小須田部長の憂鬱
※肉雑炊の二人は、笑う犬の生活を応援しています。
「よいしょっと。あー……腰にくるなぁ」
「小須田さーん!」
「ああ、原田くん。毎回、見送りすまないね」
「いえいえ。好きでやってることですから」
「それにしても、久々の転勤だね。ほら、ちゃんと“いるモノ”と“いらないモノ”のダンボールも用意しておいたよ」
「小須田さん、覚悟しているところに水をさすようですが、今回はそこまで厳しいところじゃないですよ。なにせ日本国内ですからね、国内」
「ああ、そうだね。上は宇宙、下は深海まで制覇した身としてはねぇ。ナンボのもんじゃい!なんてね」
「じゃあ、パパっと片付けちゃいましょうか」
「そうだね、パパっと、パパっと。じゃあまずこの名刺なんだけど、これはいるかなぁ?」
「いらないです。これからは部長ではなく、支社長になられるわけですから」
「そうだよね、支社長、支社長か。じゃあ携帯電話、これはいるかなぁ?」
「いらないです。山奥なんで、電波が入らないんですよ」
「ええっ? 孤島でもアンテナが三本立つ時代だよ? なのに電波入らないの?」
「かなりの田舎なので……そうですね、具体的には、土地の皆さん、昭和58年ぐらいの生活様式ですね」
「随分とまた、具体的な年代だね。そうか、山奥かぁ。じゃあコレだ、かゆみ止めスプレー。虫も居るだろうし、山は蒸すから、汗もが出来たりするしね」
「それはいりません」
「ああ、そうなの? なんで」
「かゆくなったら、アウトですから」
「アウトって。だってさ、汗が溜まって、例えばー……首筋なんかよくかゆくなるじゃない」
「それは完全にアウトです。首が痒いなと思ったら、引継ぎの準備と遺産分配の手続きをお願いします。早くしないと、間に合いませんよ!?」
「病気や症状をかっ飛ばして、命の心配!? なんか、危ない匂いがしてきたぞぉ? じゃあコレ持ってっていいかな、一眼レフカメラ。最近、写真に凝っててさ。なんでも、夏祭りをやるらしいとか。山奥のお祭りなんて被写体としては最高」
「わー!」
「あー! な、何をするんだい、原田くん。カメラが壊れちゃったじゃないか!」
「いいですか、小須田さん。貴方は支社長になるんですよ、時報になってどうするんですか!」
「時報、時報って役職なのかい!?」
「小須田さん、貴方は我社に必要な人です。ただ何かを知らせる為だけに、散っていい命じゃないんです!」
「死ぬの!? 時報死ぬの!? なんかさっきから、身の危険をヒシヒシと感じているんだけど。わしゃあ、いったい現地でどんな目にあわされるのかね!?」
「小須田さんの仕事は、雛見沢に作るダム工事に関しての地元住人との交渉です。まあ、よくある話ですが……村も、賛成派と反対派に別れてましてね。両者と会社の仲介をしてほしいな、と」
「ああ、なんだ。仕事自体はそれほど危険じゃなさそうだね」
「ええ。既に関係者が、ダース単位で原因不明の死亡や謎の失踪を遂げてますけど」
「がんばれー! まけんなー! 力のかぎり生きてやれー……」
「貴方が、秋葉原進出用の新事業として、道行く人に絵を売る仕事はどうですか?なんて会議で言うからだ!」
「だって、あんだけ派手にやってて捕まんないから、まともな商売なのかぁって……」