一日一アメコミ~3~

ダークナイト:姿なき恐怖(TheNew52!)

 アーカム・アサイラムにて暴動事件発生。謎のドラッグを注入された患者たちは、普段以上の狂気と暴力にて警戒線を突破。バットマンが駆けつけることで被害を抑えることは出来たものの、アーカムに収監されていたヴィランの大半がゴッサム・シティに解き放たれてしまう。ゴッサムだけでなく全米に行動範囲を広げようとするヴィランに苦戦するヒーローたち、一方バットマンは、この事件の謎を追跡していた。いったい、収監されてた患者たちに、どんな手段でドラッグを打ち込んだのか。この謎のドラッグの正体と成分は。捕まった患者やヴィランが口にする、白いウサギとは。
 そんなバットマンを誘うかのように現れる、謎の女ホワイトラビット。白いランジェリーを身に纏った彼女は、確かにウサギの扮装をしていた。トゥーフェイス、ジョーカー、ポイズン・アイビー、デスストローク、スケアクロウ。ホワイトラビットと共に見え隠れする、容疑者にして障害となる強敵たち。果たして黒幕は彼女なのか、彼らなのか。それとも別にいるのか。謎と暴力に染まり切った闇が、バットマンを押し包もうとしていた。

 2011年におこなわれたDCコミックスの再編企画「New52」。まず、企画の前に今までの連載は全て終了。全ての作品の舞台は52の並行世界を持つDCユニバースとなり、ここで全52本の新連載がスタート。この際、多くのキャラクターの設定やデザインが現代風に作り直され、DCユニバースに新風が吹き込むこととなった。
 このダークナイト:姿なき恐怖も、このNew52の影響で生まれた一作。多くのキャラクターが改変される中、バットマン周りはほとんど変わらなかったものの、この状況だと変わってないことも宣伝しないといけない状況。謎とアクションが同時に進行するいつものスタイル、この世界でも変わりなく存在するヴィランたち、人間関係の強調と他のシリーズの宣伝も兼ねたスーパーマンやフラッシュの顔見世。日本で発売される際、入門作と言われたのも納得の行く話。バットマンの基本を抑えつつ、アメコミの構造も透けて見える。新キャラクターと新設定、New52ならでは斬新さを担当した「バットマン:梟の法廷」に話題や人気を持っていかれたフシはあるけど、こういう今までを補強する作品があるからこそ、斬新さも栄えたわけで。それぞれを補強しあい、補完しあう。それもまた、アメコミの強さ。

 しかし作中で、様々なコスチュームを見慣れたバットマンが白いランジェリーと言うだけあって、ホワイトラビットの衣装は凄いわ。たしかにこんなんが公共の場所にいたら、俺は幻覚を見てるんじゃないか、欲求不満なのかとまず悩んでしまう域。あと、出番自体は少ないものの、解毒のため全力疾走で地球を6周以上したフラッシュに、恐怖ガスで暴走したバットマンを「しっかりしろ! 僕には勝てない! 普段の君ならそれがわかるはずだ!」と抑えにかかるスーパーマンと、顔見世しているヒーローたちはなんというか濃い。活躍してると言うより、そういうとこ!みたいに濃い。

一日一アメコミ~2~

Avengers Vol 3 #2

 1998年、世界の中心は英国ティンタジェルであった。剣と魔法が有りしこの世界にて、人々は森の恵とともに生き、女王による統治を受け入れていた。女王による専制は数多の英雄や英傑や神にも認められ、彼らは女王の守護騎士団クイーンズ・ベンジェンスを結成。領土の統治、そして反乱を起こしたピクト人との戦いなど、守護騎士の名に相応しい活躍を見せていた。おそらく、近い将来、女王の威光はこの世界をあまねく照らすこととなるだろう。
 偽りの世界。偽りの記憶。アベンジャーズの緋色の魔女スカーレット・ウィッチは、一夜にして様変わりしたこの世界の異変に気づいていた。アベンジャーズの仲間たちも、自分たちをクイーンズ・ベンジェンスだと思いこんでいる今、彼女が一人でこの世界を覆さなければならない。敵は、クイーンズ・ベンジェンスと反逆の騎士モードレッドを従えしティンタジェルの女王、モルガン・ル・フェ――!

 偽りの記憶と立場、舞台は異なりし世界のブリテン、女王として君臨せしモルガン。なんだろう、1998年の作品なのに、2021年最先端の流行りの香りがするよ!? 舞台設定を軽く描くと、数多のヒーローが命を落としたオンスロート、死んだヒーローが別世界にて復活したヒーローズリボーン、ヒーローたちが正史世界へと帰還するヒーローズリターン。この96年から98年におこなわれた大改編の中での一幕となっております。正史世界へ帰還するタイミング、ここをモルガンに狙われたのが、この話のきっかけ。この辺りの話はとにかく説明がややこしい上に、更に今年ヒーローズリボーンにヒーローズリターンと、同名のイベントをやってしまったので、更に面倒なことに。今後説明の時、ヒーローズリボーン(90年代)とか書かないと絶対ややこしいことになるよな。

 今回のキーキャラクターはモルガンでありモードレッドであり、クイーンズ・ベンジェンスと化したアベンジャーズ。全員知識や感覚がキャメロット基準になっており、装備の仕様も中世風に。名前もキャプテン・アメリカはヨーマン・アメリカ、アイアンマンはアイアンナイト、ブラックパンサーはヌビアンプリンス、ワスプはピクシーと、十数人以上のヒーローがソーやヘラクレスのような一部を除きキャメロット風に改名。流石にキャメロット以前から居る神の改名は難しかった模様。ヨーマン・アメリカを筆頭に、スカーレット・ウィッチの干渉でヒーローたちは本来の己を取り戻すものの、アイアンナイト氏だけは予想外なほどにこの世界に馴染んでおり、開放に手間と時間がかかった模様。トニー、アーサー王伝説大好きだしな……黒幕のモルガンは、思いっきりアーサー王伝説のヴィランだけど。

 異聞帯……もとい、既に剪定……もとい、無くなった世界ではあるものの一つの並行世界ではあるので、EARTH-398としてマーベルユニバースには登録済み。この話、実は一話完結なので、このEARTH-398も単発みたいなもんなのよね。そのわりには舞台設定にかなり力を入れていたので、率直言って勿体ないなあと。掘り下げたり、いっそ日本でリブートしたら、面白いんじゃないか?

一日一アメコミ~1~

 ここ最近、いろいろ難しいことを考えすぎてたんじゃないか?
 というわけで、唐突に始めたこの企画。本棚やタブレットに入ってるアメコミを、とにかく手当り次第ランダムに毎日紹介していきます。紹介が長かったり短かったり、邦訳だったり原書だったり、発売中だったり絶版だったり、とにかく細かいことは考えず、ガンガンやっていきます。とりあえずの目標は一ヶ月。大丈夫、楽に蔵書は30冊を超えている。
 まず一発目は、この作品で!

 

 

GET JIRO!(邦訳アリ)

 近未来、世界は音楽も映像もスポーツも失い、唯一残ったのは食文化であった。食は力となり、優れた料理の腕前を持つ者はそれだけで権力を得る。世界中の食を融合させた高級料理志向のインターナショナル派と有機野菜を使った菜食主義派、二人のシェフが争うロサンゼルス。そんなロサンゼルスにあらわれたのは、謎の寿司職人ジロー。凄腕の寿司職人であり、独自の仕入れルートを持ち、なおかつマナーを守らぬ客やカリフォルニアロールを頼んだ客の首を瞬時に断ち切るほどの戦闘力。街のパワーバランスを崩しかねないジローは、両派閥にとっても見過ごせない存在だった。インターナショナル派と菜食主義派、果たしてどちらの派閥がジローをゲットするのか。両派閥に目をつけられたジロー、果たして彼の選ぶ答えとは? 寡黙な寿司職人は、果たしてロサンゼルスの闇をもさばいてしまうのか――!

 料理研究家にして作家の故アンソニー・ボーデインがライターを務めたこの作品。料理研究家が料理をテーマにしたコミックスを書いた結果、出来上がったのは寿司職人が包丁で人の首を斬るタイプのコミックスだった。実際よくネットに流れるのはカリフォルニアロールを頼んだ客の首をズバッとやるシーンなのでニンジャスレイヤー的な作品のイメージがありますが、実際読んでいくと浮かび上がってくるのは「用心棒」の三文字。街を二分する二大勢力と、そこに現れた風来坊。構図を見れば分かるように、ゲットジローは黒澤明の用心棒のグルメ版にして近未来版、任侠や時代劇に近い作品ではないかと。近年で言うなら、用心棒のオマージュ色が強かった、ゴールデンカムイの茨戸編と同じカテゴリー。料理研究家の作品が、料理を中心に据えた作品ではなく、任侠に料理をかぶせた作品だなんて、奇襲もいいところですよ。ただオチの一部に関しては、アンソニー・ボーデインの料理感がちょっと垣間見えて面白い。純度100%の任侠モノや時代劇では、たぶん難しいオチだし。雑に言うなら、用心棒をメインにトリコとニンジャスレイヤーをスパイスとして使い、隠し味に料理感を入れた感じですね。後述する料理関係のうんちくもかけて、将太の寿司も足しちまうか?

 料理は話の添え物なんですが、ミスター味っ子でも切り札として扱われたブラッドソーセージや、ある意味とても贅沢なシラスウナギを使った料理に、日本式の活け締めの紹介と、その知識量に関しては、日本のグルメ漫画に匹敵するものがあります。ただちょっと、作中の料理があまり美味そうに見えないのはね。着色に描き方と、全体的にどうにも綺麗じゃない。たとえば、ジローが作中で見せるアナゴのさばき方は完璧なものの、アナゴがそのワタがちょっとグロくて、シン・ゴジラの蒲田くんさばいてるように見えるもの。美味そうな料理の描き方や食べ方では、やはり日本が強いね。料理を主役に据える、グルメ漫画の存在がデカいよ。

 

日々雑談~5850~

らーめん再遊記 (1) (ビッグコミックス)

 Twitterで話題になってたのと、若干おまけポイントがつくセールをやってたので、既刊3巻分をまとめて購入。ラーメン発見伝、らーめん才遊記に続くシリーズ第三作目。主人公は発見伝や才遊記にて、悪役や師匠や先輩、とにかくいろいろな顔を見せつつ、ずっと第二の主人公であった芹沢達也。なにしろ、前2作でキャラが立ってる芹沢が主人公なので、まあ面白い。ラーメン屋としての成功に挫折、職人としての意地に商売人としての現実、マニアとしての自身と身勝手なマニアへの侮蔑、酸いも甘いも知り尽くした強キャラとしての説得力がとにかく強いし、現実の人間と同じような多面性が内部でぶつかりあうキャラ造形は大事だなあと。

 元々このシリーズって、あくまでラーメンが主題なものの、ところどころがマニアのあるあるネタというか。ああ似たようなことがあったなあ、同じぐらいヒドい奴に会ったことあるよ、こんなことやっちゃったなあ。回顧に怒りに黒歴史と、様々なやり方でこちらのマニアとしての心をくすぐってくるんですよ。箸にも棒にもかからないタイプの人間を上手くあしらうシーンの高揚感を見るに、スカッと系みたいな側面もあるのかねえ。スパッ!としたあしらいには、やっぱ憧れちまいますよ。そう現実は上手くはいかないってのもあるんだけど、だからこそってのはね。

 それにしても、再遊記の芹沢さんが陥りかけた負のスパイラル。ちょっと身につまされるな……俺もちょっと、ここ最近、いろいろ考えすぎてた気がするし、ちょっと馬鹿になるか。いやしかし、ほんと、こっちの心をくすぐるのが上手い漫画だわ!

日々雑談~5849~

 水曜日のダウンタウンでやってる声優モノマネ代理戦争を観てるけど、あんまりによく出来た企画で感心してる。
 声のプロである声優をモノマネ芸人がフォローしてのモノマネ対決。指導風景も映すことで、モノマネ芸人と声優の持つ高いポテンシャルを披露しつつ、それぞれの個性も浮き彫りに。神奈月さんが顔芸の方向性で分析していった結果、武内さんに物凄いの仕込んでたし。あの福山雅治の物真似はアレ一本で食っていけるレベルだよ。平田さんの近藤真彦は似てると言うか忘年会の芸っぽかったけど、モノマネには忘年会でこそな面もあるからな……上手いと面白いと観たいは、全部同じように見えて、若干ズレているってのを考えさせられたぜ。

 つーか、その後の芸人VS大食いVS激辛好きの激辛対決も上手いこと回ってるし、やっぱ水曜日のダウンタウンのスタッフは異種格闘技戦というか公平に面白く戦わせるのが上手いなー。公平性と安全性、そして興行としての面白さを追求していったのが、総合格闘技の興行史でもあるし。代理戦争も激辛対決も、そのラインにちゃんと沿ってるよ。ローション相撲といい、TBSのスタッフはこういう侮れないバラエティ的競技を作るのが実に上手いわ。