怪奇譚
前回に書いた幻影のエレベーターの話を読んだ管理者に『フィクション』だろう?と言われました。というわけで、この前の話はフィクションです。ということでこれから書く話もフィクションです。
……そう割り切れれば俺も幸せなんだが
宅配業者や訪問業者の天敵は犬だ。奴らは見たことも無い人間に無差別に吠え掛かる。ただ、その防犯効果なども考えると一概に邪魔だとは言い切れない。
そして毒にも薬にもならないのは猫だ。大体の彼らは我関せずとばかりに街で好き勝手に生きているが、たまに留守の家とかに残っていて、チャイムの音に反応してニャーニャとか細く鳴く。まあ、こちらとしては猫に荷物を預けるわけにもいかないので不在届けをポストに入れて帰るしかないのだが。
今日もある家のチャイムを押してしばらくしてからニャーという声が聞こえた。そしてガリガリと二階の窓を引っ掻く音。別にこれは普通の事だ、屋敷猫を飼っている家が不在の場合によくある光景。
この猫……大きすぎないか?
ニャーという声はやけに野太く、引っ掻く音からして手の大きさは大型犬以上。果たして、そんな猫がいるのだろうか。あまり荷物の来ない家なので情報も無い、化け猫でも飼っているのか? さっさとこの場から去りたい俺は急いで不在票を書き始めた。
不在票を書き終えてポストに入れる。そして荷物を取って立ち去ろうとした瞬間、二階の窓にいるモノが目に入ってしまった。
それは痩せこけた老婆。ニャーという声を口から発し、伸びきった爪でガリガリと窓を一心不乱に引っ掻いている。白濁した、獣のような目は間違いなくこちらを睨んでいる。
俺はソレから目を離せなかった。いや、目をそらしてはヤバい。二階とかそんな距離なんか関係無い、とにかく目をそらすのはヤバいんだ。
後ろ足でじりじりと後退し、曲がり角に差し掛かった瞬間にダッシュ。フギャー!!と敵意の有る鳴き声にせかされるように俺は一目散に逃げ出した。
「あー悪い悪い。事前に言うの忘れてた。てえかあの家の荷物も俺渡してたのか、すまなかった」
あの家の怪異を話した先輩の第一声がそれだった。
「アレは一体……幽霊とか?」
「あー悪いがアレは現実のキ○ガイだ。あそこんちの家族はおかしいんだよ。ホントすまなかったなあ、アレは知っていてもビビるからな」
「家族……いるんですか?」
「ああ。あの状態の母親と共存できるダンナと娘がな」
「美談なんスかね?」
「どーだろ。まあはた迷惑ではあるよな」
「同感です」
そう言ってお互いにカラカラと笑った。再配達という避けられない訪問の機会をどうお互いに押し付けるかを考えながら。