四月一日の怪異
自分は仕事の都合上、納品のため学校を回ることがありまして。今日は小学校を二つばかし回ったんですよ。まあ一つ目は、ニュータウンの新しい学校でして、特に何事も無く終わって、次の学校へ。
問題は二つ目の学校にありまして。古い街の奥にある、小学校。雨風にさらされ、傷んだコンクリートの校舎。
外見以上に、ああこれは古い学校だなという条件は二つありまして。まず一つ目は、校舎や校庭の配置がおかしいこと。例えば、来客用の駐車場から入口に向かうのに、非常に距離があったり。二つ目は暗いこと、太陽に関係なく廊下や室内が常に薄暗いこと。
今日行った学校は、まず車が入れないぐらいに狭い駐車場、校舎内に入るのに校舎裏まで回らされた上に、押してくれと書かれたインターホンは無反応で、オートロックな筈の扉も絶賛開放中。中に入ってみれば、大人がすれ違うのがやっとな廊下に、日の明かりをまるで数年以上浴びていないような淀みある暗さ。完璧です。嫌な意味で完璧です。
暗く案内板もない廊下を勘で歩き、嫌に明るい事務室で所定の手続きを完了。再びそそくさと元きた道を戻り、出入口に差し掛かったその時。
居たんですよ。出入口に一番近い教室に、俯いた少年が。襟足まで伸ばした髪の少年が暗い教室に一人。後ろ姿で顔は分からなかったものの、一人ただ座っている。まあ、そういう趣味の子がいてもいいだろう。平然を装い移動して別アングルから教室を見てみれば、教室には誰もおらず。これで、見間違いかヤバい物を見たかの二択になりました。
ただ、どちらにしても答えは一緒。素知らぬ顔をして、そそくさと去ることのみです。実際こういうのって、反応するとノッてきますからね。そりゃあそういう物だって、無視するような人間と、怯えて気にしてくれる人間ならば、後者にやる気になります。だから、スルーが一番なんです。
冷静に外に出て、置いてあった自分の靴をつっかけるように履いてから深呼吸。豪胆を装っていたものの、息が思わず止まっておりました。これでもう後は帰るのみ。そう思っていたのですが、つい上を見てしまったんです。
ああもう、居ましたよ。お約束とばかりに、一階の教室から数秒で三階の廊下の窓ままで移動した少年が。輪郭からして、まず間違いなくあの子。暗くて姿形はよくわからないものの「ああ、笑っているな」と言うのが何故か理解できる。子供らしい朗らかな笑み、なんてワケはなく、ニタァとした笑み。底冷えしてくるような嫌な笑みだ。その笑みが、ずらりと三階に並んでいる。同じ顔をした十数人の子供が、全部の窓からこっちを見ているんですよ。
多分、怖さや何か「見たくない」という気持ちがあったんでしょう。無意識に力のこもった瞬きをした瞬間、窓から子供達は消え、ただの陰鬱な校舎に戻ってました。立ち止まっているだけで、恐怖が沸き上がってくる状態。もう急いで帰りましたよ。この精神状態で、校門の開け閉めがきちんと出来たのは、一つの奇跡です。
しかしコレ、今日の日中の出来事なんですよね。春休みなため、校舎に人気はなくとも、校庭からは遊んでいる子供達のまともな喧騒が聞こえてくる状態。夕暮れや夜ならともかく、こんな人気のある真っ昼間にこういう目にあったことは無い。
あの職員室や事務室の、過剰なまでの明かりの多さ。もしかして、大人はアレが居ることに気づいているんじゃないだろうか。