サークル始動予告的SS
「ガァァァァァァァッ!」
唸り声を上げ襲い掛かってくる怪物の首をセブンは捕らえる。しかし、怪物の突進力は殺せず。一匹と一人はもつれ合ってビルの屋上から落下した。
既に時刻は夜半、繁華街は書き入れ時だとこぞって競い合い、街全体が繁盛していた。街を歩く人々は殆どがホロ酔いで、人生の春を謳歌している。 セブンと怪物はそんな街の通りに落下してしまった。何事かと集まった人々が口々に噂しあう。
「おーすげえ、リアルだなリアル」
「もう片方もすげえよな、ジェイソンというかレザーフェイスというか、ホラー映画のステレオな殺人鬼だぜ」
和気藹々とした人々。
「……?」
セブンが首を捻る。平和ボケの日本国民と呼ばれているが、いくらなんでも楽観的過ぎる。酔いや混乱を差っぴいても、和気藹々と出来るほどこの国民は幻想家なのか?
それ以上に彼らの態度に疑問を持つ、一匹が居た。怪物は強者であるセブンより、弱者である野次馬を標的に定めた。人垣へと怪物は踊りかかるが、人々は剣呑とし、逃げようともしない。
「コックローチキィィィィッック!」
セブンを追いかけてきたコックローチGの飛び蹴りが怪物に直撃する。怪物は蹴りをカウンターで喰らう形となり、人垣から外れた方へと弾き飛ばされた。
「ギャー! 足折れた!」
限界以上の力を出したGの足は、曲がってはいけない方向にポッキリ折れていた。限界以上の物を出せば何らかの形でリスクを負うものなのだ。
「すげえぞゴキブリ男!」
「ステキー!」
「こいつもやけにリアルだなぁ」
人型のゴキブリとしか評せないGを見ても人々は平然としていた。いつもなら人は雲の子を散らすように逃げるのに。
「おいG、おかしいぞ。いつもならオマエの気持ち悪い外見を見て逃げ惑う連中が平然としている」
セブンがのた打ち回るGに疑問をぶつける。
「ストレートに言いやがって、お前の心にダムは無いのか?」
「無い。で、なんだコイツら。いくらなんでも恐怖を忘れすぎだ。私達は妖怪なんだぞ」
「とりあえずダムについては後日として、日付を見てみろ」
「……10月31日?」
「ハロウィンだろうが、トリックオアトリートのよ」
「ああ、そういうことか」
子供が怪物に仮装し「お菓子か悪戯か?」と二者択一を迫る西欧の祭りハロウィン。日本にも伝わった行事だが、伝わる際に子供が仮装するという前提が忘れられ、大人だろうがなんだろうが仮装して騒ぐ、単なる仮装カーニバルと化している。
つまり、セブンやGや怪物といった本物を、彼らは良くできた仮装だなと思っているわけだ。
「ウガーーーーー!!」
起き上がった怪物が絶叫する。セブンにはそれが「俺は本物だー!」と絶叫しているように聞こえた。
「だから、思いっきりやってOKだ。むしろ派手にやっちまえ」
衆目は有るが、誰もそれを現実とは思わずに見る。むしろうそ臭いほどに派手な方が嘘らしく見えるのだろう。セブンは己の武器の中でも派手な一つ、チェンソーを懐のマントから取り出した。観衆は蠢くチェンソーを見て歓声を上げた。
「ならば、ヤツの臓物でこの通りに彩を与えてやろう」
「いらん、そんな彩いらん。とにかく俺に任せろ、観客は俺がうまくいじってごまかしてやる」
Gが足をむりやりもとの形に戻して、立ち上がる。折れた足は既に復活を遂げていた。
「ならばここは頼んだ」
チェンソーの手持ちの部分でセブンは駆けてきた怪物を殴り倒す。倒れ付す怪物へ刃を向けるが、怪物は一瞬で起き上がりそれを許さない。牙と刃が交錯した。
「えー皆様、警察に通報とかはお止めください。これは許可を取った宣伝活動です。ちょっと派手かもしれませんが、重ね返し警察に通報とかはお止めください」
死闘を背にGが観衆に向け叫ぶ。なお、許可などとっているはずが無い。重ね返しと言っている辺りに通報するなと言う必死さが見て取れる。
「宣伝ってなんのー?」
観客からの当然の疑問が投げかけられる。
「それは……イベントで販売する「肉雑炊」新刊のお知らせだ!」
Typhoon party
古ぼけた田舎の村の通りに軽快な音楽が鳴り響く。
その音源には陰鬱な街に華やかな気を撒こうとする踊り子の姿があった。
短髪としなやかな体付きは健康美を感じさせ、化粧に頼らずとも魅せられる顔立ちはみずみずしい美しさを感じさせる。きわどく創られた布のごとき衣装は扇情を掻き立てるにふさわしく、腕にはめた半壊気味のブレスレットも鮮やかさの中で逆に際立つ。そして、後ろに控えた大柄な演奏者が奏でる軽快な音に合わせ派手なステップのダンスも息一つ乱さずにこなしてみせる。
街頭で踊るには勿体無いほどの踊り手――しかしである
その目の前に置かれた小銭集め用の空き缶には小銭の一銭も無かったりするワケで。