捏造Fate新シナリオ
体験版に触発されて、ファンディスクのシナリオっぽいものを書いてみました。なお、ジャンルはほのぼのです(嘘
ニゲロ……ニゲロ……ニゲロ……!
心の奥底から響く声を嘔吐感と一緒に一気に飲み下す。
公園の入り口にいる俺を例えようの無い異常さが覆う。
涼しげな風が通り、真夏にしては爽快な気候とも言える午後のひと時。
普段どんな暑い日でも人が絶えた事の無いこの公園に人の気配が無い。
それどころか、小鳥のさえずりも木々のざわめきも全く聞こえない。
まるで公園全てが死に絶えたような光景。
それは俺が待ち望みながらも拒絶してきた異常の真理に近しい物とも思えて――
カラカラ……カラカラ……カラカラ……
突如木々の向こうから聞こえてくる無機質な車輪の音。
その音は、俺の存在に気付いているのかいないのか、緩慢な速度で徐々にこちらへと近づいている。
アレはキケンだ、今すぐに逃げろと本能は叫んでいる。
だが、俺の理性は音の正体を見極めることを欲している。
俺は少し悩んで理性に従うことにした。
己の危険より、己の欲求を優先する。
まるでコレでは優秀な魔術師みたいじゃないか。
ダメ魔術師とさんざののしられてきた俺が――
「エミヤシロウ。まさかこんなところで――」
異常の正体。それは紛う事の無い殺意の具現者。
アサシンことハサン=サーバッハ。
その黒衣に包まれた長身の体と白い骸骨の仮面は対峙した者に自然と死を連想させる。
「カッカッカ……」
そして、アサシンの前に佇むのは、そのマスターである間桐臓硯。
蟲を己の身体とし、気が遠くなるような時間をかけて聖杯を手にしようとした盲執の権化である間桐が当主。
その盲執の権化は車椅子に腰掛け、もう限界なお爺ちゃん特有のプルプルとした体の震え全開でこちらを見つめていた。
って、さっきの車輪の音は車椅子!?
「悪いが今は魔術師殿のお散歩の時間。戦いならば魔術師殿が就寝される午後八時以降に……いや、それではシモのお世話ができぬか……ともかく今は無理だ」
俺の目の前にいるアサシンは殺意の具現者でもなんでもなく、有能なホームヘルパーと化していた。
よくよく見るとアサシンの黒衣の下に虎縞模様のエプロンがちらりと顔を覗かせている。
確かアレは藤ねえが桜の誕生日プレゼントに送った品物。
ウキウキしながらプレゼントする藤ねえの顔と微妙に困った顔をした桜の表情が昨日のことのように思い出せる。
てっきり一度付けて見せた後にタンスの肥やしになったかと思っていたが、こんな形で復活するとは。藤ねえも喜ぶだろう、たぶん。
「ところでアサシン。メシはまだかいのう」
「魔術師殿。先程お食べになったでしょう? 」
いや、そんなお約束の会話されても。
「やはり慎二殿も年頃の若者、青春を謳歌するには介護はあまりに重い荷物。なのでワタシが魔術師殿の介護をしているのです」
「そ、そうなのか」
公園のベンチで缶コーヒーを片手にアサシンと差し向かい。
これが夢なら、起きたら死んでたというオチでもいいからさっさと終って欲しい。
「やるべきことがなくなると老人はボケると言います。魔術師殿も聖杯戦争という目標がなくなってしまったせいで……おいたわしや」
ちなみに介護対象である爺さんはアサシンのマントを毛布代わりにしてすやすや寝息を立てている。
つまり、いま俺の脇にいるアサシンはマントを脱いだ丸坊主の腰ミノ一丁というバーサーカーなみに開放的な格好になっている。しかし虎柄エプロンは装備済みなので、遠目では裸エプロンにも見えてとてもデンジャラスだ。
「な、なあ……桜とライダー帰そうか? 介護って大変なんだろ?」
「いや、ご心配には及びませぬ。桜殿はそちらにいるのが幸せなのです。そしてライダーは桜殿のそばにいるのが幸せ。ならばワタシにその幸せを崩す権利がございましょうか? 」
うわ、スゲエ人格者だよ暗殺者。
どこぞの弓の反英霊に見習わせたいぐらいに。
「あそこまで、あの崖を上れば願いが叶うというのに……」
「おお魔術師殿、目を覚ましましたか」
なんか懐かしいセリフを吐いた爺さんに気付いたアサシンは毛布にしていたマントを再び身に纏い、車椅子の背後へと付いた。
「では衛宮殿、ここで失礼をば。桜殿にはこちらのことは気にするなとお伝えください」
「あ、ああ。えーと、この後どうするんだ?」
「商店街の方を通って帰ろうかと。やはり人と触れ合うことがボケ回復には一番と聞きまして、それを期待して公園に来たのですが人っ子一人いないとは。しかし、この時刻の商店街なら確実におりましょうぞ」
違う。
人がいないんじゃない。
昭和ミステリー全快の爺さん搭乗の車椅子を押す黒衣の骸骨仮面の男が日常に現れたら誰でも逃げる。現に公園から人どころか小鳥でさえも全力で逃げたのがその証拠だ。
というか、現時点で俺も逃げたい。
商店街の皆様ゴメンナサイ。俺は貴方達の日常を無意識に破壊しようとしている存在を止めることができません。
「ユ……ユスティツァッッッ!! 」
「ハハハ、今日のご飯は魔術師殿の好物の蟲粥ですぞー」
どこかで聞いた名前を絶叫する臓硯をなだめながら楽しげに車椅子を転がすアサシン。
それは、街を覆う謎の解明とか混迷に満ちた中での真理への追求とかカレンがぱんつまるだしなことについてとかどうでもよくなった或る夏の日の光景だった――