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東方大魔境 血戦 幻想郷〜3〜

 所変わって外の世界。
「ううむ、たしかこの辺りのハズじゃったか」
カラスに乗って目的地へと向う、目玉の親父。しかしどうにもスピードが出ない。よろよろと飛んでいる。
「コレ、もっとスピードを出さんか」
 カーとカラスは応えるが、一向にスピードの出る気配は無かった。全ての能力が、ただのカラスより上の化けガラスであるが、
自分より一回り小さいゲタを背負ってでは、いくらなんでもスピードが出ない。
「くぅ、こんな時に限って一反木綿が里帰りしておるとは」
 鬼太郎親子の足兼飛行手段となってくれる、布妖怪一反木綿は地元の九州に帰省していた。しかも敬老会の旅行で子泣き爺と砂かけババアも不在、ぬりかべは葡萄を食べに行ったまま行方知れず、ネコ娘はバイトで遠出と、普段頼りにする仲間の妖怪は皆運悪く不在であった。
「お、あそこじゃ。あそこに降りてくれ」
 山間の一角にある寂れた神社を見つけると、親父はそこへと降り立つ。寂れに相応しく、神社には一切人の気配が無かった。
「ふむ、間違いない。この博麗神社こそが幻想郷への入り口じゃ」
 幻想郷と現世の境目に存在する博麗神社。外の世界から見るとただの無人の寂れた神社にしか見えない。しかし、見るべきものが見れば、ここが幻への入り口であることが分かるのだ。
「おおーい、誰かおらんかぁ」
 親父が叫んでも、やはりなんの気配も無かった。しかし、社の扉が声に応えるかのごとくゆっくりと開く。そしてその緩慢さが擬態だったかのように、強烈な吸い込みを見せた。
「ひゃぁぁぁぁ」
「カー!」
 社はカラスごと目玉の親父を飲み込むと、素早くパタンと扉を閉めた。後に残るのはただ静寂、吸い込みの際に散らされた一枚の葉がゆっくりと参道に落ちた。




 なんでも茶腹も一時という言葉があるらしい。お茶を飲む事で、空腹を一時紛らわす。要は、何も食わないよりは茶でも飲んだ方がまだマシという事だ。
「でも、お茶だけじゃ生きてけないのよね」
 霊夢が一人ごちる。
 ずずっとお茶を啜るが、それでも腹は鳴る。神社の縁側に座り空を覗くが、実に何もなし、平和そのものであった。
 なにかがおかしい、香霜堂で言った時は半ばシャレであったが、実際そうも言えなくなってきた。
 物価の上昇率がハンパないのだ。いや、物価だけでない。物価に呼応して、様々な物の値段が上がっているのだ。そのくせ、神社の賽銭だけはいつもと同じく集まらない。つまりはジリ貧。酒の製造のような副収入の口もいくつか持っているが、あくまで副収入であって、たかが知れている。
「魔理沙はどうなのかしらね……」
 この物価の高騰でまず追い詰められているのは、日頃収入が不安定なモノだ。気分しだいの何でも屋を開いている魔理沙など、モロに該当者だ。しかも彼女は、宵越しの銭は持たぬを地でいっている。きっと、霊夢と同じく追い詰められている筈だ。
 だいたいいつもどおりで行くと、霊夢と魔理沙が奔走する事により異変は収まるのであるが、こう敵も何も見えないのでは飛びようがない。全くもって異変の予兆が見えない。いつものように、怪しげなお屋敷や新顔の妖怪が出てくれば、そいつをこらしめれば終わりというのに、ホントに一切それらしいものが無い。
 もとよりこれが異変でもなんでもなくただの貨幣経済の進歩であったら、飛び回ってる場合ではなく仕事に勤しむべきだ。そして何より、腹が減りすぎて動く気もしない。お米が昨日ついに切れた。
「萃香―がんばれー……」
 今、神社の居候の鬼こと萃香に頼んで家捜しの真っ最中だ。先代の巫女が残したヘソクリぐらいあるかもしれない。こういう探し物のとき、人形サイズまで身体を縮められ、分裂もできる萃香は便利だ。タンスの裏とか手間無く覗ける。
「うひゃぁぁぁ」
 コロコロと霊夢の目の前を転がる、人形サイズの人影。萃香達の一人にしては、声も違うし、やけに肌色が多い。
 霊夢は思わず身を伸ばし、転がる人影を捕まえた。
「むきゅ〜〜」
 眼球が頭の全裸の小人。これが答えであった。この目玉の親父という外の妖怪を、当然霊夢は知らないわけで。
「ようやく来たわね……!」
 霊夢は立ち上がるやいなや、片手でがっしりと目玉の親父を捕まえた。
「ふぇ?」
 平衡感覚を失ったままの親父は、自分を捕まえたのが誰なのかのさえ認識できていない。
「ふふふ、このタイミングで私が顔を知らない新顔の妖怪が出てくるなんて。これはどう考えても怪しいわよねえ?」
「ひぃぃぃぃぃ! なんじゃあ!?」
 鬼気迫る霊夢のどアップに親父が怯える。かなり空腹で気が立っているせいか、今にでも捕まえている手に力をこめてしまいそうだ。目玉の親父が潰れるまで、あと十秒。
「おい霊夢、アンタ外と幻想郷の妖怪戦争のきっかけでも作るつもりかい?」
「……そんな、まさか」
 暴走しかけている霊夢を止めた声は、あまりに珍しくそして懐かしい声であった。
「その人は、外の妖怪における名士だ。向こうの閻魔や天狗の総大将とも友誼を結んでいるお人さ」
「おおなんと、もしやその声、貴女は魅魔殿か。またしばらく会わない間に随分とお変わりになられた」
 ふわりとした緑の髪と青の服と魂の尾、足無き美女が二人の前に姿を現す。
 悪霊にして幻想郷最強クラスの祟り神こと魅魔。かつては我が物顔で幻想郷を闊歩していたが、最近はとんと姿を見ない謎の化生。神社の周りをうろついているらしいが、神社に住む霊夢ですら、こうして会うのは久々だ。
 そんな珍しい人物と、目玉の親父は既知であった。
「ふふ、親父さんには負けるよ。昔はでっかいミイラ男だったのにさ。ついつい懐かしくてこちらに引きずり込んでしまったよ。奥さんは元気かい?」
「妻はあのあと息子を出産し、亡くなりました」
「なんと。それは辛い事を聞いてしまったね、すまない」
 明らかな昔なじみの会話。霊夢の手の力もだんだんと緩んでいく。しかし、もう少しこちらを気にしてはもらえぬものか、明らかに霊夢が蚊帳の外になっている。
「ねえ魅魔、この人とお知り合い?」
 共通の知り合いのポジションにいる魅魔を解し、霊夢も話に入ろうとする。
「ああ。この親父さんはね、かつて奥さんと一緒に新婚旅行で幻想郷に来たのさ。あの頃は、博麗の巫女もアンタじゃなかったからねえ。いやあ、懐かしい」
「どうも巫女殿、お初にお目にかかる。ワシが目玉の親父です」
「こちらこそ始めまして、今代の巫女こと博麗霊夢です」
 自分の掌でペコリとお辞儀する親父に合わせ、霊夢も頭を下げる。
「それより私も親父殿に聞きたい事がある。なんでこの神社に来たんだい? 風の噂では今息子さんと組んで妖怪絡みの解決屋やってんだろう? ここは忙しい妖怪が来るべき場所じゃないよ」
「はあ、実は――」
 親父はとつとつと、ここに来た経緯を話し始めた。


 霊夢の脇に目玉の親父が座り、二人縁側で茶を飲んでいる。魅魔は声はするものの、姿を現す事はなかった。
「なるほどねえ、スキマに息子さんがさらわれたんで、ここに来たと。確かにそのスキマはウチの紫の仕業だね」
「ええ。ワシも直接会ったことは無いが、神隠しのスキマの話は聞いておったので、とりあえずここに来たんじゃよ」
 神隠しの主犯こと八雲紫の名は、外の妖怪の間でも知れ渡っていた。スキマをあやつる彼女こそが、幻想郷を維持する賢者であり、勝手気ままな妖怪の象徴たる存在だ。
「まあ、なにか幻想郷でトラブルが起こったときは紫のせいだっていうのはココの常識でね。ねえ、霊夢?」
 魅魔が軽く同意を求めるが、反面霊夢は深刻そうな顔をしていた。どうも、今の親父の話にとんでもない部分があったらしい。
「親父さん。そのネズミ男って妖怪は、公の場で幻想郷の名を出しているの?」
「む」
 ここで魅魔も事の重大さをなんとなく察した。
「ああ。TVでこれは幻想郷の食品ですと言って販売しておったよ。まさか、本当に売っているわけはないと思ったんじゃが」
「紫がわざわざ鬼太郎をさらってったって事は、ブラフと考えるのは危険だね。どう考えても、そのネズミに鬼太郎を当てる気でさらったんだ」
 紫の真意はわからぬが、謎のピースが少しだけ組みあがった。
 しかし紫という重要なパーツの形により、出来上がる謎のパズルの出来は大きく変わる。もしかしたら、彼女がこの一件全ての黒幕かもしれないのだ。油断は出来ない。
「紫を問いただせればいいんだけど、アイツはこちらが求めると来ないようなヤツだから。どうでもいいときはよく来るんだけど」
「とりあえず、鬼太郎と合流すれば何かわかるかもしれん」
「でも、居場所がわからないわ。そんな妖怪の噂も私の耳に入っていないし」
 いっそ射命丸でも呼んで、幻想郷のゴシップを全てさらってみるか。リスクは高いし遠回りだが、それなりに確実だ。ただし藪をつついて蛇を出して仕事が増えるかもしれない。なら却下だ。
「その心配はご無用ですじゃ。ホレ」
 カーと鳴いて下駄を背負ったカラスが飛んでくる。どうやらカラスも、ゲタごと目玉の親父と一緒に吸い込まれていたらしい。
「そっちもカラスに頼るのね」
「いやいや、カラスが来てくれたのはありがたいですが、ワシが頼るのはこのゲタです」
「ゲタ?」
 ぼろいゲタだなと霊夢は率直な感想を持つが、すぐに感想を改めることとなった。二足のゲタが突如ふわりと浮き、並々ならぬ妖気を放つ。
「これは先祖伝来のゲタでしてな。今の持ち主の鬼太郎の位置を感知しひとりでに飛んでゆくのです。幻想郷に来て、ようやく感知できるようになったのでしょう」
 ゲタはゆっくりと浮き、ある程度の高さになった途端に速度を出して一直線に飛んでいく。
「ま。置いてかれちゃあ、便利なゲタも意味はないわよね」
 霊夢もゲタを見失う物かと直ぐに飛び上がる。
「おお、今代の巫女殿は自力で飛べるのですか」
 カラスに飛び乗った目玉の親父が、霊夢の脇に並んだ。
「まあ、その程度の能力しかないんだけどね」
「うるさい。それよりアンタはどうするのよ。久々に出る?」
「私はパス。異変の解決は巫女の仕事だ。数少ない霊夢の仕事を取るわけにはいかないからね」
「数少ないは余計よ。それなら留守番よろしく。さて親父さん、とばすわよ!」
 既にゲタは見えぬ寸前までとなっている。霊夢はカラスごと親父を捕まえると、目にも留まらぬ速さで飛び立った。ゲタを背負うハンデがなくなったとしても、この霊夢の速度に化けガラスは追いつけない。霊夢なりの気遣いであり手助けだ。
「うひゃぁぁぁぁぁぁぁ……」
 必死にしがみつく目玉親父の声が速度に合わせてか細くなっていく。神社に残ったのは声だけの魅魔であった。
「まあ。私は行けないけど、驚きのゲストをそっちによこすとするかね」
 おそらく必要になるであろう物を引っ張りだすため、魅魔はふよふよと、ある場所へ向かって行った。

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