近世百鬼夜行~四~

 雑踏は彼を笑い、彼もまた雑踏を笑う。
 華やかな若者が集う渋谷に似合わぬ一人の侍。街に似合わぬ自分を笑う人々を一笑にふして、人が最も多く集まり、車も途絶えることの無い駅前交差点の中央に座す。信号など守る気も無い、以前に意味を知らない。人々は何事かと遠目に見守り、車は邪魔だ邪魔だと嘶きを上げる。とりあえず煩い車を、彼は刃の二振りで断ち切った。
 彼の四方八方を囲んでいた車が次々と真一文字に裂かれて行き、次に縦一文字に割れ、最後には細分化して残骸と化す。ドライバーがどこに行ったのかはわからない。ただ、残骸には明らかに赤い異物が散りばめられていた。細かすぎてなんなのか認識できないのがむしろ幸いだ。
「剣は冴え、気も研がれている。来い、この場所に相応しき相手。こちらは十分だ!」
 事態が判らぬ野次馬が集まる中で、カマイタチは独り吼えた。

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胡蝶の夢に憧れる

 気が付いた時、光は皆無だった。
 空間を凝視するが先は一切見えず。自分の片目が食い潰されている事に気付いたのは、直ぐだった。目の痛みは不思議と感じない、いや部品ごとの痛みなど感じる余地も無い。
 体を蝕む言いようも無い激痛。体中全ての肉が微細な歯に食い千切られ続けている。自分を覆う数多の蟲は、生物ピラミッドを無視し人間である自分を餌だと認識している。死体ならともかく、こちらはまだ生きているのに不遜すぎる。
 視覚は死んだのに、痛覚だけは不思議と健常。痛覚が死んでくれていればまだ楽だったものを。
 絶叫したくても、舌も無いし喉も無い。ただ、一言だけ、他人が聞いても言葉ではなくうめき声としか認識しないと思うが、こう言った。
喰らうのなら中途半端に喰らうな。俺の全てを喰らえ、蟲よ――
この願いが通じたかどうかはしらないが、蟲達は一層激しく喰らい始めた。

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近世百鬼夜行~参~

 切手も貼られず住所も記載されず。宛名だけ書かれた手紙を見て部下が首をかしげるが、構わず店のポストに入れてくることを指示する。怪訝そうな顔の部下が居なくなった事を確認してから、彼は呟いた。
「これで連絡はつく筈だが。彼らに会って自分はどうしたらいいのか。仲裁すべきなのか、それとも……」

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適当な設定資料

キャラ立てはすんだけど、しばらく出番ねえだろうなーという近世&近代百鬼夜行の妖怪を穴埋め記事として紹介してみる。

ガルーダ
東亜大陸で名を轟かす神鳥。神と異名がつくだけあって性格は傲岸不遜、本気で将来的には自分が全妖怪を統べる妖怪王になる運命だと信じている。その力は自信に沿って強大で、目からの怪光線「ガルーダビーム」や全てを切り裂く「ガルーダウイング」、国ごと消し飛ばす最終奥義「ガルーダノヴァ」と多彩で破壊的な技を多く持つ。ちなみに技名を叫ぶ時、微妙に巻き舌になるので正確には「ガルゥゥゥダビィゥィム!」だったりする。
現在はアジア方面制圧に向け活動中。最近、朱鷺の写真を見てハァハァしている姿が部下に目撃されている

アミキリ
日本妖怪。虫除けの蚊帳を寝ている間に切るという、地味に嫌な妖怪。
外見は現在百鬼夜行で活躍中のカマイタチのコンパチ、少し着物の柄が違う?程度の誤差。あと、刀は普通に挿している。一応設定上は従兄弟くらいの親戚関係。口調もそっくり。シブい。
人を斬るということではカマイタチに及ばないが、単純な技量で問えば互角以上。道場でなら僅差でアミキリ、野試合ならばカマイタチの圧勝といったところか。
しかし百鬼夜行内ではもはや蚊帳なんかねーよという事で自棄になり、無差別に女性のパンツを斬る妖怪になってしまった。痴漢同然のクセして技量は達人なのでタチが悪い。スカートなら楽勝、ズボンならズボンを傷つけずに、といった神業をみせる。この刃、熟女も幼女も選ばぬよ。
現在目下封印中。いつ封印が解けるかは俺も知らないが断末魔のセリフだけは「はいてないだとぉ!」で決定している。

……バチとかあたるかなあコレ。

近世百鬼夜行~弐~

 人の世で生きるには偽名が必要だ。そう教えられた。
 そもそも妖怪の名など名乗っていて、人とまともにつきあえるわけがない。ならば人らしい名を事前に用意しておくべきだろう。そう言われたセブンは、自分の名の意味を日本語に直訳した『ナナ』、それらしい漢字を当てて『那々』という名を創った。
 随分に安直だとコックローチGという名の妖怪が笑ったが、彼の偽名もゴキブリの『ゴキ』にかけて『五木』。流石に読みは不自然にならないために『イツキ』としているが。まあ、安直な事に変わりは無いだろう。
 そんな安直な妖怪二人は、会の片隅のそのまた片隅のボロいビルで、人として働きながら一緒に暮らしていた。

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