Mask&Moon~完全なる兵器~
ゴロゴロと音を立ててライダー二号の生首が転がる。
「二号ッッ!!」
悲痛な声を上げる一号。
六人居たライダーも既に残るは一号のみ。
多少の犠牲は覚悟していたものの、ここまでの決定的な戦力差があるとは。
目の前の見目麗しき美女の戦力は一つの暗黒組織の全戦力にも匹敵するだろう。
「人を捨てたっていうから……どれだけ強いのかと思ったら、なんだたいしたことないじゃない」
アルクェイドが退屈そうな顔で、
――二号の生首を踏みつぶす。
その瞬間、一号は最後の力を振り絞りアルクェイドに襲い掛かった。
左右から襲いくる拳の連撃をアルクェイドはなんなく避ける。常人ならば確認もできないであろう迅速の一撃も、彼女にとっては蠅の止まる一撃でしかない。
「くそお、ライダーパンチ!!」
大きく振りかぶっての一号の一撃。だが、その拳をアルクェイドはなんなく片手で受け止めた。
「残念。もう少し一撃に工夫をしなさい」
「フン。本命はコッチだ」
アルクェイドの腹に軽く突きつけられる一号の貫き手。唐突にその五本の指先から小型ミサイルが発射された。
アルクェイドの腹を中心に巻き起こる収束した爆発。だが、アルクェイドはたたらを踏むだけでその爆発に耐え抜いた。
「死ねぇバケモノッ!!」
その爆発の痕に突き刺さる一号のつま先。いつのまにか、そのつま先からナイフが飛び出ており、その刃はアルクェイドの腹に深く突き刺さった。
「なるほど。確かに工夫は十分していたみたいね。でも……」
だがアルクェイドの命はコレぐらいでは揺るぎもしない。
仮面ライダーが人を超えるために創り出されたものならば、彼女は人を超えたものに創り出されたさらに上の存在なのだから。
「な、なんだと!? 効いていない!?」
慌てて一号はその場から引こうとするが、捕まえられている拳と突き刺さったつま先の刃が枷となり、逃げられない。この状態で居れば待っているのは死だというのに。
「そんな工夫だけでは足りない。あなた達は所詮欠陥品よ」
アルクェイドの手が一号ののど笛を締め付ける。
「ふ、ふざけるな……俺達は完全な改造人間だ」
ミシリミシリと響く骨の軋む音。だがそんな状況になりながらも一号はめげずに声を出す。己の最後の誇りを示すために。
「そもそもあなた達は偽者じゃない。ショッカーライダーとか言うんでしょ」
ショッカーライダー。
最強の裏切り者である仮面ライダー一号と二号を倒すべく、新たに作られた最強の六体の贋作。オリジナルである一号と二号とは違い完全なサイボーグとして作られた彼等は、オリジナル以上の武装と性能を持ちながらも勝つことは叶わなかった。
「完全を強さだと思っているの?」
「なにィ……?」
「そう思っている限り、あなた達はオリジナルを超えられない。彼等は完璧さの代わりに、揺ぎ無い物を持っている」
兵器は完全を目指して創られる。
そう言った意味では真祖を狩るために創られたアルクェイドは完全に近い兵器だった。戦い以外は考えずに、必要なときだけ動き、目的を遂げれば眠りに入る。
しかし、この数年の出来事により彼女は完全な兵器ではなくなった。だが、完璧の代わりに彼女は余裕を手に入れた。感情を持って生きる愉しみを。
オリジナルである仮面ライダーも感情で戦い、数々の強豪を打ち倒してきた。感情という人の心は戦いにおいて邪魔に思えるが、それは実は替えようの無い強さなのだ。
そんな彼女から見れば完全を気取るショッカーライダーは滑稽でワケのわからない物でしかない。
「揺ぎ無い物……? ふざけるな、そんなもの戦いにおいては邪魔でしかない」
完全な機械である彼等はそんな不確定なものを決して認めない。
たとえ、それを持つオリジナルに勝てずとも、認めるわけにはいかないのだ。
「貴方とはこれ以上話しても無駄みたいね」
アルクェイドの目が光り、同時にショッカーライダー一号の体が微塵に散っていく。
断末魔を上げる間もないうちの絶命。だが、誇りかなんなのか、彼は最後にこう言い残した。
「仮面ライダーは……俺だッ……!!」