BATMAN Void horrific killer~0~
寝るべき場所ではないものの、ブルース・ウェインは日ごろの疲れに負け、仕事用のデスクでうとうととしていた。超人と呼ばれる彼にしては珍しい不覚であった。
深淵から複数の目がブルースを覗いていた。いや、ブルースではない。蝙蝠の狩衣を纏った姿、バットマンを彼らは観察している。
異常ではなく、異能者の目だ。狂気よりも能力が先に立つ、異能者。只の人間であるバットマンにとっては組しにくい敵だ。それでいて、狂気もそれなりに持ち合わせているのだから、タチが悪い。
どの目も、彼の記憶の中には無い異能者の目であった。
「お前たち」
何者なんだと聞こうとした途端、闇が晴れて異能者たちが姿を現した。
白くふわついた服を着た、物理的にも比喩的にも地に足が付いていない少女。修道服に良く似た服を着た黒髪の少女。そして女物の着物にジャケットという妙な格好をした、金髪の若者。
彼らの共通点は、全員東洋系の人種であることと、年が若いということ。もっと詳しく分析するならば、少々ハメを外しすぎた日本の若者だ。
異能者たちは姿を現した。しかし、一人だけ未だ深淵の中から出てきていない。闇の中からじっとバットマンを観察している。
ただただ美しい、女性の目であった。日本の優れた美術品のような、憂いや繊細さ、それでいて華美さも持ち合わせた目。それでいて、とびっきり恐ろしい目。いったい、どんな化生であればあんな目が出来るのか。矛盾に満ちすぎている。
ジリリンと電話の音が鳴り、世界が一気に光に包まれる。目覚ましのベル、空ろな夢の住人である彼らも砂のように消えていく。当然、未だ闇から出てこぬ最後の異能者も。
一瞬だけ、薄紅色の着物を着て刀を持った、麗しき大和撫子が見えた気がした。ああ、あれだけ麗しいなら。化生と呼ぶしかない。彼女にはそれだけの資格があった。
寝ているブルースを起こしたのは、彼の忠実な執事、アルフレッドからの電話であった。ブルースは電話を取り、彼の報告を聞く。全てを聞き終えた後、ブルースは大窓から空を眺めた。ゴッサムシティの空は、今日も暗い。
頻発する不可解な墜落死。身体ごと捻り殺された人間。カリバニズムという言葉を使わなければ語れぬ殺人事件。今のゴッサムを賑わせている犯罪は、この三つの不可解な殺人事件であった。