にゃー
最初に言っておく、俺は悪くない。
「最近、てるよが愛くるしくて仕方がないんだ」
「モルダー、あなた疲れてるのよ」
毎度毎度のくだらねー掛け合いを重ねながら街を闊歩する、肉雑炊コンビ。すると道の脇に黒猫が。にゃーと鳴いてこちらを見ているようでして。
「チッチッチッ」
なんか管理者が怪しい仕草を始めたんで、ああもうコイツもダメなのかなと思ったんですが、どうやら本人的には猫の注意を引きたいようで。傍から見ると、パペットマンがあやしいおどりを踊ろうとする寸前の動きにしか見えねえ。
管理者は犬猫どちらも大好きな、ボーダレス肉球愛好者。数分前にも猫を追いかけて我を見失って追いかけようとしていました。正に駄目な大人。今も黒猫の気を引こうと一生懸命。その一生懸命さを、製本のときに出してくれれば誤植は無かったのに……! なんか余計な事を思い出してムカついたんで、俺はちらりと猫を見ただけで先へ進む事に。管理者はまだチッチ言ってます。
スタスタ
「にゃー」タッタッタ
「チッチッチッ」
スタスタ
「にゃー」タッタッタ
スタスタ
タッタッタッ
「チッチッチッ……」
簡単に上記の擬音を説明しますと。
猫が、興味津々の管理者をガン無視して、無関心な俺の後を付いて来た。
まあ俺も管理者ほどじゃないにしろ、猫や犬は人並みに好きな一般男子。鳥は大っ嫌いだけど。俺にとってツバメはリオレイア、スズメはババコンガ、カラスはクシャルダオラぐらい怖い。つーか鳥類マジ勘弁。もしダチョウにでも追いかけられたら、狂死する。
それはともかく、俺も少し笑顔を浮かべて手を振ったりで嬉しかった。人間だろうが動物だろうが、慕われるのは嬉しい。そして何より、俺の背後で呆然として今だチッチ言い続けている男を見るのが楽しい。うん、なんというかゴメンな。
ほら、俺は老人とか幼児には人気あるし、動物にも人気があってもいいんじゃないかな。なんつーか肝心なところの人気が抜けている気がするが、それはさておき。
決して君の腐った性根が動物にバレたとか、なんか君の体臭が乾燥したシイタケの匂いっぽいとかの理由じゃないだろうから、そんなに落ち込むなよ。
「納得できるかー!!」
やっぱ無理か。
それで納得しときゃあいいものの、何故か俺が卑劣だとか、あの猫の家族でも人質にとっているのかと罵られるハメに。だいいち、人質じゃなくて猫質じゃねーのか。
やっぱり納得できねーと管理者が言い出し、再度猫の元に戻るハメに。たいがいヒマな大人二人だな。
「にゃー」
さっきと同じ猫っぽい黒猫がいました。似たような黒猫が二匹うろついているのを見た事があるので、違う猫かもしんないけど。
「ほーらー、おいでおいでー」
管理者が猫に目を合わせた途端、猫物陰へダッシュ。なんだろう、俺、動物の言葉わかんねーけど、この猫が管理者を嫌っている事はすごくわかる。元々、人通りの多いところに住んでいる猫だし、人間嫌いってことは無いハズなんだが。
物陰を覗いて猫と目を合わせてみる。じーとすること数十秒。別に猫逃げないじゃん。大丈夫、怖くない、怖くないよ……
俺と猫の視線の会話を邪魔するかのごとく、突如割り込んでくる管理者のデカイ顔。
「フギャー!」
猫、全力で逃亡。再度のチャレンジは凄く悲惨な終わりを迎える事に。
「あれだよ、オマエさ、マタタビとか仕込んでるんだろ」
「……」
「それじゃなかったら、食べ物とかちらつかせたとか」
「……」
「昨日、焼き魚とか食べただろ」
「うん。もうそれでいいよ。俺、実はマタタビの香水使ってるんだって事でいいよ」
「……よし、三回目行くぞ! このまま終われるかー!」
「俺、これ以上人が傷つくのを見たくないよ」
なんというか、見ていて哀れになるくらい混乱しているなあ。
とりあえず、写真や絵の猫なら逃げないんじゃないかなと言ったら、犬派に移るとか言ってました。犬猫も同じ動物と考えれば、自ずと結果は。俺、これ以上人か傷つくの見たくないんだけど……。