デッドプール邦訳奇譚~アイデンティティ・ウォー:デッドプール/スパイダーマン/ハルク~

アイデンティティ・ウォー:デッドプール/スパイダーマン/ハルク

アイデンティティ・ウォー:デッドプール/スパイダーマン/ハルク 表紙

トラブルにより偶然開いてしまった異世界への扉。デッドプール、スパイダーマン、ハルク、2人のヒーローと1人のロクデナシ3人のヒーローは異世界へと飛び、ありえない存在と邂逅する。

史上最強、金持ちでモテモテで人気者なスパイダーマン
真っ赤ではなく真緑な、デッドプールのそっくりさんデスウィッシュ
正しい異名のはずのに根本的におかしい“ドクター”ブルース・バナー

異世界に悩み戸惑い満喫する3人。スパイダーマンの大事な人であるベンおじさん。真紅のドクター・ドゥーム、デスマスク。地獄に棲まう最強の鬼神。元の世界に存在しない者達の運命も絡みあい、3人のヒーローの戦いは加速する。果たして3人は、元の世界に帰って来れるのか!?

F「時間が空いてしまったが、デッドプール邦訳奇譚再会だ。今回のテーマは、デッドプール、スパイダーマン、ハルクの三人が集う、アイデンティティ・ウォーだ」

S「今回あらすじは、自分で書いたん?」

F「結構、公式のあらすじが核心まで踏み込んじゃっているかなあと思ってな。ちょっとだけ、ネタバレの深度を浅くしたものを作ってみた。というわけで、デッドプールの邦訳本なアイデンティティ・ウォー……というのは、正しくもあり、ちょっと違う感じでもあり」

S「そりゃあなあ。この本、タイトルにもある通り、デッドプールとスパイダーマンとハルクの本だからな」

F「スパイダーマン編、デッドプール編、ハルク編。この三本が連なって、アイデンティティ・ウォーという一つの作品になってるわけだからな。だから、スパイダーマンの邦訳本でもあり、ハルクの邦訳本でもあり。正確に言うなら、3人の邦訳本だろうな」

S「いやでもさあ、スパイダーマンはともかく、ハルクの邦訳本って……どれくらい久々だ?」

F「アベンジャーズ系や大型クロスオーバーには顔出ししてるし通販限定の本でレッドハルク編が出たりしているけど、名前が入った個人誌で一般流通していてプレミアついてない本となると、ワールド・ウォー・ハルクぐらいじゃないかなあ……いやこれも、ハルク個人誌と言うより、大型クロスオーバーではあるんだけど」

S「流石にワールド・ウォー・ハルクは、ハルクの本にカウントしていいだろ」

F「日本だけでなく、本国の事情も含めて、ハルクの扱い方は試行錯誤なイメージがあるな。それはそれとして、アイデンティティ・ウォー本体の話に戻るぜ。話としては、結構なインパクトのある話だな。なにせ、ベンおじさんが生きてる」

S「大いなる力には大いなる責任が伴う。スパイダーマンの原初、ベンおじさんが死ぬという前提が崩れるからな。そりゃあ当然、スパイダーマンのあり方からして変わるか」

F「貧乏でマスコミに叩かれて女性関係も上手くいかない本家スパイダーマンとは真逆だもんな。アイデンティティ・ウォーのスパイダーマン」

S「ひどい言い草だが、だいたい合ってるし、詳しい言及を求めたらもっとヒドいことになるのがわかるから、何も言えない……」

F「デッドプール編もハルク編も、スパイダーマン編に負けず劣らずぶっとんだ設定だからな。異世界や異次元の話っていうのは、アメコミにゃあ結構あるが、アイデンティティ・ウォーは短編連作な中編という環境をフルに活かして、異世界だからこそ、違う世界だから見れる場面や光景をたんと用意。一回こっきりの環境だからこそ許されるラインを、制作側がきちんと把握している感じだな」

S「とっぴな設定という飛び道具をただ乱射しているのではなく、きちんと的を定めた上で集中砲火しているってことか」

F「そうだな。いやしかし、このアイデンティティ・ウォーの世界、底意地が悪いところもある。金に名誉にベンおじさん、“ある手段”でハルクとの分離に成功したブルース・バナー。アイデンティティ・ウォー世界のスパイダーマンやブルース・バナー(ハルク)は、本来の世界のスパイダーマンやブルース・バナーが内心求めていたもの、足りなかったものを持っている自分たちなんだぜ? そんな夢の自分たちを目の当たりにして、しかもそれが必ずしも幸福に直結していないことを見せつけられる。コイツぁ、中々に辛い話だぜ」

S「なるほど……ところで、デッドプールが内心求めていて、足りないと思ってるものって?」

F「えーと。毎日おもしろ愉快に楽しく暮らしたい?」

S「……それは、すでに叶っているのではないでしょうか?」

F「いやまあ、一例だからなあ、コレ! しかし改めてアイデンティティ・ウォーを読みなおしてみると、デッドプールのストーリにあり方は、箸休めポジションというか、結構な異彩を放ってるなあ。いやまあ、いつも通りなんだけどさ」