なんでマーベルでミュータントって差別されるん?~後編~

ふじい(以下F)「というわけで、前回に引き続き、マーベル世界におけるミュータントの、ちょっとつら目なお話です」

サイレン(以下S)「どうしてもテーマがなあ。前回他のヒーローとの差異がメインだったな。で、今回はどのように?」

F「もっと具体的な差別や迫害事情? まず多くの人の中にあるのは、得体のしれないものへの恐怖、自らと違う者に石を投げてしまうのは、歴史が証明しているな」

S「前回触れた、ミュータントには能力発祥の理屈が無いっていうのがポイントだね」

F「でもこれは、ふわっとした、あまり確固たる理由がない差別だよな? まあ、広く漠然としているからこそ怖いんだけど……。問題はさらに上、完全に敵対している反ミュータント主義者たちだ。ミュータントのイメージ低下の理由は、彼らの扇動にもあるからな。ちょっと代表的なキャラクターを下に挙げてみるぞ」

ボリバー・トラスク:ミュータント殲滅ロボットセンチネル開発者

スティーブン・ラング:トラスク亡き後、センチネル計画を引き継いだ科学者

グレイドン・クリード:反ミュータント組織「人類の友」主宰。ミスティークとセイバートゥースの子供。

ウイリアム・ストライカー:ミュータントを悪魔とみなす狂信者集団ピュリファイアーズを率いる元軍人の宣教師。

キャメロン・ホッジ:反ミュータントを目的とする武装集団ライトの創設者。優秀なスポークスマン

S「ここに最強最悪のセンチネルなバスチオンを加えれば、反ミュータント組織連合「人類会議」の面々になるな」

F「X-MEN:セカンドカミングのミュータントの代表であるX-MENと反ミュータント組織人類会議の最終決戦は、超盛り上がったよな! 盛り上がりすぎて、その後シリーズ自体がちょっと落ち着いちゃったぐらいに! ……オホン。さてこのメンツを見て、気づくことは?」

S「グレイドン・クリードは、両親がミュータント、それも悪に属するミュータントだって事で、ミュータント自体を憎むようになったんだよな。本人が非ミュータントで。こう言っちゃなんだけど、私怨だよな」

F「キャメロン・ホッジも元は恨みというか嫉妬だぞ。同級生だったX-MENのエンジェルの裕福さとハンサムさに嫉妬した結果、エンジェルごとミュータントを憎むようになって。最初は、味方のふりしてたからね、このロクデナシ」

S「あちゃー。まあこの二人は、私怨だとして、残るは……」

F「科学者二人と元軍人一人だな。まずこの三人を語る前に、重要なことを一つ。人からミュータントになる事を、定義上進化と呼んでいる。ホモ・スペリオール、ホモ・サピエンスから進化した者だな。ミュータントの事を、新人類と呼ぶこともある。つまりミュータントに覚醒できない人間は、旧人類なのかよ!?って事ですよ」

S「つまり新人と旧人、クロマニヨン人とネアンデルタール人の関係か!」

F「俺たちは滅ぼされた旧人、ネアンデルタール人になるものかよ!というのが、センチネル開発や反ミュータント組織結成の根っこだったり。映画でもトラスクが語っていたけど、彼らむしろ、ミュータントの優秀さを認めてますからね。ストライカーだって、元はウェポンX計画の主導者。優秀だからこそ滅ぼさねばならない、そうでなければ、人類は彼らにとって代わられてしまう」

S「ゴリッゴリの反ミュータント主義者の背景にあるのは、単なる差別意識や迫害運動ではなく、生存競争って事か」

F「地球人対宇宙人、人類対爬虫人類みたいな、やらなきゃやられる戦いだな。少なくとも、彼らにとっては。この間紹介したミュータント専門の捕食者ことプレデターXなんか、アレ確実にミュータントを生物学的に滅ぼすことを狙ってるからな。食物連鎖に無理やりねじ込んで」

S「ところで、ウィリアム・ストライカーなんだけど……あの人、何があったんだ。映画でも軍人だったのに、宣教師って」

F「いやー、息子がミュータントなのにショックを受けて一家心中を図ったら、一人だけ生き残ってね。そんでなんか“私が生き残ったのは神の思し召しだ! ミュータントは地球の汚濁なのだ!”って変な物に目覚めて覚醒しちゃって。なんつーか、触れにくいよね!」

S「あ、ハイ。でもストライカーレベルの狂信的な解釈をせずとも、宗教的に見た場合、生きる現在進行形進化論のミュータントはあまり良くない存在になってしまうのか……」

F「このメンバーの非科学者勢、グレイドン、ホッジ、ストライカーは、扇動家として超一流だからな。こういう確固たる怨みや狂った信念を持った人間の言葉が強いとか、一つの悪夢だぞ。信奉者は増えるし、同調する人間に至っては更にドン。しかも、殺るか殺られるかの生存競争を挑まれた時点で、生存競争に望まざるを得ないわけで。穏健な手段を模索できる余地がねえし」

S「ミュータントも、自然と対応が殺るか殺られるかになっていき、反ミュータント主義者はそれをダシに自らの信奉者を増やしていくと」

F「もちろんミュータントにだって、アポカリプスやアザゼルのように、旧き者を支配する野望持ちがいるけどね。現実と一緒で、排他主義者同士が率先して傷つけあって、差別も迫害も深まっていく。一般市民も、自然とそれに引っ張られていき。漠然とした人々の差別意識と、強烈な一部の人間の排他主義、この2つが交じり合った結果が、マーベル世界におけるミュータントの苦難の病根……ってことだな」

S「分かってはいたけど、やりきれない結論だ」

F「きっとそのやりきれなさに、人は納得しちゃいけないのさ」

 

F「最後に、前回の引きに使った、非ミュータントでありながらミュータント差別を受けたヒーローについて語ることで、差別の病根の例としたいのですが……あまり愉快な内容ではないので、ひとまず閲覧注意ということで」

 

 

 

 

F「結論から先に言うと、ミュータント扱いされてたのはブルース・バナー。後のハルクだ」

S「待った。ブルース・バナーが超人になったのは、ガンマ線を浴びてからだよな。それまではただの頭の良い人間だったはずだ」

F「ガンマ線を浴びた人間は、シーハルクを筆頭に複数人居る。でも、誰もハルクには勝てない。その理由は?」

S「肉体の強さではなく、心の激情。幼い時に、父親から受けた虐待が元で、複雑な感情が形成されて……まさか」

F「ああ。ブルース・バナーの父親のブライアン・バナーは、息子のことをミュータントと思い込んでいた。原子物理学者であり、原子力兵器にも携わった自分は被曝しており、まともな息子は生まれないと。妻がただの合併症で苦しんでいるのを見た時、ブライアンは自分の息子がミュータントであり、成長して怪物になると思い込んでしまった。そしてなまじブルースの頭が良かったせいで、ああもう完全に息子はミュータントなんだと確信して壊れかけの精神が完全に崩壊。ブルースを庇った妻を殴って殺して……どれだけの仕打ちをブルースが受けていたのかは、ハルクの強さを見れば分かるだろ?」

S「放射能がミュータントの誕生に関わっている可能性があるのは知っていたけど、ここまで疑心暗鬼かつその道の権威が踏み外す例は、あの世界でも早々……」

F「正直、放射能系キャラの中で一番業が深いというか、設定や能力止まりの連中に比べて排他の理由に現実であり得てしまう生々しさがあるというか……強迫観念による差別ほど、残酷なものは無いよな……」