日々雑談~5836~

 先日おこなわれた、プロレス四団体合同興行サイバーファイトフェスティバル。DDTやノアの選手たちが話題を提供する中、頭一つ抜けた話題性を作ってみせたのが、武藤敬司。膝を人工関節に入れ替えてから出来なくなったはずのムーンサルトプレスをついに解禁。当人は負けてベルトを落としたものの、話題性や一面ではまず勝者。今、ネットやSNS慣れしたレスラーも増えてきているけど、この武藤の自分を輝かせる才能はネット社会でも十分通じるスキルだな……。プロレスラーと言えば、他人を光らせてナンボなイメージがあるけど、武藤の場合は自分の光を相手に反射させてリングを照らすって感じだからなあ。あくまで光るのは自分。

 そして、こうして大試合でムーンサルトプレスを披露したことで、武藤のムーンサルトプレスのフリは「出せないのに出そうとする」から「いざという時は出す」に変わったわけで。ここ最近は出そうとして出せないムーブが続いてたけど、これも数をこなせば鮮度が落ちて、やがて歓声もブーイングに変わるわけで。もう出来ないのに、やるふりをずっとするってのもアレなわけで。
 でも実際こうしてムーンサルトプレスを出したことで、やるのか!? マジでやるんじゃないか!?という緊張感の付与に成功。もうこれで、一生ムーンサルトプレスを出さなくても、フリだけで客席がずっと盛り上がるって感じじゃないかな。やるのなら、ここしかない!ってタイミングでカードを切ってみせた報酬はデカいよ。

 もっとも、今の武藤の膝の状態でムーンサルトプレスをやるってのは、純粋たる無茶なんですけどね。本来ならばやってはいけないことを、やるべきタイミングでやってみせた。だからこそ、効果も意味もあったものの、リスクもまず間違いなくあった。武藤敬司は、やはりプロレスラー。そうとしか言いようのない、大会場での輝きでした。

日々雑談~5781~

 西暦2000年、プロレスリング・ノアが出来て、DDTでは蛇界転生が幅を利かせていた時代。この時代の俺が「ノアに武藤が入る」って聞いたら「マジか!?」って喜んで、「DDTに秋山が入る」と聞いたら「なんで?」ってなるだろうな。まあね、ノアに何が起こるか知らんので、無邪気に三沢と武藤の邂逅に期待するだろうしね。DDTと秋山は、どう考えてもそこに行き着かねえだろうな。頭から煙が出るくらい考えても、たぶんわからんでしょう。

 漫画界に例えたら、鳥山明がサンデーやマガジンで新連載を始めるくらいに凄いことなんだけど、プロレス界の地殻変動がいかんせん派手なせいか、驚いているけど、腰を抜かすほどにはいってない感じ。本当だったらひえええ……と椅子から崩れ落ちてもおかしくないほどの話なんだけどね。

 実際今、業界トップの新日本プロレスが自分のとこの選手とフリーや外国人のレギュラー選手で十分回せる状況なので、そりゃあ今の新日本の枠外にいるレスラーはどうするかって話よね。元新日本の武藤ですら、おそらく今の新日本の流れに無理やり入れるかと言ったら難しいでしょうしね。新日本に追いつき抜かそうとしているノア&DDTが、こうして枠外の優秀なレスラーを集めていくのは、至るための手段の一つ。追い抜こうとすることへの本気さが、今日改めて理解できたわ。

日々雑談~5763~

 よく格闘マンガにレスラーが出ると、パワーにタフさに技を受け止める精神性などが強調されるけど、これだとまだ不足してると思うんですよ。実際にプロレスを見ていると、回避した瞬間や切り返し技が炸裂した瞬間も盛り上がりの一つ。他の格闘技のように、技自体から逃げることはほぼ無いものの、無策で頑固に技を受けるわけじゃない。
 UWFの時の佐山サトル(初代タイガーマスク)は、ドロップキックを避けることや、ロープに飛ばされても跳ね返らないことで、歴史のターニングポイントとなる盛り上がりを作りましたしね。

 じゃあプロレスラーの真髄とはなんなのかというと、それは目の前の相手だけでなく、観客の目と戦っていることであり、リングだけでなく会場全体を自分の色に染めてみせることだと思うのですよ。要は、場を構築する能力。一度、自分の色に会場を染め上げてしまえば、もはやそこにあるのは勝敗を通り越した主演劇場。勝敗より何より、染め上げた人間のことしか覚えてない。お前の色には染めさせないと、互いがぶつかり合った結果の極彩色こそリングの華です。

 グラップラー刃牙の刃牙対猪狩は、刃牙が猪狩から観客をも奪い取ったことで決着へと繋がった。ケンガンアシュラの関林の試合は、まず鬼王山戦では自分の信念で打ち勝ち、次のムテバ戦では負けたものの、試合自体は関林が引っ張っていき、勝者であるムテバも関林とプロレスに感服することとなった。
 格闘マンガにおけるプロレスラー絡みの名試合には、必ず場の空気と言っていいものが存在し、勝敗を越えた何かがある。今回のフルメタルジャケッツVSオメガ・グロリアスの試合も、このような場を意識できる試合でした。

 片方がすべてを飲み込んだ試合としては、グレート・ムタ対小川直也も挙げたいよね。デビューしたばかりの小川直也が、ムタに黒帯で首を絞められ、毒霧をくらい、プロレスの魔界に飲み込まれていく試合だったから。あの試合を思い出そうとしても、ムタが攻めてるシーンしか思い出せない。自分の色に染め上げることにかけて、天才なのが武藤敬司であってムタ。武藤の名試合は数え切れないけど、武藤の色と混ざり合う域にまで達しているレスラーは少数。いい試合だったのに、武藤のことしか覚えてねえ。こんなことが出来てしまうのが、極光たる武藤敬司ですよ。

 今回のアタル兄さんも、自分の色で染め上げる点においては武藤敬司の域でした。もうすでに道を間違ってしまったと自覚していたアリステラからしてみれば、スグルよりアタルの方が良かったのでは。漫画としての勝敗、プロレスとしての色の争い、どちらも並行しておこなっているんだから、今のキン肉マンはスゲエよ……。この感覚が、染められたってことなんだろうな。