一日一アメコミ~4~
ウォンテッド
彼は生後すぐ、父に捨てられた。ここが彼にとって、人生の分岐点だったのだろう。将来性のない仕事、体を蝕む疾患、親友に寝取られている恋人、ウェズリー・ギブソンにとって人生はどん底であり、クソ同然だった。だが、ある日、ウェズリーに会いに来たフォックスと名乗る女により、彼の人生は一変する。ただなんとなく、大量虐殺をしてみせるフォックス。彼女にはそれが許されていた。何故ならこの世界は、フォックスのようなスーパーヴィランに支配された世界であり、ウェズリーの父はそんなスーパーヴィランの中でも一目置かれる最凶の殺し屋キラーだったのだ。先日、何者かに暗殺されたキラーは、ウェズリーに五千万ドル以上の遺産を全て譲ること、更にウェズリーを一人前の男、スーパーヴィランにするよう仲間たちに言い残していた。
ウェズリーは正義の意志に目覚め、父親の遺産と受け継いだ能力にて、スーパーヴィランの支配を打ち破る――もし、この話がヒーローコミックなら、そうなっていただろう。だが既に、ヒーローたちの存在は戦いの記憶や痕跡ごと無かったことにされていた。この作品にヒーローなんて野暮な連中はいない。
人生を一変させるため、支配階級たるスーパーヴィランへの道を歩むウェズリー。彼が一人前の悪党となった時、確かに人生は一変した。だが、世界もまた変わろうとしていた。狂い咲く悪の華。それは果たして、数多のヴィランなのか。それとも、二代目キラーとなったウェズリー・ギブソンなのか。
かつて映画化されたためタイトルの知名度は高いものの、いざ原作を読むと随分違うぞとなる作品。それがウォンテッド。スーパーヒーロー成分を抜いて、そこのアンジェリーナ・ジョリーを注ぎ込んだ結果、ジャンルがスパイアクション映画になったからしょうがない。ただ、原作そのままの映像化は、制作された2008年でも、スーパーヒーロー映画に慣れた今の時代でも、おそらく難しいはず。多少別物にはなったものの、原作ネタを配置しつつのスタイリッシュなアクションで全年齢が観れる作品にして、企画をポシャらせず世に出したのは、プロの仕事と言っていいはず。主演を務めた、ジェームズ・マカヴォイの出世作と呼ばれるのは伊達じゃない。
鬱屈とした人生を送っていた青年。だがなんと父親は、伝説の暗殺者だった! 父親から譲られた人脈に財産、そしてなんと青年には親にも負けぬ才能が眠っていたのだ! こう書くとチート物かな? という感じなのですが、そもそも親も悪党なので、修行シーンもまあヒドい。死体を撃ち屠殺場で働くことで死や命を奪うことに慣れるところから始まり、最終的には通行人を適当に殺してこいとか、なんというかGTAでとりあえず街でショットガンぶっぱなすプレイヤーのごとき修行シーン。悪党である以上、利己的であり、自己中心的であり、人の人生を奪うことこそ本望。ああ、実に教育に悪い。悪いと分かっていて、楽しめるかどうか。たぶん、もしウォンテッドがなろうやカクヨムに掲載されてバズったとしても、書籍化に手を上げる出版社は無いと思うんですよね。なにしろ、リスクも高いし、好き嫌いがハッキリ分かれる作風である以上、売上も読めない。そりゃ映像化の際、大幅な変更も入るわ。
なお、この作品におけるスーパーヴィランは、皆何処かで見たことある設定を持っており、敗北し自分がもはや英雄であることを忘れたスーパーヒーローたちも、赤いマントにオールバック、世界最高の探偵と言われたダイナミック・ペアと、いろいろ察することができる感じで。赤いマントの超人がライバルだったプロフェッサー・ソロモンの配下のモデルはスーパーマン系ヴィラン、世界最高の探偵のライバルだったミスター・リクタスの配下のモデルはバットマン系ヴィランと、わかるとね、思わず正体を言っちゃいそうになるんですよ。分かる人には分かるってのが、ザ・ボーイズと同じウォンテッド流の気遣いなんでしょうけど。
でも、変幻自在の泥の怪物クレイフェイスに似た、悪党のウ◯コの集合体シットヘッド。凶悪な人形に操られる腹話術師ベントリロクエストに似た、自分の悪いチ◯コに操られるジョニー・トゥーディック。若干馬鹿らしいというか、下ネタ系ヴィラン多くね? っていうのはまあね。ヒーローもヴィランも馬鹿らしいものである以上、そりゃ馬鹿らしいキャラクターがいてもいい。ウォンテッドのライター、マーク・ミラーなりの皮肉というか。これからマーク・ミラーの作品もいくつか紹介する気でいるけど……なかなかいい癖、持ってますぜ。