デッドプールは如何にして心配するのを止めてチミチャンガを愛するようになったのか

※2016年7月17日追記

 デッドプールの好物といえば、チミチャンガ。生地であるトルティーヤで具材を巻いたブリトーを更に揚げることで完成する、メキシコ料理もしくはメキシコ風アメリカ料理。
 だが何故、デッドプールはチミチャンガが好きなのか。その謎を探るべく、我々はチミチャンガ発祥の地の一つとされる、アリゾナ州ツートンへと飛んだ――

 

 飛んでもしょうがないのでPC前に戻ってきましたが、要は“なんでデッドプールってチミチャンガ好きなの?”というテーマでして。映画デッドプールのプロモーションでもアピールされたチミチャンガ。いったい何時からデッドプールはチミチャンガとの縁が出来たのか。初めから設定されていたのか、それとも途中からか。しっかりとした理由があるのか、単なる思いつきか。幾つかのメディアを渡りつつ、出来る限りの検証をしてみたいと思います。
 さっきから頭の中でビートたけしが「こんなやつにまじになっちゃってどうするの」言ってきますが、きっと今日こうして挑むことも、何らかのプラスにはなるはず。たぶん。きっと。

 

 まず始めに、デッドプールのメキシコ料理好きは、わりと早い段階でピックアップされてました。デッドプール、初の主人公作である全四話のミニシリーズ、デッドプール:サークル・チェイス(Deadpool: Circle Chase)では既にメキシコ料理を話の種にしてます。三流の傭兵よりもメキシコ料理の方が相手のしがいがあるとさらっと口に出るくらいなのだから、普段から食べているのでしょう。

デッドプール:サークル・チェイス

 今までゲスト出演だった男が、主人公に。主人公となるべく、様々な設定を固めていく中に、小ネタに近い扱いとはいえ、個性として刻まれたメキシコ料理。これらの個性や、ウィーゼルのような仲間を得て、デッドプールはキャラクターとして飛躍していきます。

 

 第一弾となったデッドプール:サークル・チェイス、一年後に刊行され第二弾となったデッドプール:シンズ・オブ・ザ・パスト(Deadpool: Sins of the Past)。これらミニシリーズで成果を出したデッドプールは、ついに長期連載作品を獲得することとなります。ちょびちょびメキシコ料理やジャンクな食べ物好きをアピールするわけですが、肝心のチミチャンガについてはあまり触れられません。デッドプールがおそらく始めてチミチャンガに言及するのは、時代は飛んで2004年。ケーブル&デッドプール(CABLE & DEADPOOL)の#13。この話にて、前に出てきます。

俺ちゃんとチミチャンガのミーツ

 舞台設定などの話は置きつつ、デッドプールのチミチャンガ絡みのところを抜き出して、訳してみます。

This place makes the best chimichanga on the island. Don’t even like chimichangas all that much. I just love saying it. Chimichanga. Chimichanga. Chimichanga. Chimichanga

ここはこの島で一番のチミチャンガを出すトコだ。でも、チミチャンガそんなに好きじゃないんだよね。でも俺ちゃん、チミチャンガって口で言うのは大好き。チミチャンガ、チミチャンガ、チミチャンガ

What would you like,Mr.wilson?

ウィルソンさん。ご注文は?

An enchilada.por favor. Enchilada.Enchilada.Enchilada

アミーゴ、エンチラーダプリーズ。エンチラーダ、エンチラーダ、エンチラーダ

 つまり。この当時のデッドプールにとってのチミチャンガは、食べ物としてはそこまでじゃないけど、名前はなんか好きという妙なポジションにつくこととなります。チミチャンガ、チミチャンガ、チミチャンガ。言葉覚えたての幼児って、こんな感じですよね。
 それはそれとして、エンチラーダもトルティーヤで具材を巻く、ブリトーやチミチャンガに近いメキシコ料理で、注文時メキシコの公用語であるスペイン語(por favorは英語でplease)を使ってみると、メキシコ料理が好きなんだなあというのは、ガンガン伝わってきます。そしてこの画像は、海外でチミチャンガとデッドプールの関係性の追求、もしくは否定にもよく使われております。海外のデッドプールファンも、チミチャンガへの疑問に対して、色々な形で挑んでおります。

 

 この後もデッドプールの連載は続くわけですが、殆どチミチャンガを食べているシーンも、ネタにしているシーンも出てきません。一応、ケーブル&デッドプール#49で「頭のなかからチミチャンガって聞こえた!」なんてワケのわからないことをやってますが。頭の中にダイナマイトの方が、まだ正気ですね。

チミチャンガの、音が、聞こえる

 そんなチミチャンガが一気に注目を浴びるのは、コミックではないメディア。それは、ゲーム。2011年に発売されたMARVEL VS. CAPCOM 3 Fate of Two Worlds(マブカプ3)でのことでした。

 

チミチャンガス!!
必殺技であるクイックワークやカタナラマ!からの派生技。それぞれ派生元の技によりモーションに違いが有り、追撃性能の高さや壁バウンドを狙える技として、非常に優秀。デッドプールを使う上で、必須とも言える技。

 長年格ゲーファンに愛された、マブカプシリーズ。その数年ごしの新作となるマブカプ3に、デッドプールは参戦してきました。昇竜拳をぶっ放し、ライフゲージでぶん殴る、掟破りの暴れっぷり。注目度と併せ、デッドプールはこの作品で本格的な日本でのデビューを果たしたと言っても、過言ではないでしょう。
 この作品にてチミチャンガ由来のチミチャンガス!という技を駆使したことから、デッドプール=チミチャンガ好きのイメージが広がっていくことになるのですが、ここでちょっと前の発言、ケーブル&デッドプールの話を思い出してみましょう。

「でも俺ちゃん、チミチャンガって口で言うのは大好き」

 つまり、好きな食べ物だから技名にしたのではなく、ことあらばチミチャンガと口にしたいから技名にしたのではという、仮説が。
 マブカプ3のデッドプールは、すごくチミチャンガ推しているイメージですが、実はチミチャンガス発動時にしか、それらしい台詞を口にしてません。例えば勝ちゼリフでムーンウォークやウルヴァリン&スパイダーマンいじりを始めても、チミチャンガには言及してません。ひょっとしたら聞き落としがあるかもしれませんが、あったとしてもチミチャンガとの関係を強烈に補強するものでは無いかと。この距離感からして、マブカプ3のスタッフも、全て知っていてあえて技名にした可能性も大きいと思います。

 

 チミチャンガスは汎用性の高い技なので、デッドプールを使用すると何度も聞くことになり、デッドプール=チミチャンガのイメージはどんどんと刷り込まれていきます。好物ではなく、口で言うのが好きというネタは、秘められたまま。そしてデッドプールは、マブカプ3で一気に世界的な知名度を引き上げ、多くのファン層を手にした。つまり、ここでやって来たファン層にとっては“デッドプールの好物はチミチャンガ”なわけですね。
 ここで、マーベル本社の側が、クリエーター側が、デッドプールとチミチャンガに、ファンの中で繋がりができたことを察し始めます。マブカプ3以降のコミックスでは、時折デッドプールが“好きな料理”として、チミチャンガをアピールするようになります。
 ここでケーブル&デッドプールでのチミチャンガのポジションを思い出してみると、口にするのが好きで、脳内から聞こえてくる。つまり、主に“音”として好きだったわけです。しかしマブカプ3以降は、料理として好きになっていきます。

チミチャンガ大好き!

 マブカプ3はデッドプールとチミチャンガの関係性を単に深めたのではなく、その分岐点ともなった。ターニングポイントとして重要な作品と言えましょう。

 

 マブカプ3以降はデッドプールのチミチャンガ好きがコミックスでもアピールされるようになった。これは事実なのですが、もう一つ事実が有りまして。
 おそらく、デッドプールの作中の食事描写、タコスの方が多いよねと。

タコス大好き!

タコ タイム

 メキシカンフードの中でも、随一の普及率と知名度を誇るタコス。おそらくデッドプールが一番食べてるのはタコスだと思うんですよね。実際現在バンバン出ているデッドプールの邦訳でも、あんまチミチャンガ食べてないですよね。タコスは、何回かあったはず。
 デッドプールとタコスの関連性も深く、例えばデッドプール&タコスのTシャツは、かなりのバリエーションが出ております。
 どちらかと言うと、チミチャンガを推しているのはコミックス以外のメディアという印象があります。それも、近年。映画デッドプールもそうですが、ディスク・ウォーズ:アベンジャーズでもデッドプールはアミーゴからチミチャンガをテイクアウトしてました。今おそらく我々が体感しているのは、外堀からデッドプールの好物がチミチャンガとなっていく、過程かと
 ゲームは……PS3や360で発売されたゲーム版Deadpoolも結構なチミチャンガ推しでしたが、こっちは同じくらいタコスも強かったので。スコアアイテムがタコスだったり、ケーブルがタコスになったり。

タコス+ケーブル

 タコスケーブル、もしくはケーブルタコス。この物体をそれ以外、なんと呼べばよいのか自分にはわかりません。

 

 チミチャンガという料理は、発祥がよくわかっていません。アメリカとメキシコの国境、おそらくアメリカ側で生まれた料理とされていますが、それにしても諸説あります。あの辺りの文化は、混沌としているので。以前ルチャリブレについて調べた時も、その経路に悩まされた記憶があります。
 そしてチミチャンガは日本でも結構食べるのが難しい料理、コンビニでも売っているブリトーやそこらで食べられるタコスに比べ、日本も含め世界的に一歩退いたポジションにいます。率直な話、既に料理として完成されているブリトーを更に揚げるという一手間が、壁になっております。ブリトーのお手軽さを損なう上に、揚げるというジャンクさは好き嫌いを選んでしまいます。ブリトーやタコスの主舞台であるファーストフード店や屋台にとって、手間はかかるは揚げるための設備投資が必要だわで、まっこと作りにくい料理。一度口にしてハマれば、病み付きになる中毒性も持っているのですが。
 この、発祥がわからない猥雑さ。ジャンクなアレンジと中毒性。今だから言えることですが、実にデッドプールらしい食べ物です。掛け声に使えるぐらい、口に出した時の響きも良い。
 デッドプールの好物がチミチャンガとなったのは、デッドプールにチミチャンガが似合うから。きっとこれが、根本的な理由なのでしょう。

「なんか、チミチャンガって言っているうちに、好きになってきた! 言うだけならタダだし、スポンサーが来たらもう、完全プラス! あと、キャラ付け?

 理由付けとして、こんなのも許される。デッドプールの緩さと、アメコミの移り変わる設定。このコンビは、今後もネット時代ならではの強さを発揮してくれるはずです。

 

※追記
 2016年7月に発売された、デッドプール Vol.5:ウェディング・オブ・デッドプール収録の短編「奥様はバネッサ?」にて、デッドプールがチミチャンガを愛し始めるきっかけが描かれております。この短編を担当したライターは、ファビアン・ニシーザ。デッドプールの生みの親の一人であり、上記のメキシコ料理好きからチミチャンガの音が好きだネ! という設定を作り上げたライターです。
 つまり、きっかけとなった本人直々の後付けです。コイツぁ、ぐうの音も出ないな!
 この短編により、なんとなくチミチャンガを好きになったから、一応しっかりとした理由付けが出来たということで。興味のある方は是非ご一読を!
 これはこれで、時系列的に音が好きと発言するより前の段階から料理として好きだったんじゃね? 疑惑が生まれるのですが、それはそれとして!

映画デッドプール感想~試写会ver~

 運良く機会に恵まれ、立川で5月14日に開催された映画デッドプールの試写会に行ってきました。

極爆デッドプール

 立川シネマシティでの開催ということで、マッド・マックスやガールズアンドパンツァーで名を馳せた極上爆音上映での試写会。先に言ってしまいますが、ノリノリのBGMに、ところどころ音が身体にまで響くシーン有りと、音のクオリティと迫力を追求した爆音上映とデッドプールの相性は中々に上等でした。そもそもBGM担当がマッド・マックスも担当したジャンキーXLですしね。ノリの良さは保証済み。立川シネマシティに足を運べるようであれば、シネマシティは有力な選択肢となる劇場かと。

 肝心の映画デッドプールですが……この映画を見て、いきり立たないボンクラはおるまいよ。いやね、全編通してシリアスさんが5分に一回は死ぬ薬師寺天膳もビックリな死にっぷりなんですが、ネタの半分ぐらいがもうボンクラ。試写会終わって、家に帰って風呂で思い出して爆笑するぐらいのネタもちらほらあったんだけど、落ち着いて考えてみれば一般受けとかそういうの一切ない、ボンクラなネタだよなあと。
 その一方、ビジュアルやトークでガツンガツン笑わせてくるネタも多数あり、ストーリーもバイオレンスでセクシーでファニー、それらを爽快さで纏めているので、ボンクラ特化型にしつつ、他の客層を決して置いて行かない造り。だからこその、世界的大ヒットなのでしょう。すっげえベタなネタを、恥ずかしげもなくぶっこんできたりするからね!?

 御存知の通り、映画デッドプールはR15指定。といっても、残虐度はそれほどではなく。まあ脳漿炸裂ボーイだったり、腕とか足がコキャっと逝きますがそれほどでもなく。指定の理由は、きっと残虐度+下ネタの合わせ技ですね。乳首とか乳首とか乳首とか、わりとためらいなく出てくるよ! そして乳首を武器にする修羅のスタイル。
 いやこりゃあ確かに、中国も規制無理! 上映無理!とさじを投げるしかねえわ。そして、このデッドプールが見れない15歳未満と中国の在住の人は、まず不幸だなあと。公開は遅れたものの、デッドプールが観れる15際以上の日本人でよかった。日本のボンクラを狙い撃ちにするネタがあるので、ホント良かった。

 映画デッドプールは、全米での2月を皮切りに世界中で早期公開されていたものの、日本では4ヶ月ほど遅れて6月公開に。結果、3月公開のバットマンVSスーパーマンや4月公開のシビル・ウォー:キャプテン・アメリカよりも後の公開ということに相成りました。
 でも映画デッドプールを観た今、この二大ヒーローの激突作より公開が後になったことも、それはそれで良かったんだとの考えも出来るようになりました。バットマンVSスーパーマンもシビル・ウォーも、正義の対決という構図により、わりと重く鑑賞後もスッキリしないところがあるのですが、デッドプールは前述のとおり、爽快な作品。肉!といった感じのメインディッシュの後の、爽やかなシャーベットと言いますか。このさっぱりとした後味を楽しめるのは、今のところ日本ぐらいのもの。
 ヒーロー映画が大作志向となり食傷気味な人に効果を発揮するのが、映画デッドプールかもしれませぬ。

 それと今日、立川を歩いていたら映画のプロモーションとして造られた巨大デッドプール像に遭遇しました。またの名を、涅槃プール。ストリートファイターIIのサガットステージの背景に居る仏様のアレ。正直存在を忘れていたので、信号待ちで目の前を通った時は、びっくらこきました。おかげで写真、めっちゃブレてます。

巨大デッドプール

 いきなり街中に現れたデケえ赤タイツということで、自然と集まる通行人の視線。「なにアレ?」と隣で呟く、女子高生たち。ネットでの人気はあるものの、未だ大勢のヒーローに世間一般への知名度では劣るデッドプール。こうして衆目を集めるのは大事なことです。6月1日までどれだけ注目を浴びることが出来るのか、勝負の2週間であり、是非とも作品の出来に相応しいだけの人気を得て欲しいものです。
「うーんと、スーパーマンと戦うヒト?」
 落ち着け、隣の女子高生! せめて、スパイダーマンと間違えてやるんだ!
 道を歩いていてそんな不安を覚えつつ。6月1日の公開後には、是非ともまた観に行きたいと思っています。つーか、行く。特に吹き替えは絶対行く。 

ブラックパンサー 暁の黒豹 レビュー

 よき相談役、頼れる仲間、超国家の王。優れた頭脳と肉体、更には王としての資質まで持ちあわせたヒーロー、ブラックパンサー。一体彼はどんな男なのか。アフリカにある彼の王国、ワカンダとはどんな国なのか――?

 その答えは、ブラックパンサー:暁の黒豹の中に有り!

 

ブラックパンサー 暁の黒豹

 

 ワールド・ウォー・ハルクではファンタスティック・フォーを助力。AVX:アベンジャーズ VS X-MENではアベンジャーズの一員として参戦。ディスク・ウォーズ:アベンジャーズではアニマル属性のセカンドヒーローに就任。フューチャー・アベンジャーズでは、厳格なワカンダの王として君臨。アルティメット・アベンジャーズ2:ブラック・パンサー ライジングでは若きヒーローとして登場。

 そして、映画シビル・ウォー:キャプテン・アメリカにて、キーキャラクターとして鮮烈デビュー。自身が主役となる映画ブラックパンサーは映画史に残る大ヒットを記録しております。

 ブラックパンサーは上に挙げた様々な日本進出のメディアにてその活躍を楽しめるヒーローなのですが、実のところサポート役やチームの一員としての登場が多く、今までの日本におけるブラックパンサーの扱いは短編の主人公や群像劇のメインキャラが限界とも言えました。もっとも、高い資質を持ちつつも存在が隠れ気味だった結果、映画にて世間に鮮烈デビュー!を果たせたという痛し痒しなところもあるのですが。

 そんな中、遂にブラックパンサーが主人公であり、正体であるワカンダ王ティチャラやワカンダ王国に焦点を合わせた邦訳コミックスが登場。それが、ブラックパンサー:暁の黒豹です。

 

 ブラックパンサー:暁の黒豹は、ブラックパンサーの設定周り全てが詰まった作品と言っても過言ではありません。ブラックパンサーと因縁浅からぬ暗殺者クロウが、ヴィラン連合を率いワカンダを襲撃。クロウの背後にはベルギーが、そして豊かな資源と高い科学力を持つ独立国家ワカンダへの干渉を企んでいたアメリカもクロウの襲撃をきっかけに動き出す。ブラックパンサーは、自分自身と国を守り切ることが出来るのか。

 大筋のストーリーはこんな感じなのですが、侵略者対ヒーローというダイナミックな構図を描きつつも、その内にブラックパンサーやワカンダ王国の歴史を織り交ぜた、非常に見応えのある作品となっております。

 歴代の王族が力を示すことで受け継いできた衣装と称号である“ブラックパンサー”。歴代のブラックパンサーは、どのように侵略者と対峙してきたのか? 現行のブラックパンサー、ティチャラが王位を継いだ経緯とは? 

 ワカンダ王国の宗教や日常、超金属ヴィブラニウムを筆頭とした資源の豊富さに、世界の最先端を更に超えた科学力。宿敵であるクロウとの、世代を越えた数奇な宿命。ティチャラの妹や叔父といった親族たち。これらの情報や回想が、物語のテンポを崩すこと無く組み込まれております。

 そしてええ、ブラックパンサーやワカンダ王国のハイスペックさは知っているつもりでしたが、本作で提示された可能性は、ハイスペックどころかチートの次元に到達してました。

「ワカンダには相当量の石油が眠っていると聞くが」
「ええ。ですが、手付かずです。太陽光や水素のような、環境に影響を与えない代替エネルギーを使っているのでエネルギー源としても財政源としても必要ないのです」
  
「そんな小国、捻り潰してしまえ! 工作兵の部隊でも一つあれば……」
「第二次世界大戦の最中、アメリカ最強の兵士であるキャプテン・アメリカがナチスを追ってワカンダに赴いた際、当時のブラックパンサーに負けてますが。ナチス兵も処刑されてました。あと、あのファンタスティック・フォーも今のブラックパンサーに負けてます」

 こんな感じのやり取りが作中繰り広げられるのですが、これもう一周回ってギャグなんじゃないかと。なお、ワカンダ王国の守護神って黒豹じゃなくて青いタヌキじゃねえの? と疑うぐらいに、数世紀は科学力がすっ飛んでおります。というか、実際作中でも「ワカンダの科学は世界最先端」と明言されております。DCコミックスのゴリラシティといい、アメコミにおけるアフリカの野生と科学の融合っぷりはとんでもないですね。

 

 更にボーナスエピソードとして収録されているのが、ファンタスティック・フォーの#52と#53、ブラックパンサーの初登場エピソードです。上でも触れたファンタスティック・フォーがブラックパンサーに負けたという話の元ネタと思われるエピソードです。

 マーベル・コミックスの土台を築き上げた、ライターのスタン・リーとアーティストのジャック・カービーによるファンタスティック・フォー。この直近の作品としては、シルバーサーファーやギャラクタスの初登場回などこれまた歴史的なエピソードが多数あり、ファンタスティック・フォー黄金期とも呼べる時期です。

 このエピソードのもう一つの記念碑的な部分としては、超金属ヴィブラニウムの設定がきちんと作られた回でもあります。ヴィブラニウムの初登場自体はこの話より以前に刊行されたデアデビル #13なのですが、この時は創作物によくある凄い金属としての登場であり、どんな振動でも吸収する性質や原産国がきちんと設定されたのはこのファンタスティック・フォーの#53となっております。キャプテン・アメリカのシールドやウルトロンのボディにも使われるヴィブラニウム。始まりの一つがこのエピソードと思って読むと、何やら感慨深いものがあります。

 本編である暁の黒豹とファンタスティック・フォー、互いにブラックパンサーの生誕秘話やクロウとの因縁が書かれているのですが、内容はまるっきり違います。ファンタスティック・フォーが原初で、それを改変したのが暁の黒豹となっております。時代に合わせて変わっていくアメコミの設定が如実に現れている組み合わせ。この変化を楽しむのも、これ通な楽しみ方かと。初登場回のブラックパンサーはワカンダの凄さが全部ティチャラ一人に集約されてて、コイツ一人でいいんじゃないかな? レベル。

 

 暁の黒豹におけるブラックパンサーは、強者です。ヒーローとして、指導者として、王として、揺らぐことなく決断を下し、侵略者に真っ向から立ち向かう。ただの人でしかなくても、意志の力を持って最強となることは出来る。その意志の強さは、数多のヒーローと並べても、群を抜いていると言ってしまってもよいでしょう。

 この作品は、アフリカの強き英雄を、心ゆくまで堪能できる作品でもあるのです。

シビル・ウォー:キャプテン・アメリカ感想(ネタバレ無し版)

 友情が友情を引き裂く――
 原作コミックスにおいても、その影響から逃れるのには数年かかった、ヒーロー同士の大戦“シビル・ウォー”。そんな、大作でもあり問題作でもあるシビル・ウォーの名を冠した、映画キャプテン・アメリカの第三作目。マーベル・シネマティック・ユニバースにおけるシビル・ウォーはどうなるのか? わくわくしつつ観て来ました。

 ヒーロー同士の対決というのは、正義対正義という刺激的かつ難しいテーマです。禁断の対決とは、まさしく酒のようなもの。観客を酔わせつつも、結果いかんによっては、シリーズを停滞や終焉に追い込んでしまう毒ともなりかねない。酒の響きはまず人を惹きつけますが、どう味あわせるのかが本当の勝負ということです。
 そして今回出たキャプテン・アメリカ:シビル・ウォーという酒は、実に美酒でした。作中人物の理屈や感情を揺さぶり続け、なんでこうなってしまったんだ! という不条理とこうするしかないんだな……という納得を同時に押し通しています。誰も正しいし、誰も悪く無い。ただ、それでも悲劇は巻き起こってしまうからこそ、悲劇と呼ぶんだなと。

 今回の映画は、登場人物の心理描写にも気を使っており、一歩間違えれば退屈な映画になってしまう可能性も孕んでいたのですが、ヒーロー映画らしい刺激的なアクションを定期的に挿入することにより、飽きが来ない作りになっております。CMで流れている空港での対決、薄暗い場所で繰り広げられるキャプテン・アメリカ&バッキー・バーンズVSアイアンマン。CMの時点で、そそられる要素が沢山注ぎ込まれておりますが、これですら前菜という恐ろしさ。おそらく、大多数の人の想像を超えたアクションが見られます。かなり期待値高め+ちょっとしたネタバレを知ってしまった自分でも、なにこれすげえとなるバトルシーン。ヒーロー同士、超人同士の戦いをギミックのパズルと考えると、なるほどこういう見せ場が作れるんだと、客席で一人納得しておりました。

 多数のゲストヒーローの登場、その中でも群を抜いた注目度を持つヒーローといえば、今回映画初登場のブラックパンサーと、マーベル・シネマティック・ユニバース初参戦のスパイダーマン。二人とも、顔見世のゲストなのでは? との予想もありましたが、マーベル・シネマティック・ユニバースの一員として、シビル・ウォーの中心人物や鍵として、話にしっかり絡んできます。
 おそらくシビル・ウォーにてこの新ヒーロー二人に託された役割は、希望と未来。今作にて生誕した二人のヒーローは今後どうなるのか。アクション面に人物造形、共に期待感のあるものが提示されており、新作映画へのワクワクが留まりを知りませぬ。
 もちろん、既存キャラであるホークアイやアントマンやファルコンやウォーマシンや……彼らもまた、彼らにしか出来ない、そして今までのイメージを更に膨らませる活躍を見せてくれます。キャプテン・アメリカとアイアンマン含め、結末は明暗混ぜこぜ。要は、全員次回作以降の今後が、むっちゃ気になってしょうがないのですよ。

 シビル・ウォー:キャプテン・アメリカは、マーベル・シネマティック・ユニバースの根本を揺らがしつつ、今後生誕するヒーローに可能性を、そして誰も先が読めない混沌さを。マーベル・シネマティック・ユニバースを延命させるための劇薬として、単体で見てもエキサイティングできる良作として。おそらく“シビル・ウォー”という単語に求められている要素を満たした作品なのではないでしょうか。

アルティメット・スパイダーマン VS シニスター・シックスなコラム~バルチャー編~

 今週のアルティメット・スパイダーマン VS シニスター・シックスは、アーマー装備のバトロック・ザ・リーパーやバルチャーだけでなく、まさかのアイアンパトリオットやアメリカン・サン登場と、えらく豪華というかようも全員出せたなな回でした。星条旗カラーのアイアンマンスーツことアイアンパトリオットと言えば、映画ではウォーマシンのバリエーションとして。原作コミックスではグリーン・ゴブリンなままのノーマン・オズボーンの鎧として出たスーツでしたが、まさか正義のノーマン・オズボーンが着るスーツとして、こうして登場させるとは! トニー・スタークが著作権や特許を主張しそうなオリジナルスーツでしたが、それはさておき!
 という訳で今日は、ディスク・ウォーズでは毎週、アルティメット・スパイダーマン:ウェブウォーリアーズでは不定期だった、キャラ紹介コラム。久々のコラムです。毎週は厳しい状況なのですが、こうして時間出来次第やっていければなと。
 本日取り上げるのは、今週シニスター・シックスの候補として登場したものの落選、新作映画での登場も噂される彼です。

バルチャー

スパイダーマン対バルチャー

 優れた発明家であり技術者でもあるエイドリアン・トゥームスは、経営者である親友と共に会社を立ち上げた。トゥームスは脇目もふらず開発に専念し、様々なアイテムを発明するものの、既に親友は彼を裏切っていた。会社の収益もトゥームスの才能も限界に達したと思われたその時、ついにトゥームスは会社を追い出された。特許も奪われ、全てを失ったと思われていたトゥームス。しかし彼は、自身最大の発明となるであろうアイディアを持っていた。会社を追い出されたトゥームスは、電磁力により装着者に飛行能力を持たせる飛行ハーネスの開発に成功する。

 飛行ハーネスという骨格に、鳥の如き羽毛や翼を追加、飛行能力に加え、身体能力をも倍増させるスーツを完成させたトゥームスは、自らスーツを装着。空より自身をうらぎった親友を遅い、会社の金庫から正当なる報酬を奪い返すことに成功した。
 痺れるような、快感。だがこのトゥームスの快感は、復讐を成し遂げたことが理由ではなかった。空を自由自在に飛ぶ。老いた自身の身体能力が倍増されている。自身の発明品に酔ったトゥームスは、このスーツを遠慮無く使える職業、犯罪者になることを決意する。空を飛ぶ、禿鷲の怪人“バルチャー”の誕生である。

バルチャー初登場

 空飛ぶバルチャーを警察は捕まえることが出来なかった。バルチャーの犯行は大胆かつ派手になっていき、ニューヨークはバルチャーの話題一色となる。バルチャーを追う警察、そしてマスコミ。バルチャーの劇場型犯罪は、一人の新人ヒーローにあるアイディアをもたらすこととなる。

 バルチャーの前に現れたのは、親愛なる隣人スパイダーマン。機動性にてスパイダーマンを翻弄するバルチャーだったが、飛行能力の秘密に気づいたスパイダーマンは、飛行能力の無効化装置を開発。墜落したバルチャーは、犯罪者としてだけではなく、技術者としての誇りも傷つけられ、以後スパイダーマンの宿敵として何度も戦うこととなる。

 バルチャーの敗北後、バルチャーの写真を売りに来たのをきっかけに、NYの新聞社デイリービューグルに一人のカメラマンが出入りするようになる。彼の名はピーター・パーカー。ピーターが得意とするのは、スパイダーマンや彼と戦うヴィランに関係する、衝撃的瞬間やピンナップ。この仕事は、スパイダーマンの正体であるピーター・パーカーの生業となっていく。スパイダーマンとしての戦いを写真に撮って、マスコミに売る。このアイディアをピーター・パーカーが思いついたのは、マスコミを騒がすバルチャーを見た時だった。つまりバルチャーが、カメラマンとしてのピーター・パーカーの生みの親ということになる。

 復活したバルチャーは、当然スパイダーマンが開発した無効化装置への対策を練っていた。それにとどまらず、自身が時代遅れの悪党にならぬよう、バルチャーは発明家のトゥームスとして、スーツへのアップグレードを重ねている。最高飛行速度や到達高度や身体能力は更に増大。手足に鉄をも切り裂く鉤爪の追加し、場合によってはデザインの根本的な見直しもおこなうと、バルチャーの強化は留まることを知らない。ヴィランであり発明家であるバルチャーの本質は、ヒーローであり発明家、スーツへのアップグレードも積極的に行うアイアンマン(トニー・スターク)に近いものがある。

バルチャー(ニューコスチューム)

 バルチャーはスパイダーマンの宿敵の一人であり、宿敵連合シニスター・シックスにも結成時から参加している。投獄されたトゥームスを騙しスーツを奪った犯罪者、ブラッキー・ドラゴ。飛行スーツを量産した複数人のバルチャーのチーム、“バルチュリオンズ”。生物的な改造と飛行スーツの組み合わせにより、酸を吐く能力も持つレッドバルチャーことジミー・ナターレ。このように複数人バルチャーは居るものの、ドラゴは復活したトゥームス本人に敗北。バルチュリオンズも数の力で押しきれず壊滅。ナターレはパニッシャーが殺害。バルチャーはやはり初代のハゲ頭ことトゥームスのイメージが強い。アニメだとそれなりに新機軸が打ち立てられているキャラではあるのだが。

バルチャーVSバルチャー

バルチュリオンズ

レッドバルチャー

 旧来からの敵ではあるものの、今のところ、映画スパイダーマンシリーズには出ていない。出ていないものの、実は何回も出演が検討されており、その度にポシャっている悲しいヴィランでもある。サム・ライミ版スパイダーマンでは3や未制作となった4への出演が検討されていたものの、出番のないままシリーズが凍結。映画アメイジング・スパイダーマンでも、2にて飛行ハーネスらしき機械が登場するが、こちらもシリーズ凍結と、実写化への縁の無さはスパイダーマンヴィランの中でも随一。それでも、新作映画であるスパイダーマン:ホーム・カミングでの出演が検討されているようなので、是非とも三度目の正直を叶えて欲しい。