読解 ワールド・ウォー・ハルク~激戦編~

ふじい(以下F)「やべえ、あまりに間が空きすぎて、前回どこまでやったかを忘れた……こ、ここいら辺からだっけ?」

 天才物理学者のブルース・バナーは軍事研究に携わり、新型爆弾ガンマ・ボムの研究を進めていた。屋外での実験中、何処からともなく迷いこんできた少年を助けたブルースは、大量のガンマ線に被爆。超怪力の巨人、ハルクへと変貌してしまう。
 戦略兵器レベルの危険性を持つハルクは処分すべし。軍上層部の決断を察したブルースは、終わりなき逃亡生活を始めることとなる。実験の責任者であった、サンダーボルト・ロス将軍はハルクの追跡任務を命じられ、彼もまたハルクとの終わらぬ戦いに足を踏み入れる。ブルースの恋人でありロス将軍の娘でもあるベティ・ロスも、当然この波乱に巻き込まれることとなる。三者三様、複雑な立場に置かれた三人のこれからはいかに――。

伝説の始まり

サイレン(以下S)「ちょっと待て! お前、どこまで戻るつもりだ!  ワールド・ウォー・ハルクの話だろ! 前回はこここれ! ブチ切れたハルクがアイアンマンとブラックボルトとMrファンタスティックをぶちのめして、ついでにX-MENも壊滅寸前に追い込んだところまで!」

F「あー、そうだったそうだった。悪の組織イルミナティ最後の一人、Drストレンジが最後の手段を講じようとしていた所までだったな」

S「いや、悪の組織って。あってるっちゃあ、あってるけど」

 其れは凱旋だった。スパイダーマン、ファンタスティックフォー、ルーク・ケイジ、ワンダーマン、ミズ・マーベル、スパイダーウーマン、ブラックパンサー、戦闘不能となった彼らを引き摺り、ニューヨークを練り歩くハルクとウォーバウンド。その光景を目の当たりにしたのは、救助活動のために残った警察官や消防士。ハルクを支持するヒッピーたち。カメラを回すマスコミ。そしてハルクの旧友を名乗る男性だった。王者の行進を続けるハルクの前に立ちはだかった自称旧友は、ハルクに問いかける。
「ヘイ、ハルク。俺を思い出してくれるか?」
 自称旧友の名は、リック・ジョーンズ。かつてガンマ・ボムの実験現場に迷いこんでしまった少年。今は青年である彼こそが、その少年の成長した姿であった。

F「リック・ジョーンズが実験現場に居合わせなければハルクは生まれなかった。ブルースはもっとまともな科学者としての人生を歩めていた筈。それなのに、ハルクもブルースもリックに深い友情を感じている理由は、只一つ。リック・ジョーンズがイイ奴だからだ」

S「自分のせいで……という責任感もあるだろうけど、それだけじゃハルク側から友情を感じるワケが無いな」

F「一時期、サイドキック候補としてキャップの師事を受けたり、宇宙的英雄キャプテン・マーベルと同一化していたり、ハルクとアベンジャーズの仲介役となりアベンジャーズの名誉隊員になったりと、ヒーローに縁の深い一般人です。仮面ライダーで言うならば、滝和也のポジションと言うか。キャプテン・マーベルと融合していた頃は、モロにウルトラマンのハヤタだったけどな!」

最も信頼される男

S「一般人でイイ奴だからこそ、数多のヒーローに信頼されているワケだな」

「リック・ジョーンズ。オマエのコトは知っている。オマエがハルクの友を名乗るのは勝手だが、果たしてハルクが覚えているやら。ところで、正義の味方のキャプテン・アメリカがドコにいるのか知らないか?」
「キャップは、死んだ」
 ウォーバウンドのミークに問われたリックは、簡潔に答えた。無言のままのハルクから、多少の驚きが漏れる。ただ、このような状況になってもキャップが出てこなかった時点で、薄々それは、予測できていた事でもあった。
 リックはハルクに自身の思いの丈を伝える。トニーやリードのした行為は許される物ではなく、このような目にあっているのも当然の報いなんだろう。でも、自分は今のハルクは好きになれない。このやりかたは、好ましくないと。
 リックから伝わるのは哀しみだった。リックの感情を真正面から受け止めたハルクは、リックの肩に静かに手をやる。二人の間には、確かな友情があった。

S「あーそうか。この時期ってシビルウォーの直後だから、キャップは死んでたのか」

F「ついでにソーもアズガルドごと死んでいた時期だった。キャップの復活や北欧神話の再生は、また別の話として。ハルクを説得できそうな人材と、ハルクを力づくで押さえ込める人材である二人が不在だったのは痛かった。ちなみに、“もしワールド・ウォー・ハルクの時期にソーが存命だったら”という設定で書かれたWhat if?(~もしもの話)を簡潔に纏めると、こんな感じ」

ソー「お帰り、ハルク! イルミナティの連中は、君の代わりに私がボコボコにしておいたよ!」

ハルク「ありがとう! お礼と言ってはなんだけど、彼を紹介するよ。彼の名前はセントリー、君が不在の間のアベンジャーズで頑張ってくれたヒーローさ!」

セントリー「よろしく、ソー。イルミナティが居なくても、この三人が居れば地球の平和どころか、宇宙の平和もバッチリだね!」

三人「「「わっはっは」」」

S「ハッピーエンドじゃないですか!?」

F「バッドエンドが多いWhat if?のシリーズ中、ワールドウォーハルクに関しては、珍しくハッピーエンド。この間出た最新総集編なんか、デッドプールさんが主人公のWhat if?でさえ、バッド寄りのノーマルエンドレベルだったぜ。歴史のもしもってヤツは、やっぱ難しいのかねえ」

 突如、ハルクの頭を包む発光体。苦しむハルクは絶叫し飛び上がる。
「俺の頭の中から出て行け!」
 脳への直接干渉を狙う、Drストレンジの魔術に苦しめられたハルクは、苦しんだまま跳び回り、川へと落下する。ウォーバウンドやリックとも別れ、一人になったハルクを川岸で待ち構えていたのは、天使と深海の民、そしてギリシャ最強の武神だった。
 独り、王として数々の戦いに挑むハルク。そんなハルクを倒す為、市街各地に集結する多数のヘリコプターや戦車。ヒーローの次に現れたのは、米軍だった。史上最もハルクを倒す為の作戦を練ってきた男。サンダーボルト・ロス将軍は、ハルクとの最終決戦に臨もうとしていた。
 一方Drストレンジは、疲労困憊な姿を晒しながらも、確かな策の手応えを感じていた。「ドアは開けた」と呟きながら。

F「直接描写されているわけではないが、川岸で待ち構えるヘラクレスの姿と、ヘラクレスとハルクが殴り合っている光景が遠景でひとコマだけ描かれているので、前回紹介した番外編のヘラクレス戦はこのタイミングで行なわれたと考えられる。ハルクが単独行動している点から見て、ゴーストライダー編もこの時期かな」

S「ハルクと言えば、追う軍隊。ロス将軍は決戦の覚悟を固めているようだが、勝ち目は正直……」

F「無いだろ。普段のハルク相手でも、勝てないぐらいなのに。だいたい軍の新兵器や大兵力でどうにかなるなら、既にヒーローの誰かが止めてるだろ。ロス将軍のハルクへの認識はイルミナティの誰よりもシビアで正しいが……。あと地味に“ハルクを襲う軍隊を必死で止めようとするリック・ジョーンズ”が久々に見れるのも良ポイント。リックさん、昔は毎回ハルクと軍を仲裁しようとしてたもんなあ。お前ら、落ち着け! ハルクも落ち着け!」

S「やはりどうしても、ストレンジの悪だくみが気にかかるな」

 地と空からの集中砲火がハルクを襲う。砲弾を物ともせず、ヘリコプターをブレンバスターで地面に叩きつけるハルクだが、どうにも動きがおかしい。ハルクの目に写っているのは、米軍ではなく惑星サカールの荒野とDrストレンジだった。米軍の攻撃に紛れ、遠方からハルクの脳内に潜入したストレンジは、ハルクを倒すのではなく落ち着かせる。ハルクのもうひとつの人格である、ブルースを説得しようとしていた。
 精神世界の中、ハルクはブルースに戻り、カイエラとの思い出に涙する。
「友である私は、君を救いたい」
 ストレンジの説得は純粋なものだった。既にそんな言葉は通じぬことに、気づかぬ程に。

至高の両腕、折れる

 ハルクへと変貌したブルースは、ストレンジの両腕を力任せにへし折った。重傷を負い魔術の行使が出来なくなったストレンジは絶叫する。
「ブルース! 私は君を助けたかったのに!」
「今のお前は、助けを求める側だろうが」
 ストレンジを退け、意識を取り戻したハルクにとって、米軍は既に敵ではなかった。戦車もヘリコプターも米兵も、鎧袖一触。必死に抵抗するロス将軍も敗北し、米軍は壊滅した。

S「いやー説得とか無茶だろ。今更」

F「だよなあ。でも、やっちまったものは仕方ねえ。まー、イルミナティで一番ハルクと仲良かったの、ストレンジだしね。ホント、今更の話ですけど。まあ、こんなドヤ顔で説得されたら、仲良かろうが悪かろうがアウトですけどね」

ドヤ顔

S「あ。コレ、アウトだわ。スゲエ、イラっとくる」

F「正直、俺がハルクでもキレるぜ」

 戦士でもあり神官でもあるヒロイムを中心としたウォーバウンドの一団は、両腕を折られ、魔術を使用できなくなったDrストレンジを確保しに向かっていた。ストレンジ護衛の為、僅かに残っていたヒーローを倒し、魔術による結界や防壁を解呪するヒロイム。責任感と外敵に追い詰められたストレンジは、最後の手段に打って出ようとしていた。
 NYの象徴の一つであるマジソン・スクエア・ガーデン。スポーツの殿堂はサカール軍により改造され、嘗てハルクが剣闘士として戦っていたコロシアムに良く似た物となっていた。
 玉座に座るハルクを見ても、ハルクはヒーローなのだと信じ続けるリックと、ハルクは王であり世界の破壊者なのだと言うコーグ。二人の言い争いを止めたのは、闘技場に落下してきたヒロイムだった。
「こう言うやり方は……初めてだ……」
 ヒロイムを暴力で叩きのめしたのは、他でもないストレンジ。彼の筋肉は膨張し、両腕は鉄の重器へと姿を変えていた。

怪力対悪魔

「……ストレンジスマッシュ!」
 自身で封印していた悪魔を、体内に取り込んだストレンジ。不正や邪悪を嫌う男にとって、それは決して許されぬ手段である筈だった。

S「ヒロイムさん、優秀だな!」

F「ウォーバウンドの皆さんは、武力一辺倒に見えて小技も結構使えるんだぜ。風俗風習は古代寄りなものの、サカール星の科学技術は地球より高いし。そして追い詰められたストレンジさん、暴走」

S「この人、なんかちょっと理から外れた事があると、魔術絶対使ってくれなかったよね」

F「辛い記憶を消してくれ!と懇願してきたスパイダーマンに無理☆と答えてマジギレされたのも懐かしい話。本人の融通がきかないというのと、もう一つ大きな理由があるので、しょうがないっちゃあ、しょうがないんだが。あんまりに使いものにならないので、大型クロスオーバーで一番役に立たない人って言われているもんなあ……。本人のスペック自体は、ヒーローに属する人間でトップクラスなのに。ドーマムゥやシュマゴラスみたいな特級と渡り合えるだけに」

S「まあ、それだけの能力の人が思うがままに力を振るったら、せっかくの大型クロスオーバーが毎回つまんなくなるだろうし。しょうがないよ」

F「という訳で、今日はここまで。次回の~決着編~でお会いしましょう。まあうん、イルミナティも残るはストレンジだけだし、終わりが見えてきたな!」

S「で。次回更新はいつよ?」

F「年が変わるまでには」

S「ハードル低ッ!!」