読解 ワールド・ウォー・ハルク~前夜~
ふじい(以下F)「パワー系は日本で不遇だ」
サイレン(以下S)「まあ、そうだな。巨漢の悪役を叩く小柄な主人公っていうのは、ある種のテンプレだ。よって巨漢=パワー系は雑魚が多い。キン肉マンビックボディやアルデバランのように、凄く強いはずなんだけど弱いパワー系も多々いるしな」
F「しかし、日本=世界ではない。むしろ世界では、デカくて強くて分かりやすいってことで、パワー系は優遇されやすい。その分かりやすい例が、パワーだけで最強の座に着く緑の大巨人、インクレディブル・ハルクだ」
S「マブカプだと、他のパワーキャラ(センチネル、ジャガーノート)が万能過ぎて地味だよなあ。映画もイマイチ受けなかったし」
F「俺はインクレディブル・ハルク大好きだけどな! 2003年版は置いといて。とりあえずまあ、この映像を見てもらえるか?」
S「キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソーの三人が揃ったアベンジャーズを相手にして、この無双っぷりだと!?」
F「ソーはもうちょっと頑張れるだろうけど、キャップとアイアンマンはこの辺りが限界だと思う。次にこいつを見てくれ」
S「セイバートゥースやオメガレッドだって、弱くねえぞ……」
F「ウルヴァリン、レディ・デスストライク、デッドプール。この動画に出ている連中は全員一流だぜ? 一流が揃っても手に負えない怪力。向こうにおけるパワー系のポジションは激高だぞ。考えて見れば、ジャガーノートだって、一人でX-MENと渡り合えるキャラなんだし」
S「技術や能力を消し飛ばす、怪力の迫力か」
F「そして、ハルクはついにはっきりとした成果を上げてしまう。本気となったハルクには、アメリカ中のヒーローがかかっても勝てないという成果を。ついにこの日が来た、ハルク対全ヒーローの大戦争“ワールド・ウォー・ハルク(World War Hulk)”を紹介する日が! マーベル大辞典にも載ってたけど、あんま深く触れられてなかったし、ググッてもあんまり情報出てこないしね! こうなったら、パワーキャラ立場向上委員会会員の俺がやってやるよ!」
S「え? 会員? 会長じゃなくて? その聞くだけでムサ苦しい組織、マジで実在すんの?」
F「すごく簡単に概要を説明すると、ハルクが宇宙に追放されてマジギレ。宇宙から帰ってきたハルクが全ヒーローをボコボコにする事件。でも簡単じゃしょうがないので、ここはじっくりと複数回に分けて説明しようじゃないか。今回はハルクの強さの秘密と追放の原因、追放の実行犯を追求だ」
F「ハルクは感情をパワーに変えるヒーローだ。ひ弱な科学者ブルース・バナーが怒る時、彼の体内に蓄積されたガンマ線が反応し、バナーは緑の巨人、ハルクへと変身する。つまり怒れば怒るほど、強くなる」
S「そこら辺は別に普通だろ。悟空がスーパーサイヤ人になったきっかけだって、外道なフリーザへの怒りだし」
F「ただ、ハルクには上がり幅の限界がない。あったとしても、パワーの際限はきっととんでも無い位置にある。一回、邪神オンスロートと戦う際、わざと理性を仲間にかき消してもらったことがあってな。その時ハルクは、物理攻撃を無効化するバリアを力尽くで破壊した」
S「なんというか、矛と盾を力でぶっ壊したって感じだな」
F「神が作りし盾を力任せに矛で砕く。確かに地球のヒーローとしては最強レベルのハルクなんだが、大きな問題があってな。怒りみたいな本能と相反する物ってなんだ?」
S「そりゃ、本能の反対は理性……そうか、ハルクは全力を出せば出すほど、暴走の危険性を孕むことになるのか」
F「さっき紹介した対アベンジャーズの動画だって、元々ハルクが全力を出しすぎたせいだからな。全力を出して敵と戦った結果、ハルクは理性を失い暴走。敵より強い強い。本末転倒、ここに極まり」
S「身も蓋もねえ」
F「一時期は、ハルクの状態でバナーの意識を保つことも出来るようになったんだけど、理性を持つことによる弱体化現象がおこっちゃって……。なお、元祖マブカプの頃は、理性がありました。冷静沈着な勝利メッセージがその証拠」
S「そういや、マーベルVSDCでスーパーマンと戦った時も理性があったな。あのムカつくドヤ顔がデフォルトの。スーパーマンに負けた原因はそれか」
F「なまじ、スーパーマンを本気にさせたのもまずかった気がする。目からの熱線ヒートビジョンを「こいつなら平気だ!」ってハルクに直接放ってたからな。殺傷能力が高すぎるので対物用にしているヒートビジョンを、対人用に使った稀有な例だ。そんなモンをモロに喰らっても平気だったハルクもすげえが」
S「なるほど。理性があっても、やはり強いか。しかし、そのレベルの力で暴走されたんじゃ、まるで人間災害だな」
F「ラブアンドピース!で済めばよかったんだけどなー。ハルクが戦うと、悪人を放っておくより被害が拡大することも多々あってな。それにハルクを洗脳すること自体は難しくないし、暴走してしまえばもはやヴィラン同然だ。地球ではハルクを預かり切れないと考えるヒーローがいても、全くおかしくはないな、うん。ただ、本当に追放するのはいかがなものか」
S「その言い方だと、本当にやっちゃった連中がいたのか……」
F「なお追放事件発覚後、みんなドン引き。そこまでやるかよ!?って感じで。ハルク追放は、ヒーローとして余程の行為であったということを、まずご理解いただきたい」
F「ハルクを追放した一団、その名はイルミナティ! なお、某秘密結社とは何の関係もないからな! 地球の正しい筋道を作るため、最善の良心を持つと自負する知性派ヒーローがこっそり集まって出来たチームだ」
S「基本理念の時点でアウトじゃね?」
F「メンバーは全員何らかの組織のリーダーだ! リーダーが秘密裏に協力しあうことによって世界を動かす! その素晴らしいメンバーを順繰りに紹介していくぞ! 言いだしっぺのアイアンマンことトニーはアベンジャーズのスポンサーにして中核メンバー。ゴームズ……じゃなくて、Mrファンタスティック、リード・リチャーズはファンタスティック4のリーダー」
S「いやだから、基本理念でね!」
F「サブ・マリナーのネイモアは海底帝国アトランティスの王。超人類インヒューマンズの王ブラックボルトは、声を破壊音波に変換するという強力な能力を所持。他所のチームへの参加自体が珍しい、X-MENのリーダー、プロフェッサーX」
S「ほんとだ、珍しい名前に珍しい参加者って、そういう問題じゃあないんだよ! き・ほ・ん・り・ね・ん!」
F「世界最高の魔術師Drストレンジはリーダーとしての印象が薄いものの、一応ディフェンダーズを結成してるし、よく人様を導こうとしゃしゃり出てくる。まあ、ストレンジも十分参加資格があるな。この6人が栄えあるイルミナティのメンバーだ!」
S「いい加減質問に答えろよ! だから自分が善人だと自負しちゃマズいだろ!? しかもなんか、全員人の話を聞きそうにないし! 何人か、現時点でリーダーから外されている人間がいるし!」
F「いやー、なんと言うか、他人に話さないで勝手に一人で物事を進めて、結果大事に発展させる奴らが集まったって感じだね。実は小国ワガンダの王にして黒人ヒーローの草分け的存在、ブラックパンサーも参加を打診されてたんだけど」
ブラックパンサー「いや、お前ら、それは色々おかしいだろ。絶対そのうち、大変なことになるとしか思えん。やめろとまでは言わないが、私はその組織に参加しないからな。それと最後に聞きたいんだが、なんで集合場所がウチの宮殿なんだよ……」
S「えーと、クロ高の前田君?」
F「無茶な会議の集合場所にされて、その上会議室まで貸してあげるブラックパンサーマジ紳士。とにかく、こうして結成されたイルミナティは非公式で様々な活動を行なっていく!」
地球侵略を企む擬態宇宙人、スクラル人に警告を届けるため接触。こりゃいい機会だと、スクラル人はイルミナティのメンバーを捕縛。本格的な地球侵攻作戦に利用するため、各人のデーターを採取。イルミナティは脱出するものの、データーは残留。スクラル人、大幅パワーアップの上で地球へ侵攻。
二度も宇宙壊滅寸前の事態を巻き起こしたアイテム、インフィニティ・ガントレット。ガントレットの力の源である6つの宝石を、イルミナティが収拾。リードが宝石の力を利用しようとしたところ、宇宙を見守るだけの存在であるウォッチャーが何事かと来訪。お前ら何考えてるんだと、監視者の職務を忘れて口出しする程のマジギレ。宝石のパワーを使ってガントレットを対消滅させるだけだよ!と、リードは実験を強行。そして失敗。宝石はイルミナティのメンバー一人一人が極秘裏に預かることに。
S「見事にロクでもないことしかしてねえなあ!」
F「対スクラル人の前線に立ってきたのは、ファンタスティックフォーだからな……。そんなスクラル人の元にリードが警告を持ってくるという状況、スクラル人の側からしてみれば“第二次世界大戦の最中、いきなりヒトラーが親衛隊を引き連れてホワイトハウスにやって来た”って感じだから。そりゃ捕まえるよね!」
S「宝石ってインフィニティ・ジェムの事だよな。サノスが集めだすまで、宇宙のあちこちにいるエルダーズ・オブ・ユニバースが管理していたジェム。宇宙を揺るがすものを、地球に集めちゃっていいのか。言い替えるなら、地球人だけで独占しちゃっていいのか」
F「駄目だろ。その後、スーパーヒーロー大戦ことシビルウォー勃発。リードとトニーは賛成派。ブラックボルトとストレンジは反対派。ネイモアは「余はアトランティス人だから人間の法律関係無いし」と言い切り、プロフェッサーXはノーコメント。ダメだこりゃとイルミナティ解散、世界は少しだけ平和になった。めでたしめでたし」
S「めでたいのかよ」
F「だってコイツら、ダメダメだろ。スクラル人の最大侵略作戦シークレット・インベージョンの時に、相手の技術を向上させてしまった責任とスクラルへの危機感で再結集したけど、既にブラックボルトがスクラル人に成り代わられていたし。解散!」
S「うん。確かに解散はめでたいね!」
F「というか、宝石を分け合った時点で既に成り代わられていたら大爆笑すぎるぞ。ここで少し時間を戻す、解散の決定的なきっかけはシビルウォーなんだが、イルミナティが互いに不信感を抱き始めた事件こそ、ハルク追放の一件なんだよ! 一応言っておくと、ハルク追放はシビルウォーの前で、ハルクの帰還、ワールド・ウォー・ハルク自体はシビルウォーの後だから。少しだけ、間がある」
S「ようやく本題に突入だな! それにしたって、長い前置きだったな」
F「次回からいよいよ本題、ハルクの追放から帰還までをなんとか纏めてみようかと思う。それと本当に余談なんだが、タスクマスターの回で紹介した悪役会議のカバルのモデルは、このイルミナティだからな。なお、ネイモアはイルミナティとカバルの両方に参加した、唯一のキャラクターだ」
S「へー。あれ? その割にカバルに参加してるの見たこと無いんだけど」
F「あー、数回参加した後、あっさり抜けたから。元より、王様基質のネイモアを会議に参加させようってのもなあ。日本のキャラで一番ネイモアに似てるの、Fateのギルガメッシュだと思うぞ。人格はともかく実力は確かという共通点も。あと、自信過剰な辺りも」
S「え? バカ殿?」
F「ネイモアは他の連中と少し毛色が違う。なんと言うかそのー……イライラしてたから、イヌイットが信仰してた氷漬けの人間をブン投げて海に捨てるって、中々に凄まじい行為だよね」
S「知性派どころか、ハルクレベルの行為じゃねーか」
F「いやうん、実はこの氷漬けの人間、行方不明になってた第二次世界大戦の英雄キャプテン・アメリカだったんだけど。ネイモアのせいで海を漂流するハメになったキャップをトニーが発見、トニーはキャップの蘇生に成功、アベンジャーズの物語も此処から始まる! いやーネイモアがイライラしてなけりゃ、キャップの発見は随分遅れただろうね! なお、戦時中、ネイモアとキャップはナチスと戦う為に共同戦線張ってたんだが……面識があるであろう人間を勢い任せで海にブン投げるって、どんだけイライラしてたんだよ!」
S「誰だよ、コイツを知性派チームに入れたの」
F「実はイルミナティの設定って「あの時実は彼らこんなことをしてましたよー」みたいな感じの後付設定も多いんだけど、後付のくせしてなんでこう、色々やらかしてるのかね。普通後付なら、良いことをしてましたよって流れになるよな。ホント、進んで問題行動を起こす連中ばかりを集めたチームだぜ……」