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漆黒の幻夢〜中〜

「ライドロン……お前は俺になにを見せたいんだ」
 かつての自分である仮面ライダーBLACKに完敗した、仮面ライダーBLACKRX南光太郎。そんな彼を生命ある車ライドロンは喫茶タントラへと案内した。
まだ光太郎がBLACKであった頃、心の拠り所としていた喫茶タントラ。そして全ての戦いが終わった後、自分が全てを失った事を思い知らされた喫茶タントラ。RXとなってから、否、喪失の虚無感から放浪を始めた時から関わりを断っていた場所。
何故自分をここに連れてきたのか、ライドロンに答える言葉は無かった。

 かつてゴルゴムが基地としていた洞窟。ゴルゴム全盛期には数々の怪人が集い、それぞれの目標に向け活動していた。日本征服、打倒裏切りの世紀王、三神官からの指令、それぞれがゴルゴムの繁栄の為に嬉々として動いていた。
 だが、今この基地に居る怪人は独りきり。所々が苔むし、辺りには腐臭が漂う。もはやゴルゴムの命運と共にこの洞窟も死を迎えていた。
 基地の中央にある岩造りの椅子に腰掛け、独り黙するブラック。かつての繁栄の記憶をかみ締めているのか、スペック的には遥かに上のRXを倒した感動に打ち震えているのか、それともこれから先の行動について考えているのか、漆黒のその顔からそれを窺い知る事は出来なかった。
 突如放たれた光線が、思考にふける彼を急襲した。光線は鞭のようにしなり、ブラックを完全に拘束する。放たれる電撃がブラックに苦悶の声をあげさせた。
「かつてブラックを捕らえた光線の味はどう?」
 怪魔妖族大隊・諜報参謀マリバロン 。
「その光線には変身を解除させる力がある」
 怪魔ロボット大隊・機甲隊長ガテゾーン
「所詮は過去の遺物である世紀王。我らの科学力には逆らえまい」
 怪魔獣人大隊・海兵隊長ボスガン。
「ケケケ、おとなしく観念しろ!」
 怪魔異生獣大隊・牙隊長ゲドリアン。
 クライシス帝国の怪人四軍団の長の四人が勢ぞろいしていた。その背後には戦闘員チャップだけでなく、かつてブラック捕獲作戦を成功させた黒衣の死神の姿を持ったスカル魔たちも控えている。
「よくもやってくれたなあ、キサマのせいで作戦は台無しよ」
 ブラックを蹴飛ばし、怒るゲドリアン。RX打倒のついでにブラックが潰したクライシスの作戦は怪魔異生獣主導で行われていたのだろう。そんな彼を他の三隊長が押しとどめた。
「待てゲドリアン。俺たちはそんなことをする為に雁首そろ得たわけじゃねえ」
「本来ならば即処刑のところだが、良い話を持ってきた。どうだ? クライシス帝国に入らんか」
「地球制圧後にはクライシスがゴルゴムの復活を支援しましょう」
「ククク……ハハハー!!」
 三軍団長からの勧誘をブラックは笑い飛ばした。
「な、なにがおかしい!?」
「ククク、イイノカヨ。オレガクライシスニハイッタラ、オマエラダレカガコウカクダゼ?」
「なッ……!!」
「オレヲリヨウスルキダロ。オレハシャドームーンヨリハレイセイダゼ?」 
 かつてクライシスはもう一人の世紀王シャドームーンを打倒RXの切り札として招聘したことがある。RXへの恨みだけで動いていた彼はRXを後一歩のところまで追い詰めるが、功を取られる事の焦りからの四長官の妨害によりそれは叶わなかった。
「言わせておけば、光線の出力を上げろ!」
 光線が輝きを増し、電流が辺りにほとばしる。光線から放たれる電撃にブラックの体は完全に呑まれてしまった。
「ケケケ、だから言っただろう。はじめからこうすればよかっゲホッ!」
 嗤うゲドリアンの腹にめり込む拳。光線から脱出したブラックの攻撃は生命力では最高クラスの怪魔異生獣の隊長の意識を断ち切った。
「ば、馬鹿な! 南光太郎でさえ逃れられなかったのだぞ!?」
「オレハミナミコウタロウジャネエヨ」
「そうか、貴様の正体は……!」
 そこにいたのはブラックではなかった。似ているが、色は黒から緑へ、細部の装飾はより一層生物的な物へと。その姿は仮面ライダーではなく、怪人に近くなっていた。アレはブラックを拘束するための光線、怪人を拘束するための光線ではない。
 仮面ライダーブラックの変身は二段変身だった。南光太郎は変身のポーズをとる事でバッタ男へと変身し、その後全身に強化皮膚・リプラスフォームをまとう事で仮面ライダーブラックへと進化していた。
 南光太郎の第一段階の変身バッタ男、バッタ男のモデルとなった実験体の怪人、それがこの偽ブラックの正体であった。ゴルゴム壊滅後に冬眠から覚めたバッタ怪人は、実験用のキングストーンを使いブラックへと進化を遂げたのだ。
「どけ、マリバロン! ボスガン!」
 ガデゾーンのショットガンが火を噴く。散弾を転がり避けるバッタ怪人、鎌を振りかざしたスカル魔が彼めがけおそいかかる。スカル魔の鎌を叩き落し、胸倉を掴むバッタ怪人。ショットガンの二射目が放たれたのは直後、スカル魔の体を盾としバッタ怪人は銃弾を完全に防いだ。動かなくなったスカル魔の体を投げ捨て、バッタ怪人は跳躍、ライダーキックを模した飛び蹴りをガデゾーンに炸裂させる。ガデゾーンは体を捻り直撃を避けたがショットガンごと右腕を破壊されてしまう。暴発したショットガンの弾が光線照射装置を持つチャップを直撃した。
「ヘンシン!」
 ガデゾーンを突き飛ばしたバッタ怪人は再びブラックへと変身する。
「オボエテオケ、クライシス! RXヲタオシ、オレハブラックサントシテセイキオウ、イヤ、ソウセイオウニナル。ソウセイオウハキサマラノソンザイヲユルサナイ!!」
 言うや否やブラックはチャップやスカル魔を蹴散らし洞窟の外へと駆け出す。無防備な背中をチャップ達がマシンガンで狙うが、全て避けられてしまった。完全逃走、敗北感に打ちしひがれる四隊長の背後からさらにそれを増幅させる男が姿を現した。
「やれやれ、四人揃ってこの体たらくとは。皇帝になんと報告すればよいものやら」
 査察官ダスマダー大佐。クライシス皇帝直径の部下であり、地球制圧作戦を指揮するジャーク将軍にも厚顔不遜。むしろ制圧作戦が遅々として進まない事から、ジャーク将軍を見下している。当然、ジャーク将軍の部下である四隊長は彼を嫌っている。
「ダスマダー! 貴様来ていたのか」
「当然。全ての作戦の査察が私の任務なのだからな」
「ならば……」
「手伝って欲しかったのか? この私に」
「ぬ……」
 この場に、この男に協力して欲しいと思う人間なぞ誰一人居るものか。それを見越して言っているのだから、この男存外にタチが悪い。
「全く、ジャークもくだらぬ手を考える。所詮は過去の組織の遺物に頼ることが間違っているのだ。RXとブラック、どちらが勝つかはわからぬが」
 脇に携えた刀を抜き放ち一閃するダスマダー。先程までブラックが腰掛けて居た岩の椅子が、真っ二つに割れた。
「仮面ライダーは――敵だ!」


 平穏な街、ゴルゴムの侵攻はもはや過去の話、クライシスは最近この辺りには姿を見せていない。人々が平和を謳歌する彼らを許さぬ存在は居た。
 高層ビルが大爆発を起こし、それを発火点とし次々に建物が爆発四散する。人々が瓦礫の雨から逃げ惑う中、悠然と歩くブラック。その歩く先に泣き叫ぶ子供が居た。
「わー! おがあざーん!!」
 子供の目の前には瓦礫に半身を埋めた女性が居た。きっと彼女が子供の母親なのだろう。ブラックは瓦礫に近づき、両腕で巨大な瓦礫を持ち上げた。子供が呆然としてブラックを見つめる、
「あ、ありがとう……」
 子供の感謝の言葉に対して、ブラックは確かに嗤った。
 放り投げられる瓦礫、瓦礫は逃げ惑う人々へ襲い掛かる。幾人かの人々が瓦礫に押しつぶされた。
「ひぃ!?」
 気絶した母親に駆け寄る子供、ここから逃げようとせんと母親を起こそうとするが母親は動かない。そんな二人を見下ろす、仁王立ちのブラック。ブラックの拳は、赤く輝いていた。
 親子めがけ振り下ろされる拳、そして狂気の拳を受け止める黒色の掌。待ち人が来たと掌の主を見た瞬間、ブラックの顔は凍りついた。
「バ、バカナ!? ナゼキサマガ!?」
「……俺は捨てたわけじゃない、この姿での戦いの全てを背負い続けていたんだ」
 それは合わせ鏡か。RXではなくBLACK、ブラックの拳を受け止めたのは同じ姿形のブラックだった。その声は、間違いなく南光太郎。二人目の偽者などでは到底無い、このブラックは間違いなく本物のブラックサンだ。
 偽ブラックは急いでその場から一歩退く、親子を護る様に偽者と対峙するブラック。
「ブラックサンの名が欲しければくれてやる、だが――仮面ライダーBLACKの誇り、悲しみ、罪、これは貴様には決して背負えん!!」
 過去と現在の戦いの第二ラウンド。否、偽造された過去と過去の全てを受け入れた現在の戦いが始まった。

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