デッドプール チームアップ! 仮面ライダーディケイド 後編
前回のあらすじ。
デッドプールがディケイドライバーを奪って、ディケイプールに変身した。正真正銘の、あらいすじ。
鳴滝は責任を感じていた。
「責任の一端は私にあるとはいえ、あれもこれも、全てディケイドのせいだ。おのれディケイド、おのれデッドプール。このままでは、ライダーの世界、全てが破壊されてしまう」
ほんの少しだけでも、責任を感じているだけマシなのかもしれない。いつもだったら、全てディケイドのせいにする。
「責任を払う為、ライダーの世界を守る為、ディケイプールを倒す為、私もかつての姿を取り戻そうではないか」
帽子とコートを脱ぎ捨てる鳴滝。詰襟の軍服に眼帯、鳴滝は一瞬で厳格な軍人の姿へと変貌を遂げた。
「私はスーパーショッカーのスーパー幹部、ゾル大佐!」
ゾル大佐へと変貌した鳴滝の周りで、青い毛を持つ二足の獣が、複数うごめいていた。
その頃のデッドプール改めディケイプールは?
「のぶひこー!」
「OK OK こっちの彼には俺が肩を貸そう。だから、その暑苦しい叫びを即刻止めるんだ。地球の平均気温が上がっちまう。ディケイプールは地球に優しいヒーローだ」
ゴルゴムの秘密基地から、二人の世紀王候補を改造前に救いだしていた。
デッドプールが暴れたせいで、散らかりまくった光写真館。
「あ……うあ……ここはっ!」
「よかった。気がついたんですね」
デッドプールにKOされてから、ずっとうなされていたユウスケが目覚めた。看病と後片付けのために残っていた夏海も安堵する。
「いったいあれから、どうなったんだ! 士は!? あのマスクマンは!?」
「落ち着いてください。まずですね、変身して欲しいんですけど」
「変身って……クウガに? 普通に変身すればいいの? アルティメットになれみたいなのは無い?」
「いいから早くお願いします、確認したいことがあるので」
「わ、わかった。じゃあいくよ」
武道の達人のごとく、涼やかな動きで構えるユウスケ。
堂に入る。一人のリントの戦士として戦い抜いてきたことにより、ユウスケの変身ポーズは、それなりの絵になるようになってきた。
「超変身! ……あれ? 超変身! 超変身!」
何も起こらなかった。神秘のベルト・アークルは、何回叫んでも出てこない。ポーズが絵になる分、余計恥ずかしい。ユウスケはクウガ?からクウガ(笑)へと進化した!
「士くんが、このままだと仮面ライダーの存在全てが消えるって慌ててましたけど、こういうことだったんですね。クウガも消えましたか」
「超変身!? 超変身!? ちょうへんしーん!」
ユウスケの叫びが、むなしく響き渡った。
その頃の仮面ライダーディケイプールは?
「あれさー、ホラー映画やパニック映画の学者ってどうかと思うのよ。怪しい古代遺跡を見つけたらさ、調査しようとか思うなよ! どうせ、中に入ってるのはエイリアンや超古代の破壊兵器なんだって! それで解き放っちゃって大変なことになるんだからどうしょうもない、本当にどうしょうもない。という訳で、3……2……1……Fire! ワーオ! 流石ショッカーから盗んだ爆弾! スッゲー!」
西暦2000年、長野の山の一つがグロンギの眠っている遺跡ごと吹き飛んだ。
どこの世界か分からぬ採石場の広場で、ディケイプールは遊んでいた。
「タ・タ・タ・タ・タタタタタタタ タロット占い♪」
カエルの歌のリズムで歌うディケイプール。ディケイプールは、様々な世界を回ってきたことにより、様々なアイテムを装備していた。
背中には、ライドルやブレイラウザーにストームハルバードを背負い、両腕にはギギの腕輪とガガの腕輪をそれぞれ装備。腰にはクナイガンと音撃棒を挿している。色々な世界のごった煮状態だ
公約通りに、首には赤いマフラーを巻いていた。
「なるほど。サバイブがバーニングスマッシュしてザヨゴーでナイトが主役か。全然わかんね」
ディケイプールは、目の前に並べていたアドベントカードとラウズカードをポイ捨てした。どっちも、神崎士郎やBOARDから奪って来た物だ。
「さてと、これからどうしようか。クーラー付けっぱなしにしてきた気もするし、一回帰るか? オレのこの格好見たら、みんな驚くぜー。日本通のウルヴァリンなんか、目を白黒させたり」
驚くというより、みんなきっと困る。帰ろうと思い立ったディケイプールを取り囲む、ライダーの集団。茶色の汎用性量産型ライダー、ライオトルーパーの軍団だ。数十人のライオトルーパーがディケイプールを包囲していた。
「なるほど。主人公か。オレ、主人公か!? だから、こうやってフラグが勝手に立つんだ。素晴らしきかな、仮面ライダー!」
サタンサーベルとリボルケインの二刀流となったディケイプールは、ヒャッホーと叫んで、自分からライオトルーパーの集団に殴りこみをかけた。
暴れまわるディケイプールと自身が召喚したライオトルーパー軍団の戦いを物陰から見守っているのは、海東大樹だった。
「最初は、今まで集めたカードを台無しにされまい、そう思っていたけど」
ゴクリと生唾を飲む海東。彼の目に映っているのは、ディケイプールが持っている数々のお宝だった。
「アレだけのお宝を集めるだなんて。ここで盗まなきゃ、怪盗の名がすたるよね」
ディケイプールのせいで、カードの数は少なくなっているものの、取っておきの切り札が残っている。海東は切り札を使うべく、一旦この場から離れた。
「デンガッシャー! ……これはちゃうねん」
奇妙奇天烈な形になってしまったデンガッシャーを、ディケイプールは直接投げた。デンガッシャーは一人のライオトルーパーの顔面に直撃し、なんとか撃墜数1を稼いだ。
「んーどうしようか。少し飽きてきた。ドラクエも三周目以降は飽きるからな」
あらかた武器を使ったのに、まだまだ敵は残っている。ちょっとワンパターンになってきたなと、ディケイプールは悩む。リボルクラッシュを放ったところで、あることに気がついた。
「そうか! オレはディケイプールだった! カメンライドすればいいんだ!」
ライドブッカーから無造作にカードを取り出すディケイプール。ちらっとカードを確認してから、自身のディケイドライバーに差し込んだ。
“プールライド レディデッドプール”
本家カメンライド同様、ディケイプールに重なる鏡像。鏡像と合体したディケイプールは、女性と化していた。スレンダーになって、ちゃんと胸も出ている。マスクから飛び出た、金髪のポニーテール。
デッドプールとは別のパラレル世界に存在するレディプールに、ディケイプールはプールライドしてしまった。まるで自己流カイジンライドをした、チノマナコのようだ。
「ゴージャス! ワタクシ、残酷でしてよ?」
レディプールは軽やかな動きで、ライオトルーパーを切って撃っていく。ファイトスタイルは、デッドプール式の自由奔放な殺戮スタイルに戻っていた。
「電波投げ!」
ただ、途中に少しライダーらしさを入れて。電波投げと言っているのに、力尽くの首投げだが。電波の力で投げるから電波投げであって、電波なヤツが投げるから電波投げではないのだが。
“プールライド アルティメット デッドプール”
脳髄むき出し頭蓋骨剥き出し、シースルーの顔面を持つ不死身の殺し屋にしてTVスターのデッドプール。よく似ているが少し違う、アルティメットと呼ばれる世界のデッドプールだ。マスクを取った素顔に差があるものの、マスクを被ってしまうと、普通のデッドプールとアルティメットのデッドプールの間に明確な違いは無い。少しタイツの柄が違うかなというレベルだ。
アルティメットデッドプールは二丁拳銃の早撃ちで、ライオトルーパーを殲滅していく。
「ナメんなよ、仮面ライダー! パラレルワールドはこっちが本家さ! 一体どれだけ、オレがパラレルワードに生きてると思ってるんだ! 見ろよ、このカードの数々!」
元に戻り、カードを見せつけるディケイプール。レディプール、アルティメットデッドプール、デッドマン・ウェイド、ゾンビプール、キッドプール、ドッグプールと、持っているカードの数は多彩だ。犬や子供やゾンビが混ざっているのはさて置いて。とにかく、カードの数だけは多い。
「価値はないかもしれないけど、珍しいお宝だね。そのカードも、僕が貰うよ」
「おおっ!?」
地鳴りと共に現れたのは、巨大仮面ライダーJ。海東がかつて取っておきと評した、召喚ライダーである。ディエンドに変身した海東は、Jの肩に乗っていた。
「デケエ……仮面ライダーは等身大ヒーローじゃなかったのかよ! チクショウ! ダマされた! 今度、等身大のウルトラマンも探してみよう!」
文句を言いながら逃げるディケイプールと、追うJ。何しろ歩幅が違いすぎる、両者の距離はどんどん縮まっていく。
「何か手はないか? いっそゾンビプールになって、ライダーゾンビーズにでもしちまうか!? ん? コレは……」
自身のカードを見直すディケイプール。ふと、先程紹介しなかったカードがあるのに気がついた。そしてそれは、Jにも負けぬ力を手に入れられるカードだった。
“プールライド ハルクプール”
ディケイプールの身体が膨張し、一気に2メートル以上、400㎏超の巨体へと変貌する。ガンマ線を浴びた、超怪力のモンスターこと超人ハルク。ハルクプールもまた、同じガンマ線を浴びた怪物だ。これもまた、デッドプールのパラレルワールドでの姿である。
「ウォォォォォォ! いいぞ、コレなら勝てる! きっと勝てる! ハルク最強ぉぉぉぉ!」
ハルクプールは逃げるのを止め、Jに真正面から立ち向かった。
「ふん、でも小さいね。そんなの、無意味だ」
ディエンドは兄直伝の無意味さを見せるものの、これは失策だった。Jにちゃんとした指示を飛ばすべきだった。なにせ元祖ハルクは、Jとほぼ同じサイズの相手を、何度も倒している。力勝負で巨人に勝ち抜いてきた、言わば巨人殺しのプロだ。
ハルクプールのパンチが、Jの膝の皿を一撃で砕いた。
「うわぁ!?」
突然の衝撃に、振り落とされるディエンド。ハルクプールは鳩尾や胸部のような痛そうな部分を何度も殴り、最後にJの首に両手両足でしがみついた。喉仏を潰す、超握力でのチョークスリーパーだ。
崩れ落ちるJの巨体。ずしんと轟音を立てて地面に倒れ、消滅する。消滅した後から、プールライドを解除した、ディケイプールが出てきた。
「しまった、やりすぎた……。Jは倒すし、ディエンドには逃げられるし。よし! このパワーを正しいことに役立てるぞ!」
胸をはるディケイプール。そんな彼の後頭部に、銃口が押し付けられた。
「やるじゃないか。士が出し抜かれただけはあるね。だけど、僕の勝ちだ」
ディケイプールの背後に立つディエンド。指は、ディエンドライバーの引き金に掛かっている。少しでもディケイプールが意に反した動きをすれば、躊躇いなく撃ちそうだ。もし衝動的に撃っても、一発ではどうせ死なない。
ディケイプールは素直に従い、ディケイドライバーを外し、手に持ったまま両手を上げた。当然変身は解け、ディケイプールはデッドプールへと戻る。ライダー達のアイテムも、一緒に消えた。
「やけに素直だね。もう少し、抵抗すると思った」
「しょうがないだろ。なにせ、怖い怖い化物どもが、オレたちを狙っているんだからな。お互い、獲物として素直になろうぜ」
「!?」
ディエンドが辺りを見回すと、採石場を狼怪人の群れとショッカーの戦闘員が包囲していた。先程のライオトルーパーの包囲より、人員広さ共に大きい。
「フハハハハハ! ディエンドまでいるとは好都合! デッドプールに海東大樹! ここが貴様らの墓場だ!」
黒タイツの戦闘員と、自分の腹心である狼怪人軍団を引き連れ、ゾル大佐と化した鳴滝が、高い所で吠えた。
ディエンドもゆっくりと両手を上げる。狼怪人の何人かは、ディエンドを狙っていた。包囲網は、採石場を囲む高台にひかれている。
「聞いたぞ、デッドプール。お前は抉られることに弱いそうだな。私が率いる狼怪人軍団の牙であれば、用意に貴様の汚れた身体を食い千切る!」
ガチガチと、一斉に歯を鳴らす狼怪人。全員の歯が、金属のような光沢を放っている。ゾル大佐の言う通り、彼らの牙はデッドプールの肉を容易く裂きそうだ。
デッドプールはただ、鼻で笑った。
「最初に言っておく、抉られるのに弱いのはデスストロークだ!」
胸を張り、デッドプールは高々と宣言する。
「なんだと? しまった、勘違いか!?」
「そして最後に言っておく、俺も噛み付きには弱い!」
デッドプールは背を丸めて、弱気に叫んだ。
「それは言わなくていいんじゃないかな!?」
見るに見かねたディエンドが、遂にツッコミを入れた。
「驚かせおってからに。ならばやはり、噛み付かれたくはないだろう。この包囲を解いて欲しければ、まずこちらに、ディケイドライバーを渡してもらおうか!」
「OK OK アンタに従うよ」
デッドプールはゾル大佐めがけ、ディケイドライバーを投げ飛ばす。勢いの良いそれを、ゾル大佐の近くに居た戦闘員がキャッチした。
「おお、良いぞ貴様。さあ、そのディケイドライバーを私に。さあ!」
渡せと促すゾル大佐。だが戦闘員は動かず、ディケイドライバーをじっと見つめる。そして、戦闘員はマスクを自ら剥ぎとった。
「そうはいかない。なにせコレは、俺の物だからな!」
「か、門矢士!?」
ディケイドライバーを手にした戦闘員の正体は、デッドプールを追ってきた士だった。場の注意が士一人に集中する。その隙に、背中合わせとなるディエンドとデッドプール。デッドプールの両手にはマシンピストルが装備されていた。
「あのスカし野郎に弾が当たっても、事故ってことにしようじゃないか」
「そういうのは嫌いじゃないね」
お互い死角をカバーしての、上下左右完全制覇の乱射。デッドプールとディエンドの銃撃が狼怪人と戦闘員の包囲網を引き裂く。ゾル大佐が退いたのを見て、士は高台から、二人の元へ転がり落ちてきた。
「ワーオ! 流石は主人公、無事だと信じてたぜ!」
「ふっ、僕も信じてたよ」
「ふざけんな……聞こえてたんだぞ、ちゃんと」
“ディディディ ディケイド!”
士はディケイドに変身し、二人に背を預ける。ディケイド、ディエンド、そしてデッドプール。三人はそれぞれ背を預け合う、三角の陣形をとった。これならば、完全に死角は無くなる。
「やはりこうなったか。ディケイド、お前との決着は、私自らつけてやる」
ゾル大佐は胸ポケットから、何やら取り出した。
「アレは!?」
「えーと……折り紙? それも金の」
「ヘイヘイヘイ! デッドプール様は折り鶴を希望だぜ! 早く折りやがれ」
ゾル大佐が取り出したのは、金色の紙だった。自分で取り出しておいて、ゾル大佐はマジマジと紙を見た。
「おお、紙だ! おお、かみだ! おおかみだ……!」
軍服が裂け、金色の毛が体を覆う。爪は鋭く、歯は牙へ。眼帯が千切れた時には、既にゾル大佐は変身を完了していた。
「黄金狼男!」
敬礼して己の名を叫ぶ、隻眼の狼怪人こと、狼男。死神博士がイカデビル、地獄大使がガラガランダなら、ゾル大佐は狼男。今までのディケイドとの戦いでは見せなかった、ゾル大佐の真の姿だ。
「やれぇ!」
群れの長の支持を受け、狼怪人が一斉に三人めがけ襲いかかる。
「フン! 思いも寄らず、鳴滝との決戦か! 二人とも、手伝えよ!」
「ヘイ、ナルタキ! オレとディケイドの友情パワーを見せてやるぜ」
ノリノリな、デッドプール。
「えーと、インビジブルのカードはと……」
ディエンドはいつもどおりの通常営業だった。ディケイドはまたかと諦めるものの、デッドプールが食ってかかった。
「おいおいコソドロ、オマエにはプライドってものは無いのか!?」
「僕のプライドは、こういうところでは使わないんだよ」
「まったく。傭兵も呆れる、ギブアンドテイクな男だぜ。仕方ない、戦ってくれたら、お宝をやるよ」
「それはちゃんと貴重な物なのかい?」
「貴重も貴重、大貴重さ。全米が羨むレベルのお宝だぜ」
こんな会話をしているうちに、狼怪人は肉薄の距離へと近づいていた。
「なるほど、アメリカのお宝、ワールドワイドだね」
ディエンドの銃撃が狼怪人を貫いた。
「海東。お前、そこだけはブレないな」
ディケイドのパンチが狼怪人の顔面を破壊する。
「それならば居直れー! おーおーブレブレブレブレ、ブレまくってぇ♪」
デッドプールの日本刀が狼怪人の首を刎ねた。
仮面ライダー二人と、デッドプール一人。奇妙奇天烈なチームはゾル大佐の軍団に、真正面から立ち向かった。
戦いが始まり数分。
「金の玉は二つあっても、銀の弾はないんだ。でもまあ、勘弁してくれ!」
ハンドガンの銃口を押し付け、直接狼怪人の頭を撃つデッドプール。ディエンドも負けじと、狼怪人を倒していくものの、まだまだ数は減らなかった。まるで無限に湧いているみたいだ。
「フハハハ! ディケイド! お前の旅はここでおしまいだ!」
「旅の行き先を決めるのは俺自身だ。お前に決められる道理はない!」
乱戦の中、一騎打ちをしているのは、狼男とディケイド。ライドブッカーと爪がかち合う。狼男の五指から放たれたロケット弾が、ディケイドを襲った。
「うわっ!?」
退く士を追う狼男。拮抗していた戦いは、一気に狼男のペースに傾いた。
「クソッ! カードがワケの分からんカードになってさえいなければ……!」
ディケイドのカードは、全てデッドプール仕様のままだった。役に立つ立たない以前に、使う気に到底なれない。もし普通に、ドッグプールやゾンビプールに変身してしまっても困る。
「おいおい、ディケイドピンチだぜ!? って言っても、コッチも精一杯だな!」
「分かっているなら、言わないでくれたまえ。僕のカードも君のせいで、半分以上使い物にならないんだ」
かたや狼怪人の波をなんとかせき止めている、デッドプールとディエンド。こちらも、良い状況ではなかった。何かしらの逆転の手段がないと、このままジリ貧で押し切られる。
「カードがあればどうにかなるのか? そう言えば、一枚当たりっぽいカードをキープしておいたぜ」
「え……そこに?」
「大事なモノを仕舞うには、ココが一番さ」
ごそごそと股間をまさぐって、デッドプールは青地で金色のカードを取り出した。紛れもないファイナルアタックライドのカードだった。ただ、サムズアップをしているデッドプールの絵柄である時点で、信用ならなすぎる。
「よし、使ってくれ!」
ひっついていた縮れ毛を吹き飛ばしてから、デッドプールはディエンドにカードを渡した。
「出来れば、士に使ってほしかったなあ。あとで、ドライバーを消毒しないと……」
嫌々ながら、ディエンドはカードをディエンドライバーにセットした。
“ファイナルアタックライド デンチ!”
からんと、地面に落ちる、二本の単三乾電池。え? これだけと、ディエンドが電池を見るが、本当にこれだけだった。このカードの効果は、電池を召喚するだけ。五歳児とお小遣いで事足りる効果だ。
「よし、逃げよう」
諦めたディエンドはインビジブルのカードを手にする。一方デッドプールはディエンドとは真逆のリアクションを取っていた。
「電池キター! これでかつる!」
意気揚々とデッドプールは電池を拾い、何やら怪しい装置にはめた。
「ああ……その電池は、その装置のための。で? なんだい、その装置は?」
「コレ? この装置はな」
ブンという機械的な音がして、デッドプールが消えた。出来れば、このまま消えてくれないかなと、ディエンドはこっそり願う。
「イヤッハー! 分裂じゃないよ!?」
デッドプールの分裂。そんな悪夢、願い下げだ。
消えたデッドプールは遥か先の位置で、戦闘員をぶん殴っていた。また消えるデッドプール、今度もまた別の場所で、狼怪人を崖下に突き落としている。
「いつでもドコでもデッドプール! 一家に一台デッドプール! 瞬間移動装置、大復活~!」
ヒュヒュヒュンと、あちこちで出たり消えたりを繰り返すデッドプール。散々敵陣の中を瞬間移動した後、デッドプールはディエンドの肩に腕を置き、親しげなポーズで出現した。
「ヘイ、ディエンド。この瞬間移動装置、スゴく欲しいだろ」
「そうだね。それなら、十分お宝だよ」
「あーでもダメだ。なにせ、お前にやる予定のお宝はもっとスゴイからな」
再び消えるデッドプール。直後辺り一面で、複数回の爆発が起きた。敵陣を破砕する爆発は、デッドプールの手によるもの。先程の瞬間移動中に、手榴弾をばら蒔いていたのだ。狼怪人の大口に、直接放り込んだりもしている。
「コレよりスゴいお宝……楽しみだよ」
ディエンドはこう呟くと、随分と少なくなった残敵の掃討に入った。
狼の跳躍力を活かした、変幻自在の狼殺法。獣そのものの動きをする狼男に、ディケイドは苦戦していた。
飛び掛ってくる狼男を斬ろうとするディケイド。しかし、それはフェイントだった。狼男はただすれ違う。当てが外れたディケイドは大きくバランスを崩した。
「もらったぞ!」
バランスを崩した上に、背後をとった。狼男は牙を剥き出しにして、ディケイドの延髄を狙う。
「ハッハッハ、リキシマン……じゃなかったウルフマン。オマエの相手はオレだ!」
ディケイドと狼男の間に、瞬間移動してきたデッドプールが割り込む。デッドプールは狼男と、手四つで組合った。
「おのれデッドプール! 元はと言えば……!」
「おいおい、そこはおのれディケイドと言わなきゃダメだろ! オマエのアイディンティの消失だぜ!」
そう言って、また消えるデッドプール。デッドプールは狼男の背後に出現し、刀で切りつける。狼男が気づいて振り向いた時には、また背後に。瞬間移動のスピードが速すぎて、もはや分身の術と化している。狼男はメッタ切りだった。
「ぐぉぉぉぉぉ!?」
切り裂かれながらも、狼男は思案する。幹部随一と言われた、作戦立案能力を持つ優れた頭脳で。デッドプールのワープ先は、背後と決まっている。ならば落ち着いて先読みすれば、出たところを狙い撃ちに出来る。
「ワオーン!」
吠える狼男。既に狼男は、デッドプールのワープ戦法を、完全に見破った。立案通りに、先読みしたところで、
「あ。誤作動した」
唐突に自爆するデッドプール。狼男も当然巻き込まれる。
爆発の煙が晴れた後、焦げたデッドプールと熱で毛がチリチリになった狼男が現れる。ケホッと、お互いが黒いケムリを吐き出した。
「や、やってられるかぁぁぁぁ!」
「そう言うなよ、マン・ウルフ! イケるとこまで、殺し合おうぜ!」
半泣きで逃げ出そうとする狼男に、デッドプールがしがみつく。もつれ合う二人の目に、重なりあうホログラムカードの幻影が見えた。
一つ目は、連なるホログラムカード。ディケイドが必殺技である、ディメンションキックを放たんとしている。
二つ目は、渦巻くホログラムカード。ディエンドも必殺技のディメンションシュートを撃とうとしている。既に銃口に、光が見えていた。
「……おのれディケイドォォォォ!?」
狼男でもなく、ゾル大佐でもなく。鳴滝は絶叫する。
放たれる、二大ライダーの必殺技。逃げ場のない合体技は、デッドプールごと狼男を吹き飛ばした。
全てが終わった後、変身を解除した士と海東は、沈む夕日を眺めていた。
「これで鳴滝も諦めてくれるといいんだが……」
「しつこさは誰にも負けない気でいるけど、鳴滝には勝てないね。きっとまた、士の前に現れるよ」
これで終りではない。またそのうち、第二第三の鳴滝が現れるであろう。そもそも多分、第一がまだ死んでいない。確信に近い予感だった。
「オレたちの合体技により、倒せたんだ。今日は勝利を喜ぼうじゃないか」
当たり前のように、無事なデッドプールが士たちの脇に立っていた。
「合体技って、君は何をしたんだい?」
「ディケイドが蹴る。ディエンドが撃つ。オレが拘束する。完璧な連係だっただろ?」
「俺は正直、いっそ二人まとめてと思っていた」
士が不穏なことを口にした。幸い、デッドプールには聞こえていなかったが。
「ああ、そうだ。お宝だったな。ほら、コレ。デッドプールは約束を守るヒーローだ。スゴイ貴重品だぞ」
デッドプールは海東に約束していたお宝を渡す。
「……色紙? サイン色紙?」
「マーベル人気投票8位、デッドプールさんのサインだ。コレを持っていれば、アメリカでは羨望されること間違いなし。他の国では知らんけど。ちゃんと、額縁に飾るんだぞ」
こんなものの為に?と呟いて、固まる海東。海東を押しのけ、士がデッドプールに詰め寄った。
「ところで、この始末はどうしてくれるんだ? カードもアイテムも、お前のせいでライダーの世界は、みんなメチャクチャだ」
デッドプールがディケイプールとして好き勝手やったせいで、ライダーの世界は無茶苦茶になっている。発祥も危ぶまれ、重要アイテムもみんな持って行かれてしまった。
「自分のカードを見てから物を言いな」
デッドプールに言われ、士は自分の持っているカードを確認する。ディケイプール仕様だったカードは、全て元のカードに戻っていた。おいそれと信用できぬのか、士は何度もカードを確認する。
「カードも戻っているし、アイテムも勝手に戻って、ライダーの発祥もどうにかなっているさ。メデタシメデタシの、大団円だ。だいたいな、ちゃんとした結末が欲しいなら、原作で先にちゃんとした結末を用意しろよ。聞こえてるか、白倉P!」
絶対に聞こえていない相手めがけて、デッドプールは声を荒らげた。
次元が歪み、向こうに士の知らぬ景色が見える。きっとこれは、デッドプール本来の世界へと戻る為の扉だ。ひょっとしたら、追い出す為の扉かもしれないが。
デッドプールはさっさと次元の歪みへ歩いていく、入る寸前の所で、クルリと士の方へ振り返った。
「こう見えても忙しいんだから、あんま呼ぶんじゃねえぞ」
何処かの鬼、そのものの呟きを残し、デッドプールは次元の向こうへ消えた。
「最初ッから、呼んでねえ……!」
残された士に許されたのは、ただ頭を抱えることのみだった。
士も去り、茫然自失の海東も去り。誰もいなくなった決戦場で、一人ヨロめいている男がいた。
「おのれ、ディケイぐはぁ」
何時もの格好に戻っていた鳴滝は、お決まりの台詞を言いかけたところで、意識を失う。崩れ落ちた鳴滝を見下ろしているのは、ピコピコハンマーを持ったデッドプールだった。いつ戻ってきたのか、それとも最初から消えていなかったのか。それは本人にしか、分からない。
「もうそのセリフは聞き飽きたぜ。まったく、こんなのをアイディンティとか言ったの誰だ? バカじゃねえの。あれ? バカは俺?」
こんどこそサヨナラだと、デッドプールはピコハンをポイ捨てして、帰って行く。次元の歪みなぞ使わず、徒歩で何処かへと去って行った。