デッドプール チームアップ! 天体戦士サンレッド 前編
日本の夏、蒸し暑い夏。ただいるだけで汗ばむような、不快な暑さ。街を歩く人々は、なるたけの軽装を目指している。そんな風潮に反逆するかのような、全身黒タイツの若者二人が駅前を駆け回っていた。
「あれー? おかしいな、ここで待ち合わせの筈なんだけど」
「俺、あっちの方探してみるよ」
ぜぇぜぇと、息を荒げて走りまわる二人。かなり奇妙な光景なのに、何故か黒タイツの二人は、この街に馴染んでいた。
「あー食った食った。腹いっぱいだ。そして暑い! 吐き気がするくらい暑い! ついでにもう一言、ココはドコだ!?」
高島屋のデパ地下試食コーナーを荒らしてきた赤タイツ。その名は、デッドプール。げんなりと肩を落とし、日本の夏に参っている様子だ。それならばタイツを脱げばいい。だが、彼にとってタイツを脱いで素肌を満天下に晒すことは、屈辱であった。ガンのせいで醜くくなってしまった身体を、デッドプールは恥じている。出来る事なら、タイツとマスクを肌に癒着してしまいたい。それくらいに彼は、素肌をさらすことを忌み嫌っていた。彼なりの、コンプレックスである。
「それにしてもアッちいなー!」
マスクを脱ぐデッドプール。毛のたぐいが一切生えていない、スキンヘッドかつ肌が焼けただれた素顔。サングラスをかけ、空を仰ぐ。満天の空が忌々しかった。
そして、数行前の地の文での解説が、一切無駄になった。デッドプールのコンプレックスは、その日替わりの気まぐれなのだ。こんちくしょう。
「しっかし、ホント分かりにくいな、日本の地名は。武蔵ナントカって付く地名に惑わされて、すっかり迷っちまった! 円高のおかげで財布はサムいし。こりゃ何か仕事を見つけんと、のたれ死ぬな」
死にもしないくせに、よく言う。デッドプールは思い悩んだ表情で、駅名が書かれている看板を見上げていた。表情は真剣なものの、あんまり何も考えていない。どうにかなるさ、ケ・セラ・セラ。デッドプールを深刻にさせるには、まだ追い込みが足りなかった。異国の地で、財布がスッカラカン。こんな状況になっても、まだまだ余裕は有り余っていた。
「なんて読むんだろうな。この駅。ひらがなにカタカナに漢字。日本の文字は多すぎる。今度、三つを檻に放り込んで、どれが一番強いか決めればいいんだ。競技はもちろん、殺し合いだ」
看板には“溝の口駅”と書いてあった。確かに少々、読みにくい地名ではあった。