アメコミカタツキ RUN! RUN! RUN!! 予告
これは、Marvelの核弾頭ヒーローことデッドプールと、数多の英霊が集うFate/Grand Orderがクロスする物語――
ある“仕事”により、ケルト戦士と機甲兵士が戦うアメリカ独立戦争に現れたデッドプール。重症を負い、傷病兵として救護テントに運ばれたことから、全ては始まった。
「患者ナンバー58、重症。手足の損傷が激しく、切断が望ましい。ですが、カルテよりも状態はよく思えますね。どちらにしろ切断ですが。スタッフにカルテと診療の正確さを、もう一度しっかり言い聞かせないと」
「ここも……駄目でしょうね。頭部欠損、まともな意識が残っているかどうかも怪しいところです。生きることは出来ますが、それだけですね。更にこの一見焼け爛れたように見える肌、これは化膿とは少し違う……何らかの病気、伝染病の可能性があります。急ぎ隔離すべきでしょう」
「ですが、私は貴方を生かすために尽力します。それが、私の使命なのですから」
「問題がある部分を、全て除去します。手足に肌の大半に……麻酔が足りないため、苦痛を伴う治療となりますが、私は貴方の生き抜こうとする意思を信じます。誰か、彼の口に噛ませるための布を!」
「では、切断のお時間です」
「もう、独立戦争はこりごりだよ~~!」
「私はあの患者を追います。この看護の手から、逃す気はありません」
英霊ナイチンゲールに患者と認定されたデッドプール。追う看護婦と、逃げる患者。二人の追いかけっこは、幾つもの世界線を越え、繰り広げられる。
「ブルース・バナーぁぁぁぁ!」
何やらズタボロで血まみれなデッドプール。彼の手には、ホイップクリームがてんこ盛りになったパイがあった。
「元祖マーベルのバーサーカー! ここは頼んだぁぁぁ!」
すれ違いざま、デッドプールはバナーの顔面に直接パイを叩きつけた。パイ投げなんて生易しいと思うほどの勢い。衝撃でバナーの眼鏡が、歪んだまま宙を舞っていた。
「おや?」
――声が、した。鉄の鐘が鳴くような。
「その身体、治療の必要があるようですね」
――運命が、其処には立っていた。
「その格好、アサシンの一人ですか」
――強き淑女の姿をして。
「なるほど」
――すなわち、狂戦士が如き看護婦。看護婦が如き狂戦士。
「あなた」
――月夜でも一切顔色を変えぬ、それは、たった一人の軍隊(少陸軍省)のようにも見えて。
「身体中が毒、その身体は毒の化生ということですか。それならば」
ナイチンゲールの背後に巨大な白衣の天使が浮き上がる。ナイチンゲール一人だけではなく『傷病者を治す白衣の天使』という看護師の概念全てが結びついた結果生まれた、ナイチンゲールの宝具。その名は――
「我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)。我々の治療への意志と、貴女の毒性。どちらが強いのか試す、なんてことは言いません。必ず治して、除去してみせますとも」
放っておけば、人類史を歪めかねないデッドプールを落ち着かせるため、デッドプールに“仕事”を依頼した英霊と、カルデアもついに動き出す。
「かの聖女や聖少女の露出の激しい服を見た瞬間、かの電気を発見した瞬間の如き衝撃が、脳髄を貫いた。人類は発展とともに、あけすけな心を失ってしまった。本来の進化の道を辿っていたのならば、人は皆衣服を脱ぎ捨て、全裸になっていたのでは――」
「そんな。僕たちは一体何処で道を誤ったと言うんだ!」
「まずは、アメリカ建国の父の一人として、合衆国を救ってくれた君たちに礼を述べたい。私の名はベンジャミン・フランクリン。アメリカ独立宣言に携わった男にして、電気の発見者さ」
これだけふわふわと不確かな存在なのに、そんなフランクリンのウィンクは、やけに活力のあるものだった。
「ベンジャミン・フランクリンって、百ドル札の人だよね?」
「はい。政治家、外交官、実業家、物理学者、作家、思想家、気象学者、発明家。どの分野でも卓越した功績を残す、世界でも指折りの、多彩な才能を持つ偉人です」
「なお、私はマーベルユニバース準拠のフランクリンであって、FGOのフランクリンではない。もし後に別のフランクリンが出てきたとしても、別人と思ってくれよ?」
「何処に話しているんです?」
「なに。我が友にならって、壁の向こう側にね」
容易く収束されると思われていた事態。その裏で蠢く、強烈なる悪意。謎のままの悪意は、同じくらいの悪意への接触を図る。
「この肉はデッドプールと呼ばれる男の一部だ。世界と次元を逃げ惑うヤツが腕や足を落とすたびに、私が回収してきた」
「デッドプール? 死の賭けか。ふざけた名前だな。だが、同じ腕が二本あることからみて、その男、高度な再生能力を持っているようだな。羨ましい」
「今は笑っていても、将来的には忘れられない名前になる。この男により、お前は今ある全てを奪われるのだからな」
財産も目的も、そして生命も。来訪者が語ることは、必然であった。
「笑えない冗談だ」
「この施設で、実験動物として扱われている、ウェイド・ウィルソン。その男はやがて、この施設を破壊し脱走し、デッドプールとなりお前を破滅に追い込む」
この世界は、ガンに侵された傭兵ウェイド・ウィルソンが、デッドプールになる前の時間軸――
このホスピスにて、史上最強のおもしろ愉快なスーパーヒーロー、デッドプールは生まれた。
「……なるほど。この施設で一番反抗的で、一番おもしろい男の名前を出されると、本当に聞こえるな」
ホスピスの運営者、その名をエイジャックス。人間を人為的にミュータントに変貌させ、超人兵士として売り払う組織の元締めであり、個人的な愉しみでウェイド・ウィルソンをデッドプールへと変貌させ、やがてデッドプールに殺される男であった。
加速する悪意。その悪意が起こす事象に気がついたのは、人造人間フランケンシュタイン。フランもまた、独自に動き、デッドプールとの接触を図る。
「ア……」
「サプラーイズッ!?」
ぽつんと所在なさ気に立っているフランに気づき、デッドプールは跳びはねる。その様まさしく、アメリカのカートゥーンアニメの如く。
「あー、いよいよ心臓が口からぶっ飛ぶかと思った。えーなにーこんな所に花嫁さんが居るよ。なになに、相手の男がロクでもなかったの? ラスベガスの教会で勢い任せで結婚しようとした寸前、正気に戻ったの?」
「アゥ……ゥ……」
「まあ、シャイね。オープンな俺ちゃんと1+1で割るとちょうどいいから、いっそ結婚しちゃう?」
デッドプールはベルトのポケットから一輪のカンナを取り出す。ちなみにカンナの花言葉は、妄想だ。
「ゥゥ!」
フランは慌ててかぶりを振った。
やがて追いかけっこは終わる。そしてその終わりは、更なる混迷の合図だった。
「剣もある! 銃もある! 股間の槍はロンドミニアド! 暗殺技術もある! 俺ちゃん愛用のスクーターはキャラクターグッズでも発売中! なんてマルチプルな英雄よ! きっとFGOに本格登場したら、チート級間違いなしっしょ!」
「どうしたんだ、その格好。スーパーヒーローに転職したのか?」
「そうだな、スーパーヒーローじゃあないかもしれないが、人気者にはなったよ。そういやさ、スーパーヒーローのクリーニング割引。あれさあ、ヒーローチームに入ると、チームの方でコスチュームを洗ってくれるから、更にお安いんだぜ」
「なんだ、団体割引があるのか」
「デッドプール。私は身も心も歪みきった貴方を治療するために、ここまで追ってきました。しかし、先に根絶すべき病原菌を発見しました。一分一秒でも生かしておけば、それだけ被害の広まる病原菌です」
「トリアージだな。ヤツを殺るのは俺だ! なーんてこだわりはねえよ。一回、大スクリーンで大勢の観客の前で殺ってるしな。俺ちゃん現実主義よ?」
「なあ、今日、ブラックバードが発進する用事、あったのか?」
台所でシリアルを食べているコロッサスに誰かが尋ねる。X―MENの一員であり、鋼鉄の肌とクローム製のチ◯コを持つコロッサスが、今日の留守番役だった。
「ああ。なんでもウルヴァリンが使うらしい。X―MENの一員でありながら、単独行動を好む。まあ、いつものことだ」
「ほー、この学園に、俺以外のウルヴァリンがいたのか」
「ブフォ! なんだと!?」
「気づいていないことは、不幸なのでしょうね。私は貴方を病原菌だと思っていましたが、過剰評価でした。貴方は、愚かな患者です」
エイジャックスの身体が跳ね、一息にナイチンゲールの元へたどり着く。既に斧は、振りかぶられていた。
手斧が、空気を切り裂く。僅かに飛び退くナイチンゲールと、更に踏み込もうとするエイジャックス。
「本格治療を開始します」
「お前、ウェイドに負けず劣らずだな」
「醜い怪物は、そこにいる!」
「何処に!」
「お前の隣りにいる!」
「おいおい、冗談だろ。フランケンシュタインの怪物って言ったらさあ、俺ちゃんみたいなハンサムフェイスなメンズよ? この娘、目隠れタイプだけど、可愛いじゃん。角、生えてるけど」
「お前は、お前は根本的なことがわかっていない!」
「何が。そりゃあそんなに長く付き合ってはいないけど、いい娘だよー。ブラックボルトよりは聴きやすく喋るし、ジャガーノートよりは荒っぽくない。だいいち、花嫁っぽいじゃん。怪物は、花嫁を探してここまで来るもんだろ? 花嫁が追ってきたら、ハッピーすぎる。せめて、ホラ吹く前に小説読んどけよ」
「おい、気をつけろよ。今から出てくるヤツは、最低最悪のデッドプールだ!」
フランに注意を促すデッドプール。
自身の残骸を使って作るデッドプール。それには、前例があった。とある科学者が拾い集めていたデッドプールの残骸を、デッドプール本人がゴミとして処分したものの、ゴミ収集車でミックスされ合体した結果生まれた、悪魔の如きデッドプール。
「その名を、エビル・デッドプール! ってちっげーえし!」
吹雪が晴れた瞬間現れたのは、デッドプールの予想とは違う、別の方向性でちょっと触れにくいデッドプールのような、そうでないような存在だった。
遠い北の地での決戦。デッドプール史上最悪の敵が、フランの前に立ちふさがる宿命が、ナイチンゲールとは決して相容れない男が、三人のバーサーカーと対峙する。その決着、そして反則的な英雄の登場とは。
アメコミカタツキ RUN! RUN! RUN!!
コミックマーケット90 東ホール“オ”42―b「肉雑炊」にて予定価格500円にて頒布。
「じゃあ、さっさと仕事を終わらせようか。今回の標的は、クー・フーリン。略してクーちゃんだ。クーちゃん、クーちゃん、クーちゃん♪ ステイ! ハウス! お手!」
こりゃ楽勝だと、上機嫌で手を振るデッドプール。宙を叩いたはずなのに、何故かバンバンと肉を叩くいい音がした。
「ホワイ?」
目の前にある、鍛えぬかれた胸筋。顕になった、腹と胸に描かれているのは、赤い呪紋。魔獣の甲冑を着た異相のクー・フーリンが、いつの間にかデッドプールの目の前にいた。手の中では、かつて無いぐらいに刺々しくなったゲイ・ボルグが、標的を抉り穿とうと唸っていた。
「えーと……ガンマ線でも浴びた?」
そう尋ねたデッドプールの頭が、無造作に突き出されたゲイ・ボルグにより粉微塵になった。