デッドプール邦訳奇譚~デッドプールの兵法入門~

デッドプールの兵法入門

デッドプールの兵法入門 表紙

あらすじ
『孫子』とは古代中国の思想家、孫武の作とされる、古今東西の兵法書のなかでももっとも著名なものの一つである……が、ひょんなことからタイムスリップしたデッドプールは『孫子』のテキストを盗み出し、ベストセラー作家になって大もうけしようと企む。しかし、21世紀の厳しい出版界では、売れるためには話題性が必要だと言われてしまう。そこでデップーは考えた……だったら『孫子』は本当に使える本だと証明すればいい! こうして人間界とアスガルドを巻き込んだ一大戦争が始まった。果たしてデップー先生の作家デビューは成功するのか?(Amazon商品紹介より抜粋)

 

F「2015年中に終わらせるつもりでいたけど、年が明けちゃったよ! それでもめげずに続ける邦訳レビュー。今年一発目はデッドプールの兵法入門で」

S「もう終わりは見えてる感じではあるな。まあ、そっちが更新できない内に、また新刊が出る可能性も大きいけど」

F「やめて! それはそれで嬉しいけどやめて! とりあえず、この作品のポイントとしては……読んでて楽しいよな、やっぱ」

S「タイムスリップして孫武をぶっ殺して、兵法書の『孫子』奪ってきたぜ! これビジネスにも流用出来そうだし、俺ちゃんが翻訳して出版したら、めっちゃ売れるんじゃね?」

F「孫武を殺すの流れが丸々無けりゃあ、数多くの出版社でありそうなやり取りだけど。織田信長や豊臣秀吉に学ぶビジネス書を出す系の」

S「大河ドラマにかこつけての、黒田官兵衛から学ぶとかな! 今年だと、真田幸村?」

F「父親の昌幸も弟の幸村も徳川に逆らっている状況で、家を保ちつつ拡大させた真田信之の方がビジネス書的にゃあ学ぶことがあると思うんだが……でも実際このデッドプールの兵法入門、世界の兵法の根幹とも呼べる“孫子”を知るには、結構いい本だと思うのよね。歴史に名を残す多くの軍師が、孫子を基礎教養にしているからな。奇策を得意とする軍師だって、まず孫子で基本を学ぶんだぜ?」

S「アスガルドでロキの軍師となったデッドプールの兵法は、普通に孫子に則ろうとしているよな。そして、いやそれアカンから!という事をやらかして反面教師になるロキ様……」

F「この本のロキはビジュアルはレトロなオッサンロキであるものの、策略家でありながらわりと隙があって高転びもする、映画のロキ(演:トム・ヒドルストン)にキャラ造形が近い気がする。ここ数年、映画で出番の無いロキ。ロキファンのタモロスならぬロキロスを埋めてくれる作品として、このデッドプールの兵法入門とディスク・ウォーズ:アベンジャーズを薦めてみてもいいんじゃないかな!?」

S「ディスク・ウォーズのロキは、面白愉快だったからなあ……例えばこのWIKIのディスク・ウォーズの項目、かなりのリソースが“ロキ様ウォッチング”に割かれてるし」

F「ロキ様のおもしろシーン、全部で57項目! 書いた人の努力に、頭を垂れるしかないぜ。あんまりに語ると、この記事もロキ様ウォッチングになりかねないので話を兵法入門に戻すぞ。デッドプールがロキを炊きつけた結果、アスガルドで戦争が始まり、あれよあれよと言う間にニューヨークも巻き込んだロキVSヒーローの戦争が始まるわけだが……」

S「メンツがめっちゃ豪華だよな。アベンジャーズにX-MENにファンタスティック・フォーと、メジャーなチームのメンバーが勢揃いだ」

F「ナレーションで名将と称される、二人の超大物ヴィランとかもな! いやとにかく、豪華。全四話の中編で、ここまで多種多様なキャラクターが揃って、なおかつ戦争というバトルに挑む作品って、早々無いんじゃないかな。この当時本誌では色々あった(例:死亡、闇堕ち)キャラも、“こまけえことはいいんだよ!”精神で普通に参戦! これまた、アーティストのスコット・コブリッシュによるアートも良くてなあ。紙上に大戦を描ききるこの筆もまた、海外コミックスへのイメージを変える新風として紹介してもいいんじゃないかな!」

S「ふうむ、この作品、結構気に入ってる感じ?」

F「タイトルはデッドプールの兵法入門だけど、アメコミやデッドプールの入門書にしてもいいんじゃないかな。比較的安価な1400円(税別)という価格かつ、一冊で完結。多くの人が抱くデッドプールへのイメージを、全四話でまとめ切った巧みさ。入門書に求められるポイントは、抑えられている感じだな。まあ、デッドプールは元々……」

S「元々?」

F「短編や中編、読み切りが多いからな。単発的な作品は、その単体で完結するように作るのは、古今東西の創作出版物における鉄則だ。元々そうやって作られた作品を邦訳すれば数多くの人が読める作品になるのは、当然だろ? 若干形は違うものの、長編の第一話もわかりやすいな。なにせ、そこから始まるんだから」

S「なるほど。道理だ」

F「何回か口にしている道理だけどねー。でもまあ、こうしてちゃんと書いて残すのも大事よ」