2012年6月20日
/ 最終更新日 : 2012年6月20日
fujii
小説
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届かなかった。また今回も、届かなかったのだ。ずっとではなく、今回も。不可能という言葉を振り払い、暁美ほむらは惨状に立ち向かう。見滝原町で踊り狂う魔女を、止めるために。ワルプルギスの夜と呼ばれる、超弩級の魔女にせめて一矢――。
もはや、この時間軸は破滅に向かっている。これ以上、留まる理由もない。けれども、ここで何もせず、過去に戻ってしまっては、本当に心が折れてしまうかのようで。砂時計をひっくり返すには、まだ早い。
「ふっ。だいたい三ヶ月ばかり更新が無かったせいで、未完疑惑が出ていたものの、デッドプールの名が付いた物は、そうそう打ち切りになることはないぜ! ロブが関わらない限り」
ほむらが居る場所とは、少し離れていて、もっと高い所。今のほむらと同じように、ワルプルギスに向けて、闘志を燃やす赤タイツが居た。三周ぐらい前の時間軸で、念入りにとどめを刺して、川に流したはずの男が居た。何故、ここに。何故、今頃。
「DVD全巻とスピンオフとPSPを抑えていたら、こんなに時間がかかっちゃったよ! 色々目指すところはあるものの、コイツを倒せばまず大団円。マミさんに友だちができて、さやかちゃんが上条くんと結ばれて、杏子ちゃんは寝床と温かいご飯が手に入るわけだ。え? 杏子ちゃん以外無理? とにかく、オレちゃんがコイツを倒して、みんなを幸せにするんだ。ウォー! オレたちの戦いはこれからだー!」
ワルプルギスに、マシンガンの二丁拳銃で襲いかかるデッドプールを、ほむらは目で見送る。ピチュンと、小さく弾ける音がして、ワプルギスに接敵したデッドプールは消し飛んだ。まるで、シューティングゲームの自機のような散り方だ。
眉を軽く歪めたほむらは、なんかもう色々と諦めて、盾状の砂時計をひっくり返した。アレはホント、なんなのだろうか。
また。あの朝に逆戻りしてしまった。病室で目覚める、あの朝に。
カーテンから差し込む爽やかな朝の日差しが恨めしい。この後、転校生の暁美ほむらは、鹿目まどかと見滝原中学で出会う。忘れられない出会いを、いったいこうして何度繰り返してきたのか。ここからしばらく、出会いまでは機械的に。冷徹となった少女の、心を守るための処世術であった。
「よし! 無事にあの日まで、戻れたぞっと。安心しろホムッシャー。ここから先は、オレたちのターンだ! お前がパニッシャー並に血みどろ伯爵になれるよう、任せて安心、ウェイド・ウィルソン!」
見滝原中学の男子制服を着たデッドプールが、何故か部屋に居た。当然のように、五体満足である。
機械的に送るべき、どうでもいい時間に入り込んできた、看過できぬ異常。おかげで、まどかとの出会いが遅れてしまった。もはや、始業には間に合うまい。でもここで、裏山でこうしておこなった作業が、この時間軸において無駄になることは、決して無い筈。
「キミの判断は間違っていないよ、ほむら。彼を自由にさせておいても、誰も幸せになれない。ただ、事態を引っ掻き回されるだけさ」
当たり前のように現れたキュゥべえを、頭にナイフが刺さったままのデッドプール入りの穴に投げ込み、ほむらは更に土をかける。立派な土饅頭の上に使っていたスコップを突き刺し、ほむらは急いで学校へと向かった。
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