- 2010.08.13 Friday
- 小説 > クロスオーバー > デッドプール・チームアップ!
前回のあらすじ
デッドプールが765プロのプロデューサーになって、タスクマスターを連れて来た。
765プロの事務室、長椅子にデッドプール改めデッドプールPが寝転がっていた。こんなヒマそうなプロデューサー、たぶん前代未聞だ。
「あらすじって、荒い筋だぞ? つまり簡単でいいんだ。詳細を知りたければ前編を読めばいい、そしてみんなにデッドプールを布教すればいい。マブカプ3が発売される前に、デッドプールブームの下地を作ればいいのさ」
「プーさん? 誰に話してるの?」
ヒマそうなプロデューサーは前代未聞でも、ヒマそうなアイドルには前例がある。前例である彼女は、事務所の椅子をかき集めた簡易ベッドの上で、デッドプールPと同じく寝転がっていた。彼女の名は星井美希。やる気の無さと高いポテンシャルを兼ね備えた、天は二物を与えずを地で行くアイドルだ。この辺り、破綻した精神と優れた技術を兼ね備えたデッドプールPに似ている。だらけ気味の二人は、時たま妙に波長が合っていた。
「ヘイ! ミキティ! その呼び方は辞めてくれ。黄色いクマと間違われて、千葉浦安に攫われちまう」
「だったら、プーさんも、その呼び方を止めてほしいの。別のアイドルみたいで、ミキやだなあ」
「……」
「……」
無言となる両者、そして、
「ねえプーさん。ダラけてて大丈夫なの?」
「大丈夫だぜ、ミキティ。オレの代わりにタスキーが働いてるから」
二人揃って、呼び名の是正を諦めた。たぶん、どうでもよくなったのだろう。
「タスキーって、あのガイコツさん? あの人、スゴいの?」
「ああ。オレには(人気で)劣るが、タスキーは一流だぜ。一流だから、わざわざポケットマネーを使って呼んだんだ。タスキーが働くことにより、オレの野望は実現する」
デッドプールPは上機嫌だった。今のところ、事態は思うように進んでいる。少なくとも、計画を立てた本人はそう思っている。
「野望?」
「ハハハ、見てくれ、このマスク」
先程まで美希に背を向けていたデッドプールPが、くるりと美希の方に振り返った。いつもの赤いマスクではなく、黒を基調としたマスク。デッドプールPは、真っ黒なマスクを被っていた。まるで、高木社長みたいに黒いマスクを。
「いかにすれば真っ黒になるか、イカスミや墨汁を使って研究した結果がコレだ。いっそマスクを黒くすればいいという、ナイスアイディア。コレで黒さの基準は満たした。この世界、真っ黒じゃないと、社長になれないみたいだからな」
「プーさん社長になるの? どこの?」
「決まってるだろ、ミキティ。この765プロに決まってるじゃないか」
現在出張中の高木社長を追い落とし、オレが社長になってやる。デッドプールPは、堂々と765プロ乗っ取りを宣言した。
サボっているデッドプールPが唐突な野望をぶちあげたその頃。
「もうこれで、マコトは大丈夫だ。次は歌のうまい奴、この事務所で一番歌唱力があるのは?」
「それなら千早ですね。如月千早、今丁度、ボイスレッスンをしているハズです」
タスキーことタスクマスターと、真面目なアイドルの律子は、事務所の二人と反比例して一生懸命働いていた。
「俺の仕事は、この事務所の天井をあげることだ。ボーカル、ダンス、ビジュアル、この三つの要素にそれぞれ長けたアイドルを鍛える。それぞれの成長の壁をブチ壊し、事務所の平均を上げる」
「全員を鍛えるのではなく、集中しての育成……。でも、それだと、鍛えられたアイドルだけが伸びて、他のアイドルが置いてかれてしまうのでは?」
「いや。その三人に、引っ張らせるという考え方だ。10人ぐらいの規模ならば、頻繁な技術交流も可能。大規模な組織では、こうはいかないだろうがな」
「なるほど。小規模だからこその、小回りの良さを活かすということですね」
「理解が早くて助かる」
タスクマスターと律子の真面目な会話。タスクマスターの育成方針は、畑違いなだけあって、新鮮だった。しかも、ちゃんとした今後の方針を組み立てている。
基本一匹狼のタスクマスターではあるが、実は統率力も高く評価されている。グリーンゴブリンや悪神ロキといった、悪役の重鎮ばかりが集まる会議に、新メンバーとして招集されたこともある。ただの無頼では、こうはいかない。
「方針はわかりました。それで、ボーカルは教えられるんですか?」
「なんとかなる筈だ。正直、出たとこ勝負だが……」
ダンスの時より、多少自信がないように見えるタスクマスター。けれども、律子は信じていた。と言うより、あんな反則技を見せつけられては信じるしかない。律子は数日前の、タスクマスターと真の初顔合わせを思い出していた。
「ガガガガ、ガイコツゥ!? 律子、この人一体!?」
真はまず慌てた。そりゃそうだ、こんな漂白された死神のような男を現実社会で見れば、普通驚く。スパイダーマンのパチモンと呼ばれるデッドプールより、タスクマスターの方が多少外見にインパクトがあった。
「プロデューサーが呼んできた、特別コーチのタスクマスターさんよ」
驚きを通り越して、もはや異常に慣れた律子がタスクマスターを紹介した。
「俺がタスクマスターだ。お前の名は?」
「き、菊地真です」
「マコトか。少し外から見ていたが、なかなかいい動きをする。しかるに、スーパーヒロインになる気はないか? お前の身体能力、アイドルという枷を外せば、一気に」
「タスクマスターさん! アイドルの引き抜きは辞めて下さい!」
真を引き抜きにかかったタスクマスターを、律子が止めた。
「スーパーヒロインかぁ……」
「真もちょっといいカモって顔しない!」
真は満更でもない顔をしていた。いの一番出会った相手に、女性にしか出来ない職業を勧められる。貴重で嬉しい経験だ。スーパーヒロインではなく、スーパーヒーローに勧誘されていたら、いつも通りに傷ついていたが。
「転職の可能性は今後真剣に考えるとして、今はダンスのレッスンだ」
どうやらタスクマスターは、まだスカウトを諦めていないようだった。
「えーと、それはボクにアナタが教えるということでしょうか?」
真が当然の疑問をぶつける。
「他に誰がいる」
タスクマスターは当たり前だろと答える。真は律子に助け舟を求めるものの、真と目が合った瞬間、律子は力なく首を振った。あきらめろ、首振りの意味はこの五文字だ。
「フン。どうやら、俺の実力を疑っているようだな」
というより、タスクマスターにダンスを踊るイメージが一切無いのが問題だ。むしろ、彼の姿を見て「この人はダンスの達人なんだ!」と思える人間は、脳か目の医者に行った方がいい。
スタジオに流れる音楽に合わせ、タスクマスターは肩でリズムを取り始めた。華麗なステップ、洗練され一挙手一投足にキレのある動き。タスクマスターは十二分にダンスをこなしてみせた。
「へえ」
真も感心した様子で見入っている。想像以上に上手いなと、でもそれほどではない。もしダンスで勝負したら、ちょうど真と互角ぐらいだ。コーチとしてはちょっと物足りないかな。そんなことを考えているうちに、真はあることに気がついた。気がついた瞬間、唖然とする。これはまさか――。
「律子!?」
真は腕を組む律子に、激しく問いかけた。
「どうやら気づいたみたいね。合ってるわよ、その考え」
気づかないわけがない。なんてったって、自分が人生で一番見てきた人間のダンスなのだから。主に、鏡面の反射越しに。
「ボ、ボクのダンスじゃないか!? そんな、でもステップの入り方やアピールの入れ方がボクそのものだ!」
タスクマスターは、真のダンスを完全に模倣していた。動きだけでなく、癖や弱点といった負の面も、ちゃんとコピーしている。まるで、立体映像化した自分。真の今までの鍛錬や才能の全てを、タスクマスターは頂戴していた。
「どうだ、マコト。これがお前の動きだ。じゃあ次は日高愛だ!」
伝説のアイドルの名を叫んだタスクマスターの動きが一変する。真のダンスより、完成度の高いダンス。タスクマスターは一瞬で、己の動きを菊地真から日高愛へと切り替えてみせた。
「続いてダズラー! ジャガーノートでさえ魅了する、アメリカのアイドルだ」
一見して運動量が多いと分かる、激しい動き。日本のアイドルに比べ、派手な動きと本場の匂いを感じさせる艶やかさ。ダズラーというアイドルの名に心当たりはないが、真や愛にも劣らぬダンスであった。世界は広い。
クルッと回るターンでダンスをしめるタスクマスター。もはや、パーフェクトレッスンとしか言いようがなかった。完璧すぎる。
「写真的反射能力。俺はな、一度見た人間の体術を瞬時に模倣できるんだよ。難易度は対象によって変わるが、アイドルのダンスなら即座に再現できるぜ。なにせ、血の匂いがしないからな。血の匂いがすればするほど、再現は難しい」
タスクマスターが最巧と呼ばれる所以は、この能力にある。どんな難解な動きでも見ただけで記憶し、瞬時に模倣してみせる。完全な習得には訓練という時間がかかるものの、単純な動きくらいなら即座に真似できる。タスクマスターに技術や体術を盗まれたヒーローは五指に余る。
「そして、覚えた動きを他人に伝えることも可能だ。マコト、当然お前にアイやダズラーの動きを教え込ますこともできる。最も、お前らは他人のコピーは嫌いそうだからな。ボクはボクでいいんだ!みたいなドラマをやってる時間はないから、別の方法で行くぞ」
「サバサバしてるなぁ! この人!」
流石は本職傭兵、切り詰めるところは限界まで切り詰めている。
「俺がまたお前の真似をするから、お前はそれを見て、自分の弱点を見つける。自覚した弱点を意識して踊り、それをまた俺がコピーする。その繰り返しで、弱点をカバーしていくぞ」
「なんてまともな育成法……」
タスクマスターの長所を活かしきった今後のプランだ。正直、デッドプールPの知り合いが、コレほどまともなプランを生み出すとは。ちなみにデッドプールPの真に対するプランは、
“マコトクンのプラン? 髪伸ばせばいいんじゃね? 半年ぐらいかけてさ”
という、ワケのわからないプランだった。亜美真美に半年後までに髪型をどっちか変えろと命令していたし、どうもデッドプールPの方針は分からない。いったい半年後に、一体何があるのか。きっと、神のみぞ知ることだ。
「マトモに決まってるだろ。マトモこそ、成長への近道。いい機会だ、タスクマスターのもう一つの異名を教えてやろう」
ポキポキと、指が鳴っている。タスクマスターの手に、力が込められていた。相手を威圧する、厳格なる力だ。
「それは、鬼教官。人は俺を、鬼教官タスクマスターと呼ぶ」
育てたヒーローや悪役は無数。報酬が貰えるのならば、誰でも鍛えてみせる。タスクマスターの教官魂に、激しい炎が灯っていた。
「真との相性はバッチリでしたね。あの子、体育会系ですから」
律子は思い出す。指導終了後の、真の爽やかな笑顔を。
タスクマスターの指導を数日受けた真は、ダンスのレベルが目に見えて上がっていた。タスクマスターの厳しさと真の気質がカッチリとはまった結果だ。例えば自我の強い伊織や努力を好まない美希では、ここまで上手くいかなかっただろう。
「結果を出さないと、タスクマスターの名に傷がつく。一人育てる気だったのが、二人育てられたのだから満足だ」
「二人?」
「白々しいな、リツコ。お前も、マコトと一緒にレッスンを受けただろ? 合格点だよ。でなければ、まだレッスンは終わっていない」
「ふふっ、ありがとうございます」
律子も真と一緒に、数日間レッスンを受けていた。メインの真には劣るものの、律子のダンスもレベルアップしている。付き添いのフリをしたまま、律子はタスクマスターのレッスンに参加していた。
「まあいいさ。デッドプールの世話役にするには、惜しい人材だ。最初は、お前にあいつを押し付けて、その隙にアイドルを育てる気だったが」
「何恐ろしいこと考えてるんですか」
どさくさ紛れにとんでもないことを考えていたタスクマスター。リッちゃん危機一髪だ。それにしても、アイドルに世話をしてもらうプロデューサーとは、なんなんだろうか。
「そろそろ、何か嫌な気がするな。デッドプールが、何かやらかしそうな気がする」
付き合いが長いだけあって、タスクマスターはデッドプールPのことを良く知っていた。今頃、何やら余計なことを考えていそうだ。だいいち、デッドプールがかかわる物事には、だいたい破天荒という言葉が付きまとう。ロクでもないという言葉でも可だ。
「プロデューサーも、悪い人じゃないんです……よね?」
「……次は、ボイスレッスンだったな。ならば、一応保険をかけておくか」
律子の疑問を、タスクマスターはあえて無視した。
一方その頃、765プロ事務所では、
「どうだミキティ。オレの壮大な野望、スゲエだろ!」
黒マスクのデッドプールPが、自身が社長となる目的を、切々と美希に語っていた。
「ZZZ……」
美希はすやすやと寝息を立てていた。デッドプールPの支離滅裂な演説を聞いているうちに、眠くなってしまったらしい。デッドプールPのマシンガントークを聞きながら眠れるのだから、大したものだ。なにせデッドプールPはやかましい。
「ギャー! 寝てるし! オレの原稿用紙換算数百枚の野望は、誰も聞いてなかったってコトか!? なんという不条理、こうなってはミキティの顔にイカスミか靴墨を塗るしか無いな。そうだ、そうしよう」
イカスミを手にしたところで、デッドプールPはあることに気がついた。
「待てよ? タスクマスターに働かせて、美味しいところをいただこうとしていたが、もしかしたら本人かリッチャンがオレが貰うべきところを持って行ってしまうかもしれない。なんてこった、タスキーが黒くなったら織田信長の盃じゃないか、黒檀の髑髏だ。リッチャンが黒くなったら、サングラスだ。イカン、何かダメ押しをしておかないと、オレが社長になれないぞ。そうしたら、計画がおジャンだ」
タスクマスターの予想通り、デッドプールPは今リアルタイムで、余計なことをしようとしていた。
「うーん、プロデューサーとしての名声だけじゃ足りないな。なにせリッチャンは裏方でアイドルだ。つまり二つの職業の兼任だ。対するオレは、プロデューサーのみ。ああ、そうか、そういうことか」
腰に手を当てセクシーポーズを取るデッドプールP。窓ガラスに映った自分の姿を見て確信した。いける、と。
「オレもアイドルになればいいんだ! そうすりゃ、リッチャンに負けない二刀流だ。デッドプールハ、カワイイデスヨ。OK、OK。プロデューサー兼社長兼アイドル……イカしすぎる!」
イカしすぎではなく、イカれすぎだと突っ込む人間がこの場にいないのは実に不幸だった。つまりそれは、余計なことをし始めた、デッドプールを止める人間がいないということなのだから。
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