デッドプール チームアップ! 涼宮ハルヒの憂鬱 前編

 小春日和で頭が寝ぼけていたと言わせてもらおう。授業が終わって、“所要のため少し遅れるわ、ちゃんとあたしを出迎える準備をしておくように”と今の俺以上に寝ぼけたことをハルヒが言い出して、SOS団の部室に着いて、定位置に陣取っていた長門に挨拶して、席に着いた所で、メイド服の朝比奈さんがスススっと出してきたお茶を飲んで。ここでようやく、何かがおかしいと気付けた。
「おい、長門。これはどういうことなんだ?」
「……ユニーク」
 そりゃ確かにユニークだよ。ただコレは、笑えるユニークではなくて、困るユニークだろ。
「ふぇ? どうしたんですか、キョンくん?」
 まずは、俺が反省しなきゃいけないな。部室でメイド服を着て、かいがいしく作業をしてくれる人=朝比奈さんと、思い込みすぎていた。
 よし。俺は反省した。だから正々堂々と、目の前の赤い物体にツッコむぞ。
「誰だ、お前!?」
「え? 朝比奈みくるですけど……」
「俺の知ってる朝比奈さんは、俺より背は低いし、変な赤いマスクは被ってないし、赤いタイツの上にメイド服を着たりなんかしないし、筋骨隆々でも無いからな」
 俺より背が高くて、変なマスクを被っていて、筋骨隆々な男は、なんでばれたのか!という顔をしていた。いやいやお前、まさかメイド服を着ていれば朝比奈さんに化けられると思っていやがったのか? 口調まで真似やがって。
「どうせ小説だから、口調さえ真似てれば、バレねーなーと思ってました。キミはこのトリックを見破れたかな!?」
「何を言いたいのか知らんし、誰に向かって指さしているのかも分からんが、とりあえずお前は、日本全国の推理作家に土下座してくれ」
「すいませんでしたー!」
「ホントに土下座したー!?」
 謎の赤タイツはメイド服をキチンと折り畳むと、三つ指をついての見事な土下座を披露した。なんでコイツ、正体が外国人っぽいのに、ここまで綺麗な土下座が出来るんだ。
「それは、どげせんを読んだからと、言わせてもらおうか! 長門有希ちゃんにも、こうやって漫画を読んで欲しいところだね。まあ、この話は原作準拠だから、徹夜でゲームなんてしたりしないだろうけどねー」
 長門のほっぺたを突っつこうとする赤タイツ。長門は片手で本を押さえたまま、ぺちっと叩く。それでも諦めない赤タイツと、触らせまいとする長門。つんつんつん、ぺちぺちぺち。最初はゆっくりだったものの、やがてやりとりは光速へと。元より超人的な長門はともかく、同じぐらいの速さで付いて行っている、この赤タイツは何者なんだ。
「誰と聞かれたら答えなければなるまいよ! 俺ちゃんの名前はデッドプール。アメリカで大人気、日本で話題沸騰中、スカンジナビア半島ではどうだか知らない、正真正銘のカナディアンスーパーヒーローだぜ!」
 スパイダーマンのパチもんっぽい男は、いかにもそれっぽい派手なポーズを取って大仰に名乗りを上げた。長門の頬を突く作業は止めないまま。
 長門よ、なんならそのまま、その赤いのの指を折ってもいいぞ。俺が許す。

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デッドプール チームアップ! 魔法使いの夜?編

 デッドプールは悩んでいた。
「親愛なる隣人、インクレディブル、世界一の名探偵、鋼鉄の男、クズリのチビ野郎……日本デビューを間近に控えた現状、親しみやすいキャッチフレーズがないのは、スゲエ問題なんじゃなかろうか!?」
 すげえ、どうでもいいことで。
「まいったなあ。今のうちにイメージを確立しておかないと、一人称がワガハイで、語尾が~である口調の、珍妙なキャラにされちゃうぜ! 俺ちゃん大ピンチ!」
「……あのお」
「そうだ! 親愛なるクズリなんてどうだろう! 世界一の隣人なんていうのもいいな! なんというか、言葉の意味はわからんが、とにかくスゴい響きだぜ!」
「もしもし?」
「よし、こうなったら銀河美少年デッドプールで行こう! センチネルにでも乗って、颯爽と登場すれば何も問題ないだろ!」
「てい」
 ボゴっと、骨が凹むような痛い音。デッドプールの頭に、重量感ある物体が叩き落とされた。
「うぉぉぉぉぉ!? 痛い、痛いけど平気! こうやってキャラ付けしないと、色々誤解をまねくからね。不死身も重要なファクターさ。なんてったって、ヒーリングファクターと言うぐらいだし」
「なんだかよく分からないけど、そこら辺はもう有名なんじゃない?」
 デッドプールを殴った女性は、ボストンバッグを持ち直すと辺りを見回した。
「ヘンねー、ここは草原、そして月夜。なのになんで、志貴じゃなくて赤い人が?」
「ああ。ボンクラメガネなら、チミチャンガの食い過ぎでリタイアしたぜ。あと、なんか対戦相手とか自称するうらぶれたピアニストがいたから、こっちで処理しておいたぜ、青い人」
 青い人、通りすがりの魔法使いは自体をだいたい理解した。ふらりと現れ、適当に事態を引っ掻き回すか傍観している謎の実力者。要は自分と同じポジションの人間が、主人公の代わりにやってきたのだ。あと、某番外の代わりに。
 蒼崎青子は、瞬時に理解した。そして、別のことも理解した。
「ひょっとして、私もスゲエ迷惑なポジションにいるのかしら。他人のフリを見て、新たに分かる新事実」
「あー分かるわ、ソレ」
「同意された!?」
「気にしないほうがいいぜ。実は今の状況が、月姫最終シナリオ月蝕の一枚絵まんまというのも、気にしないほうがいい。作者に絵心があれば再現できるんだろうけどなあ。でも、どうせ誰も知らないよね。リメイク版が出ない限りは」
 ベラベラと訳の分からないことを喋りまくる、デッドプール。あまり言及すると、色々な人を敵に回しそうな内容だ。
「よし、黙れ♪ で、結局、なんでここに居るのよ?」
「なんでここに居るのかというのを、よりによって放浪者に聞かれました。実は、蒼崎青子という女性に大事な用があるんだ。だからこそ、ボンクラメガネに、青トウガラシ入のチミチャンガをしこたま食わせてきたわけで」
 デッドプールは真正面から青子を見つめると、一枚の白い紙を取り出した。その紙を青子に突きつけ、大事なことを口にする。
「魔法使いの夜の殺人鬼枠は、空いてるのか――?」
「いや、空いてないから。そんな枠、無いから」
 大事なことは、即座に断られた。
「えー! タイプムーンって、各作品に殺人鬼枠があるんじゃないのかよ!? ほら! そういうのいなさそうなFateにだって、朽ち果てた殺人鬼が出てたじゃん! ――大丈夫だ、問題ない。こんな感じで、会話文に“――”も使うようにしますから!」 
「知らない人が聞いたら、色々誤解しそうな話ねー。ま。合ってるけど」
「認めちゃったよ、このミス・ブルー。というわけで、オレが出ても全く問題ないと思うんだよね。オレだって一応、Fate/EXTRAに英霊として、参戦してたし」
「なんでこう、否定しにくいとこばっかついてくるのかしら」
 ちなみに、FATE/EXTRAのサーヴァントは確認未確認合わせて128体いるので、デッドプールがしれっと参加していてもおかしくない。いや、やはりそれはおかしい。
「あー、うん、えーと」
 悩む青子。勢い任せにぶっ飛ばしても、即座に復活して同じこととなりそうだ。火力と再生力の勝負も面白いかとは思ったが、まさかこの草原を焼け野原にするわけにはいくまい。色々大事な場所なワケで。
「そうだ。いいこと考えた」
 青子の思いつき、それは、
「ニックネームに悩んでたわよね。私がいいのを考えてあげるわ!」
 話を思いっきり逸らすことだった。
「え!? マジ!? やったー!」
 そしてそれは成功した。
「出来れば、『銀河』や『美』や『少年』が入っているニックネームがいいです! 流行り的に!」
 出来上がるニックネームが一つしかねえじゃねえかという、デッドプールさんのワガママな提案。
「はい、却下。そうねー、何かいいモチーフがあればいいんだけど」
 あっさり却下される提案。実際、それなりのベースがなければ、いくらカッコいい名前を付けても、定着しない。しばし考えてから、青子は指を鳴らした。
「よし、ピンと来た。貴方のいいニックネームを思いついたわ。身体的特徴やイメージカラーにもピッタリなやつが」
「おおっ! 流石は、“マジックガンナー”“アオアオ”“ミス・ブルー”“今冬発売って、もう2月なんですけど!”と様々な異名を持つお方!」
「いやーはっはっは。最後の異名を考えたヤツ、あとで連れて来い」

「おおっ……超カッコいい異名じゃん。なんというか、厨二のにおいもして、そっちの層にも受けそうな名前だ。ありがとう、ミス・ブルー! 本当にありがとう!」
 コイツはカッコいいやと、青子が付けてくれたキャッチフレーズに感動するデッドプール。感謝感激雨あられ、青子の手を両手でうやうやしく握り、激しく上下に振る。さんざん激しく握手をした後、空めがけ複数のクラッカーを鳴らした。一体何処に、こんなパーティーグッズを隠していたのだろうか。
「いえいえ、どういたしましてー」
 青子も笑顔だった。善い行いをした。そんな気持ちが、顔から溢れている。本人も与えた人間も大満足、これほど良い状況に転ぶとは、誰も思っていなかったに違いない。
「じゃあ早速、この異名を広める為に頑張るよ、オレ! グッバイ! 今冬発売はちょっちキツい人!」
 ゲーム間違えたんじゃないかと思うくらいの弾幕が、手を振るデッドプールを焼き尽くした。モクモクと煙が上がり、草原が焼け、巨大なクレーターが出来ている。標的である赤タイツは、久々のテレポートで脱出していた。
「逃がしたか……。いやいや、まだ更に延期って情報が出たわけじゃないしね! でるわよ、うん。きっとこれ以上延期せずに、出る筈! 私は信じてるわよ!」
 青子は夜空の星、遠い世界にいるであろう誰かに向けて、真摯に祈った。

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次回予告的なシロモノ

「ある女性が不法に所有しているマジックアイテムを奪ってきて欲しいのです」
 そんな依頼を受けて、冬木市を訪れたタスクマスターの前に現れる、良く知った厄介な人間。
「ヘイ、タスキー! いくらマブカプ参戦が決まったからって、まだまだ日本での主役を一人で張るのは無理ってもんだぜ! 現在日本各地で話題沸騰、マブカプ3で人気爆発確定の、デッドプールさんも話に混ぜな!」
「なんでお前がいるんだ……」
 奇しくもコンビ結成となった二人の前に、屋敷の主だけでなく、駆けつけた弓の英霊が立ちふさがる。
「なあアンタ、何処の日焼けサロンに行ったんだ? 髪まで白くなるって、絶対事故かなんかだから、しかるべきところに連絡した方がいいんじゃない?」
「シィーッ! 黙っといてやれ! きっと多分、本人はオシャレだと思ってるんだから!」
「……全身赤タイツと、骸骨男に言われたくはないがね」
 魔術による模倣、技巧による模倣。アーチャーとタスクマスター、二人の贋作者による、模倣の祭典。そんな中、とんでもない事態がおこってしまう。
「おい、タスキー! 目的のアイテムを手に入れたぜ! なんか血ぃたらしたら、えらいことになっちゃったけど。今度からデッドプール改め、魔法少女カレイドプールと呼んでくれ!」
「お前、一片足りとも少女じゃないだろ」
「どうやら、見誤ったようだ。あの男は私ではなく藤ね……もとい、藤村大河の管轄だった」
 魔法少女となったデッドプール改めカレイドプールは、カレイドステッキの力を悪用し「冬木市民総デッドプール化計画」を実行に移す。頑張れ二人の贋作者、冬木の平和は君たちにかかっている!

 次回デッドプールチームアップ、Fate編改めカレイドルビー編。リクエスト次第で近日更新、お楽しみに!

「参ったなあ。空も飛べて、高火力となると、苦手な相手だ。ここは本家魔法少女にどうにかしてもらうか。決して、ヨゴレに関わって自分のイメージを落としたくないってワケじゃないぞ?」
「わたしだって嫌よ! それにだって、ステッキ持ってかれちゃったしね。いくらなんでも、ステッキ無しでの変身は無理だから」
「安心しろ凛。こんなこともあろうかと、あのステッキを投影しておいたぞ」
「おっけー、分かった。変身してやろうじゃない。そして絶対誤射してやる」

デッドプール チームアップ! 月姫 後編

 遠野家の庭は邸宅に負けず立派である。だだっ広く、使用人も少ないのに、それなりに整えられた庭。そして防犯設備も並以上である庭を、白い影が闊歩していた。人間基準の防犯装置なぞ、彼女にとっては、遊び道具にもならない飾りでしか無い。夜空を思うがままに跳び回る。
 吸血姫は、飛び乗った枝をしならせ、一気に跳躍する。弾丸の如き勢いで狙うのは、屋敷の窓。志貴がいるであろう、彼の自室の窓だ。
「しーきー!」
 満月のせいか、妙にハイテンションなアルクェイド。窓に飛び込んだアルクェイドは、窓に縦横無尽に張られていたゴムに引っ掛かった。アルクェイドの勢いを包み、そのまま反射しようとする幾重もの強化ゴム。
「うわ、なにコレ!?」
 アルクェイドは驚きながらも、窓枠を掴んで何とか踏みとどまった。ぎちぎちと、ゴムは張り続けている。どんだけ頑丈なゴムなのか。
「スゲエ。ゴムをしならせ、なおかつ反射に耐えてるぜ! これ、SHIELDから頂戴した、ハルクやジャガーノート用のゴムなのに! まさにワンダーパワーなガール! 略してワンダーガー……ダメだダメだ、こいつは余所の会社のヒロインだ。おいそれと口には出来ない。ワンダーガールだなんて口に出来ないよ!」
 アルクェイドの眼前に現れたのはデッドプール。手で、おおきな鳥の羽を弄んでいる。
「それ、こしょこしょー」
 デッドプールは羽で、耐え続けるアルクェイドの鼻をくすぐった。
「ぷふぁ! あはははー……うわっ!」
 笑って力が抜けたアルクェイドは、ゴムに弾き飛ばされた。ぴゅーんと、やけに遠くに飛んでいく音がした。
「なるほど。アイツが、ご当主の言っていた邪魔者ってヤツだな。よしメガネ、オマエは勉強を頑張れ。オレは再び、オマエのベッドでトランポリン競技を極める作業に戻るから」
「できるかー!」
 机に座り、宿題と格闘中の志貴が叫んだ。
「落ち着け落ち着け。落ち着けメガネ。オレのお仕事は、オマエの監視なんだ。オマエの勉強を邪魔するヤツを追い払って、メガネが逃げないように監視してくれって言われてるんだよ」
 リアリィ?と、外人らしい聞き方と仕草をするデッドプール。遠野家に雇われた彼の任務は、志貴の監視だった。
「それは分かるけど、分かるけどさ。どう考えても、ベッドでトランポリンをしている人間も邪魔なんだけど。あと、メガネ呼ばわりは止めてくれ」
 自分の素行に問題があるのは分かるけど、こんなのをお守りに付けられるまでのことをしてきたのだろうか? 「してきた」と言う声と「してない」という声。志貴は後悔と理不尽さに苛まれていた。
「オレだって不満さ! この部屋、なんもねえ! TVもねえ! ラジオもねえ! ついでに車も走ってねえ! コハクさんの部屋に今すぐ駆けこんで、ゲームでもしたいって気持ちを必死に抑えてるんだぜ。トランポリンぐらいが何だって言うんだ。オマエの部屋から、もしかしたらトランポリン競技の金メダリストが生まれるかもしれないんだぜ。分かったか、ボンクラ? じゃあ、そういうことで」
 立て板に暴れ水、追求不可のガトリングガントーク。さんざんまくしたてて、デッドプールは再びトランポリン競技に戻った。
「もういい、好きにしてくれ。あと、ボンクラよりは、メガネの方がいい」
 それだけ言って、諦める志貴。少しだけノートに物を書き込んだ所で、言い忘れていたことに気がつく。
「ああ、あと。そろそろアルクェイドが戻ってくるから気をつけろよ」
「え? さっきのブロンド? 無理、無理。あんだけの勢いでぶっ飛ばされたらね、普通帰ってこれないって。どんだけチートなんだよ、オマエの彼女。まあ確かに、ブロンドの例に習って、頭だけは軽そ」
 ブチブチと強化ゴムが千切れ、ついでにデッドプールの言葉も千切れた。一陣の白い風が、未来の金メダリストを掻っ攫って行った。急に静かになる志貴の部屋。ちょっとの後、庭から銃声や爆音が聞こえてきた。肉の裂ける音や叫び声も聞こえる。
「悪いな。たぶんアルクェイドは、そのチートってヤツだ」
 とりあえず勉強に没頭する志貴。これぐらいのやかましさなら、耐えられないレベルではなかった。

「なるほど、このメガネをデートに誘いに来たのか。いいねいいね、ビバリーヒルズだ。ビバリーヒルズ・コップだ。違った、青春白書だ。邪魔しちゃまずかったな」
「でしょ? でしょ? 志貴、この人、良い人だね。なんてったって、話せば分かる」
 静寂を保てたのは短かった。和解して、志貴の部屋に戻ってきたデッドプールとアルクェイドは和気藹々としていた。デッドプールは血まみれで、アルクェイドも服や髪が焦げているのだが。あと出来る事なら、その状態で他人のベッドに腰掛けないで欲しい。
「……悪いけど、アルクェイド。今日は俺、宿題をやらないと色々マズイんだ」
 志貴が申し訳なさそうに言うものの、
「えー! そんなのいいじゃない、遊ぼうよ」
 そんなアルクェイドは、話して分からない悪い人だった。
「ああ、そうだ。最近、グールやリビングデッドがやけに増えてるのよ。デートのついでに、怪しいところを覗いてこない?」
 それは果たして、ついでで済ませていい話なのだろうか。それでも、一応は気になる話だ。
「まさか、アイツが残したヤツか?」
「ううん、多分違う。一応気になる所を見つけてきたから、ちょっと顔を出してみようかと」
 なんか新しい店が出来てたから、ちょっと寄ってみよう。それぐらいの口調だ。まあ最も、アルクェイドの実力ならば、それくらいの気安さでも平気なのだが。傲慢でも何でもない、しっかりと実力に裏打ちされた余裕だ。
「それなら、ほっとけないか……」
 勉強より、迫り来る危機。志貴の心が勉強から徐々に離れていく。
「そうでしょ? だから行こう、ね?」
「いいんじゃないか? どう考えても、放っておくの選択肢はバッドエンドへのフラグだぜ? 一緒に行くを選ばないと、あの地味眼鏡と二人っきりのハチミツ授業コースだろ。しっかりしろよ、主人公!」
 よく分からないことが混ざっているが、デッドプールもアルクエイドを援護する。地味眼鏡とは、先程帰ったシエルのことなのだろうか。「ドキドキ授業は、シエルじゃなくて知得留先生ですよー」という声が何処かから聞こえてきたが、あえて黙殺しておく。
 それにしてもデッドプールは一応監視役なのに、志貴を堂々と見逃してもいいのか。
「大丈夫、大丈夫。オレも行くから」
 いそいそと準備を始めるデッドプール。そういう心づもりだったのか。ある意味、納得のいく展開である。
「いや、それはダメだろ」
 でもしかし、あまりに適当すぎて、思わず志貴がツッコんでしまった。
「ダメ? いやまあ、監視下にいりゃあいいんじゃないかなって。こういう、臨機応変さがオレのウリだし。邪魔者はちゃんと一回追っ払ったし」
「うんうん」
 追っ払われて、また戻ってきた邪魔者が同意していた。
「絶対秋葉が怒るから。俺はどうにかなるけど、俺のせいで人がクビになるっていうのは流石にちょっと」
 あまりの自由さに、志貴の気が引けてきた。普段なら、言い訳しつつ、勉強をほっぽり出して出かけてしまうのに。なんだかんだで、自然と監視役として働いているデッドプール。反面教師の道を、ひたすらに走る男の説得力だ。
「クビ!? 馘首!? You’re Fired!? あーそりゃマズいな。クビは良くない、外出と勉強を両立させなきゃいけないのが難しいところだな。考えろ、デッドプール。考えろ、考えろ……感じるなよー考えろ! よし、いいこと思いついた! コレで行こう!」

「で、これはどういう事なんでしょうか?」
 志貴の様子を見に来た秋葉。怒り半分、困惑半分。なんでこんなことになっているのか。当事者でない秋葉には、分からないことであった。
「いやー。わたしもなんでこんなことになったんだろうって、考えてたんだけど、わかんないのよ」
 当事者もよく分かっていなかった。
 志貴の部屋に、志貴とデッドプールはおらず、何故かアルクェイドが席について志貴の宿題をやっている。秋葉の困惑は当然だった。と言うより、アルクェイドも困惑している。
「ところで妹。日米修好通商条約って1850年締結で合ってるよね?」
「知りません! 合ってますけど、知りません!」

「どうしてこうなった」
「頼むから、お前が言わないでくれ。頼むから……」
 一方その頃、デッドプールと志貴は、アルクェイドが怪しいと目をつけていた場所に居た。二人きりで。

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デッドプール チームアップ! 月姫 前編

 デッドプールは頭を抱えていた。
「チクショウ、なんてこった。金がねえ。財布がスッカラカン……いっそ綿でも無理に詰めて、熊のぬいぐるみでも作るか。これぞ名付けてデッドのプーさん。このプーさんを切っ掛けにして、キャラクタービジネスに挑戦。やがて夢のデッドプールランド建設。大丈夫、あの会社だって最初は一匹のネズミから始まったんだ。熊から始まったってなんらおかしくない。ポルナレフランドには負けないぜ!」
 椅子から立ち上がるデッドプール。希望に燃える様を一瞬だけ見せてから、
「ダメだな。ダメ。今のマーベルの手綱を握っているのは、ネズ公だった。あのミッキーなんチャラが、デッドのプーさんを許すわけがねえ」
 再び席について、頭を抱えた。つい先日、マーベルコミックスはウォルト・ディズニー・カンパニーに買収された。いくら最強無敵のデッドプールでも、あのネズミには逆らえない。
「ギター買ったのが間違いだったなあ」
 デッドプールの足元に、ネックの折れたエレキギターが転がっていた。
「今の部員が卒業するって聞いたから、ギターの後釜として、軽音楽部に入部しようと思ったのに。まったくまいった、高校生じゃなきゃダメというのは盲点だった。ひょっとして、キーボードならばもっと早く乗っ取れたのか……?」
 タクワンをボリボリと齧り、とんでもねえことを言い出すデッドプール。そもそも、高校生でなければ部活に入部できないというのは、盲点でもなんでもない。
「まあアレだ。オレは高校生じゃない、だから大人だ。大人は、稼ぎの手段をきちんと持っているのさ」
 デッドプールは使い込まれた手帳を取り出し、ぱらぱらとめくる。手帳に書かれているのは、数多の仕事だ。合法非合法問わず、金になる代わりに、危険な仕事ばかりが載っている。一流の傭兵だからこそ、受けられる依頼ばかりだ。
 ところで、手帳の宛名のところに“タスクマスター”と書いてあるのは何故だろうか。
「借りたの! タスキーから借りたの! まったく、人を疑っちゃいけないって、親から習わなかったのか。無断で借りただけで、盗人扱いされちゃあ、たまんないぜ」
 ぶつくさ文句を言いながら、デッドプールはページを捲る。すると、ちょうどいい仕事が目に止まった。
「こいつぁスゲエ。三食昼寝付きの警備員で、この値段かよ! 吸血鬼、もしくはカレー好きで無ければ、誰でも応募可能。当然オレは、吸血鬼じゃないし、別にアニメでパスタ食っても苦情は来ない。早速応募してみよう」
 上機嫌のデッドプールは、ためらうこと無く電話を手にした。
 しかし、忘れてはならない。この手帳に、オイシイ仕事はあっても、安全な仕事はないことを。報酬が高い=危険度も高いということなのだ。無慈悲なほど正確に比例している。
「おいおい、マジかよ。薬の被験体になれば、さらにボーナスアップだって? 天職過ぎて怖いぜ。期間限定なのが惜しい惜しい。えーと、連絡先はトオノさんちのコハクさんね」
 危険度の高さや、怪しさを気にするのは周回遅れの心配だ。ベテランの傭兵に取って、それは当たり前のこと。デッドプールは平気の平左で電話をかけた。

 ぞわっと、強烈な悪寒が体を襲う。わざわざ、左右をキョロキョロと確認してしまうぐらいの。
「なんだ、今の……?」
「どうしたの、志貴? 風邪? 志貴なのに?」
 一緒に歩いていたアルクェイドが、彼女なりの心配をする。
「人をバカ扱いしないでくれ……」
「えへへ、いつもの仕返しー」
「全く、お前ってやつは」
 可愛らしいあーぱー吸血鬼の頭をひょいっと小突く。おかげで悪寒を忘れ去ることができた。なぜこう、吸血鬼なのに、時たまアルクェイドは暖かいのか。
 ただまあ、志貴がここで悪寒をひしひしと感じて、何らかの対策を取っていれば、後の悲劇を回避することが出来たのだろうが。悪寒の元は、現在上機嫌で遠野家へと向かっていた。

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