2010年8月27日の朝

 静寂な早朝、まだ起きる時間でない頃、唐突に起きて頭に染み付いたことは一つ。
「◯◯色を見たら死ぬ」
 赤や白という一般的な色ではなく、聞いたこともない未知の色。不可思議なものに似合いそうな色。ボーっとした頭で部屋を見渡すものの、それらしき色はない。ビクビクしながら眠りにつこうとする。怯えからの逃避が睡眠だったのかもしれない。
 蒸し暑くて眠れない。枕元の本をどけて、扇風機のスイッチを押す。目をしっかり閉じてうつ伏せに寝る。しかし、不快。うつ伏せは諦めて、仰向けに寝る。うつ伏せと仰向けを繰り返す中、やがて眠気が勝ち、仰向けで寝た。

 夢は忘れるというのに、今でも死の恐怖と妙な色指定とうつ伏せと仰向けの繰り返しは覚えている。あれは夢でははない。現に、本も移動してるし、扇風機も動いている。ならば、あの強迫観念は一体なんなのか。ついに俺も、ヤバいのだろうか。
 覚めた頭で考える。そもそも、何色だったのか思い出せない。アレの色だ!みたいな、独特で曖昧な色だったような。ならば正確には、アレを見たら死ぬということだったのだろうか。
 感情と行為の分析。ああそうだ、やっと理解できた。うつ伏せになった時の不快の正体、あれは視線だ。無防備な背中を見られているという不快。ならば、謎のアレは天井にいたということになる。つまり、仰向けで居る俺が目を開けていたら……。
 見たら本当に死んでいたかどうか確かめられたのに、と言えるのは、熱さが喉元を過ぎ去ったからだろうか。あの時は、しっかりと目を瞑ったクセに。
 夢は忘れるというのに、曖昧な現実は忘れない。今日もまた、夜は来る。果たして、意識した上で、俺は目を瞑ることが出来るのだろうか。