、警察につき出す前におしえてもらうよ? 君たちは、いったい、誰に、やられたんだ!」
 意識があるのだろう。ピクピクと若干動いている他のメンバー全員に聞こえる大声で、スパイダーマンは尋ねた。
「強くて……」
「ハダカで……」
「速い……」
「奴……!」
 全員がそれぞれ一言だけ言った所で、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 何もしないまま片付いたのはいいが、どうにも釈然としない。スパイダーマンは、マスクの上からポリポリと頬をかく。
「つまり、ケイザーみたいな裸の野生児で、リザードとは違ったトカゲ? よく分かんないけど、そのコンクリートジャングルにやってきたターザンに一度会って、お礼を言いたいね。手間を省いてくれたわけだし」
 このスパイダーマンの願いは、やがて数日後、思いもよらぬ形で叶うこととなる。新たなトモダチとして、新たなフレンズとして――。

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デッドプール チームアップ! 艦隊これくしょん~艦これ~ その3

前回

 

デッドプール「強い、デカい、ビッグセブン!」
長門「どうにも小馬鹿にされているような気もするのだが、ここは褒められていると受け取ろう」
デッドプール「艦隊の鉄壁にして大火力、アベンジャーズで言うなら……ハルク。長門はハルクだぜ!」

天龍「あれ? デッドプールは?」
長門「あの全主砲斉射に耐えられたのなら、そのうち漂着するだろう。本調子でないのに、余計なことをしてしまった」

Hulk(意味):廃船の船体、大きくて扱いにくい船、不格好な船、ばかでかい人

 

「鎮守府復興はスカウトから!」
「どういうことだよ?」
鎮守府の廊下を並び歩くデッドプールと天龍。意気揚々と先行して歩くデッドプールの様は、数時間前まで頭と胴体の半分が消し炭になっていたとは思えない姿だ。
「例えてみよう、俺ちゃんはある日ピザを頼みました。ピザ配達員が来るまで部屋で小銭入りの瓶を抱きつつのんびりしていたら、誤報によりパニッシャーが部屋に来襲、飛び散る血漿、飛散する小銭、詩人は警官隊の銃弾に倒れ、犬はワンワンと吠え、猫はニャーニャーと鳴き、そしてコウモリは黙して語ることがなかったのであった!」
「おい。その詩人や動物たちは何処から出てきた?」
「俺ちゃんの言葉だけは、風にのるのさ。でまあ、色々あって街の一区画が灰になった後、ピザ屋が来るわけですよ。さて、払うつもりだった小銭は瓶ごと消し炭となった。ピザ食べられない、俺ちゃんのライフプランはここで崩壊! 人生真っ暗。ああ、あの思わぬ事故がなければ!」
「食べ物一つで、真っ暗になるのかよ、お前の人生……」
純粋なのか安いのか、良く分からない人生だ。
「で、なんの話だったっけ?」
「ここまで話しておいて、ソレかよ!?」
意味があるように見えて、実は意味が無い。逆もまた然り。つきあってしまった天龍は悪くない。正しいデッドプールとの付き合い方を熟知しているのは、世界広しといえども、未来から来た傭兵ぐらいのものだ。
「ああまあ、つまりはね、ここの鎮守府は今、物資が無くてカツカツ。というか、当て込んでいた収入が無くなって火の車。出れるのは、燃費のいいテンルーちゃんや駆逐艦ぐらい! でも、でも! 駆逐艦の大半は今、遠征から帰れない状態。帰ってくるのを待っていたら、破綻しちゃう! だから、状況を一変させられる臨時艦隊を作りましょーと。残っている連中、癖があったり、燃費が悪くで出せない連中ばっか。なので、早急に新たな駆逐艦が必要って、カンペに書いてあるよ?」
「あるよ?って言われても……だいたい、理由はわかったけどさ」
「いきなり近海に湧いてきた深海棲艦の謎を解明しないと、下手すりゃ遠征期間組が狙われちゃうし。だから、遠征組はみんな待機で帰ってこれないと。俺ちゃんたちは、特命艦隊として解決に挑む! 旗艦でエースは、当然テンルーちゃんで」
「だから、て・ん・りゅ・う! でも、いい響きだよなーエースって。この最新鋭の装備を腐らせずにすむってだけで、ありがたいぜ」
実はあまり最新ではない己の装備を、天龍は嬉しそうに撫でた。
「というわけで、オレちゃんは長門の手助けの結果先行して海に出て、新たな戦力を連れてきた。世間では漂流とも呼ぶがシャラップ!」
「え? いやスカウトって、普通俺たちが海に出て」
「座しているだけの提督なんてもう古い。非暴力に用はない! 平和の道は血祭りの道、逆らう奴は地獄に叩き落す! これがオレちゃんの提唱するガンジー2。じゃなくて、真提督スタイルだ。オレちゃんは、戦場に橋を掛けに行く側なんだよ!」
死にかけて漂流していたヤツが、勢いだけは偉そうなことを言っている。
大きな扉の前についた二人、この扉の先は、外海へと繋がるドックであった。重々しい扉が、ゆっくりと開いていく。
「紹介しよう。鎮守府の新たな仲間、スティーブとバッキーだ!」
「ヲ級とイ級じゃねーか!」
鎮守府の入り口にして急所に、なんか敵が入り込んでいた。露出度の高い少女の上に、クラゲのような物体を乗せた空母ヲ級に、魚雷に目と剥き出しの歯をつけたかのような怪物然とした駆逐艦イ級。艦娘どころか、バリバリの深海棲艦である。
そもそも、近海に何故かいる、場所に不釣り合いなヲ級みたいな連中をどうにかしようという話ではなかったか。
「ぷかぷか浮いているオレちゃんによってきて、がじがじ甘咬みした後付いてきてね。なんとも感動的な出会いだろ?」
「エサと思われていただけじゃねーのか」
「こっちの駆逐艦バッキーは、改装するとソ連艦になって、改二になるとアメリカ艦になってスティーブの互角と性能になる出世頭なんだぜ? 響みたいなんだぜ?」
「だぜ?って言われても知らねえよ! こちとら、まだ改二も無いんだ!」
「ヲ……ヲヲ……」
ヲ級の口から、特徴的な鳴き声が漏れる。
「おいおい、スティーブが驚いてるじゃないか。ついこの間まで、氷山の中で眠っていたせいで、まだ頭ボヤけているんだぜ?」
「北方海域生まれなのか? とにかく、帰ってもらえ。アンタなら言葉通じそうだし、穏便に」
「ワオ、意外。ここで決着をつけてやらぁ!ぐらいのこと言うかと」
「ここは鎮守府だからな。戦いは、外でやるべきだし、決着は戦場でつけるべきだ。お前らも、他の連中に見つからないうちに早く出て行け。ま、外で会ったら容赦しないからな?」
シッシッシと追い払うように手を動かしながらも、その表情は困惑で、嫌悪感は無い。好戦的かつ強さを誇るように見えて、独自の優しさとおおらかさを持つ。総じて評するなら、天龍とは男前な艦娘であった。
イ級もヲ級も、天龍の意を察したかのように、静かに退いていく。デッドプールが話すまでもなかった。
最後にヲ級が、絞りだすようにして言葉を発した。
「……テンリュウ……マイフレ」
「それは止めろ。マジで」
「バイバイ バタフリー! 今度また戦場で会おうぜ! トーチにトロ!」
「名前変わってるじゃねえか!」
ここに至って、どうにも忙しい天龍であった。

デッドプール チームアップ! 艦隊これくしょん~艦これ~ その2

前回

 

鎮守府で最も重要であり、艦隊を率いる頭脳の役割を果たす場所。それが、提督の部屋である。この部屋の決断が艦隊の方針を定め、強いて言えば艦娘の人生をも左右する。聖地となるか地獄の門となるかは、提督次第である。
秘書艦となった天龍の目の前では、聖地でもなく地獄でもなく、口憚られる何かに変わろうとしている提督の部屋であった。
「ウィーウッシュアメリクリマス♪ ウィーウッシュアメリクリマス♪」
クリスマスのテーマソングを口ずさみながら、檜風呂できゃっきゃと遊んでいる謎の赤い男。登場時にあったケーキがあるならまだしも、何処からか持ってきたアヒルちゃんで遊んでいる時点で何がしたいのかさっぱりわからない。そもそも、この不審人物は、何故提督の部屋で我が物顔で遊んでいるのか。
そもそもあの檜風呂、高額かつ家具職人が居ないと貰えない物なのに、勝手に作ってしまっていいのだろうか。
「アンドハッピーニューイヤー!」
「痛てえ!」
叫ぶ天龍。油断していたら、濡れた温い節分用の豆を顔面に投げつけられた。結局、何時やねん今。
「ども、恐縮です、デッドプールですぅ! 一言お願いします!」
「はあ!? うーうんと、お、俺の名は天龍、怖いか?」
「えーと、バスタオル、バスタオル」
「無視かよ!?」
身体を拭いた後、提督の白い軍服を着たところで、謎の変人は己の名をようやく名乗った。何故か、カタコトである。
「えー、この度は、ワタクシことデッドプールが臨時で提督に就任することとなりました。よろしくおねがいします、テンルー=サン」
「て・ん・りゅ・う! 天龍だからな、テンルーじゃなくて! って、提督!? お前が!? アイツ、何処行ったんだよ……」
「いやねえ、先日、急な襲撃で、物資ヤバくなったじゃん? 今、鎮守府カツカツだからさ、提督の座をオレちゃんに任せて、外に行っているわけよ」
「外って、補給要請をしに、直に司令部に?」
「いや。クレジットカード無いから、コンビニにウェブマネー買いに」
「どっちも聞いたことねえし!?」
コンビニにウェブマネー、天龍の聞いた記憶のない二つの単語であった。
「この二つの単語の意味が把握できるなら、きっとソイツはオレちゃんの領域に辿り着けるのだろう。さっきドックで見た、あの自称アイドル。オレちゃんに一番近いのはアイツかもしれん。ゲームだって、分かってやがるからな……末恐ろしい」
「よく分かんねえけど、辿り着かない方がいいのはなんとなく分かるな」
天龍は、本能で危険性を察した。
「とにかく、提督が不在の間は、オレちゃんが提督と! まあアイツもさ、オレちゃんが飽きたら……じゃなくて、やることやったら、帰ってくるって!」
会話中、バタンといきなりタンスの扉が開き、中から白袋が転がり出てきた。口がしっかり紐で締められた袋は、もぞもぞと動いている。まるで、人一人ぐらいなら入れそうな、大きな袋だ。
「な、なんだよソレ?」
「あーうー……そうそう、豚、豚。赤城の夕飯としてね、着任の差し入れに! 決して、人が入っているとかじゃないから! 提督は、外にいるから!」
「いやー、それは無理だぜ?」
「だよね! よし! テンルーちゃん殺して、オレちゃんも死ぬ。なあに、後でよみがえるし、オレちゃん的には問題なし! 一種のリランチ!」
「豚一頭ぐらいじゃなあ。赤城じゃおやつがせいぜいだぜ」
「そっちか! その辺りは、おいおい考えよう! この事は、シリーズ終了あたりまで忘れていてね!?」
白袋を無理やり担ぎあげたデッドプールは、動く白袋を元のタンスに押し込んで、今度は錠前で鍵をしっかりと掛けた。
「話を無理やり変えると、今、鎮守府は未曾有の危機です。謎の襲撃者をどうにかしないと、ご飯も食べられないと。代理提督とはいえ、なんとかしなきゃ!という使命感に燃える真面目なオレちゃん。キャー、カッコイイ。というわけで、テンルーちゃんを、秘書艦に任命します! パチパチー」
「悪りぃ。断る」
「え!? この流れで!? どうせ行数無駄に増えるだけだから、ここはウンと言っておこうぜ!? 容量削減!」
手拍子どころか途中カッコイイポーズまで取ってしまったのに、ソレはないだろうと、必死で食って掛かるデッドプール。天龍は申し訳無さそうに、そして若干照れくさそうに頬をかく。
「期待してくれるのはありがたいよ。でも、ここの鎮守府の提督はお前じゃなくてアイツなんだ。未曾有の危機なら、アイツはきっとすぐに戻ってくる。そういうヤツなんだよ、ウチの提督ってさ。だから、お前には悪いけど、きっと今秘書艦になっても、三日天下ってやつさ……うるせえなあ、ソイツ」
ガタガタと、先ほど袋を入れたタンスが揺れていた。
「このSSの更新速度なら、確実に三日以上は持つと思うけどな。そういうことなら、残念だけど諦めるかー。きっとテンルーちゃんなら、この間、一緒に色々した“死の天使”ばりの相棒になってくれると思ったんだけどなー」
ぷーと残念そうに頬を膨らませるデッドプールの言葉を聞き、天龍のケモミミに似た頭飾りがぴくりと動いた。
「人類最後の秘密を知る不老不死の探求者」
ぴくぴく。
「二次元として三次元で生きる、次元の超越者」
ぴくぴくぴく。
「息をする事が恐怖となる女」
ぴくぴくぴく!
「体重自由自在」
「あ。それはカッコよくない」
飾りが、ピタリと止まった。
「オウシット。まあこんな感じでね、オレちゃんと組むと二つ名とかついてきちゃうかもしれないのよね! でもねーテンルーちゃんはこういうの嫌いみたいだしなー。代わりに木曽にでも」
「ちょ、ちょっと待った!」
「えー、もういいわ。木曽は改2までいけるし、実はあの海賊キャプテンキャラのほうが、今後のこのSSの展開的には」
「分かった! 頼むから待ってくれ! たとえ三日でも、全力投球することは悪くないよな。秘書艦として、頑張らせてくれよ」
異名の存在は、天龍の心底にある中二心をドキュンと刺激していた。心底にあるわりには、普段からダダ漏れな中二心だ。
「そこまで言うなら、使ってやらないこともないぜ。テンルーちゃん」
はっはっはと、鷹揚に振る舞うデッドプール。喜ぶ天龍に気付かれないよう、小声でつぶやく。
「メンバーの異名や宿命だけはカッコいいよな、グレイト・レイクス・アベンジャーズ
ヒーロー史上最も権威のないチームであるGLAの補欠メンバーでもあったデッドプールは、強いけど残念な正規メンバー達に、初めて感謝した。

 

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