近世百鬼夜行~六~

 「この13番のオービスの写真おかしくね?」
「え? 先日の検査では異常ありませんでしたが」
「一応確認しておくが、オービスは通過車両の走行速度をレーダーで計測し、違反車両を撮影するってシステムだよな」
「ええ」
「13番のオービスは高速道路のだ」
「そうですね」
「なんで高速に原付が乗ってんだよ、しかもコイツのスピード100km以上になってんぞ!!」
「ええ!? そんな馬鹿な!!」
 その後、厳密な検査の結果オービスには異常が無いと判明し、件の写真は闇に葬られた。

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近世百鬼夜行~伍~

「おいカメラ廻せ!」
「おいスッゲエの出たぞ、ケータイで撮って送るから!」
 テカりのある黒い肌、複眼に長い触角に翅、いままで超人的な戦いをしていた二人は仮装で済むがコックローチGの外見はもはやSFXでも解せるレベルでは無い。野次馬やマスコミが一斉にカメラを構える。
 大小種類様々なカメラが映し出したのは、混色の砂嵐。あたり一面を突如極彩の微小な何かが覆い尽くす、金、黒、茶、赤……色とりどりのそれは群集の視界を完全にシャットアウトした。
 群集の何人が気付いただろうか、自分の髪の毛が各々数cmずつ切り取られたことに。

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近世百鬼夜行~四~

 雑踏は彼を笑い、彼もまた雑踏を笑う。
 華やかな若者が集う渋谷に似合わぬ一人の侍。街に似合わぬ自分を笑う人々を一笑にふして、人が最も多く集まり、車も途絶えることの無い駅前交差点の中央に座す。信号など守る気も無い、以前に意味を知らない。人々は何事かと遠目に見守り、車は邪魔だ邪魔だと嘶きを上げる。とりあえず煩い車を、彼は刃の二振りで断ち切った。
 彼の四方八方を囲んでいた車が次々と真一文字に裂かれて行き、次に縦一文字に割れ、最後には細分化して残骸と化す。ドライバーがどこに行ったのかはわからない。ただ、残骸には明らかに赤い異物が散りばめられていた。細かすぎてなんなのか認識できないのがむしろ幸いだ。
「剣は冴え、気も研がれている。来い、この場所に相応しき相手。こちらは十分だ!」
 事態が判らぬ野次馬が集まる中で、カマイタチは独り吼えた。

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胡蝶の夢に憧れる

 気が付いた時、光は皆無だった。
 空間を凝視するが先は一切見えず。自分の片目が食い潰されている事に気付いたのは、直ぐだった。目の痛みは不思議と感じない、いや部品ごとの痛みなど感じる余地も無い。
 体を蝕む言いようも無い激痛。体中全ての肉が微細な歯に食い千切られ続けている。自分を覆う数多の蟲は、生物ピラミッドを無視し人間である自分を餌だと認識している。死体ならともかく、こちらはまだ生きているのに不遜すぎる。
 視覚は死んだのに、痛覚だけは不思議と健常。痛覚が死んでくれていればまだ楽だったものを。
 絶叫したくても、舌も無いし喉も無い。ただ、一言だけ、他人が聞いても言葉ではなくうめき声としか認識しないと思うが、こう言った。
喰らうのなら中途半端に喰らうな。俺の全てを喰らえ、蟲よ――
この願いが通じたかどうかはしらないが、蟲達は一層激しく喰らい始めた。

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近世百鬼夜行~参~

 切手も貼られず住所も記載されず。宛名だけ書かれた手紙を見て部下が首をかしげるが、構わず店のポストに入れてくることを指示する。怪訝そうな顔の部下が居なくなった事を確認してから、彼は呟いた。
「これで連絡はつく筈だが。彼らに会って自分はどうしたらいいのか。仲裁すべきなのか、それとも……」

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