デッドプール&ウルヴァリン≠ウルヴァリン&デッドプール

 デッドプール&ウルヴァリンのタイトルは重い。重すぎる。ついにデッドプールとウルヴァリンが映画で共演を果たした。戦いのVSではなく、共に並び立つ&だから。重く感じるポイントはたくさんある。そこには歴史や希望や性癖と、いろいろ詰まっている。だが、個人的にまず重っ!?と感じたポイントはウルヴァリン&デッドプールではなく、デッドプール&ウルヴァリンであることだ。デッドプールの映画の延長線上にあるのだから、当たり前の話なのかも知れない。なんなら、ウルヴァリン&デッドプールのタイトルでも、この映画は売れていただろう。しかしながら、このデッドプールが先で、ウルヴァリンが後というのは、実はなかなかに興味深い事態である。

 思えば、かつて2000年代に人気を博し、デッドプールの人気を押し上げたコミックスのタイトルはCable & Deadpoolだった。マーベル最強の人気者にして稼ぎ頭とも言えるスパイダーマンと共演すると、スパイダーマン&X-MENやスパイダーマン&フレンズとなるように、アメコミでは基本主役格や人気者の名前が先にくる。ほぼカップリング論争である以上、とにかくセンシティブだし、ここでホークアイ&デッドプールなんてのを持ってこられると、この文章が全部ひっくり返るくらいに荒れる。ひとまず、おおかた顔役の名前が、もしくはプッシュしたいキャラが先に来ると考えていい。例えば日本だって、アンパンマンのタイトルは「アンパンマンとカレーパンマン」「カレーパンマンとはるまきぼうや」みたいに、主役に近いキャラが先に来る傾向にある。でも、アンパンマンの例でも「はみがきまんとどんぶりまんトリオ」だと、はみがきまんが先来るか?とはなってしまうので、アメコミもアンパンマンもだいたいそういうきらいがあるくらいでまとめたい。世の中、そう断言はできない。

 話を戻す。Cable & DeadpoolはX-MEN本誌などでの展開の都合上、ケーブルが抜けてデッドプールが一人で回す期間も長かったのだが、ケーブル不在でもタイトルはCable & Deadpoolだった。ケーブルが主役どころか1ミリも出てこず、デッドプールとタスクマスターと一騎打ちでわちゃわちゃしても、タイトルの先頭は不在の顔役ケーブルである。これはこれで、タイトル詐欺じゃなかろうか。

 このデッドプールとタスクマスターの対決は2007年の話だが、3年後の2010年にこのデッドプールVSタスクマスターの表紙を流用したケーブル&デッドプール総集編が刊行された。いや、正確にはケーブル&デッドプールは刊行されなかった。ひとまず、このわかりやすすぎる間違い探しをやってみて欲しい。こうも豪快だと、逆にわかりにくいかもしれない。

 Cable & DeadpoolはDeadpool & Cableとなってしまった。なんともクソややこしいが、ハッキリしてるのはデッドプールがケーブルに変わる顔役になったということである。詳しく書くと文字数が恐ろしいことになるので割愛させてもらうが、要は2007~2010年の間で、デッドプールの人気と存在感がケーブル以上になったということだ。もっとも、Cable & Deadpoolの終盤はケーブル不在でほぼデッドプールの個人誌だったので、これが実はデッドプールの本であることを改名でアピールしただけかもしれないが……とにかく、このタイトル変更自体はデッドプールの快挙である。何より当事者が噛み締めている以上、快挙と呼んでやらなければ、可哀想だ。この一件から五年後に、新たに刊行されたDeadpool & Cable: Split Second(2015年刊)におけるデッドプールの台詞を聞くと、この順序が入れ替わったことの大きさがよく分かる。

「ついに頂点に立ったんだよ。クッソ長かったよ、底辺からコツコツとさあ。そりゃ、デカくて、ハードで、色んなとこで働いてたお前(ケーブル)は目立ってナンボよ。でも今は、俺ちゃんの時代なんだ」
(デッドプール&ケーブルとなった総集編のCMが入る)

 このデッドプールの達成感と照らし合わせてもらえれば、デッドプール&ウルヴァリンのタイトルが持つ重さがわかるだろう。それこそウルヴァリンはマーベル屈指の人気と格を持つキャラクターである。大抵のキャラが共演すれば、ウルヴァリン&◯◯◯◯やウルヴァリン/◯◯◯◯になってしまう。◯◯◯◯&ウルヴァリンにできるのは、別格の大スターであるスパイダーマンと、ウルヴァリンが自身のデビュー作ことThe Incredible Hulk #180 #181で相対したハルクぐらいだろう。メタ的な視点で言えば、ハルクにとってのウルヴァリンは、デビュー戦で胸を貸してやった後輩である。せんぱいぢからは、やはり強い。しかし、ヒーローの大先輩であるキャプテン・アメリカも、母体であるはずのX-MENも、ウルヴァリンと並べば後ろに下がるしか無いのも事実だ。実際、デッドプールもコミックスでウルヴァリンと共演する際つけられたタイトルは、Wolverine/Deadpoolであった。もうケーブルに変わる顔役となった時代でもこれである。

 しかし2024年、ついにタイトルはデッドプール&ウルヴァリンとなった。それも、コミックス以上に世界的なスター性が必要な、映画での話である。デッドプールはついにウルヴァリンの代わりに顔役を務められる立場に達した。当然、映画併せの共演コミックスのタイトルも、Deadpool & Wolverineとなっている。デッドプールは映画だけでなくコミックスでも、スパイダーマンに次ぐ人気を持つウルヴァリンを(現時点で)超えることに成功したのだ。

 アメコミは長くキャラクターを活かすことに長けている。その一方で、長くキャラクターが活きることでレギュラー枠が固定される傾向がある。少年ジャンプで例えるなら、連載陣も連載順もおいそれと動かない状態と言える。そんな中、デッドプールは映画でスターダムになりつつ、コミックスでもケーブルやウルヴァリンの前に立つことに成功した。アメコミ業界全体で二人の先に行ったと言っても過言ではない。この暗黙の了解や序列をぶち壊す強さは、アベンジャーズやジャスティス・リーグを乗り越えて、アメコミのトップに立てそうだった90年代のX-MENを思い出させる。デッドプールも90年生まれだが、X-MENブームに陰りが見えた時期にのし上がっていったことを考慮すれば、むしろ当時のX-MENの正統後継者なのかもしれない。オールマイトに対するダークマイトぐらいには後継者だ。
 もっとも、この状況や勢いがずっと維持できるかどうかは不明だし、これからはDeadpool&Cableの時代だぜ! と盛り上がった後の2018年にまたもケーブルが先なCable/Deadpool Annualが出ている。再びひっくり返ったその一方で、この2018年は映画デッドプール2が世に出た年でもある。映画デッドプール2では、実写の先輩デッドプールが、後輩となったケーブルやX-Forceを引き上げていた。単なる人気の有無では判断できない複雑な事情やパワーゲームの存在を感じてしまう。今回も映画のボーナス期間が終わった途端、コミックスもWolverine & Deadpoolに戻るかも知れない。正直、戻る確率のほうが高そうではある。

 ただ少なくとも今は、デッドプール&ウルヴァリンとして、デッドプールが顔役を担ったこと。更に映画デッドプール&ウルヴァリンの成功で、出版社やスタジオの期待に答えてみせたことを褒めてあげたい。期待も大きくなれば、責任も大きくなる。無責任ヒーローなデッドプールも、意外と背負っているのだ。