白糸が
細い細い、ただ一本の糸が目の前にずっと垂れている。屋内に入っても建物を透過してきて、風が吹こうが雨が降ろうが、ピンと張っているままだ。
ただ一人の前に垂れているのではなく、日本中の人々殆どの前に糸は一本ずつ垂れていた。
糸には触れられる、何故か己の前の糸だけを。他人の糸を見る事は誰にでも出来るが触れない。皆の目の前でプラプラしている。
しかし糸は本人がいくら払っても、目の前にずっと垂れたままだ。あまりにしつこいのでノイローゼになる人もいたものの、相談される精神科医の目の前にも糸が垂れているので何とも言えない。
結局人々は糸と付き合いを続けながら、謎の糸の答えをそれぞれ模索する他無かった。
やがてある種の答えが出て、世間に大きく広まった。人々は仕事を放棄し、その答えに執着するようになる。冷静に考えれば都合のよすぎる考え方なのに、誰もがその答えにすがりはじめた。
社会はいよいよ停滞した。