読解 ワールド・ウォー・ハルク~ハルク追放の是非~後編

ふじい(以下F)「ハルク追放の是非を考える、今回の記事。前回は人としてのハルク、災害としてのハルクにライトを当てたので」

サイレン(以下S)「次は、ヒーローとしてのハルクだな」

F「すっごく簡単に表現するなら、荒っぽい等身大サイズのウルトラマン。もしくはnot怪獣王で人類の味方路線のゴジラ、子どもたちの味方なガメラ。ただし荒っぽいは付属したまま」

S「簡単だなオイ!」

F「一応正義の為がメインだけど、巨大サイズのウルトラマン並の破壊規模で暴れるから、科学特捜隊にフルファイア食らう感じと言いますか。第一話のメビウスよりひでえ」

S「でもまあ、相手も等身大で怪獣並みの連中ばかりだから、破壊規模に関しては仕方ないかもしれない」

F「そもそも、ウルトラマンや怪獣二匹と同じく、地球最大の戦力でもあるからね、ハルク。コズミックビーイングにパンチ一発でダメージ与えられるの、ハルクぐらいよ? もう一人の一線級ヒーローが居ない状況で追放して、オンスロートやサノス(ガントレット装備)クラスの敵が来たら、どう対処するつもりだったのか……」

S「それにロス将軍みたいなハルク追跡班はいいとしても、ハルククラスのヴィランって結構いるしねえ。ジャガーノートはこの頃ヒーローだったっけ?」

F「性質上、善い人じゃサイトラックの力を引き出せないので、明確にパワーダウンしていたけどな。この戦力上の問題は、ハルクバスターのような手段で補うつもりだったのかもしれないし、置いておこう。このまま、ススッと流れるように当時のヒーロー業界の情勢に映るとしよう。ススッと!」

S「うん。流れるようにって強調した時点で、流れ自体台無しだと思う!」

F「当時の情勢なんだが、さっき俺が言った“もう一人の一線級ヒーローがいない状況”、誰だか分かるか?」

S「そりゃあ当然、ソーよ。あの雷神が本人のストーリーの都合上居なかったから、ラグナロクなんて神の劣化クローンが生まれたわけで」

F「あの時期、アスガルド神族自体が居なくなってたからね。復帰は、WWHよりもちょっと先。そしてソーの立ち位置なんだが、暴れるハルクを止められるヒーローの筆頭なのよね。アベンジャーズが抱える、最も大きな抑止力なわけだ。そして、問題は……他にハルクを単独で止められそうなヒーロー、ざっと言ってみ」

S「まず、ヘラクレスだろうな。後はネイモアさんに、セントリーに。あ」

F「ハルクを止められるヒーローって、ハルクと親しく、更にイルミナティで抑えられないヒーローばかりなんだよな……。ヘラクレスはワールド・ウォー・ハルク(WWH)の時、ハルク側に付こうとしていたし、ネイモアさんはイルミナティだけどハルク追放に大反対して社長殺しかけたし、セントリーはそもそも、抑止力にするにしては不安定すぎて論外だし。アイツは正直、ハルクよりヤバい。ジャガーノートも当時パワー減衰してたし、イギリスのヒーローチームであるエクスカリバー所属だったから、自由に動かせる駒ではなかったわけで」

S「セントリーの危険さはそのうち日本でも公になりそうだけど。イルミナティ内だと、ブラックボルトはどうだろう? 本格的にキレる前のハルクなら、何回か倒してるし」

F「アイツ、破壊音波を発する性質上、ハルクは倒せるけど抑えるのには向いてねえ。市街戦になったら、まず間違いなくブラックボルトの声による被害の方が大きい。Drストレンジも手段を選ばなきゃ勝てそうだが、あの人、本当に追い詰められないと本気出さないしな」

S「なんだろう。東方Projectのアリスの“本気を出しておいて負けると後が無くなるので本気を出さない”主義を思い出した。そういやストレンジもアリスも魔法使いだな」

F「追い詰められたWWHでは、本気を出して……結局アレだったわけだが。情勢と照らし合わすと、抑止力の低下によるハルク暴走への恐怖が、決断を後押ししてしまった。こういう見方もアリだと思うんだよ」

F「ここで材料はある程度出揃ったわけだし、難しい問題だけど、一応俺達だけでも是か非かだけはハッキリさせておくか。お前どっち? 肯定派? 反対派?」

S「俺は反対だな。百歩譲って追放が有りだとしても、それは曲がりなりにもヒーローである男に行うものじゃなくて、まずヴィラン、明確な悪意を持っている者に行うべき処置じゃないかな」

F「DCの※サルベーション・ランみたいにか」

※サルベーション・ラン:レックス・ルーサーやジョーカーやゴリラ・グロッド、更にはローグスにアーカム患者等々、とにかく地球上のほぼ全てのヴィランが追放された流刑惑星のストーリー。腐りきった連中の無人島物語。

S「気持ちは分からんでもないけど、色々計画自体も練り込みが足りない感じだし、WWHのようなしっぺ返しは当然かなと。お前はどっちだ? 肯定か、否定か」

F「そもそも、正義感による追放を是とするのは世界観的に、論理的にもアウトだと思っているので、否定で。というか、正しいと思ったからやったんです!手に負えないからやったんです!を是とした場合、例えばセンチネルによるミュータントの包囲や殲滅にも、理を与えることになるだろ。建前だけでも正しさをアピールしているような部類の連中もいるけど、それとは別に、本気でミュータントの存在に怯る、ミュータントを人類の敵と判断する、そう言った義務感や正義感で行動している反ミュータント主義者もいるんだから」

S「まー、ハルクが倒れて、追放がアリとなった場合、JJJが嬉々としてスパイダーマン追放に向けての企画記事を書くだろうな。ヒーロー活動を長年やっている以上、大なり小なり、目に見える被害は出しているだろうし」

F「だいたい、アイアンマン、トニー・スターク主導の時点で、常人が超人を追放したという、すげえ危ない事案なんだよ。どの超人にとっても、明日は我が身で何らおかしくない。いやホント、ハルク追放決議にプロフェッサーXは参加していなかったけど、もし賛成票を投じていて、更にそれが明らかになっていたら、次はミュータントだったんじゃないかな。ブラックボルトのインヒューマンズも立場は似ているけど、アイツらの場合、地球や人類と縁を切っても生きていけるし」

S「とりあえず、肉雑炊的にはハルク追放には反対ってことかね」

F「ウチ、二人しか居ないしねえ。総意としてはそうなるでしょうよ。ただ、あくまで、二人の人間の意見。絶対に正しい!ってわけじゃない。ハルクの出す被害が大きすぎる、いつまた街一つ潰されるかもしれないという不安も、間違ってないわけだから」

S「考えて聞いて調べて、自分で答えを出すしかないと」

F「今回の記事は、考える機会、思考の一助となれば、幸いです」

S「ところで、定期購読のさ、アイアンマン:シビル・ウォーの話なんだけど」

F「う、うん! ぶっちゃけ、アレ、シビル・ウォー視点だと社長の株が上がるんだけど、ワールド・ウォー・ハルク視点だと一発アウトのエピソード載ってるのよね」

S「本人の意志ではなく、トラブルの結果とはいえ、アイアンマンの手で一般市民を殺害して、更には乗客満載の旅客機墜落させたんだっけ。被害者は200人超とか」

F「トニーに首輪をつけるためとは言え、この事件、国防長官の手でもみ消されたのよね。時期的に、ハルク追放の原因となったラスベガスでの大暴れと、シビル・ウォーの発端であるスタンフォード壊滅とほぼ同時期というのがまた……」

S「あと、超人弾圧計画のワイド・アウェイク計画」

F「超人登録法推進の原動力は、脳改造やセンチネルによる弾圧を防ぐためと理由づけされたのはいいんだけど……宇宙の果てへの追放も同レベルでヒドいですよ?というのと、追放OKならワイド・アウェイク計画もOKですよね!というツッコミどころがね」

S「この話を、結末の後に隔離した理由、なんとなく分かったよ」

F「ちょっと結論への誘導力が強すぎるしね。でも、追放した側の過ちの一例として、触れておきたかったなと。最も、過ちのないヒーローなんて、多分……」