ヒーロー対グール! Marvel Universe Vsシリーズ~前編~
ふじい(以下F)「アメリカと言えば、ゴリラとゾンビ。最近、こんなことが巷で語られています」
サイレン(以下S)「そんな巷、俺知らないよ!? その巷って、池袋の某中華料理屋のテーブルか、大山の某焼肉屋のカウンターだろ!?」
F「美味いよな、あの店両方共。それはそれとして、ゴリラとゾンビですよ。この2ジャンルにおいて、アメリカは強烈な強さを持っている。最も、ゾンビに関しては、最近日本もだいぶ色々なものが出揃ってきているけど。多種多様なゾンビ物の発生は、裾野の広い日本漫画界の本領発揮と言えるかもしれん。最近は、ゾンビ」
S「そういやマーベルゾンビーズは邦訳トップクラスで売れているらしいな」
F「アメコミの無茶苦茶さの代表格として、結構長い間、日本でネタにされ続けてきたからなあ……インパクトだけで言うなら、間違いなく邦訳どころかアメコミ史でも随一な企画だし。だがしかし“ヒーローのゾンビ化”をテーマとしたシリーズには、ゾンビーズとは一線を画した上で、勝るとも劣らない傑作がある。それこそが今回取り上げる、『Marvel Universe Vs. the Punisher』『Marvel Universe Vs. Wolverine』『Marvel Universe Vs. The Avengers』の、通称マーベルユニバースVSシリーズ(以下VSシリーズ)だ。アメリカで突如発生した、食人鬼(グール)化現象。人々が、ヒーローが、ヴィランが、喰らい貪る地獄における、三編の物語。パニッシャー、ウルヴァリン、ホークアイ(Vs. The Avengers主人公)、三人の男は、地獄と化したNYで、果たして何を見出すのか。旧来路線のゾンビものがゾンビーズなら、戦うヒーローの枠から外れていないのが、VSシリーズだ。既存の路線で名作が生まれている状況で、ベクトルの違う傑作を生み出したことは、もっと大々的に評価されてもいい」
Marvel Universe Vs. the Punisher
食欲で生きるグールと、彼らの餌でしか無い人間。荒廃したNYに残るのは、捕食者と食料、そして捕食者を狩る一人の男。無力な人でありながら、パニッシャーは超人的なグールを狩り続ける。
Marvel Universe Vs. Wolverine
異変は、日常において始まった。きっかけを目撃し、事態に気づいた時、既にグールの波は、ウルヴァリンの手に負えぬ段階に達していた。X-MEN、アベンジャーズ、ファンタスティック・フォー、チームメイトや友人がグールとなる中、ウルヴァリンは戦い続ける。
Marvel Universe Vs. The Avengers
生き残ったヒーロー達は、必死でグール化現象に立ち向かっていた。ホークアイも、その一人である。徐々に追い詰められていくヒーローに差し向けられた、救いの手。魔法と科学を識る男Drドゥームは宣言する。自分に従えば、グール現象は止められると。
S「……」
F「どうした? 予想外で未知のタイトルだったか?」
S「てっきり、導入部がゴリラとゾンビだったから、今日は『MarvelZombies Evil Evolution』の話かと」
F「アベンジャーズ(ゾンビ)対アベンジャーズ(猿)な時点で、もはや完成されすぎだからな、コレ。キャプテン・アメリカ同士、夢の対決! ただし片方は腐っていて、もう片方はゴリラだよ!」
S「素敵すぎて、駄目だコレ!」
F「パニッシャー、ウルヴァリン、アベンジャーズの新三大VSシリーズ。まず有権者の皆様に訴えたいのは、ゾンビとグールは違うということなのであります!」
S「何故、怒り新党なんだ」
F「なんとなく? とにかく、違いを並べるとこんな感じです。なお、あくまでMarvelの、ゾンビーズとVSシリーズの違いなので念の為」
ゾンビ:生きる死体。身体も臓器も脳も徐々に腐敗していく。部位が欠損しても差し障りなく、頭部のみの自律行動なども可能と、不死性が増す。主にヒーローが感染しゾンビ化。世界中に蔓延。人類に逃げ場なし。
グール:食人鬼。身体の腐敗はないが、耐え用のない食人衝動により、理性が徐々に欠損していく。食人衝動と理性を両立させている個体も存在するが、やはり何処か常識がおかしくなっている。ヒーローだけでなく、一般人にも多く感染。ただし、感染範囲はアメリカ国内が主で、例えばカナダには届いていない。治療の光明も、僅かに見えている。
F「だいたいこんな感じかね。物語上の立ち位置としては、何とか対抗の目があるのがグール、“もうどうしょうもねえや!”がゾンビ。ゾンビーズは地球どころか宇宙や別次元も喰らう勢いだったしねえ」
S「あいつら、色々なところに出てくるもんな。今度出る、デッドプール邦訳でも深く関わってくるし……」
F「ともかく、グールの方が、少しマシだと思いねえ。まあ、VSシリーズにも、スクールバスの子供が集団感染した結果、通行人に襲いかかるような、結構ショッキングな光景あるけどな! あと、残虐性が増した影響か、人骨のアクセサリーを付けてたり、生首をオブジェにしていたりと、理性が多少残っているからこその残虐さもある。ゾンビの方は、食うか食わないかの選択肢しか無かったわけで」
S「つまり、どちらも地獄の光景という一点では変わらないわけだな。人間=食料の一点では、ブレてねえ」
F「さて、VSシリーズの説明と行きたいところだが……実はこのシリーズ、刊行の順番と、時系列の並びが違う」
刊行順:VSパニッシャー→VSウルヴァリン→VSアベンジャーズ
時系列:VSウルヴァリン→VSアベンジャーズ→VSパニッシャー
S「三作品は、同じ世界を舞台とした話として繋がってるんだよな?」
F「多少、死骸の数や状況に矛盾はあるが……基本、ちゃんと繋がってるぜ。グール化しているメンツがおかしい表紙のことは忘れろ。そうだな、シリーズ中“感染したキャプテン・アメリカの自害”という出来事があるんだが、この事件は三作品それぞれ違った形で、時系列が分かるように書かれている」
VSパニッシャー:感染しかけのキャップに請われ、キャップを射殺したことがパニッシャーの回想で語られる。
VSウルヴァリン:パニッシャーとキャップがグール相手に奮闘する姿と、キャップを射殺するシーンが終盤描かれる。
VSアベンジャーズ:物語序盤、キャップ殺害の瞬間をホークアイは目撃する。
S「なるほど、分かりやすい」
F「これはあくまで例なワケで。他にも幾つかの事件や、三作品全てで超重要ポジションに居る某大人気キャラの動きで、時系列の把握は容易に可能だ。ブラックウィドウも、VSアベンジャーズでグールにさらわれて、VSパニッシャーで出た時には、顔に妙なペイントして“肉、肉、肉!”しか喋れなくなってたぞ」
S「切ねえ! それにしても何故だろう。“某大人気”キャラの響きに、喩えようのない不安を感じる……」
F「で、各作品のもうちょっと詳しいあらすじや、各キャラの紹介となるわけだが……。ここで一旦、区切っておこうか」
S「最後に質問なんだけど」
F「おう。後編で取り上げる話以外なら、なんでもいいぞ」
S「VSアベンジャーズなんだけど、ホークアイが主役なら『Marvel Universe Vs. The Avengers』じゃなくて『Marvel Universe Vs. The Hawkeye』でいいんじゃないか?」
F「うん。率直なところ、VSアベンジャーズ開始時点で、アベンジャーズの大半のメンバーが、死んだかグールか喰われたかで、既にアベンジャーズ崩壊寸前だからね。前日譚のVSウルヴァリンの時点で、犠牲者多数の死闘だったからなー……」
S「なら、一層なんでさ」
F「(゚⊿゚)シラネ」
S「わーい、超無責任!」