日々雑談~2313~

 ブラックパンサーの波が来ている? ということで、以前書いたレビューを推敲して、ツイッターで再度紹介。あとフューチャー・アベンジャーズや映画の話も若干付け加えました。コミックスにおけるブラックパンサーとワカンダについては、この本を読めばだいたい掴めます。まあ、他にブラックパンサーメインの邦訳が無いというのもあるのですが、それを差っ引いてもおもしろ情報満載なイイ話です。わりと俺の中で、全アメコミに範囲を広げても、かなりの上位ランカーなのよね。そりゃ、紹介するさ。

ブラックパンサー 暁の黒豹 レビュー

 よき相談役、頼れる仲間、超国家の王。優れた頭脳と肉体、更には王としての資質まで持ちあわせたヒーロー、ブラックパンサー。一体彼はどんな男なのか。アフリカにある彼の王国、ワカンダとはどんな国なのか――?

 その答えは、ブラックパンサー:暁の黒豹の中に有り!

 

ブラックパンサー 暁の黒豹

 

 ワールド・ウォー・ハルクではファンタスティック・フォーを助力。AVX:アベンジャーズ VS X-MENではアベンジャーズの一員として参戦。ディスク・ウォーズ:アベンジャーズではアニマル属性のセカンドヒーローに就任。フューチャー・アベンジャーズでは、厳格なワカンダの王として君臨。アルティメット・アベンジャーズ2:ブラック・パンサー ライジングでは若きヒーローとして登場。

 そして、映画シビル・ウォー:キャプテン・アメリカにて、キーキャラクターとして鮮烈デビュー。自身が主役となる映画ブラックパンサーは映画史に残る大ヒットを記録しております。

 ブラックパンサーは上に挙げた様々な日本進出のメディアにてその活躍を楽しめるヒーローなのですが、実のところサポート役やチームの一員としての登場が多く、今までの日本におけるブラックパンサーの扱いは短編の主人公や群像劇のメインキャラが限界とも言えました。もっとも、高い資質を持ちつつも存在が隠れ気味だった結果、映画にて世間に鮮烈デビュー!を果たせたという痛し痒しなところもあるのですが。

 そんな中、遂にブラックパンサーが主人公であり、正体であるワカンダ王ティチャラやワカンダ王国に焦点を合わせた邦訳コミックスが登場。それが、ブラックパンサー:暁の黒豹です。

 

 ブラックパンサー:暁の黒豹は、ブラックパンサーの設定周り全てが詰まった作品と言っても過言ではありません。ブラックパンサーと因縁浅からぬ暗殺者クロウが、ヴィラン連合を率いワカンダを襲撃。クロウの背後にはベルギーが、そして豊かな資源と高い科学力を持つ独立国家ワカンダへの干渉を企んでいたアメリカもクロウの襲撃をきっかけに動き出す。ブラックパンサーは、自分自身と国を守り切ることが出来るのか。

 大筋のストーリーはこんな感じなのですが、侵略者対ヒーローというダイナミックな構図を描きつつも、その内にブラックパンサーやワカンダ王国の歴史を織り交ぜた、非常に見応えのある作品となっております。

 歴代の王族が力を示すことで受け継いできた衣装と称号である“ブラックパンサー”。歴代のブラックパンサーは、どのように侵略者と対峙してきたのか? 現行のブラックパンサー、ティチャラが王位を継いだ経緯とは? 

 ワカンダ王国の宗教や日常、超金属ヴィブラニウムを筆頭とした資源の豊富さに、世界の最先端を更に超えた科学力。宿敵であるクロウとの、世代を越えた数奇な宿命。ティチャラの妹や叔父といった親族たち。これらの情報や回想が、物語のテンポを崩すこと無く組み込まれております。

 そしてええ、ブラックパンサーやワカンダ王国のハイスペックさは知っているつもりでしたが、本作で提示された可能性は、ハイスペックどころかチートの次元に到達してました。

「ワカンダには相当量の石油が眠っていると聞くが」
「ええ。ですが、手付かずです。太陽光や水素のような、環境に影響を与えない代替エネルギーを使っているのでエネルギー源としても財政源としても必要ないのです」
  
「そんな小国、捻り潰してしまえ! 工作兵の部隊でも一つあれば……」
「第二次世界大戦の最中、アメリカ最強の兵士であるキャプテン・アメリカがナチスを追ってワカンダに赴いた際、当時のブラックパンサーに負けてますが。ナチス兵も処刑されてました。あと、あのファンタスティック・フォーも今のブラックパンサーに負けてます」

 こんな感じのやり取りが作中繰り広げられるのですが、これもう一周回ってギャグなんじゃないかと。なお、ワカンダ王国の守護神って黒豹じゃなくて青いタヌキじゃねえの? と疑うぐらいに、数世紀は科学力がすっ飛んでおります。というか、実際作中でも「ワカンダの科学は世界最先端」と明言されております。DCコミックスのゴリラシティといい、アメコミにおけるアフリカの野生と科学の融合っぷりはとんでもないですね。

 

 更にボーナスエピソードとして収録されているのが、ファンタスティック・フォーの#52と#53、ブラックパンサーの初登場エピソードです。上でも触れたファンタスティック・フォーがブラックパンサーに負けたという話の元ネタと思われるエピソードです。

 マーベル・コミックスの土台を築き上げた、ライターのスタン・リーとアーティストのジャック・カービーによるファンタスティック・フォー。この直近の作品としては、シルバーサーファーやギャラクタスの初登場回などこれまた歴史的なエピソードが多数あり、ファンタスティック・フォー黄金期とも呼べる時期です。

 このエピソードのもう一つの記念碑的な部分としては、超金属ヴィブラニウムの設定がきちんと作られた回でもあります。ヴィブラニウムの初登場自体はこの話より以前に刊行されたデアデビル #13なのですが、この時は創作物によくある凄い金属としての登場であり、どんな振動でも吸収する性質や原産国がきちんと設定されたのはこのファンタスティック・フォーの#53となっております。キャプテン・アメリカのシールドやウルトロンのボディにも使われるヴィブラニウム。始まりの一つがこのエピソードと思って読むと、何やら感慨深いものがあります。

 本編である暁の黒豹とファンタスティック・フォー、互いにブラックパンサーの生誕秘話やクロウとの因縁が書かれているのですが、内容はまるっきり違います。ファンタスティック・フォーが原初で、それを改変したのが暁の黒豹となっております。時代に合わせて変わっていくアメコミの設定が如実に現れている組み合わせ。この変化を楽しむのも、これ通な楽しみ方かと。初登場回のブラックパンサーはワカンダの凄さが全部ティチャラ一人に集約されてて、コイツ一人でいいんじゃないかな? レベル。

 

 暁の黒豹におけるブラックパンサーは、強者です。ヒーローとして、指導者として、王として、揺らぐことなく決断を下し、侵略者に真っ向から立ち向かう。ただの人でしかなくても、意志の力を持って最強となることは出来る。その意志の強さは、数多のヒーローと並べても、群を抜いていると言ってしまってもよいでしょう。

 この作品は、アフリカの強き英雄を、心ゆくまで堪能できる作品でもあるのです。