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小説

ガクエンナナフシギ

 始まりは、いつも通り唐突だった。それは、ある日の放課後のこと。
 帰り支度をする僕に、先輩が話しかけてきた所からだ。
「この学校にはね、七不思議がないのよ!」
 勢いある先輩に気圧された僕は、「はあ」と気のない返事をするしかなく。
「全く、最近の子は、覇気がないわね。いい? 七不思議と言えば学校、学校といえば七不思議。あってしかるべきものなのよ」
 先輩のポニーテールが、フン!という鼻息に合わせ揺れている。覇気云々に関しては全く返す言葉がない。女性である先輩にこう言われるのは、男としてちと情けないが。
「そう言われても、心当たりが無いんです」
「心当りがないなら、心当たりがありそうな人に聞けばいい。鉄則ね」
「鉄則ですか」
「そう、鉄則。先人の知恵。この学校の卒業生にでも、聞いてみなさい。七不思議があるかどうかってね。今はないけど、昔はあった筈だから」
 所謂学校の怪談というのがブームになった時期もあると聞くし、そりゃあったのだろう。今はあまり流行りではないし、僕も知らないけど。
「じゃあね。七不思議を知ったら、みんなに教えなさいね。人の口端に登ってからじゃないと、価値がないんだから」
 先輩は、好き勝手なことを言って去って行ってしまった。七不思議ねえ。この学校に以前居て、そういうことに詳しそうな人が近くに居るなら、聞いてみてもいいかもしれないな。


「七不思議? なんだ、今の学校はそういうの無いんだ。昔は七つどころか八つはあったわよ」
 そういうことに詳しそうな人間に、帰宅してそうそう話を持ちかけてみたら、えらく乗り気であった。自分の椅子と対面の椅子を引き、前のめりで席に座る。これはもう、付き合うしかあるまい。覚悟を決めて、対面の席に腰掛ける。
 かつての卒業生であり、そういう話に詳しそうな人間。それは実の姉であった。

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???

 夜のニューヨークを、赤が跳び回る。
 舌打ち。歓声。つばを吐く。手を振る。
 見た人間のリアクションは様々であったが、誰もが彼から目を離せなかった。摩天楼を跳び回る、自称貴方の親しき隣人。スパイダーマンは今日もNYを跳び回っていた。サイレンを鳴らすパトカーを、ウェブスイングで追い越す。
「お先にー。頭上の失礼、彼らは僕が捕まえておくから勘弁して欲しいな」
 スパイダーマンも警察も、同じ車を追跡していた。
 真昼の銀行に真正面から装甲車で乗り付け、金庫の中身全てを奪っていった銀行強盗団、その名をシニスターシックス。
 シニスターシックスがスパイダーマンを恨む最強の敵が組んだ巨悪の集団、だったのは昔の話。今は、衝撃を操るショッカー、飛行可能なコスチュームを着たビートル、高速で走るスピードデーモン、ブーメランの妙手であるそのものズバリなブーメランといった、多少路線が変わった悪のチームとなっている。身近というか、微妙というか。
 そして今回の犯罪に使われた装甲車を作り上げたのは、どんな乗り物でも容易に改造してしまうオーバードライブ。以上5名が、現在のシニスターシックスである。なお、シックスなのにメンバーが5人なのは「一人足りないほうが、最後の一人は誰なんだ!?って想像を膨らませられるだろ? ひょっとして最後のメンバーはドクター・ドゥーム!? ドーマムゥ!?なんてさ」という、彼らなりのイメージ戦略の結果である。決して、決してメンバーが見つからなかったわけではない。
「さて、スパイダートレイサーの反応はと。ああ、そこの角の先で止まっている。ひょっとして、発信機を捨てられた? それとも待ちぶせか」
 警察を随分と追い越したスパイダーマンは、スイングの最後に大きく飛ぶと、ひび割れた古いアスファルトに着地した。何が起こってもいいよう、構えもしっかりとっている。
「注意しておいて、悪いことはない。なら待ち伏せのつもりで! さあ来い、シニスターファイブ!?」
 角を曲がった先の光景を見て、絶句するスパイダーマン。何が起こっていいと身構えてはいたが、この状況は、予想だにしなかった。
 裏道へと繋がる、人通りの元来少ない通り。キルト製のコスチュームの至るところが食いちぎられているショッカー。傾いた街灯に引っかかっているビートル。壁にめり込んでいるスピードデーモン。自身のブーメランで地面に縫い付けられているブーメラン。ロープで縛られ転がっているオーバードライブ。戦闘能力を失ったシニスターシックスを、真っ二つに寸断された装甲車から出た炎が照らしていた。
「凄いな、色々と。でも誰が?」
 確かに最近(笑)な扱いを受けているシニスターシックスだが、決して弱いわけではない。性根が三下気味なだけで、今のメンバーも能力的には十分な物を持っている。ぽっと出の新人が、こうして無残に叩きのめせる存在ではないのだ。そして、見事に二つに割れた装甲車。対超人用の対策が施されているであろう装甲車を、ああも見事に斬れる能力者。ついでに、ショッカーのコスチュームの惨状からして、鋭い牙も持つヒーロー。顔の広いスパイダーマンでも、心当たりの無い存在だった。
「ば、バケモノだ……トカゲのバケモノだ……」
 衝撃吸収用のコスチュームの至るところがほころんでいるショッカーが、うわ言のように何やら呟いている。
「え? リザードにやられたのかい? 君たち」
「ち、違う。もっと、スマートで、マダラで、あんなの見たことが……無い。車で猫を跳ねそうになった次の瞬間、ビルの上から降ってきて、ベルトが光ったかと思ったら、あっという間に俺たちシニスターを……!」
 これだけ言って、ショッカーは意識を失う。コスチュームは大惨事だが、ショッカーの身体自体にはあまり外傷は無かった。
「ああもう、警察につき出す前におしえてもらうよ? 君たちは、いったい、誰に、やられたんだ!」
 意識があるのだろう。ピクピクと若干動いている他のメンバー全員に聞こえる大声で、スパイダーマンは尋ねた。
「強くて……」
「ハダカで……」
「速い……」
「奴……!」
 全員がそれぞれ一言だけ言った所で、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 何もしないまま片付いたのはいいが、どうにも釈然としない。スパイダーマンは、マスクの上からポリポリと頬をかく。
「つまり、ケイザーみたいな裸の野生児で、リザードとは違ったトカゲ? よく分かんないけど、そのコンクリートジャングルにやってきたターザンに一度会って、お礼を言いたいね。手間を省いてくれたわけだし」
 このスパイダーマンの願いは、やがて数日後、思いもよらぬ形で叶うこととなる。新たなトモダチとして、新たなフレンズとして――。

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うかんじゅ

 昔一度、この家に来た時はもっと綺麗だった。こんな風に、庭が雑草で埋まっていたりはしないし、散水用の蛇口も錆びていなかった。
 駆けまわるのに不自由しない広い庭、今だけではなく数十年後のことも考えた間取りの邸宅、駅にも学校にもスーパーと生活に必要な物は徒歩圏内にある立地、たとえ主の人となりを知らずとも、家族への深い思いが伝わってくる家だ。
 かつてこの家に住んでいたのは父親と妻と息子、そしてペット一匹。今住んでいるのは、以前と同じ父親と同じペット、もとい父親と一匹の息子だ。
 ため息を隠さず、玄関の戸を開ける。中では既に、スタッフが忙しなく働いていた。作業服の人間が駆け回っているだけで、考えぬいて作られたファミリー住宅が、一気に非現実的なセットか何かに見えてくる。
「一階の調査終わりました」
 女性スタッフの一人が、声をかけてきた。
「ああ。そう」
「……」
 気のない返事を聞いた彼女は、少しだけ不機嫌そうな顔をしたまま動かなくなった。
「?」
「指示をお願いしたいのですが」
「ああ、そういえばそうだった」
 責任者は、今日から自分になったのだった。寝室に繋がるふすまを手荒く開ける。主の寝室に引かれた布団の上に、大きな卵が転がっていた。
「この卵、どうしますか?」
 かつての責任者、自分の上司でもあった男の卵を、彼女は汚物を見るような眼で見つめていた。
「いや。ちょっとこのままにしておいてくれ」
 家族が居る限り、自分が美少女の誘惑に転ぶことはない。息子が連れ去られ、妻が自殺して、残った犬を家族と思い込んでいた上司。
 ちなみに現在、犬は行方不明。このように、家族が行方しれずの状態で父親が美少女の誘いに乗るかと言われると……結構誘いに乗った事案が多いのはさて置いて。性欲を完全に家族愛に置き換えていた狂人がこの状況でなびくとは到底思えない。
 家の獣臭に、糞の状態から見て、犬が居なくなってから、そんなに時は経っていない。家族の長い不在から心身衰弱で魔が差す段階とは言えないだろう。
 いったい何故上司は、誘惑に負け卵になってしまったのか。それを知ることは、残されてしまった者の義務に思えた。

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二択

「今のところ、君が唯一の存在だ。君が話すことにより、我々は知ることが出来る」
「はい。終わったら帰していただけるのですね?」
「君は、繭の中で何を見たのかね。繭になり融け合う寸前で救助、帰らずの卵の中に最も近づいたのは君だ」
「救助? 救助?」
「すまない。邪魔だね、邪魔。我々は、君達の邪魔をしてしまった。君は一体、彼女と溶け合い、どんな物を見た?」
「特に、変なもんなんか見てないですよ。普通の街でした」
「街?」
「ええ。彼女が居る、普通の街です。ああでも、みんな生き生きしてましたね。ごめんなさい、間違えました。理想の街です。みんな僕を笑顔で笑顔で迎えてくれて、彼女と同じくらい可愛い子ばかりで、色彩も豊かで。ねえ、僕言いましたよ、見た物。いつ帰してもらえるんですか?」
「そのうちだよ、そのうち」
「ですからいつですか? いつですか? 置いて行かないでくださいよ、ちょっと?」

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終末デート

 彼女の翠色の瞳は、見入るしか無い美しさがあった。
 頼りなさではなく、繊細と呼ぶべき肢体。人工色ではない、ごく自然な紅い髪。月明かりを僅かに弾き返す白い肌。そんな女性が、疲れ果て帰ってきた自分の寝床で待っている。電灯を付けず、月光を灯りとして。
「……する?」
 声も良い。乞うているのに上品、そんな矛盾をすんなり飲み込めてしまう。男として、下品に奮い立ってしまいそうな。
 ああ、もう。仕方がない。こうも状況が整えば、仕方がないのだ。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜6〜

 金霊が爆発した後、一枚の十円玉がころんと地面に転がった。
「うっう、こりゃあたまらん、山にでも逃げ込むか」
 この十円玉サイズこそが本来の金霊の大きさであった。妖力で身体を膨張していたものの、霊夢と鬼太郎との戦いで全て妖力を使い果たし、こうして元のサイズに戻ってしまったのだ。
 ふわふわ浮いて逃げようとする金霊の前を白魚のような指が通せんぼした。
「山は山で危険だから、オススメできないわよ?」
 大きな傘が、ふわりと揺れる。彼女の雰囲気もまた軽く。幻想郷の賢者であり、鬼太郎を幻想郷に引き込んだ張本人である、八雲紫がついに姿を表した。紫は金霊の返事を待たずに、一枚の十円玉を金霊の前に置く。
「なんなんだいったい。ぬ? コレは」
 十円玉の身体を持つ金霊と、ただの十円玉、まるで合わせ鏡のようになるはずであったが、そうはならなかった。
 金霊に比べて、この十円玉は少しシャープだ。デザインの意匠も微妙に異なっており、よく見れば全く別物であるという事が分かる。
「コレは、いま現在外の世界で流通している十円玉よ」
「なんだと? そんなバカな。なら、このワシの体と違うのはどうしてだ?」
「それは、貴方が幻想郷の金霊だからですわ。幻想郷は、幻想となったモノが行き着く場所。不要な物が行き着く場所。ここに来たという事は即ち」
 金霊にとって、紫の言葉は死刑宣告に聞こえた。
 気付いてしまったのだ、硬貨は時代と共に移ろい、変わっていく事に。幻想郷に自分が居て、外の世界の硬貨と形が違う。それは即ち。
「ワシに、もう金としての価値はないと言う事か……」
 今頃目玉の親父と鬼太郎も気がついているはずだ。弾幕に使われた硬貨や紙幣が、全て古い物であると言うことに。
 金として流通しなくなった金銭の集合体が、この金霊の正体であった。外の世界には、今の金を司る別の金霊が居る。もとより、結界を破って外に出てもこの金霊に、神としての価値も無かったのだ。
「残念だけど、それは違うわね」
 当の死刑執行人が、金霊が辿り着いた結論を否定した。
「価値が無いのは外の世界での話。幻想郷と外の世界は違うもの。それになにより、価値無きものを価値無しと蔑むのであれば、幻想郷自体に価値が無くなる。それに、幻想郷にも金銭の概念はあるのだから。外の世界に比べれば、微々たる欲だとしても」
 紫はにっこりと、包容力の有る笑みを浮かべた。魔性寸前の、優しい笑みを。
「ゆっくりしましょう? ここはアンニュイが許される空間、急ぐ事は無いんですから」
 金霊は紫の笑みと言葉だけで、救われた気持ちになった。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜5〜

 四匹の妖怪が負けたのを見て、コッソリと動く影があった。
「逃がさないわよ、当然」
「うへぇ〜〜」
 金庫を大事そうに抱えて逃げようとしたネズミ男の前に霊夢が立ちはだかる。
「か、かんべんしてくれえ、俺ぁ何もシラネえよ」
「そんな道理は外でもここでも通らない。さて、まずはその金庫を置いてじっくりと話しましょうか」
 有無も言わさぬ迫力の霊夢に気圧され、ネズミはしゅんと頭を下げる。が、それも一瞬。逆に開き直ったかのように胸を張る。
「へへっ、なあ巫女サン。この界隈では、弾幕勝負で勝てば、ある程度の事は見逃してもらえるんだよな」
「まあ、だいたいはね。実力主義だから。でも、アンタは弾幕どころの妖怪じゃないでしょ」
 ネズミ男の場合、空を飛ぶ以前の問題だ。
「いやあ、弾幕はできねえんだけど」
 ネズミ男は振り向き、尻を霊夢に向ける。ネズミ男の尻から全てを吹き飛ばす勢いで、屁が放射される。風圧と臭いにやられ、霊夢も思わずひっくり返った。
「煙幕は出せるんだワ、それじゃああばよーっと」
 ネズミ男は霊夢がやられたスキに、逃走した。霊夢も追おうとするが、鼻をやられてしまい、思うように動けない。
「待ちなさ、ゲホゲホッ。何食えばこんな臭い出せるのよ、鈴蘭の毒よりキクわ……」
「大丈夫ですか、霊夢サン」
 遅ればせながら鬼太郎がやってくる。
「ネズミ男の屁は科学兵器ですからね。失神しなかっただけマシですよ。それに、下手に触るとノミやシラミが移りますからね」
「なんて危険な妖怪。なんかもう真相とかどうでもいいから、幻想郷から出て行って欲しいわ」
 少女たちにとってネズミ男は天敵に等しかった。最も、ノミやシラミはリグルが居れば大丈夫であろうが。
「まあ、身内の恥なんで、ヤツは僕が捕まえますよ」
 鬼太郎がそう言った時、ネズミ男が逃げ出したとき以上の速度で戻ってきた。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜4〜

 ゲタに案内されたのは、人里と森の境目にある倉庫であった。
「洋館、お屋敷二回に神社と来て、今度はこのボロい倉庫ねえ。どうもたいしたヤツがいそうにないわ」
「巫女殿静かに。敵に見つかってしまうぞい」
 目玉の親父と霊夢は屋根に陣取り天窓からこっそり工場の中を覗いている。ゲタは大人しくなったので、とりあえず霊夢が持っている。現在工場はゆっくりと稼働中であった。
「ねえねえマネージャー」
 ノルマをこなしヒマそうなチルノがネズミ男に声をかける。
「あんだい」
「アタイ、もっと外の妖怪とやりあいたいんだけど。そうすれば外の世界でも、アタイのさいきょーさが有名になるじゃない。この間のきたろーってゆうのも弱かったし」
「我慢しろい。アイツを倒したら、子泣きや砂かけが押しかけてくるのがお約束。待てばそのうち来るさ」
 鬼太郎がやられて仲間が押しかけてくるのは王道であった。
「くぅ、まさか鬼太郎がやられているとは」
 天窓に張り付いている親父が嘆く。
「やられたって、あの工場に居るのはチルノとリグルとミスティアとルーミアと雑魚軍団と、それにネズミ男ってやつだけなんだけど。ネズミ男って強いの? ウチのネズミとは、随分タイプが違うみたいだけど」
「んにゃ。妖怪未満人間未満のダメなヤツじゃが」
「あのバカルテットも所詮前座のボスなんだけど……。いや、けっこう強いって聞いてたのに、アレに負ける鬼太郎さんって」
 ハードならともかく、イージーで彼女らに負けるシューターは余程シューティングが苦手だ。それはさておき。
「あせっちゃダメだよ、チルノ」
「そうそう、それにまだ大事な奴を忘れているわ」
「……そうだよ」
 リグル、ミスティア、ルーミアの三人もヒマなのか話に参加してくるが、どうもルーミアの様子がおかしい。
「ちょっと、大丈夫なのルーミア? なんかアンタ元気ないわよ」
 いつもは食物連鎖の下に居るミスティアも、ルーミアを心配する。
「うん、だいじょうぶだよ、みすちー。なんならその翼をひとくちで」
「ああ、それだけ元気があれば大丈夫ね! てーか元気でも何でもヒトの翼を食おうとするな! 絶対に食おうとしないでよ!」
「えーと、ネタフリなのか?」
「違うー!」
「アレは置いていて、なんだよリグル。もしかして、幻想郷にも正義の妖怪がいるのかよ」
 やいのやいの始めた二人を放っておいて、ネズミ男が正義への煙たさを隠さず。リグルに尋ねる。
「妖怪じゃないけど、幻想郷にもトラブルの解決屋がいてね。霊夢って巫女だよ」
「巫女? まさかヒ一族じゃねえだろうな」
 ヒ一族とは、妖怪の天敵と呼ばれる一族の事だ。一時外の妖怪は彼らに絶滅寸前まで追い込まれた。
「たぶん違うと思うけど、なんかトラブルがあると首を突っ込んできて、よけいに騒動を大きくするんだ。私たちなんか騒動と関係ないのに、巫女の通り道にいたってだけで、ボコボコにされたし」
「カーッ、そりゃまたロクでもねえのがいるなあ。それじゃ正義の味方どころか通り魔ヨ」
 ピシリと、天窓のガラスにヒビが入った。
「待て巫女どの、落ち着くんじゃ!」
「ふふふ、リグルきゅんもずいぶん言うようになったわねぇ……」
 ビシビシと妖気をこえる殺気が空気を震わしている。どうやれば人間がこんな気を出せるのか。
「まーつまりレイムは、空気が読めないバカなのさ」
 チルノが霊夢をバカにした途端、工場の屋根が爆風と共にはじけとんだ。
「な、ななななななぁ!?」
 逃げ惑うネズミ男の視線に入ってきたのは、まさに鬼。屋根の残骸の上にゆっくりと降り立つ霊夢が彼にはそうとしか見えなかった。
「よりによってにバカにされちゃあ、さすがに黙っていられないわよねぇ?」
 瓦礫を蹴り飛ばし、ゆっくりと霊夢が降りてくる。バカルテットとネズミ男にできる事は怯える事のみだった。
「なんなんだよコイツは、ヒ一族よりヒデえ……」
「オイ、ネズミ男! おぬし鬼太郎をどうした!」
 霊夢の巫女服にある脇の切れ目から、目玉の親父が這い出て来た。
「ああん? 親父も来てんのかよ。ああ、そうだよ、鬼太郎はな、ここにいる四人の先生方に氷漬けにされて川に流されたよ。そうだよな、ルーミアよ」
「う、うん」
 ネズミ男の問いかけに、未だに様子のおかしままのルーミアはなんとか首を縦に振る。
 そんなおかしいルーミアを見逃さないモノが居た。
 鬼太郎のゲタが、突如勢いを取り戻しルーミアめがけ襲い掛かる、不意打ちの一撃は、ルーミアの腹に直撃した。痛みのせいか、ルーミアが腹を抑えうずくまる。
「ちょ、ルーミア!? 霊夢、あんた相変わらず極悪非道の巫女ね!」
「ちょっと待った、今のは私じゃないわ。ゲタが勝手に」
「このばかー! ゲタがかってに動くわけないだろ、このバーカ!」
 どさくさまぎれにエラくチルノが調子に乗っている。
 うずくまったままのルーミアは本当に苦しそうだ。うずくまったまま、痙攣している。
「ちょ、これ本気でやばいよ!」
「ルーミア、大丈夫!? 何処が痛い!?」
「お腹が、お腹がいたいよぉ……」
 すぅっと、ルーミアの口から白色の気体が漏れてきた。気体は途切れることなく続き、やがて集まり人型を象っていく。
 少女の痛みは、下駄の外傷ではなく、腹の内部にあった。
「ちょ、ルーミア。あんたなに食ったのよ!?」
 それは所謂、食あたり。
「まさか! オメエひょっとして、氷の鬼太郎を食ったな!?」
 白色の気体に色がつく。それは、黄色と黒の縞模様。続いて肌色に青色と、気体はどんどん人らしくなっていく。最後にゲタが、久しい主の下へ嬉々として戻った。
「助かったよ、その子の食い意地がはっていて。カキ氷機に身体をかけられたときは死ぬかと思ったけど」
 ゲゲゲの鬼太郎は易く復活を遂げた。
 様々な特殊能力が鬼太郎にはあるが、まず恐ろしいのは、この殺しても死なない生命力だ。
「鬼太郎―!」
 親父はすばしっこく鬼太郎の身体を駆け上がり、頭の上のいつもの定位置へと着いた
「あっ、父さん。あれ? そこの巫女さんは?」
「うむこの方は博麗霊夢と言ってな、カクカクシカジカ」
 親父から霊夢や現状に関してのだいたいの説明を受けた鬼太郎は、まず霊夢に一礼した。
「ありがとうございます。父さんをここに連れてきてもらって」
「どういたしまして」
「ついでにもう一つお願いがあるんですが」
「いいわよ。もう何か分かっているから、譲るわよ」
 まあ、たぶん前評判からいってやりすぎる事はないだろう。わざわざ彼にスペルカードルールを教えるのも面倒だなと、霊夢は判断した。スポーツライクにスペルカードで争ってもらうのが一番だとしても、飛べないんじゃしょうがない。
 あっさりと霊夢は退き、代わりに鬼太郎が五人の妖怪の前に立ちはだかる。いや直ぐに四人の妖怪になった。ネズミ男は既に逃げ出している。逃げ足だけで言うなら、幻想郷のネズミより上かもしれない。
「さて四人とも、もう一回僕と勝負してもらおうか」
 鬼太郎は、高らかにそう宣言した。
「ふっ、さっきあそこまでギタンギタンにやられていて、いいどきょーだ。リグル、みすちー、また痛めつけてやろうよ」
「そうだね、一度勝ったんだから、二度はあるよね」
「ルーミアはちょっと休んでなさい。まだお腹痛いでしょ」
「ごめんみすちー……」
 とりあえずルーミアが下がって、残りの三人が鬼太郎に立ちはだかる。
 幻想郷の妖怪VS外の妖怪の血戦が、再び始まろうとしていた。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜3〜

 所変わって外の世界。
「ううむ、たしかこの辺りのハズじゃったか」
カラスに乗って目的地へと向う、目玉の親父。しかしどうにもスピードが出ない。よろよろと飛んでいる。
「コレ、もっとスピードを出さんか」
 カーとカラスは応えるが、一向にスピードの出る気配は無かった。全ての能力が、ただのカラスより上の化けガラスであるが、
自分より一回り小さいゲタを背負ってでは、いくらなんでもスピードが出ない。
「くぅ、こんな時に限って一反木綿が里帰りしておるとは」
 鬼太郎親子の足兼飛行手段となってくれる、布妖怪一反木綿は地元の九州に帰省していた。しかも敬老会の旅行で子泣き爺と砂かけババアも不在、ぬりかべは葡萄を食べに行ったまま行方知れず、ネコ娘はバイトで遠出と、普段頼りにする仲間の妖怪は皆運悪く不在であった。
「お、あそこじゃ。あそこに降りてくれ」
 山間の一角にある寂れた神社を見つけると、親父はそこへと降り立つ。寂れに相応しく、神社には一切人の気配が無かった。
「ふむ、間違いない。この博麗神社こそが幻想郷への入り口じゃ」
 幻想郷と現世の境目に存在する博麗神社。外の世界から見るとただの無人の寂れた神社にしか見えない。しかし、見るべきものが見れば、ここが幻への入り口であることが分かるのだ。
「おおーい、誰かおらんかぁ」
 親父が叫んでも、やはりなんの気配も無かった。しかし、社の扉が声に応えるかのごとくゆっくりと開く。そしてその緩慢さが擬態だったかのように、強烈な吸い込みを見せた。
「ひゃぁぁぁぁ」
「カー!」
 社はカラスごと目玉の親父を飲み込むと、素早くパタンと扉を閉めた。後に残るのはただ静寂、吸い込みの際に散らされた一枚の葉がゆっくりと参道に落ちた。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜2〜

 幻想郷の森の片隅と人間の郷の片隅の間にある、大きな倉庫。誰かが何かしようと作ったのだろうが、頓挫したのか倉庫は長年空き廃屋寸前の建物と化していた。しかも森の木々に覆われたせいで、人間どころか森の妖怪でさえ存在を忘れかけている。だがこの建物は今、廃屋という呼び名を捨て、新たに工場という名の意味を獲得していた。


 えっちらおっちらと荷物を運ぶ毛玉から荷物を受け取った妖精が適当に箱詰めする。ちゃんときっちり箱詰めとかは無理だ。働いているだけ奇跡なのだから。他にも虫たちがベルトコンベアのように列を作り、大きい荷物を運んでいる。
「意外となんとかなるものだね」
 腕に『工じょう長』の腕章をつけたリグル。惜しい事に『場』の字だけ書けなかったらしい。
「そうね、はじめに聞いたときは夢物語と思ってたけど、やってみる物よね」
 『工場超』の腕章をつけているのはミスティアだ。全て漢字で書いてみたが、『長』の字を間違ってしまったようだ。
「そうなのだー」
 『こうじょうちょう』と無駄に背伸びしていない、ひらがなオンリーの腕章をつけているのはルーミア。出来立てホヤホヤの蒲焼をこっそりと頂戴している。
「ふっ、これでアタイ達は他の妖怪を差し置いて名実共にさいきょーの座に付くワケなのさ。けーざいりょくという力を手に入れることでアタイのさいきょーを疑うヤツもいなくなるはず」
『こうじようちよお』と書かれた腕章を付けて胸をはるのはチルノ。ひらがなは書けても小文字は書けない辺り、他の三人を二馬身ほどぶっちぎっている。微妙に読みにくいし。むしろひらがなをちゃんと書けただけでも奇跡か。流石は女王の貫禄だ、バカの。
「まー確かにねえ、経済力があれば、気兼ねなく歌えて、毎晩捕食者に怯えずぐっすり寝られるおうちが建てられるものね」
「かわしそうな、みすちー。なら私が泊り込みで守ってあげるよ」
「アンタ入れたら、おうちの意味が無いでしょーが!」
 そそそと近寄ってきたルーミアをミスティアが全力でかわす。どうみてもこの幼女は捕食側だ。脚が四本あるものなら椅子以外食べかねない。
「まあまあ、いいんじゃない。妖精も虫も日頃バカにされているようなみんなが、ここまで出来るって証明してるんだからさ」
 チルノとは少し考え方が違うが、リグルも今の状況に満足はしていた。
「おおーい。帰ったぜぃ」
 四人の変革のきっかけとなったネズミ男が、工場へと揚々として帰ってきた。

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