一日一アメコミ~11~
デッドプール VS. パニッシャー
《あらすじ》
悪党や悪の組織にとって最も必要なもの、それは金である。大富豪サイモン・ヌーナン・バンクス。彼の裏の顔は、数々の犯罪組織や有力な犯罪者とつながる世界最大の資金洗浄人、通称“バンク”(銀行)である。バンクスを捕らえることは、世界中の悪党の口座や財産を抑えることに等しい。そしてそんな男を、私刑執行人たるパニッシャーが見逃すはずがなかった。ついにバンクスの居場所を突き止めたパニッシャーは、護衛を蹴散らし、バンクスの喉元に刃を突きつけようとする。
だが、ちょうどその時、バンクスの元には、私刑とかノリでやっちゃう厄介者たるデッドプールが偶然いた。バンクスと公私ともに付き合いのあるデッドプールは、いつもどおりグダグダ言いつつ、パニッシャーの迎撃を引き受ける。デッドプールの奮闘によりバンクスは逃げ延びるが、彼の若い妻と幼い息子が爆発に巻き込まれてしまう。逃げたパニッシャーを追い詰めるデッドプール、だがパニッシャーは二人の死には裏があると告げ、デッドプールの頭に銃弾を叩き込んだ。
かつて何度も殺し合い、時にはチームメイトであったパニッシャーとデッドプール。二人は、殺し殺され、時にはやり返し、このバンクス襲撃事件の真相に近づいていく。金にまつわる事件は、思いもよらぬ悲劇と敵を招き寄せる。その中にはパニッシャーにとって未知の大敵、デッドプールにとってはなんだかなあな腐れ縁、傭兵タスクマスターも混じっていた。制止不可能&制御不可能の二人が引き起こすマネーウォーズ。勝者は果たして誰なのか?
2020年に刊行されたデッドプール VS. パニッシャー。この一日一アメコミは蔵書をランダムに紹介している都合上、絶版や入手困難な品も多いものの、この作品は本屋やネットを探せばあっさり見つかるはず。つーか、Kindle版あるので、電子でいいなら何時でも買える。
公式(小プロ)のあらすじにはタスクのタの字も無いものの、タイトルはデッドプール VS. パニッシャー VS. タスクマスターの方が正確じゃない? と言ってしまうぐらいに出番の多いタスクマスター。固定のファン層もいるキャラかつ映画ヴィランとなったキャラでもある以上、あらすじに載せるぐらいの配慮は欲しかったというのは本音。タスクマスターとデッドプールは言うまでもなく腐れ縁、タスクマスターとパニッシャーはそれぞれ髑髏がモチーフという共通点があるわけですが……俺も始めて読んだ時に「え?」となったけど、まさかタスクマスターとパニッシャーが今回初対決だったとは。両者のフィールドもかぶりそうなもんだし、てっきりもうタスクマスターはパニッシャーの技をパクっているものかと。もう一人の髑髏モチーフのヒーローこと、ゴーストライダーは既に運転技術をパクられているのに。いやね、タスクマスターが排気量のデカいバイクをガンガン乗り回してた頃から、もしかしてとは思ってたんだけどさ!
テーマは金。デッドプールは中庸、パニッシャーも一癖あるヒーロー、タスクマスターはヴィラン。まともなヒーローがいない作品とも言えるので、その結果、目の付け所も一風変わった作品に。パニッシャーの落とした弾丸一つでパニッシャーの極秘アジトを発見、様々なトラップも力づくで説いてみせたデッドプールの灰色の脳細胞。デッドプールの超回復能力を甘えや油断の元と言い切り、何度もデッドプールの裏をかいてみせるパニッシャー。ムエタイやシステマやクラヴ・マガのような実践的な武術の集合体であるパニッシャー流の格闘術を解析、我流をコピーしてみせたタスクマスター。三人が三人とも達人や玄人に属する人間なので、結果的に三人の巧さが浮き出てくる展開に。ここにハルクとかが居ると、全員の目的が逃げ延びろ!に統一されちゃって、個性を出してるヒマが無くなるわけで。ずば抜けた超人がいないからこその、上手いパワーバランスです。
なんでも銃で解決しようとするパニッシャー。その結果、とにかくキャラクターを長く扱いたいアメコミにおいては、ある意味で使いにくいキャラなわけですが、ここにとにかく死なないデッドプールを入れることで、銃を使うツッコミと撃たれても平気なボケが成立。二人とも「コイツ頭おかしいんじゃねえか?」と思ってる時点で相性の判別が難しいし、そもそもお互い最悪だと思っているものの、割れ鍋に綴じ蓋的な関係が成り立っている時点で、やっぱ並べて使いやすい二人なんじゃないかと。パニッシャーにデッドプールにエレクトロと、とにかく集団と合わない連中を集めた結果、なんとかチームとして成り立ってたサンダーボルツは神バランスだったということで。
バンクの真相に、真相に直面したデッドプールのシニカルさに、とにかく厄介すぎるタスクマスターの立ち回りと、見るべきところも沢山ある作品。有名になることでデッドプールにも正しいヒーロー像を求める人が現れる中、そんな風潮にカウンターをぶちかますようなラストの展開は必見。パニッシャーやデッドプールがまっとうに扱われる世の中ってのも面白そうだけど、まっとうでないからこそ二人とも面白いし、手間がかかるんだよな。