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クロスオーバー

???

 夜のニューヨークを、赤が跳び回る。
 舌打ち。歓声。つばを吐く。手を振る。
 見た人間のリアクションは様々であったが、誰もが彼から目を離せなかった。摩天楼を跳び回る、自称貴方の親しき隣人。スパイダーマンは今日もNYを跳び回っていた。サイレンを鳴らすパトカーを、ウェブスイングで追い越す。
「お先にー。頭上の失礼、彼らは僕が捕まえておくから勘弁して欲しいな」
 スパイダーマンも警察も、同じ車を追跡していた。
 真昼の銀行に真正面から装甲車で乗り付け、金庫の中身全てを奪っていった銀行強盗団、その名をシニスターシックス。
 シニスターシックスがスパイダーマンを恨む最強の敵が組んだ巨悪の集団、だったのは昔の話。今は、衝撃を操るショッカー、飛行可能なコスチュームを着たビートル、高速で走るスピードデーモン、ブーメランの妙手であるそのものズバリなブーメランといった、多少路線が変わった悪のチームとなっている。身近というか、微妙というか。
 そして今回の犯罪に使われた装甲車を作り上げたのは、どんな乗り物でも容易に改造してしまうオーバードライブ。以上5名が、現在のシニスターシックスである。なお、シックスなのにメンバーが5人なのは「一人足りないほうが、最後の一人は誰なんだ!?って想像を膨らませられるだろ? ひょっとして最後のメンバーはドクター・ドゥーム!? ドーマムゥ!?なんてさ」という、彼らなりのイメージ戦略の結果である。決して、決してメンバーが見つからなかったわけではない。
「さて、スパイダートレイサーの反応はと。ああ、そこの角の先で止まっている。ひょっとして、発信機を捨てられた? それとも待ちぶせか」
 警察を随分と追い越したスパイダーマンは、スイングの最後に大きく飛ぶと、ひび割れた古いアスファルトに着地した。何が起こってもいいよう、構えもしっかりとっている。
「注意しておいて、悪いことはない。なら待ち伏せのつもりで! さあ来い、シニスターファイブ!?」
 角を曲がった先の光景を見て、絶句するスパイダーマン。何が起こっていいと身構えてはいたが、この状況は、予想だにしなかった。
 裏道へと繋がる、人通りの元来少ない通り。キルト製のコスチュームの至るところが食いちぎられているショッカー。傾いた街灯に引っかかっているビートル。壁にめり込んでいるスピードデーモン。自身のブーメランで地面に縫い付けられているブーメラン。ロープで縛られ転がっているオーバードライブ。戦闘能力を失ったシニスターシックスを、真っ二つに寸断された装甲車から出た炎が照らしていた。
「凄いな、色々と。でも誰が?」
 確かに最近(笑)な扱いを受けているシニスターシックスだが、決して弱いわけではない。性根が三下気味なだけで、今のメンバーも能力的には十分な物を持っている。ぽっと出の新人が、こうして無残に叩きのめせる存在ではないのだ。そして、見事に二つに割れた装甲車。対超人用の対策が施されているであろう装甲車を、ああも見事に斬れる能力者。ついでに、ショッカーのコスチュームの惨状からして、鋭い牙も持つヒーロー。顔の広いスパイダーマンでも、心当たりの無い存在だった。
「ば、バケモノだ……トカゲのバケモノだ……」
 衝撃吸収用のコスチュームの至るところがほころんでいるショッカーが、うわ言のように何やら呟いている。
「え? リザードにやられたのかい? 君たち」
「ち、違う。もっと、スマートで、マダラで、あんなの見たことが……無い。車で猫を跳ねそうになった次の瞬間、ビルの上から降ってきて、ベルトが光ったかと思ったら、あっという間に俺たちシニスターを……!」
 これだけ言って、ショッカーは意識を失う。コスチュームは大惨事だが、ショッカーの身体自体にはあまり外傷は無かった。
「ああもう、警察につき出す前におしえてもらうよ? 君たちは、いったい、誰に、やられたんだ!」
 意識があるのだろう。ピクピクと若干動いている他のメンバー全員に聞こえる大声で、スパイダーマンは尋ねた。
「強くて……」
「ハダカで……」
「速い……」
「奴……!」
 全員がそれぞれ一言だけ言った所で、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
 何もしないまま片付いたのはいいが、どうにも釈然としない。スパイダーマンは、マスクの上からポリポリと頬をかく。
「つまり、ケイザーみたいな裸の野生児で、リザードとは違ったトカゲ? よく分かんないけど、そのコンクリートジャングルにやってきたターザンに一度会って、お礼を言いたいね。手間を省いてくれたわけだし」
 このスパイダーマンの願いは、やがて数日後、思いもよらぬ形で叶うこととなる。新たなトモダチとして、新たなフレンズとして――。

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デッドプール チームアップ! 艦隊これくしょん〜艦これ〜 その3

前回


デッドプール「強い、デカい、ビッグセブン!」
長門「どうにも小馬鹿にされているような気もするのだが、ここは褒められていると受け取ろう」
デッドプール「艦隊の鉄壁にして大火力、アベンジャーズで言うなら……ハルク。長門はハルクだぜ!」

天龍「あれ? デッドプールは?」
長門「あの全主砲斉射に耐えられたのなら、そのうち漂着するだろう。本調子でないのに、余計なことをしてしまった」

Hulk(意味):廃船の船体、大きくて扱いにくい船、不格好な船、ばかでかい人


「鎮守府復興はスカウトから!」
「どういうことだよ?」
 鎮守府の廊下を並び歩くデッドプールと天龍。意気揚々と先行して歩くデッドプールの様は、数時間前まで頭と胴体の半分が消し炭になっていたとは思えない姿だ。
「例えてみよう、俺ちゃんはある日ピザを頼みました。ピザ配達員が来るまで部屋で小銭入りの瓶を抱きつつのんびりしていたら、誤報によりパニッシャーが部屋に来襲、飛び散る血漿、飛散する小銭、詩人は警官隊の銃弾に倒れ、犬はワンワンと吠え、猫はニャーニャーと鳴き、そしてコウモリは黙して語ることがなかったのであった!」
「おい。その詩人や動物たちは何処から出てきた?」
「俺ちゃんの言葉だけは、風にのるのさ。でまあ、色々あって街の一区画が灰になった後、ピザ屋が来るわけですよ。さて、払うつもりだった小銭は瓶ごと消し炭となった。ピザ食べられない、俺ちゃんのライフプランはここで崩壊! 人生真っ暗。ああ、あの思わぬ事故がなければ!」
「食べ物一つで、真っ暗になるのかよ、お前の人生……」
 純粋なのか安いのか、良く分からない人生だ。
「で、なんの話だったっけ?」
「ここまで話しておいて、ソレかよ!?」
 意味があるように見えて、実は意味が無い。逆もまた然り。つきあってしまった天龍は悪くない。正しいデッドプールとの付き合い方を熟知しているのは、世界広しといえども、未来から来た傭兵ぐらいのものだ。
「ああまあ、つまりはね、ここの鎮守府は今、物資が無くてカツカツ。というか、当て込んでいた収入が無くなって火の車。出れるのは、燃費のいいテンルーちゃんや駆逐艦ぐらい! でも、でも! 駆逐艦の大半は今、遠征から帰れない状態。帰ってくるのを待っていたら、破綻しちゃう! だから、状況を一変させられる臨時艦隊を作りましょーと。残っている連中、癖があったり、燃費が悪くで出せない連中ばっか。なので、早急に新たな駆逐艦が必要って、カンペに書いてあるよ?」
「あるよ?って言われても……だいたい、理由はわかったけどさ」
「いきなり近海に湧いてきた深海棲艦の謎を解明しないと、下手すりゃ遠征期間組が狙われちゃうし。だから、遠征組はみんな待機で帰ってこれないと。俺ちゃんたちは、特命艦隊として解決に挑む! 旗艦でエースは、当然テンルーちゃんで」
「だから、て・ん・りゅ・う! でも、いい響きだよなーエースって。この最新鋭の装備を腐らせずにすむってだけで、ありがたいぜ」
 実はあまり最新ではない己の装備を、天龍は嬉しそうに撫でた。
「というわけで、オレちゃんは長門の手助けの結果先行して海に出て、新たな戦力を連れてきた。世間では漂流とも呼ぶがシャラップ!」
「え? いやスカウトって、普通俺たちが海に出て」
「座しているだけの提督なんてもう古い。非暴力に用はない! 平和の道は血祭りの道、逆らう奴は地獄に叩き落す! これがオレちゃんの提唱するガンジー2。じゃなくて、真提督スタイルだ。オレちゃんは、戦場に橋を掛けに行く側なんだよ!」
 死にかけて漂流していたヤツが、勢いだけは偉そうなことを言っている。
 大きな扉の前についた二人、この扉の先は、外海へと繋がるドックであった。重々しい扉が、ゆっくりと開いていく。
「紹介しよう。鎮守府の新たな仲間、スティーブとバッキーだ!」
「ヲ級とイ級じゃねーか!」
 鎮守府の入り口にして急所に、なんか敵が入り込んでいた。露出度の高い少女の上に、クラゲのような物体を乗せた空母ヲ級に、魚雷に目と剥き出しの歯をつけたかのような怪物然とした駆逐艦イ級。艦娘どころか、バリバリの深海棲艦である。
 そもそも、近海に何故かいる、場所に不釣り合いなヲ級みたいな連中をどうにかしようという話ではなかったか。
「ぷかぷか浮いているオレちゃんによってきて、がじがじ甘咬みした後付いてきてね。なんとも感動的な出会いだろ?」
「エサと思われていただけじゃねーのか」
「こっちの駆逐艦バッキーは、改装するとソ連艦になって、改二になるとアメリカ艦になってスティーブの互角と性能になる出世頭なんだぜ? 響みたいなんだぜ?」
「だぜ?って言われても知らねえよ! こちとら、まだ改二も無いんだ!」
「ヲ……ヲヲ……」
 ヲ級の口から、特徴的な鳴き声が漏れる。
「おいおい、スティーブが驚いてるじゃないか。ついこの間まで、氷山の中で眠っていたせいで、まだ頭ボヤけているんだぜ?」
「北方海域生まれなのか? とにかく、帰ってもらえ。アンタなら言葉通じそうだし、穏便に」
「ワオ、意外。ここで決着をつけてやらぁ!ぐらいのこと言うかと」
「ここは鎮守府だからな。戦いは、外でやるべきだし、決着は戦場でつけるべきだ。お前らも、他の連中に見つからないうちに早く出て行け。ま、外で会ったら容赦しないからな?」
 シッシッシと追い払うように手を動かしながらも、その表情は困惑で、嫌悪感は無い。好戦的かつ強さを誇るように見えて、独自の優しさとおおらかさを持つ。総じて評するなら、天龍とは男前な艦娘であった。
 イ級もヲ級も、天龍の意を察したかのように、静かに退いていく。デッドプールが話すまでもなかった。
 最後にヲ級が、絞りだすようにして言葉を発した。
「……テンリュウ……マイフレ」
「それは止めろ。マジで」
「バイバイ バタフリー! 今度また戦場で会おうぜ! トーチにトロ!」
「名前変わってるじゃねえか!」
 ここに至って、どうにも忙しい天龍であった。

デッドプール チームアップ! 艦隊これくしょん〜艦これ〜 その2

前回


 鎮守府で最も重要であり、艦隊を率いる頭脳の役割を果たす場所。それが、提督の部屋である。この部屋の決断が艦隊の方針を定め、強いて言えば艦娘の人生をも左右する。聖地となるか地獄の門となるかは、提督次第である。
 秘書艦となった天龍の目の前では、聖地でもなく地獄でもなく、口憚られる何かに変わろうとしている提督の部屋であった。
「ウィーウッシュアメリクリマス♪ ウィーウッシュアメリクリマス♪」
 クリスマスのテーマソングを口ずさみながら、檜風呂できゃっきゃと遊んでいる謎の赤い男。登場時にあったケーキがあるならまだしも、何処からか持ってきたアヒルちゃんで遊んでいる時点で何がしたいのかさっぱりわからない。そもそも、この不審人物は、何故提督の部屋で我が物顔で遊んでいるのか。
 そもそもあの檜風呂、高額かつ家具職人が居ないと貰えない物なのに、勝手に作ってしまっていいのだろうか。
「アンドハッピーニューイヤー!」
「痛てえ!」
 叫ぶ天龍。油断していたら、濡れた温い節分用の豆を顔面に投げつけられた。結局、何時やねん今。
「ども、恐縮です、デッドプールですぅ! 一言お願いします!」
「はあ!? うーうんと、お、俺の名は天龍、怖いか?」
「えーと、バスタオル、バスタオル」
「無視かよ!?」
 身体を拭いた後、提督の白い軍服を着たところで、謎の変人は己の名をようやく名乗った。何故か、カタコトである。
「えー、この度は、ワタクシことデッドプールが臨時で提督に就任することとなりました。よろしくおねがいします、テンルー=サン」
「て・ん・りゅ・う! 天龍だからな、テンルーじゃなくて! って、提督!? お前が!? アイツ、何処行ったんだよ……」 
「いやねえ、先日、急な襲撃で、物資ヤバくなったじゃん? 今、鎮守府カツカツだからさ、提督の座をオレちゃんに任せて、外に行っているわけよ」
「外って、補給要請をしに、直に司令部に?」
「いや。クレジットカード無いから、コンビニにウェブマネー買いに」
「どっちも聞いたことねえし!?」
 コンビニにウェブマネー、天龍の聞いた記憶のない二つの単語であった。
「この二つの単語の意味が把握できるなら、きっとソイツはオレちゃんの領域に辿り着けるのだろう。さっきドックで見た、あの自称アイドル。オレちゃんに一番近いのはアイツかもしれん。ゲームだって、分かってやがるからな……末恐ろしい」
「よく分かんねえけど、辿り着かない方がいいのはなんとなく分かるな」
 天龍は、本能で危険性を察した。
「とにかく、提督が不在の間は、オレちゃんが提督と! まあアイツもさ、オレちゃんが飽きたら……じゃなくて、やることやったら、帰ってくるって!」
 会話中、バタンといきなりタンスの扉が開き、中から白袋が転がり出てきた。口がしっかり紐で締められた袋は、もぞもぞと動いている。まるで、人一人ぐらいなら入れそうな、大きな袋だ。
「な、なんだよソレ?」
「あーうー……そうそう、豚、豚。赤城の夕飯としてね、着任の差し入れに! 決して、人が入っているとかじゃないから! 提督は、外にいるから!」
「いやー、それは無理だぜ?」
「だよね! よし! テンルーちゃん殺して、オレちゃんも死ぬ。なあに、後でよみがえるし、オレちゃん的には問題なし! 一種のリランチ!」
「豚一頭ぐらいじゃなあ。赤城じゃおやつがせいぜいだぜ」
「そっちか! その辺りは、おいおい考えよう! この事は、シリーズ終了あたりまで忘れていてね!?」
 白袋を無理やり担ぎあげたデッドプールは、動く白袋を元のタンスに押し込んで、今度は錠前で鍵をしっかりと掛けた。
「話を無理やり変えると、今、鎮守府は未曾有の危機です。謎の襲撃者をどうにかしないと、ご飯も食べられないと。代理提督とはいえ、なんとかしなきゃ!という使命感に燃える真面目なオレちゃん。キャー、カッコイイ。というわけで、テンルーちゃんを、秘書艦に任命します! パチパチー」
「悪りぃ。断る」
「え!? この流れで!? どうせ行数無駄に増えるだけだから、ここはウンと言っておこうぜ!? 容量削減!」
 手拍子どころか途中カッコイイポーズまで取ってしまったのに、ソレはないだろうと、必死で食って掛かるデッドプール。天龍は申し訳無さそうに、そして若干照れくさそうに頬をかく。
「期待してくれるのはありがたいよ。でも、ここの鎮守府の提督はお前じゃなくてアイツなんだ。未曾有の危機なら、アイツはきっとすぐに戻ってくる。そういうヤツなんだよ、ウチの提督ってさ。だから、お前には悪いけど、きっと今秘書艦になっても、三日天下ってやつさ……うるせえなあ、ソイツ」
 ガタガタと、先ほど袋を入れたタンスが揺れていた。
「このSSの更新速度なら、確実に三日以上は持つと思うけどな。そういうことなら、残念だけど諦めるかー。きっとテンルーちゃんなら、この間、一緒に色々した“死の天使”ばりの相棒になってくれると思ったんだけどなー」
 ぷーと残念そうに頬を膨らませるデッドプールの言葉を聞き、天龍のケモミミに似た頭飾りがぴくりと動いた。
「人類最後の秘密を知る不老不死の探求者」
 ぴくぴく。
「二次元として三次元で生きる、次元の超越者」
 ぴくぴくぴく。
「息をする事が恐怖となる女」
 ぴくぴくぴく!
「体重自由自在」
「あ。それはカッコよくない」
 飾りが、ピタリと止まった。
「オウシット。まあこんな感じでね、オレちゃんと組むと二つ名とかついてきちゃうかもしれないのよね! でもねーテンルーちゃんはこういうの嫌いみたいだしなー。代わりに木曽にでも」
「ちょ、ちょっと待った!」
「えー、もういいわ。木曽は改2までいけるし、実はあの海賊キャプテンキャラのほうが、今後のこのSSの展開的には」
「分かった! 頼むから待ってくれ! たとえ三日でも、全力投球することは悪くないよな。秘書艦として、頑張らせてくれよ」
 異名の存在は、天龍の心底にある中二心をドキュンと刺激していた。心底にあるわりには、普段からダダ漏れな中二心だ。
「そこまで言うなら、使ってやらないこともないぜ。テンルーちゃん」
 はっはっはと、鷹揚に振る舞うデッドプール。喜ぶ天龍に気付かれないよう、小声でつぶやく。
「メンバーの異名や宿命だけはカッコいいよな、グレイト・レイクス・アベンジャーズ
 ヒーロー史上最も権威のないチームであるGLAの補欠メンバーでもあったデッドプールは、強いけど残念な正規メンバー達に、初めて感謝した。


次回

デッドプール チームアップ! 艦隊これくしょん〜艦これ〜 その1

 事件は、主力艦隊の帰港間近、鎮守府近海にて発生した。
「Shit! 提督に貰った大切な装備がッ!」
「下がれ、金剛!」
 中破した金剛の前に、長門が割り込む。己の肉体と重装備で金剛を攻撃から庇うものの、長門自身もあちこちに損傷を負っていた。
「長門型の装甲は伊達ではない……と言いたいところなんだがな」
 全ての艦娘が満身創痍であり、弾薬も枯渇同然。これが、艦隊の現状であった。装甲や弾薬は、出征先の西方海域で使い果たしてきた。戦果や得た資源を曳航し、後は帰るのみ。この段階、作戦達成間近で、有り得ぬ敵が仕掛けてきたのだ。
 せいぜい深海棲艦の駆逐や軽巡しか存在しない鎮守府正面海域。ここで疲弊した艦隊を待ち構えていたのは、戦艦や空母に分類される、強敵たちだった。万全なら勝てる相手でも、今の状況では、もはや生き延びるのが精一杯だ。
「警備の手抜かりで済む話ではない。いったい、海で何が起きているんだ!?」
 旗艦である長門の叫び。海からの返答は、まるで怪物の鳴き声のような、深く重い音であった。


 入渠と遠征により、人の気配が薄れた鎮守府。そんな建物、廊下のど真ん中を堂々と歩く艦娘が居た。
 何やらメカニカルな髪飾りは、狼の耳でも模しているのか。身体の線にぴったりと張り付いた黒基調ネクタイ付きの制服は魅力的だが、迫力を感じさせる左目の眼帯は添え物としては強すぎる迫力を醸し出していた。
 自らの名を冠するカテゴリー、天龍型軽巡洋艦の一番艦、天龍。それが彼女の名前であった。
「いやー……遂に出番が来たかぁ。でも、喜んでいられる状況じゃないな、アイツにナメられないよう、しっかりとしないと」
 現在、鎮守府は危機的状況にあった。近海に居るはずのない、謎の深海棲艦による襲撃で、主力艦隊は大きなダメージを追った。幸い撃沈は避けられたが、大破続出の上、持っていた資源物資の大半を持って行かれてしまった。修繕に使う物資もあって鎮守府は急遽火の車に。
 資源を得るに最も簡単な手段は軽巡洋艦と駆逐艦による遠征、本来天龍はこちらに回されている人材であり、当然早急に遠征に向かうこととなる。と周りも本人も思っていたのだが、今回、遠征に行くよう指示され、駆逐艦の面倒を見ることとなったのは姉妹艦の龍田だった。それだけでなく、空いた天龍は、指揮官である提督が最も信頼し、最も近くに居る秘書艦に任命された。
 危機的な状況の中での、秘書艦就任。これはどうにも、提督からの期待を感じざるを得ない。あまり喜ばしい状況ではないが、期待されていると思うと、どうにも嬉しいものが湧き出てくる。複雑な、心持ちであった。
 顔を何度も叩き、緩みそうな顔を引き締める。
「天龍、秘書艦、着任したぜ……?」
 提督の部屋の扉を開けた天龍を出迎えたのは、提督ではなく、バカにデカいケーキであった。段々の洋風なバースデーケーキ。鎮守府の巡洋艦全員で食べても、中々難儀であろう大きさのケーキだ。
「なんだコレ? 長門の注文品? それとも赤城のおやつか?」
 疑問符ばかりの天龍の耳に、妙な音楽が聞こえてくる。妙にテンポよく、妙に艶かしい、聞いたことのないミュージック。そんな音楽のリズムに合わせて、部屋の真ん中にあったケーキが割れ始めた。
 ドンドコドンドコ、ズンズンズン。ケーキの中から現れたのは、赤いマスクを被ったビキニパンツ一丁の男であった。リズムよく腰を振り、ケーキの中から徐々ににゅっと出てくる。
「ハァッ!」
 ケーキが完全に割れ、ミュージックが終わったところで男は決めポーズを取る。汚い肌と尻が、どこからともなくいつの間にか出てきたスポットライトで照らされている。
 動けない天龍と、しばし目の合う謎の男。ただの不審者ではなく、超弩級の不審者。衛兵隊を呼ぶにも、どう説明すればいいのか。
 ドンドコドンドコ、ズンズンズン。再び聞こえてきたミュージックに合わせ、男はケーキの中に戻っていく。全て逆回しのように、割れたケーキも再び閉じようとしていた。
「待て! 戻るな……いや、また出てこられても困るけど! とにかく、俺に何が起きたのか説明しろ!」
 言われた方も困るぐらいの困惑さを隠さぬまま、天龍はひとまずケーキの割れ目に手をかけた。
 この謎のストリッパーもどきであるデッドプールが、臨時に鎮守府提督となったと知らぬまま。


 後に、ここから始まる一部始終を聞いた、天龍の姉妹艦である龍田は語る。
「天龍ちゃんでよかったですね〜。私だったら、きっと出会って早々、もいでましたし」
 何処を? 何を? その時の龍田には、詳細を聞けぬ迫力があった。


次回

東方大魔境 血戦 幻想郷〜6〜

 金霊が爆発した後、一枚の十円玉がころんと地面に転がった。
「うっう、こりゃあたまらん、山にでも逃げ込むか」
 この十円玉サイズこそが本来の金霊の大きさであった。妖力で身体を膨張していたものの、霊夢と鬼太郎との戦いで全て妖力を使い果たし、こうして元のサイズに戻ってしまったのだ。
 ふわふわ浮いて逃げようとする金霊の前を白魚のような指が通せんぼした。
「山は山で危険だから、オススメできないわよ?」
 大きな傘が、ふわりと揺れる。彼女の雰囲気もまた軽く。幻想郷の賢者であり、鬼太郎を幻想郷に引き込んだ張本人である、八雲紫がついに姿を表した。紫は金霊の返事を待たずに、一枚の十円玉を金霊の前に置く。
「なんなんだいったい。ぬ? コレは」
 十円玉の身体を持つ金霊と、ただの十円玉、まるで合わせ鏡のようになるはずであったが、そうはならなかった。
 金霊に比べて、この十円玉は少しシャープだ。デザインの意匠も微妙に異なっており、よく見れば全く別物であるという事が分かる。
「コレは、いま現在外の世界で流通している十円玉よ」
「なんだと? そんなバカな。なら、このワシの体と違うのはどうしてだ?」
「それは、貴方が幻想郷の金霊だからですわ。幻想郷は、幻想となったモノが行き着く場所。不要な物が行き着く場所。ここに来たという事は即ち」
 金霊にとって、紫の言葉は死刑宣告に聞こえた。
 気付いてしまったのだ、硬貨は時代と共に移ろい、変わっていく事に。幻想郷に自分が居て、外の世界の硬貨と形が違う。それは即ち。
「ワシに、もう金としての価値はないと言う事か……」
 今頃目玉の親父と鬼太郎も気がついているはずだ。弾幕に使われた硬貨や紙幣が、全て古い物であると言うことに。
 金として流通しなくなった金銭の集合体が、この金霊の正体であった。外の世界には、今の金を司る別の金霊が居る。もとより、結界を破って外に出てもこの金霊に、神としての価値も無かったのだ。
「残念だけど、それは違うわね」
 当の死刑執行人が、金霊が辿り着いた結論を否定した。
「価値が無いのは外の世界での話。幻想郷と外の世界は違うもの。それになにより、価値無きものを価値無しと蔑むのであれば、幻想郷自体に価値が無くなる。それに、幻想郷にも金銭の概念はあるのだから。外の世界に比べれば、微々たる欲だとしても」
 紫はにっこりと、包容力の有る笑みを浮かべた。魔性寸前の、優しい笑みを。
「ゆっくりしましょう? ここはアンニュイが許される空間、急ぐ事は無いんですから」
 金霊は紫の笑みと言葉だけで、救われた気持ちになった。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜5〜

 四匹の妖怪が負けたのを見て、コッソリと動く影があった。
「逃がさないわよ、当然」
「うへぇ〜〜」
 金庫を大事そうに抱えて逃げようとしたネズミ男の前に霊夢が立ちはだかる。
「か、かんべんしてくれえ、俺ぁ何もシラネえよ」
「そんな道理は外でもここでも通らない。さて、まずはその金庫を置いてじっくりと話しましょうか」
 有無も言わさぬ迫力の霊夢に気圧され、ネズミはしゅんと頭を下げる。が、それも一瞬。逆に開き直ったかのように胸を張る。
「へへっ、なあ巫女サン。この界隈では、弾幕勝負で勝てば、ある程度の事は見逃してもらえるんだよな」
「まあ、だいたいはね。実力主義だから。でも、アンタは弾幕どころの妖怪じゃないでしょ」
 ネズミ男の場合、空を飛ぶ以前の問題だ。
「いやあ、弾幕はできねえんだけど」
 ネズミ男は振り向き、尻を霊夢に向ける。ネズミ男の尻から全てを吹き飛ばす勢いで、屁が放射される。風圧と臭いにやられ、霊夢も思わずひっくり返った。
「煙幕は出せるんだワ、それじゃああばよーっと」
 ネズミ男は霊夢がやられたスキに、逃走した。霊夢も追おうとするが、鼻をやられてしまい、思うように動けない。
「待ちなさ、ゲホゲホッ。何食えばこんな臭い出せるのよ、鈴蘭の毒よりキクわ……」
「大丈夫ですか、霊夢サン」
 遅ればせながら鬼太郎がやってくる。
「ネズミ男の屁は科学兵器ですからね。失神しなかっただけマシですよ。それに、下手に触るとノミやシラミが移りますからね」
「なんて危険な妖怪。なんかもう真相とかどうでもいいから、幻想郷から出て行って欲しいわ」
 少女たちにとってネズミ男は天敵に等しかった。最も、ノミやシラミはリグルが居れば大丈夫であろうが。
「まあ、身内の恥なんで、ヤツは僕が捕まえますよ」
 鬼太郎がそう言った時、ネズミ男が逃げ出したとき以上の速度で戻ってきた。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜4〜

 ゲタに案内されたのは、人里と森の境目にある倉庫であった。
「洋館、お屋敷二回に神社と来て、今度はこのボロい倉庫ねえ。どうもたいしたヤツがいそうにないわ」
「巫女殿静かに。敵に見つかってしまうぞい」
 目玉の親父と霊夢は屋根に陣取り天窓からこっそり工場の中を覗いている。ゲタは大人しくなったので、とりあえず霊夢が持っている。現在工場はゆっくりと稼働中であった。
「ねえねえマネージャー」
 ノルマをこなしヒマそうなチルノがネズミ男に声をかける。
「あんだい」
「アタイ、もっと外の妖怪とやりあいたいんだけど。そうすれば外の世界でも、アタイのさいきょーさが有名になるじゃない。この間のきたろーってゆうのも弱かったし」
「我慢しろい。アイツを倒したら、子泣きや砂かけが押しかけてくるのがお約束。待てばそのうち来るさ」
 鬼太郎がやられて仲間が押しかけてくるのは王道であった。
「くぅ、まさか鬼太郎がやられているとは」
 天窓に張り付いている親父が嘆く。
「やられたって、あの工場に居るのはチルノとリグルとミスティアとルーミアと雑魚軍団と、それにネズミ男ってやつだけなんだけど。ネズミ男って強いの? ウチのネズミとは、随分タイプが違うみたいだけど」
「んにゃ。妖怪未満人間未満のダメなヤツじゃが」
「あのバカルテットも所詮前座のボスなんだけど……。いや、けっこう強いって聞いてたのに、アレに負ける鬼太郎さんって」
 ハードならともかく、イージーで彼女らに負けるシューターは余程シューティングが苦手だ。それはさておき。
「あせっちゃダメだよ、チルノ」
「そうそう、それにまだ大事な奴を忘れているわ」
「……そうだよ」
 リグル、ミスティア、ルーミアの三人もヒマなのか話に参加してくるが、どうもルーミアの様子がおかしい。
「ちょっと、大丈夫なのルーミア? なんかアンタ元気ないわよ」
 いつもは食物連鎖の下に居るミスティアも、ルーミアを心配する。
「うん、だいじょうぶだよ、みすちー。なんならその翼をひとくちで」
「ああ、それだけ元気があれば大丈夫ね! てーか元気でも何でもヒトの翼を食おうとするな! 絶対に食おうとしないでよ!」
「えーと、ネタフリなのか?」
「違うー!」
「アレは置いていて、なんだよリグル。もしかして、幻想郷にも正義の妖怪がいるのかよ」
 やいのやいの始めた二人を放っておいて、ネズミ男が正義への煙たさを隠さず。リグルに尋ねる。
「妖怪じゃないけど、幻想郷にもトラブルの解決屋がいてね。霊夢って巫女だよ」
「巫女? まさかヒ一族じゃねえだろうな」
 ヒ一族とは、妖怪の天敵と呼ばれる一族の事だ。一時外の妖怪は彼らに絶滅寸前まで追い込まれた。
「たぶん違うと思うけど、なんかトラブルがあると首を突っ込んできて、よけいに騒動を大きくするんだ。私たちなんか騒動と関係ないのに、巫女の通り道にいたってだけで、ボコボコにされたし」
「カーッ、そりゃまたロクでもねえのがいるなあ。それじゃ正義の味方どころか通り魔ヨ」
 ピシリと、天窓のガラスにヒビが入った。
「待て巫女どの、落ち着くんじゃ!」
「ふふふ、リグルきゅんもずいぶん言うようになったわねぇ……」
 ビシビシと妖気をこえる殺気が空気を震わしている。どうやれば人間がこんな気を出せるのか。
「まーつまりレイムは、空気が読めないバカなのさ」
 チルノが霊夢をバカにした途端、工場の屋根が爆風と共にはじけとんだ。
「な、ななななななぁ!?」
 逃げ惑うネズミ男の視線に入ってきたのは、まさに鬼。屋根の残骸の上にゆっくりと降り立つ霊夢が彼にはそうとしか見えなかった。
「よりによってにバカにされちゃあ、さすがに黙っていられないわよねぇ?」
 瓦礫を蹴り飛ばし、ゆっくりと霊夢が降りてくる。バカルテットとネズミ男にできる事は怯える事のみだった。
「なんなんだよコイツは、ヒ一族よりヒデえ……」
「オイ、ネズミ男! おぬし鬼太郎をどうした!」
 霊夢の巫女服にある脇の切れ目から、目玉の親父が這い出て来た。
「ああん? 親父も来てんのかよ。ああ、そうだよ、鬼太郎はな、ここにいる四人の先生方に氷漬けにされて川に流されたよ。そうだよな、ルーミアよ」
「う、うん」
 ネズミ男の問いかけに、未だに様子のおかしままのルーミアはなんとか首を縦に振る。
 そんなおかしいルーミアを見逃さないモノが居た。
 鬼太郎のゲタが、突如勢いを取り戻しルーミアめがけ襲い掛かる、不意打ちの一撃は、ルーミアの腹に直撃した。痛みのせいか、ルーミアが腹を抑えうずくまる。
「ちょ、ルーミア!? 霊夢、あんた相変わらず極悪非道の巫女ね!」
「ちょっと待った、今のは私じゃないわ。ゲタが勝手に」
「このばかー! ゲタがかってに動くわけないだろ、このバーカ!」
 どさくさまぎれにエラくチルノが調子に乗っている。
 うずくまったままのルーミアは本当に苦しそうだ。うずくまったまま、痙攣している。
「ちょ、これ本気でやばいよ!」
「ルーミア、大丈夫!? 何処が痛い!?」
「お腹が、お腹がいたいよぉ……」
 すぅっと、ルーミアの口から白色の気体が漏れてきた。気体は途切れることなく続き、やがて集まり人型を象っていく。
 少女の痛みは、下駄の外傷ではなく、腹の内部にあった。
「ちょ、ルーミア。あんたなに食ったのよ!?」
 それは所謂、食あたり。
「まさか! オメエひょっとして、氷の鬼太郎を食ったな!?」
 白色の気体に色がつく。それは、黄色と黒の縞模様。続いて肌色に青色と、気体はどんどん人らしくなっていく。最後にゲタが、久しい主の下へ嬉々として戻った。
「助かったよ、その子の食い意地がはっていて。カキ氷機に身体をかけられたときは死ぬかと思ったけど」
 ゲゲゲの鬼太郎は易く復活を遂げた。
 様々な特殊能力が鬼太郎にはあるが、まず恐ろしいのは、この殺しても死なない生命力だ。
「鬼太郎―!」
 親父はすばしっこく鬼太郎の身体を駆け上がり、頭の上のいつもの定位置へと着いた
「あっ、父さん。あれ? そこの巫女さんは?」
「うむこの方は博麗霊夢と言ってな、カクカクシカジカ」
 親父から霊夢や現状に関してのだいたいの説明を受けた鬼太郎は、まず霊夢に一礼した。
「ありがとうございます。父さんをここに連れてきてもらって」
「どういたしまして」
「ついでにもう一つお願いがあるんですが」
「いいわよ。もう何か分かっているから、譲るわよ」
 まあ、たぶん前評判からいってやりすぎる事はないだろう。わざわざ彼にスペルカードルールを教えるのも面倒だなと、霊夢は判断した。スポーツライクにスペルカードで争ってもらうのが一番だとしても、飛べないんじゃしょうがない。
 あっさりと霊夢は退き、代わりに鬼太郎が五人の妖怪の前に立ちはだかる。いや直ぐに四人の妖怪になった。ネズミ男は既に逃げ出している。逃げ足だけで言うなら、幻想郷のネズミより上かもしれない。
「さて四人とも、もう一回僕と勝負してもらおうか」
 鬼太郎は、高らかにそう宣言した。
「ふっ、さっきあそこまでギタンギタンにやられていて、いいどきょーだ。リグル、みすちー、また痛めつけてやろうよ」
「そうだね、一度勝ったんだから、二度はあるよね」
「ルーミアはちょっと休んでなさい。まだお腹痛いでしょ」
「ごめんみすちー……」
 とりあえずルーミアが下がって、残りの三人が鬼太郎に立ちはだかる。
 幻想郷の妖怪VS外の妖怪の血戦が、再び始まろうとしていた。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜3〜

 所変わって外の世界。
「ううむ、たしかこの辺りのハズじゃったか」
カラスに乗って目的地へと向う、目玉の親父。しかしどうにもスピードが出ない。よろよろと飛んでいる。
「コレ、もっとスピードを出さんか」
 カーとカラスは応えるが、一向にスピードの出る気配は無かった。全ての能力が、ただのカラスより上の化けガラスであるが、
自分より一回り小さいゲタを背負ってでは、いくらなんでもスピードが出ない。
「くぅ、こんな時に限って一反木綿が里帰りしておるとは」
 鬼太郎親子の足兼飛行手段となってくれる、布妖怪一反木綿は地元の九州に帰省していた。しかも敬老会の旅行で子泣き爺と砂かけババアも不在、ぬりかべは葡萄を食べに行ったまま行方知れず、ネコ娘はバイトで遠出と、普段頼りにする仲間の妖怪は皆運悪く不在であった。
「お、あそこじゃ。あそこに降りてくれ」
 山間の一角にある寂れた神社を見つけると、親父はそこへと降り立つ。寂れに相応しく、神社には一切人の気配が無かった。
「ふむ、間違いない。この博麗神社こそが幻想郷への入り口じゃ」
 幻想郷と現世の境目に存在する博麗神社。外の世界から見るとただの無人の寂れた神社にしか見えない。しかし、見るべきものが見れば、ここが幻への入り口であることが分かるのだ。
「おおーい、誰かおらんかぁ」
 親父が叫んでも、やはりなんの気配も無かった。しかし、社の扉が声に応えるかのごとくゆっくりと開く。そしてその緩慢さが擬態だったかのように、強烈な吸い込みを見せた。
「ひゃぁぁぁぁ」
「カー!」
 社はカラスごと目玉の親父を飲み込むと、素早くパタンと扉を閉めた。後に残るのはただ静寂、吸い込みの際に散らされた一枚の葉がゆっくりと参道に落ちた。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜2〜

 幻想郷の森の片隅と人間の郷の片隅の間にある、大きな倉庫。誰かが何かしようと作ったのだろうが、頓挫したのか倉庫は長年空き廃屋寸前の建物と化していた。しかも森の木々に覆われたせいで、人間どころか森の妖怪でさえ存在を忘れかけている。だがこの建物は今、廃屋という呼び名を捨て、新たに工場という名の意味を獲得していた。


 えっちらおっちらと荷物を運ぶ毛玉から荷物を受け取った妖精が適当に箱詰めする。ちゃんときっちり箱詰めとかは無理だ。働いているだけ奇跡なのだから。他にも虫たちがベルトコンベアのように列を作り、大きい荷物を運んでいる。
「意外となんとかなるものだね」
 腕に『工じょう長』の腕章をつけたリグル。惜しい事に『場』の字だけ書けなかったらしい。
「そうね、はじめに聞いたときは夢物語と思ってたけど、やってみる物よね」
 『工場超』の腕章をつけているのはミスティアだ。全て漢字で書いてみたが、『長』の字を間違ってしまったようだ。
「そうなのだー」
 『こうじょうちょう』と無駄に背伸びしていない、ひらがなオンリーの腕章をつけているのはルーミア。出来立てホヤホヤの蒲焼をこっそりと頂戴している。
「ふっ、これでアタイ達は他の妖怪を差し置いて名実共にさいきょーの座に付くワケなのさ。けーざいりょくという力を手に入れることでアタイのさいきょーを疑うヤツもいなくなるはず」
『こうじようちよお』と書かれた腕章を付けて胸をはるのはチルノ。ひらがなは書けても小文字は書けない辺り、他の三人を二馬身ほどぶっちぎっている。微妙に読みにくいし。むしろひらがなをちゃんと書けただけでも奇跡か。流石は女王の貫禄だ、バカの。
「まー確かにねえ、経済力があれば、気兼ねなく歌えて、毎晩捕食者に怯えずぐっすり寝られるおうちが建てられるものね」
「かわしそうな、みすちー。なら私が泊り込みで守ってあげるよ」
「アンタ入れたら、おうちの意味が無いでしょーが!」
 そそそと近寄ってきたルーミアをミスティアが全力でかわす。どうみてもこの幼女は捕食側だ。脚が四本あるものなら椅子以外食べかねない。
「まあまあ、いいんじゃない。妖精も虫も日頃バカにされているようなみんなが、ここまで出来るって証明してるんだからさ」
 チルノとは少し考え方が違うが、リグルも今の状況に満足はしていた。
「おおーい。帰ったぜぃ」
 四人の変革のきっかけとなったネズミ男が、工場へと揚々として帰ってきた。

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東方大魔境 血戦 幻想郷〜1〜

 ここは幻想の郷こと、幻想郷。世間での役割を失い幻想となったモノが辿り着く、平和な楽園。自然は豊か、気候も穏やか、生活を脅かすような存在も居ないと言う、妖怪にとって垂涎の土地であった。
 そんな土地に似合わぬ、欲深い目をした男の妖怪が森を歩いている。
 ボロイ布一枚だけを頭から被り身体に巻いた姿は、まるで薄汚れた身なりの典型のようで。裸足でぺたぺたと地面の上を歩いている。
 鼠のようなげっ歯と、長い三本ひげが目立っている。鼠の妖怪と言えば、およそ三千年以上生きた鼠が変化する旧鼠が居るが、三千歳にしてはあるべき威厳を全く持っていなかった。
 少女妖怪が大半を占める幻想郷を歩く男の妖怪。男であるだけで目立って当然であった。
 彼をからかおうとする、三人のイタズラ妖精がこっそり樹上から覗いている。幻想郷の新参をからかおうとでも思っているのか、それともタダのヒマつぶしか。
 木の下に男が辿り着き、さて動こうとした途端。強烈な臭気が彼女らを襲った。鼻が痛いどころか、目までツンツンする。魔女の調合が失敗しても、ここまでの臭いは作れまい。臭いの原因は目標の男から発せられていた、何をどうすればこんな臭いを出せるのか。
 妖精が我先にと逃げ出す。相手が何もしていないのに、この被害。もし彼が本気になったら、鼻がもげてもおかしくない。こんな恐ろしい妖怪の相手なんかしていられるか。
「いやースゲえド田舎だ。別荘地にでもして売り出したいねえ」
 男はそんな妖精の存在など知るよしも無く、独り言と共に道をぺったらぺったら歩き続けていた。


 森を抜けた先には、薄い霧に包まれた荘厳な湖があった。霧の向こうに幻のようにチラチラ見える紅魔館が、どことない儚さを演出している。
「さてと、ここらへんにいるらしいんだけどよ」
 男は懐から双眼鏡を出すと、空に向けて構えた。霧中の空を舞う、いくつかの閃光。その正体は、といえば。
「アンタみたいなバカ妖怪は氷付けになればいいのさ!」
「アンタにだけは言われたくないわー!」
 弾幕ごっこに興じる、氷精チルノと昆虫妖怪リグル。
「いい、ルーミア。あくまで弾幕ごっごであって狩猟とか捕獲とか関係ないんだからね。OK?」
「うん、おーけー」
「って噛み付くなー! これだからルーミアの相手は嫌なのよ、てーか喰われるー!」
 やけに殺伐とした弾幕ごっこしている、夜雀ミスティアと闇の妖怪ルーミア。
 湖の閃光の正体は、この四人による弾幕ごっこであった。妖精に蟲に鳥によくわかんない妖怪という、どちらかというと小物にカテゴリーされる四人であったが、そこらをプラプラしている只の妖精や雑魚妖怪に比べれば随分と強力であった。ビュンビュンと空を飛び、激しい弾幕が次々と貼られる。静かな湖の空だけ、だいぶ派手であった。
「カーッ、幻想郷の妖怪は派手だねえ。しかしあんだけの実力があるのに、少しココが足りないだけでねえ」
 男は己の頭を指差し、脳の辺りをコンコンと叩いた。
「ま。だから小生の出番があるのだがね。さあて、ビビビのネズミ男さまの腕の見せ所だぜ」
 ふんと鼻息荒いネズミ男は、袖をまくってから空飛ぶ四人に向け叫ぶ。
 頭は悪いが能力はそれなりの子供妖怪と、ずる賢いが能力は並み以下の半妖怪。ある意味しっくりくるモノ同士の出会いこそが、現世の妖怪と幻想郷の妖怪を巻き込んだ大騒乱のキッカケであった。

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