デッドプールは如何にして心配するのを止めてチミチャンガを愛するようになったのか
※2016年7月17日追記
デッドプールの好物といえば、チミチャンガ。生地であるトルティーヤで具材を巻いたブリトーを更に揚げることで完成する、メキシコ料理もしくはメキシコ風アメリカ料理。
だが何故、デッドプールはチミチャンガが好きなのか。その謎を探るべく、我々はチミチャンガ発祥の地の一つとされる、アリゾナ州ツートンへと飛んだ――
飛んでもしょうがないのでPC前に戻ってきましたが、要は“なんでデッドプールってチミチャンガ好きなの?”というテーマでして。映画デッドプールのプロモーションでもアピールされたチミチャンガ。いったい何時からデッドプールはチミチャンガとの縁が出来たのか。初めから設定されていたのか、それとも途中からか。しっかりとした理由があるのか、単なる思いつきか。幾つかのメディアを渡りつつ、出来る限りの検証をしてみたいと思います。
さっきから頭の中でビートたけしが「こんなやつにまじになっちゃってどうするの」言ってきますが、きっと今日こうして挑むことも、何らかのプラスにはなるはず。たぶん。きっと。
まず始めに、デッドプールのメキシコ料理好きは、わりと早い段階でピックアップされてました。デッドプール、初の主人公作である全四話のミニシリーズ、デッドプール:サークル・チェイス(Deadpool: Circle Chase)では既にメキシコ料理を話の種にしてます。三流の傭兵よりもメキシコ料理の方が相手のしがいがあるとさらっと口に出るくらいなのだから、普段から食べているのでしょう。
今までゲスト出演だった男が、主人公に。主人公となるべく、様々な設定を固めていく中に、小ネタに近い扱いとはいえ、個性として刻まれたメキシコ料理。これらの個性や、ウィーゼルのような仲間を得て、デッドプールはキャラクターとして飛躍していきます。
第一弾となったデッドプール:サークル・チェイス、一年後に刊行され第二弾となったデッドプール:シンズ・オブ・ザ・パスト(Deadpool: Sins of the Past)。これらミニシリーズで成果を出したデッドプールは、ついに長期連載作品を獲得することとなります。ちょびちょびメキシコ料理やジャンクな食べ物好きをアピールするわけですが、肝心のチミチャンガについてはあまり触れられません。デッドプールがおそらく始めてチミチャンガに言及するのは、時代は飛んで2004年。ケーブル&デッドプール(CABLE & DEADPOOL)の#13。この話にて、前に出てきます。
舞台設定などの話は置きつつ、デッドプールのチミチャンガ絡みのところを抜き出して、訳してみます。
This place makes the best chimichanga on the island. Don’t even like chimichangas all that much. I just love saying it. Chimichanga. Chimichanga. Chimichanga. Chimichanga
ここはこの島で一番のチミチャンガを出すトコだ。でも、チミチャンガそんなに好きじゃないんだよね。でも俺ちゃん、チミチャンガって口で言うのは大好き。チミチャンガ、チミチャンガ、チミチャンガ
What would you like,Mr.wilson?
ウィルソンさん。ご注文は?
An enchilada.por favor. Enchilada.Enchilada.Enchilada
アミーゴ、エンチラーダプリーズ。エンチラーダ、エンチラーダ、エンチラーダ
つまり。この当時のデッドプールにとってのチミチャンガは、食べ物としてはそこまでじゃないけど、名前はなんか好きという妙なポジションにつくこととなります。チミチャンガ、チミチャンガ、チミチャンガ。言葉覚えたての幼児って、こんな感じですよね。
それはそれとして、エンチラーダもトルティーヤで具材を巻く、ブリトーやチミチャンガに近いメキシコ料理で、注文時メキシコの公用語であるスペイン語(por favorは英語でplease)を使ってみると、メキシコ料理が好きなんだなあというのは、ガンガン伝わってきます。そしてこの画像は、海外でチミチャンガとデッドプールの関係性の追求、もしくは否定にもよく使われております。海外のデッドプールファンも、チミチャンガへの疑問に対して、色々な形で挑んでおります。
この後もデッドプールの連載は続くわけですが、殆どチミチャンガを食べているシーンも、ネタにしているシーンも出てきません。一応、ケーブル&デッドプール#49で「頭のなかからチミチャンガって聞こえた!」なんてワケのわからないことをやってますが。頭の中にダイナマイトの方が、まだ正気ですね。
そんなチミチャンガが一気に注目を浴びるのは、コミックではないメディア。それは、ゲーム。2011年に発売されたMARVEL VS. CAPCOM 3 Fate of Two Worlds(マブカプ3)でのことでした。
チミチャンガス!!
必殺技であるクイックワークやカタナラマ!からの派生技。それぞれ派生元の技によりモーションに違いが有り、追撃性能の高さや壁バウンドを狙える技として、非常に優秀。デッドプールを使う上で、必須とも言える技。
長年格ゲーファンに愛された、マブカプシリーズ。その数年ごしの新作となるマブカプ3に、デッドプールは参戦してきました。昇竜拳をぶっ放し、ライフゲージでぶん殴る、掟破りの暴れっぷり。注目度と併せ、デッドプールはこの作品で本格的な日本でのデビューを果たしたと言っても、過言ではないでしょう。
この作品にてチミチャンガ由来のチミチャンガス!という技を駆使したことから、デッドプール=チミチャンガ好きのイメージが広がっていくことになるのですが、ここでちょっと前の発言、ケーブル&デッドプールの話を思い出してみましょう。
「でも俺ちゃん、チミチャンガって口で言うのは大好き」
つまり、好きな食べ物だから技名にしたのではなく、ことあらばチミチャンガと口にしたいから技名にしたのではという、仮説が。
マブカプ3のデッドプールは、すごくチミチャンガ推しているイメージですが、実はチミチャンガス発動時にしか、それらしい台詞を口にしてません。例えば勝ちゼリフでムーンウォークやウルヴァリン&スパイダーマンいじりを始めても、チミチャンガには言及してません。ひょっとしたら聞き落としがあるかもしれませんが、あったとしてもチミチャンガとの関係を強烈に補強するものでは無いかと。この距離感からして、マブカプ3のスタッフも、全て知っていてあえて技名にした可能性も大きいと思います。
チミチャンガスは汎用性の高い技なので、デッドプールを使用すると何度も聞くことになり、デッドプール=チミチャンガのイメージはどんどんと刷り込まれていきます。好物ではなく、口で言うのが好きというネタは、秘められたまま。そしてデッドプールは、マブカプ3で一気に世界的な知名度を引き上げ、多くのファン層を手にした。つまり、ここでやって来たファン層にとっては“デッドプールの好物はチミチャンガ”なわけですね。
ここで、マーベル本社の側が、クリエーター側が、デッドプールとチミチャンガに、ファンの中で繋がりができたことを察し始めます。マブカプ3以降のコミックスでは、時折デッドプールが“好きな料理”として、チミチャンガをアピールするようになります。
ここでケーブル&デッドプールでのチミチャンガのポジションを思い出してみると、口にするのが好きで、脳内から聞こえてくる。つまり、主に“音”として好きだったわけです。しかしマブカプ3以降は、料理として好きになっていきます。
マブカプ3はデッドプールとチミチャンガの関係性を単に深めたのではなく、その分岐点ともなった。ターニングポイントとして重要な作品と言えましょう。
マブカプ3以降はデッドプールのチミチャンガ好きがコミックスでもアピールされるようになった。これは事実なのですが、もう一つ事実が有りまして。
おそらく、デッドプールの作中の食事描写、タコスの方が多いよねと。
メキシカンフードの中でも、随一の普及率と知名度を誇るタコス。おそらくデッドプールが一番食べてるのはタコスだと思うんですよね。実際現在バンバン出ているデッドプールの邦訳でも、あんまチミチャンガ食べてないですよね。タコスは、何回かあったはず。
デッドプールとタコスの関連性も深く、例えばデッドプール&タコスのTシャツは、かなりのバリエーションが出ております。
どちらかと言うと、チミチャンガを推しているのはコミックス以外のメディアという印象があります。それも、近年。映画デッドプールもそうですが、ディスク・ウォーズ:アベンジャーズでもデッドプールはアミーゴからチミチャンガをテイクアウトしてました。今おそらく我々が体感しているのは、外堀からデッドプールの好物がチミチャンガとなっていく、過程かと
ゲームは……PS3や360で発売されたゲーム版Deadpoolも結構なチミチャンガ推しでしたが、こっちは同じくらいタコスも強かったので。スコアアイテムがタコスだったり、ケーブルがタコスになったり。
タコスケーブル、もしくはケーブルタコス。この物体をそれ以外、なんと呼べばよいのか自分にはわかりません。
チミチャンガという料理は、発祥がよくわかっていません。アメリカとメキシコの国境、おそらくアメリカ側で生まれた料理とされていますが、それにしても諸説あります。あの辺りの文化は、混沌としているので。以前ルチャリブレについて調べた時も、その経路に悩まされた記憶があります。
そしてチミチャンガは日本でも結構食べるのが難しい料理、コンビニでも売っているブリトーやそこらで食べられるタコスに比べ、日本も含め世界的に一歩退いたポジションにいます。率直な話、既に料理として完成されているブリトーを更に揚げるという一手間が、壁になっております。ブリトーのお手軽さを損なう上に、揚げるというジャンクさは好き嫌いを選んでしまいます。ブリトーやタコスの主舞台であるファーストフード店や屋台にとって、手間はかかるは揚げるための設備投資が必要だわで、まっこと作りにくい料理。一度口にしてハマれば、病み付きになる中毒性も持っているのですが。
この、発祥がわからない猥雑さ。ジャンクなアレンジと中毒性。今だから言えることですが、実にデッドプールらしい食べ物です。掛け声に使えるぐらい、口に出した時の響きも良い。
デッドプールの好物がチミチャンガとなったのは、デッドプールにチミチャンガが似合うから。きっとこれが、根本的な理由なのでしょう。
「なんか、チミチャンガって言っているうちに、好きになってきた! 言うだけならタダだし、スポンサーが来たらもう、完全プラス! あと、キャラ付け?」
理由付けとして、こんなのも許される。デッドプールの緩さと、アメコミの移り変わる設定。このコンビは、今後もネット時代ならではの強さを発揮してくれるはずです。
※追記
2016年7月に発売された、デッドプール Vol.5:ウェディング・オブ・デッドプール収録の短編「奥様はバネッサ?」にて、デッドプールがチミチャンガを愛し始めるきっかけが描かれております。この短編を担当したライターは、ファビアン・ニシーザ。デッドプールの生みの親の一人であり、上記のメキシコ料理好きからチミチャンガの音が好きだネ! という設定を作り上げたライターです。
つまり、きっかけとなった本人直々の後付けです。コイツぁ、ぐうの音も出ないな!
この短編により、なんとなくチミチャンガを好きになったから、一応しっかりとした理由付けが出来たということで。興味のある方は是非ご一読を!
これはこれで、時系列的に音が好きと発言するより前の段階から料理として好きだったんじゃね? 疑惑が生まれるのですが、それはそれとして!