日米漫画比較論
※昨年10月に行われたコミティア106+第二回海外マンガフェスタにて配布した無料コピー本をアップしたものとなります。一部記述に、イベント当日であることを意識したものが有ります。同時掲載されていたアメコミ邦訳ガイドに関しましては、後日別口でアップします。
※今回の文章を書くに当たり、アメリカの主要出版社であるマーベルコミックスとDCコミックスのメインストリームであるヒーローコミックスを、アメリカにおけるコミックスの代表例とさせていただきました。
日本の漫画とアメリカのコミックス、特筆すべき違いとして広大な世界観が有ります。
例えば、ジャンプでは数多くの漫画が連載しています。漫画はそれぞれ、別個の作品として独立しております。例えば、ドラゴンボールで地球が滅びても、他のジャンプ作品には全く関係ありません。
しかしアメコミの場合は、大きな世界観の上に作品が掲載されています。さながら、ファミコンジャンプの如く。スパイダーマンでNYが壊滅すれば、他のマーベル作品でもNYは壊滅していることになります。
まず広大な世界観のメリットとしては、世界観に比例した大きな作品が作れることでしょう。地球に強大な侵略軍が攻めてきた。アベンジャーズは、本隊に立ち向かう。このアベンジャーズの展開を便宜上をメインストーリーとします。同時に展開された侵略軍の別働隊から人々を守ろうとするX-MEN。人々を救出するために立ちまわるスパイダーマン。これらメインと密接に関わるサブストーリーを、タイインと呼びます
このように多面的なヒーローの活動を、世界観を共有させることで、短期間で簡易にまとめることが出来ます。本隊との戦いをアベンジャーズ誌、別働隊との戦いをX-MEN誌、人々を助ける姿をスパイダーマン誌で書けば、大戦を多角的な視点で書きつつ、なおかつ数話(短期間)で完成させることが可能です。一つの作品で全てを補うのではなく、複数の作品で内容を補完し尽くす。いわば、複数作品による並列の構成となっています。この言い方に合わせるならば、日本の漫画誌は、それぞれが個々に独立した直列を揃えた冊子となります。
並列方式には弱点も有ります。まずは、多面さや多角さによる、全体を把握することの難しさ。
『アベンジャーズに追い詰められた侵略者が別働隊に救難信号を出すものの動けない、何故なら彼らはX-MENと戦っていたから。では何故X-MENが別働隊と戦うことになったのか。詳細はアベンジャーズ誌ではなく、X-MEN誌に』
『Aというアベンジャーズ誌で提示された謎の答えBが、他誌であるスパイダーマン誌に載っている』
必要最低限の概要はメインで分かるものの、戦いの裏や伏線を把握するには、やはりタイインの購読が求められます。日本の漫画雑誌とは違い、一纏めではなく、一話ごとに分冊して販売されているアメコミ。完全を求めると、その金額は予想以上の物となってしまいます。また、メインが振るわないとタイインも盛り上がらなくなる。イベントに関わることで、今まで独自に行なっていたストーリーラインが破綻する。勘違いや行き違いの結果、決定的な矛盾点が発生してしまう。大規模な分、抱える問題も広大で多くなります。
また直列と表現した日本の形態ですが、この一直線に話や歴史を連ねていく形態は、漫画だけではなく仮面ライダーやウルトラマンやガンダムといったキャラクターコンテンツにも適用されています。例として仮面ライダーを上げますが、2013年現在の仮面ライダーは鎧武(戦国時代)です、その前はウィザード(魔法)、その前はフォーゼ(宇宙)。まだまだ遡れますが、ここまでにしておきます。テーマも外見も違うこの三人のヒーローは“仮面ライダー”です。ベルトやバイクのような、共通するキーワードもあります。しかしながら、一年ごとにフルモデルチェンジを繰り返しながらも、仮面ライダーという共通事項と認識を崩さない姿。次々と新たな世代を創造できる創作側と受け手側の体制が、直列を磨き上げてきた日本の強みです。片や、スーパーマンはクラーク・ケント、バットマンはブルース・ウェインという一個人からの代替わりが難しいアメコミ。しかし、その分、広大な世界観による事件や政治体制や共闘や対立で一個人を何十年も長持ちさせる。これはアメコミの強みです。強みに種別の差はあれど、優劣はありません。
直列と並列という形で、それぞれの文化を紐解いてみましたが、これらは代表的な例であって、日本にも広大な世界観を持つ並列に近い作品、アメリカにも周りと隔離された独自の世界観を持つ直列の作品があります。
日本のゲーム会社であるTYPE-MOONが展開している一連の作品は多くが同一の世界観にあり、特にFate/stay nightを発端とするFateシリーズは、聖杯戦争やサーヴァントといったキーワードを元にし、数多くのクリエーターの力により急速に世界観を拡大しています。また、先ほど例に上げたガンダムも、初代ガンダムの一年戦争という時間軸を舞台にした多数の派生作品を筆頭とし、今まで作り上げてきた直列の作品群に肉付けすることで並列としての広大さも持とうとしております。
マーベルにはアルティメットユニバースという、既存のヒーローを現代向けに再構築したストーリーラインがあります。ヒーローを長持ちさせたがるアメコミの流れに反するかのような、大量の死や代替わり、あえて既存の概念をぶち壊すような思い切ったキャラ設定等は、こちらの常識すら打ち砕く破壊力があります。DCコミックスの所謂エルスワールドとしてカウントされる作品。消えたヒーローの復活を描くキングダム・カム、老いたバットマンの再起と戦いを描いたバットマン:ダークナイト・リターンズ、これらは“既存要素を使いつつも独立性を持たせた”直列に限りなく近い作品群です。
そして完全に直列にカウントしてもよい作品。映画化も果たした衝撃作ウォッチメンや殺人兵器に改造された動物の苛烈な運命を綴るWE3等など。これらは基本的に独自の世界観、物語として構築されています。このように作家個人が中編や短編で自由に己を発揮できる余裕が、ガチガチに見える有力出版社内にも存在するのです。
一つの形式に固執するのではなく、時代とともに様々な形式に挑戦し続けていく。試行錯誤の結果、今があり、未来に可能性を残しているのです。これは、全世界の創作において、生き残るために必須の手段と言っても過言ではないでしょう。つまるところ、日本の漫画と、アメリカだけでなく海外のコミックス全てに制作面や環境面の違いはあっても、面白さを目指しているという点においては両国同じです。壁をつくったり線引をせず、一塊の面白い物と考えてみる。創作の国境を薄めていくことによる、互いの優れたシステムや方法論の取得。今後求められるのは、それぞれを叩き台にしての日本や海外の批判ではなく、互いの良い所を認め合っての相互発展でしょう。日本の同人文化の形の一つであるコミティア、世界の漫画をテーマとした海外マンガフェスタ。この2イベントの同会場での開催が、思いもよらない新たな物を生み出すのでは。僭越ながら、そのようなことを考えております。