スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース雑感~ヒゲなし水戸黄門への挑戦~

注~この記事はスパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバースのネタバレ無しです~

 

 スパイダーマンとはピーター・パーカーである。元々、科学オタクの高校生であった彼は、放射能汚染された蜘蛛に噛まれることで超人的な力を得る。親代わりの叔父、大切な人を失うことで、大いなる力には大いなる責任が伴うことを知った。
 これがスパイダーマンの始まり、1962年に刊行された第一話の話だ。当時のメイン読者層であるニューヨークのティーンたちに寄り添ったスパイダーマンは、前例にない大ヒットを飛ばし、自身の掲載誌だけでなく、出版社であるマーベル・コミック全体、やがてゲームやグッズやアニメ、そして映画を介し、世界単位の人気者になった。

 

 スパイダーマンとはピーター・パーカーである。登場から60年、休みを挟むタイミングは複数回あったが、基本的にコミックスにおけるスパイダーマンの主役はピーター・パーカーが務めてきた。グッズの大半は赤と青を貴重とした”いつもの”スパイダーマンをベースにしており、数十あるゲームの主役もピーターであり、映画では原作第一話の再現が二回も映像化された。流石に三度目はなかったが、三人目もピーターであり、原作第一話とほぼ同じオリジンを持っている。

 

 スパイダーマンとはピーター・パーカーである。ピーター以外のスパイダーマンも、今までたくさんいた。ピーター・パーカーの代わりに主人公となったベン・ライリーのスカーレット・スパイダーに、精神だけドクター・オクトパスと入れ替わったスペーリア・スパイダーマン。別の次元の主人公としてはミゲル・オハラのスパイダーマン2099に、ピーターの娘メイデイ・パーカーのスパイダーガール。他にも別次元や別の可能性のピーター含め複数のスパイダーマンがいたが、誰もが正史ピーター・パーカーと肩を並べられるところには行き着かなかった。代役たちは「そのうちピーターが戻ってくる」と読者もわかっている状況で事実そうなり、別の次元の主人公たちは外伝として消化されていった。スパイダーマンがピーター・パーカーである以上、他のスパイダーマンはサブヒーローや代役でいい。定形が出来て、軌道に乗っている以上、壊すリスクとともに踏み込む必要はない。斬新な若木として生まれたスパイダーマンは、既に多数の世界観を内包したユグドラシルのような大樹となっていた。

 

 スパイダーマンとはピーター・パーカーでなくてもいいのでは? 誰が思ったのかはわからない。でも、複数の誰かが、「ピーター・パーカーと肩を並べられるスパイダーマンを作ろう」と思ったのは間違いない。ピーターの後を継ぐ新たなスパイダーマン、マイルス・モラレスの誕生。ピーターを差し置いての、映画スパイダーマン:スパイダーバースの主役抜擢。そしてスパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース。誰かの挑戦は、これまでを捨てることなく、”二人のスパイダーマン”という未知が見えるところに至った。

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