アメコミカタツキ:ウォードッグス 予告

※ 以下、本文序章の一部を掲載します。

ランサーにとって、今の自分には納得出来ない物があった。
ケルト神話に名を轟かす英雄、クー・フーリン。西欧ならば誰もが知っている英雄であり、英霊。此度の冬木市で行われる聖杯戦争、クラス“ランサー”として召喚された彼は、召喚主であり魔術師であり主であるマスターと共に、聖杯を手にするため戦いぬく筈だった。
だが、ランサーが満たすことを望んでいた戦いへの渇望は、器ごと砕かれることとなる。裏切りによる、マスターの頓死。命令権でありマスターの証でもある令呪は殺害犯の物に、この聖杯戦争の管理者の一人である、言峰綺礼の物になった。
管理者であり、教会の神父でもある言峰が、なんの目的を持ってマスターを殺し、ランサーを奪い取ったのかは分からない。
新たに与えられたのは、令呪の持つ絶対命令権による、言峰への服従と、全てのサーヴァントと一度は戦い必ず自ら撤退するという条件付け。与えられた役割は、戦ではなく諜報。
これでは、ただの走狗だ。
今日もまた、身が焼け爛れるような無念を胸に、教会に帰還するランサー。日はとうに暮れ、深夜と呼べる時間帯だ。
だが、建物には入らず、少し離れた位置から、なんとなしに見上げる。立派や荘厳といった言葉に彩られた外観。だがその中は、言いようもない汚濁で埋められている。
いっそこの教会が現在中にいる主ごと無くなれば、冬木とついでに世界も平和になるだろうに。
「テメエら、今の日本は妖怪ばやりなんだぜ!? ウォッチチ! 西洋のモンスターが出る幕じゃねえんだよ!」
わーわーぎゃーぎゃー、とにかく喧しい声がいきなり聞こえてくる。なんか変な赤タイツが、半魚人やミイラ男といった、いかにもなモンスターに追いかけられていた。刀でザクザク、銃でバンバン。あれだけあたふたしている割には、器用に攻撃を続け、モンスターをあしらっている
「ああ。でも西洋妖怪って言えばー、ブームに乗れる? よし! かかってこい、ドラキュラ配下の西洋妖怪軍団! このデッドプールが居る限り、この世に悪は栄えない! ついでに正義も栄えない!」
赤タイツ改めデッドプールは、モンスター改め西洋妖怪を引き連れたまま、ランサーの脇を駆け抜けていく。
「助けて神父様、悪いドラキュラの配下が、女の恨みでいたいけな人気者をイジめるの! チームアップしようぜ、ジョージ! チームアーップ!」
教会の扉を蹴破り、デッドプールは中に転がり込む。当然のように西洋妖怪も追って教会に転がり込んだ。

デッドプールが教会に転がり込む数十秒前。教会には二人の男が居た。
「ふん」
言峰の真なるサーヴァントは、不快さを隠さなかった。使い潰すつもりのランサーとは別の、金髪外人のサーヴァントである。黒いジャケットと無地のシャツは極普通の一般人の衣装であったが、王たる中身のせいでやけに華美に見える。
「どうした? 機嫌が悪いではないか、王よ」
十数年前に行われた、前回の聖杯戦争にて召喚されたアーチャー、ギルガメッシュ。そして当時よりマスターを務める言峰綺礼。
王であるギルガメッシュを従者と呼ぶのは似合わぬが、兎にも角にも相通じ合う二人は、此度の聖杯戦争でもそれぞれ思うがままに振る舞おうとしていた。
「ああ、不快だ。我としては、今すぐにでも奴を八つ裂きにしてやりたいぞ」
ギルガメッシュが持つ不快の原因は、先程まで我が物顔で教会に居た、三人目の男のせいであった。
「ああ。アレか。邪魔者ではあるが、わざわざこちらに顔を見せに来たのは、挑発か礼儀か、それとも」
「見下しているのかだ。どちらにしろ、我とは相いれぬだろう。きっと、たぶん」
友の名を付けた鎖を手で遊ばせるギルガメッシュ。
「別に不可侵条約を結んだわけでもない。聖杯戦争を盤としての戦いも何悪くはない。ところで王よ、先ほど届いたこの荷物は、何だ?」
言峰の脇にあるのは、外国より届いた謎の木箱であった。様々な言語による“危険!”の二文字プラス感嘆符が、否が応でも中身の危険性を感じさせてくれる。
「ああそれか。先日、ネットオークションで競り落としたガンマ爆弾と呼ばれる兵器だ。小型の最新型だな」
ギルガメッシュは事も無げに、どう贔屓目に見てもヤバすぎる代物の名を口にした。
「ネットオークションだと?」
「雑種が使うような物とは違う、価値の分かった人間のみが使うサイトがあってな。我も時折覗いている」
人類最古の英雄は、最新の文化文明を見事使いこなしていた。何処かの文化文明と相容れないツインテールの魔術師には見習って欲しい。
「我の財宝の中にも似たような物はあるが、いかんせん爆弾は使いきり。多めに持っておいて、悪い物ではない。だが中々に白熱したオークションであった。我とクリック速度のみで競り合ったあの男、圧倒的な財で潰してしまうのは面白く無いとギリギリまで付き合ってやったが、最後まで弱音を吐かなかったのは大した物よ。業者から“なんとかもう一つ用意出来ました”との言を引き出したこと、我に勝てずとも、それなりの物を得たな」
二人を競り合わせておいて、金額を引き上げてからの在庫あります。真の勝者が誰であり敗北者は誰なのか、言及しないのが優しさである。
「そうか。だがまずは、この爆弾を宝物庫に仕舞ってほしいものだな、王よ」
「ふっ。安心しろ。確かにこの爆弾は、一度爆発すれば、この教会どころか、サーヴァントたる我をも吹き飛ばしかねない威力がある。魔力どころか万物を吹き飛ばす威力だ。だが、信管が無ければ、鉄くずと同じ。そうだな、例えばこの箱の周りに数十の爆弾が撒き散らされない限り、爆発するはずがなかろう」
「助けてジョージ! 助けてカズトモ!」
デッドプールが教会に入って来たのは、この時だった。西洋妖怪に追いつかれたデッドプールはそのまま転倒。中から手榴弾やらグレネードやらといった爆弾が数十転がり出て、木箱の周りに散った。
「……どういうことだ、言峰」
「それは私が聞きたい事だ」
手榴弾のピンが、抜け落ちていた。

いきなり教会が土台ごと吹っ飛んだ。立派も荘厳も爆発炎上。小規模ながらも、キノコ雲がもくもくと立っている。
「……はぁっ!?」
疾風怒濤の展開を放置していたランサーの意識が、ようやく帰って来る。教会がぶっ飛んだらと思っていたら、ホントにぶっ飛んだ。俺のせい? 俺のせいなのか?と、英霊の心も若干ざわめく。
呆然とするランサーの頭に、ひらひらと飛んできた、ミイラ男の包帯の切れっ端が被さった。

冬木教会が謎の爆発を遂げた、次の日の朝。
聖杯戦争のマスターである遠坂凛は、瓦礫の山と化した冬木教会を人気のない墓地より観察していた。いかんせん、教会周辺には警察やらマスコミや野次馬が至るところに居る。あまり堂々と、身を晒すには不都合がある。
「聖杯戦争が始まる以上、誰が脱落しても驚かないって覚悟してたけど。まさか、監督役が最初に吹っ飛ぶって……」
ゲームで言うなら、プレイヤーより先にイベントやルールの管理をするゲームマスターが脱落してしまった状態。以前もそんなことがあったらしいが、いくらなんでも今回は早過ぎる。まだ、プレイヤーが揃っただけで、殆ど何も始まっていない。
「どうやら、魂までは吹き飛ばなかったようだがな」
「見えた? アーチャー」
彼女のサーヴァントであるアーチャー。爆発後より回収された言峰が運ばれた病院、彼は同じく人に囲まれた病院の斥候に出かけていた。
「ああ。言峰は無事だ。外国より研修で訪れた、医師の腕が良かったおかげだと看護師が口にしていたよ。だが、今は警察の監視下におかれている」
「警察!?」
「……なんでも、爆発跡地より、一般社会が看過できぬ物が見つかったらしい。しばらくまともな手段での接触は難しいな」
「何やったのよ、アイツ」
凛の魔術の師であり後見人である言峰綺礼。理想的な聖職者であり、ご近所の評判も悪くない彼だが。正直、凛がマスコミにコメントを求められたら“いつかこうなると思ってました”と、口から滑り出てしまいそうだ。外面はともかく、内面は間違いなくやらかしている人間である。
「爆発の原因はどんな感じで扱われてるの?」
「ガス爆発だとか」
「ガス爆発って、ガス爆発でキノコ雲は出来ないと思うんだけど」
ガス爆発ならしょうがない。ある意味、冬木市の伝統。聖杯戦争のお約束である。
「だがまさか、世間一般にあっさり真実を理解されても困るだろう? つまり、そういうことになっただけだ」
「分かってるけどねー。このタイミングでの事故、どう考えても聖杯戦争がらみ。偶発的な事故とは思えないわよ」
「ソノ(可能性)消しちまうのか。もったいねぇ」
突如背後より現れた第三者の声。凛は魔術の媒介である宝石を手に、霊体化していたアーチャーも実体化。双刀干将莫耶を手に、振り向く。
二人の警戒、ことさら五感に優れたアーチャーの警戒をもすり抜ける。並大抵の相手でないのは、明白だった。
「アサシン!?」
凛は、隠形に特化したサーヴァントの名前を呼ぶ。
「ランサーか!?」
あのセリフはいつぞやの物に似ている。主従二人が呼んだ名は、別々であった。
結局、二人共違ったわけだが。
「ワタクシは善の心に目覚め、禅に目覚めたデッドプール。宜しければ、ゼンプールと呼んでください」
「「誰だー!?」」
白いマスクに白い頭巾らしき布、修行着を着込み、首には大きな数珠。西洋墓地にいるのはまずおかしい、謎の仏教徒がいつの間にか居た。
「あのマスク、アサシンっぽいと思うんだけど」
「長物は持っているが、アレはモップだ。そもそも、ランサーの変装にしても、おかしすぎる」
本人を目の前にして、ヒソヒソ囁き合う凛とアーチャー。ゼンプールは構わずいそいそと、墓磨きに勤しんでいる。目が荒すぎて、墓石が若干痛そうに見えるのだが。
「ワタクシ、ゼンプールは、神父きっての頼みにより。その立場を全部引き継ぐこととなりました。どうぞ、コンゴトモヨロシク」
「はぁ!?」
「見て下さい。この宗教家スタイル、パーフェクトにして完全無欠でしょう?」
「いやいや、アイツ神父! キリスト教! アンタ僧侶! 仏教! ゴートゥー柳洞寺!」
そもそも、僧侶としても格好、主にマスクが婆娑羅すぎるし。
「待て。君は、神父の立場を引き継ぐと言ったな。それは宗教家とは別の立場もか?」
アーチャーの問い。言峰綺礼の立場は複数ある。代表的なのは、聖杯戦争の監督役だ。
早計なのは自分だったが、ただ宗教家としてだけならば、この後の対応もせねばならない。世の中、知ってしまっただけで、子々孫々に累を及ぼす事もあるのだ。
「ワタクシは、全てを引き継ぎました。そう、彼の全てを! そう思って頂いて、構いません。さあ、コレをどうぞ」
凛になにやら袋を渡す、ゼンプール。受け取った凛は訝しみながらも、袋の中身を取り出す。
「とりあえず、アナタの後見人として、服を選んでみました。なんでも、定期的に服をプレゼントするのが、アナタと神父の恒例行事だったとか」
「ふん!」
魔力で腕力を強化しての全力投球。ゼンプールがプレゼントしたレディース用のデッドプールコスチュームは、遥か彼方へすっ飛んでいった。
「ああ、なんたるコト。コレが反抗期! ですが、最近のゼンプールは善。それに新婚早々、いきなり隠し子が発覚しても驚かず受け入れるだけの度量を持っています。さあ! パパでもダディーでも! 好きなように、呼んで! むしろ呼んで下さい!」
「呼ぶか、コノヤロー!」
胸ぐらを掴まんばかりの勢いで、ゼンプールに反抗期な凛。優雅とか、そういうこと常に気にしている場合じゃない。
「だが先程の気配、サーヴァントらしい物もあったような……?」
喧騒に背を向け、先ほどの誤認の理由を思い出すアーチャー。なんというか、育児放棄じみたスルーであった。

墓場から少し離れた位置にて、一人のサーヴァントが独り言をブツブツ呟いていた。
「そうなんだよなー、あのクソ神父、本当に全部譲りやがったんだよなあ」
しゃがみ込み、槍を手に、落ち込んでいるのはランサー。どうせ何をしても死なないが、全が襲われたら立場上助けに行かねばならない。なにせ、今のランサーは病院の言峰ではなく、あそこのゼンプールだ。
ランサーのマスター権は、再び新たなマスター、今はゼンプールに引き渡されていた。
マシから最悪、これ以上悪くはならないだろうと思っていたら、最悪の彼岸の向こう、良くわからない地平へとすっ飛んでいってしまった。
「え? 何その青タイツ。オレちゃんのライバルポジション!? それとも、誘ってるの? オレちゃんにサイクロップスになれって? 先輩になれって?」
「ああー。そのゲイ・ボルグ? とりあえず撃つの止めとこうよ。だいたいそれさあ、必殺の武器なせいで、基本“外しただと!?”って驚いたり舌打ちするポジションじゃん? オレちゃんさあ、心臓ぶっ壊された程度なら、最速数コマ、遅くても次回までには復活するキャラなんだから、打つのは止めとこ? ゲイ・ボルグに耐えきったり逸らしたりって、もうお約束的な所があるしさー。読む人も書く人も飽きてるでしょ?」
馬鹿にされているような気はするが、言葉の端々のぶっ飛び方のせいか、全く腹が立ってこない。教会が吹っ飛んだ直後、一人だけ平然と瓦礫の中から這い出てきたデッドプールとのファーストコンタクト、そして一戦交えつつの会話である。
確かに心臓を貫いても、肉塊に突き刻んでも気がつけば蘇っていたし。ランサーに食らいつくだけの技量を持っている。不死性と強さは買うが、いかんせんアレである。実にアレすぎて、今後どうなるのかがマジで怖い。怖すぎる。こんな恐怖や生の実感など、知りたくなかった。
「自害すっかなー……」
不穏当なことを言い出すランサーであったが、ふと何かを察知し、眼が動く。
「クソッ! クソッ! せめて私が成り代わる筈だったのに! これを期とし、影より聖杯戦争を、思うがままに操るつもりだったのに! またヤツのせいで、台無しになってしまった!」
木に頭を打ち付けつつ、木の根っ子をガシガシ蹴って。なんか必要以上に追い詰められている言峰が、悔しがっていた。
アレは違う。言峰ではない。本人が病院にいる以上に、ああいう悔しがり方はまずしない。ああやって表に自らの真意を出せるほど、まともではない。それにあのコメント、偽物パワー全開である。
ランサーは跳んでいた。俊敏に、獣のごとく、純粋な穂先として。手にする朱槍の先端は、俯く偽言峰の延髄を狙っていた。
甲高い金属音が、火花を散らす。ランサーの一撃は、刃がついた謎の杖、その先端にて止められていた。
「なるほど。ケルトの勇者なだけはある。語られるに相応しい実力はありそうだ」
即座の反応、ランサーの一撃を止めるだけの力と技量。先ほどまでの混乱から即座に立ち直るだけの見栄。色々な意味で、言峰とは違う能力を持つ者。ランサーは深追いせず、一度退いて距離を取った。
「テメエ、何者だ?」
「そう思うなら、狩衣を剥いでみるがいい」
「生憎、前のマスターの意向で、最初は様子見しか出来ないんでね」
軽口を叩きつつ、ランサーは得体のしれない物を持つ偽言峰を見抜こうとしていた。この男、どの英霊とも違う。内部に秘めているのは、底知れぬ強大さ。元より無いか、損なっているか。今回の聖杯戦争に参加しているサーヴァントが、システム上まともに持てないもの。英霊という、人の魂同士の闘いに、持ち込めないもの。ランサーも、捨ててきた物。
偽言峰の中には、純粋な神性。神しか持てぬモノがあった。
偽言峰の身体に走るノイズ。幻影は解け、現れたのは、大きな二本の細長い角付のヘルムが特徴的な、魔術師めいた優男であった。だがアレは、魔術師ではない。れっきたる、神だ。
「ならば見せてやろう、後輩。我が名はロキ。アスガルドから始まり、やがて全てを支配する定めを持つ、大神よ!」
羽織ったローブが、威風で揺れる。王の中の王である我様とは、ひと味ちがう威厳にして、ひと味ちがううぬぼれ具合だ。
「……チッ! 閉ざす者かよ!」
閉ざす者、終わらせる者。直接のかかわり合いは無いものの、ロキの名と名が意味する物を、ランサーは知っていた。ロキの悪行が綴られた北欧神話とランサーことクー・フーリンの活躍が刻まれたケルト神話。語られる土地や文化に差があれども、距離はそれなりに近い。
「もう一人のトリックスターは脱落したようだが、今度は私が聖杯戦争を支配してやろう」
「失敗したってわめいていた奴がか?」
「ふん。あの程度は、洒落にすぎない。本当の神の力、新たなるラグナロクを見る日は近いぞ」
ロキは体ごと霧となり消える。多少怪しい、面白おかしいところはあれども、中々に倒しがいのある存在に見えた。
「こりゃあ、自害するのは損かもしれねえな」
「ランサーさん、食事の準備が出来ましたよ。今日のご飯は前任者の指示通り、マーボーです」
気を取り直したランサーの所に、悲観の源なマスター、ゼンプールがやって来た。
「いらねえから! つーかテメエ、なんでそこ律儀なんだ!? いちいち、無駄に律儀なんだ!?」
「失敬な。ワタクシとしては、この近所の中華屋より取り寄せた麻婆豆腐にアクセントを加えております。そう、メキシカンらしくチリソースやタバスコを。陰陽の合体により、辛さはさらなる物となっておりますよ?」
「せんでいい、せんで! メキシカンって、お前メキシコ人だったのか?」
「いえ。ワタクシはカナダ人です」
「メキシコ関係ねえ!」
「なら、メープルシロップを入れろと?」
「……いや、それは止めよう。一瞬辛さが緩和できるかと思ったけど、最終的に大惨事だ。そういや、あの嬢ちゃんと子守は?」
「既にお帰りになりました。最終的に、ドクターストップ的な感じで」
「何をした、何をした、テメエ」
「気をそらすために、色々と。ブッキョウパワーによるハラキリや、セッポースキルによる脱衣など。後見人の話が途中だったので、今度は家にお邪魔して、続きをやらなくてはなりません」
「知りたくもねえけど、嬢ちゃんの家より先に、まずどっかの寺に土下座してこい」
「ふふふ、托鉢ですよ、タクハツ。最も、この善性に溢れたゼンプールは仮の姿。夕方5時よりは……」
ゼンプールは、己の法衣を脱ぎ捨てた。
「デッドプールのお時間だー! よし! オレちゃんと一緒に、天下獲りに行こうぜ? ランサー! ゼンプールは表の顔、真の姿は聖杯戦争参加者デッドプール!」
「いやお前、そういう演出するなら、下に赤いの着込んどけよ! フルスロットル全裸じゃねえか!」
ゾンビの如き肌と、ゾンビの如き顔と、ゾンビとは真逆の堂々とした姿勢。生きるゾンビの如きデッドプールは、墓の真ん中で全裸仁王立ちだった。

デッドプールとロキ、二人の介入により、ズレるを通り越して崩れ落ちていく聖杯戦争の歯車。あちこちで起こる、カオスな事態。

「なんでも昨日間桐慎二が、身ぐるみはがされアイデンティティたるワカメ……髪も全て剃られた状態で、裏路地で見つかったらしい。心当たりは無いか、美綴嬢」
「そんなワケの分からない事態にコメント求められても!?」

「わたしとバーサーカーもセラもリズも、早く冬木に帰らないとマズいんだけど。どうにかならない、ゴムの人?」
「今我々がネガティブゾーンから帰還してしまっては、地球がアニヒラスに侵略されてしまう。せめてあの軍勢の80%を倒してからでないと」
「イッツ・クローベリング・タイム!」
「――――― !」
「むっしゅむらむらー」
「えーと着火!って言えばいいのかな? それともやっぱ、フレイム・オン!?」

「最近、黒だの白だの赤だの桜だの、まーセイバー増やしちゃって、調子に乗ってるねえ青色! でも本物の人気者っていうのは、一色で十分! 赤だけてやっていけるモンなのよ!? というわけで、お前ら……待たせたなあ! 格の違い、見せつけてやろうぜ!」
「レディプール!」
「キッドプール!」
「ワンワン!」
「ゾンビプール改め、ヘッドプール!」
「「「「デッドプール・コァ、大集合!」」」」
「ワンワンキャン!」
「馬鹿な! 一気に手練が五人に!?」
「違うセイバー! 驚くところ、そこじゃない!」
「五人っていうか、三人と一匹と……一首?」

「あの邪神にやられたわ……魔術回路を破壊されては居ないものの、ダメージは大きい。しばらく私は、単なるエルフの若奥様でしかないわ……」
「しょうがないわねーみたいな軽いノリで言われても。あと、“若”って……あ。悪りい、なんでもねえ」

「ムジョルニアの名にかけて! 付き合ってもらおうか、英雄の王たる者よ!」
「神か。罪を知らぬ、くだらぬ者。我に声をかけただけで、万死に値するぞ!」

「来たか! 神に逆らう不届き者達!」
「アイツはロキ……まだいたのか。あれからずっと見てないんで、てっきり尻尾巻いて逃げ出したものかと思ってたぜ」
「え? ロキ? マジだわーアイツ、まだ目立ち足りないのかよ。トムだからって調子乗りやがって。こっちはなあ、ライアンなんだぞ! 畏れよ、我が光、某ランタンの光を!」
「ここまで表に出れなかったのは、貴様らがその場のノリで、私の緻密な計画を邪魔しまくっていたせいだろうがぁぁぁ!」

「テメエ……!」
「ランサーが二人!? やだ、どこのマルチプル!?」
「その顔。ヒドいじゃないかクー・フーリン! 彼もまた君と同じ、クー・フーリンなんだぞ? この、狗がなぁ!」
混沌は形となり、知識も常識も第四の壁も、あっさりと崩壊する。
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星になったオレちゃん

「みんな、会場で会おう!(キラッ★」