新刊の断片 その2
「本当の邪悪は音を潜ませやってくる」
ああ、その言葉は今となっては良く分かるぜ。
なにせ閉鎖空間でもなく、ネットの中でもなく、今現実に世界は終わりを告げようとしている。涼宮ハルヒの力ではなく、ハルヒを利用してこちらの世界に乗り込んできた野郎が力ずくで世界を破滅させ、己が好きにできる世界に作り変えようとしているのだ。
暴君が自衛隊機を潰しながら鳴いている。大きな鎌が橋をぶった切り、鉄球がビルを砕く。口から吹き出す炎が、大通りを焼いた。
こうやって見てみると、現実世界というヤツもどれだけ脆弱であったのかがよく分かる。それを知っていての確信犯なのだから、黒幕は正に邪将の名が相応しいヤツだ。
「――だけど――あなたには――きれいな指輪がある……」
「その指輪が有る限り、世界は終わらない」
宇宙人二人が認める価値有る指輪に世界が、つまり指輪を託された俺の腹一つに世界の存亡がかかっているのだ。
子供の頃、どうせなら世界を救うヒーローになってみたいと何度か願ったが、いざなってみると余りの重大な責任感のせいでゲロを吐きたくなってくる。
「行くか」
誰を誘ったわけでもない、ただ言わずにはいられなかった。
両中指に嵌めた二つのリングが、その言葉待っていたとばかりに、チカチカと輝いた。