忘れじの圣诞老人
カチリカチリと、時計の針が動いていく。
12時になった瞬間、再び364日間の副業が始まる。
たった1日の正業はハードワークではあるものの辛くはない。
むしろ、一日中心の底から笑顔で働ける仕事の、なんと楽しいことか。
だがこれからは、笑顔を忘れ、しかめっ面でいなければならないのだ。
ついに時計の針が12時を指し、クリスマスが終わる。
サンタクロースはすやすやと眠る子供の頭を撫でると、帰宅の準備を始める。
ソリを引く姉弟のトナカイ、姉のトナカイがクリスマスの終わりとともに言葉を思い出したかのように呟く。
「今の最後の子は頭を撫でられて幸運だったけど、明日の始めの大人はきっと不幸だよね」
成熟した大人の女性へと変身した姉のトナカイは、パソコンを弄りつつ周りの様子を観察していた。
あの楽しかったクリスマス。忙しくても、それはかけがえのない一日である。
大好きな日は待ち遠しい、そして大好きな日を忘れるのには時間がかかるのだ。
「いやアンタ、顔がまんまだから」
無口な弟のトナカイもまた、姉と同じ人型になっているものの、頭がトナカイのトナカイ人間であった。
トナカイの角が、逃げるチンピラの尻を刺した。
まあ、弟よりも問題なのはと、姉はその問題人物に目線を移す。
「We Wish You a Merry Christmas!」
「ヒィィィィィィィ!」
胸ぐらを捕まれ、天高く持ち上げられた女性が絶叫する。
付け髭もカツラも外し、サンタ服も脱いだ。
今のサンタは、子供を狙う悪をボコボコにするオヤジだ。
だが、未だにその顔は満面の笑みであり、頭の中もクリスマスである。
だからむしろ、怖い。笑顔で人を殺せる人間を、ムキムキマッチョの男が地で行っている。
「オヤジ。クリスマスは終わったから」
トナカイの姉がオヤジことサンタクロースにツッコむ。
「I wish you a happy new year!」
「……そっちならまあいいかな」
クリスマスは終わったが、年はまだ明けていない。
ならまあ、new yearは許されるだろう。姉は納得して作業に戻る。
もっとも、彼女は来年を無事迎えられそうにないが。
カタカタ……カタカタ……ターン!
最後に景気よくEnterキーを叩き、姉はPC作業を終えた。
「コイツらがさらった子供の売り先一覧、見つけたよ」
「おい。手」
サンタに言われ、姉は自分の手をまじまじと見る。
「……なんと」
手がいつの間にか、トナカイの蹄に戻っていた。
キーボードがEnterキーを中心に割れているところから見て、どうやら気持ちよくEnterキーを叩く時に戻ってしまったらしい。
どうやら、昨日のクリスマスが忘れられないのは、トナカイの姉も一緒のようだった。
クリスマスの笑顔を忘れるのに半年、クリスマスの笑顔の準備に半年。
結局サンタクロースたちは、クリスマスから逃れられないのである。
ただそれは、楽しい宿命であった。