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とある中国風衛兵の一週間

月曜日
「この門を通りたかったら、この紅美鈴を倒してから行きなさい!」
「あいよ」
 マスタースパークでぶっ飛ばされた。


火曜日
「この門を通りたかったら」
「わかってるって」
 ほうきで跳ね飛ばされた。


水曜日
「この門……」
「了解ッ!」
 通常弾で一蹴された。


木曜日
 視認する前に遠距離から狙撃されて戦闘不能に。


金曜日
 すいません、寝ていて気がつきませんでした。

土曜日
「今日突破されたら五日連続で……」
 指折りし日付を数え、美鈴は戦慄する。
 幻想郷にある屋敷の一つである紅魔館の門番、紅美鈴。館の外をうろついている宵闇の妖怪やに比べれば格段に強いのだが、屋敷の中の人々と比べると少し劣るという微妙な力を持つ妖怪。彼女は今、その屋敷の中の人々と張り合える力の窃盗犯を止められない自分の微妙さを呪っていた。
 窃盗犯の名は霧雨魔理沙。普通の魔法使いという地味な異名を持つがその力は異名に反するようにすさまじく派手である。その火力は幻想郷でも指折り、特に得意技のマスタースパークにいたっては撃った後にぺんぺん草さえ残らないと噂されるほどに極悪だ。
 そんなぺんぺん草より丈夫な美鈴を退け、毎日彼女は紅魔館の大図書館で賃貸と言う名の略奪に勤しんでいる。屋敷の門を守る立場に就いて早数年、このような失態はかつて無かった。
 今日は流石に通せない。ここで通してしまえば自分の数年間の価値は無となるのだから。身体を覇気が支配する。
「韓国さんー」
「思いっきり国名間違えてる!?」
 背後から聞こえてくる声にツッコミながら中国が振り向く。
「ああ、なんか地の文の名称まで変わっているし!!」
「どうしたんですか、蒙古さん? 急に叫んだりして」
「惜しい、半島よりは微妙に近いけど惜しい!」
 小悪魔が首をひねる。
 図書館で働く名称不明の小悪魔、それが彼女だった。ちなみに先ほどまでの発言には悪意は無い。きっと天然なのだ、多分。
「まあそれはそれとして」
「人の名前をそれはそれでで済まされても……」
「魔理沙さんの接近を感知しました。あと数分でこちらにたどり着くと思います」
 目標接近中。でも当方に迎撃の用意無し。覚悟未完了。
 とりあえず足りない力は策で補う。人知れずこの日のために孫子やら孔明やら何やらを勉強してきた中国の脳がフル回転する。結論として、ここまで圧倒的な戦力差はどうあがいても補うことができないのがわかった。
「すいません。ギブアップでお願いします」
「弱気になってはいけません、越南さん。お嬢様たちも台湾さんの活躍を願ってますよ」
「一つの会話文内で国名変わるのは流石におかしくないですか?」
「レミリアお嬢様も言っておりました。『今日突破されたらクビね』と」
「崖っぷち!?」
 主人にクビを切られたら文句無しに門番失格どころか明日から職探しだ。
「大丈夫ですよ。その処遇に咲夜様とパチェリー様が異議を出したので現在それに関しての議論は平行線状態です」
「咲夜さんとパチェリー様が……」
 危機の時にこそ人の本当の優しさがわかると言う。 
 普段はこれイジメじゃね? くらいの態度を取ってくる二人が自分をかばってくれている、中国の胸に何か熱いものがこみ上げた。
「現在はレミリア様がクビ、咲夜さんが馘首、パチェリー様が解雇を主張しています」
「どれも結果変わらないですよね!?」
 自分の何がいけないのか。門番の責務を果たしていないのがいけないのか、それとも忘年会の隠し芸で酔った勢いでまな板をカチ割ってみたのがいけなかったのか。あのときは『胸デケーからって調子のってんじゃねえぞ?』的な無数の視線に睨まれて一気に酔いもさめた。
「もうあきらめるしかないんでしょうか……」
「そんなあ、弱気にならないでくださいよ米国さん。今日魔理沙さんを止めればお嬢様は意見を変えてくれますよ」
 一文字違いだが距離的に随分と中国と離れている国名で呼ばれた。
「お嬢様はって、他の二人の意見は……」
「それはそれとしてですね。あと数分で魔理沙さんが来襲しますよ」
 職務を完遂すればきっと意見を二人も変えてくれるはずだ。たぶん、必ず。
 すっかり忘れていたが、危機はすぐそこに迫っていたのだ。数分後、白黒の魔法使いが至極破壊的に呼び鈴を鳴らして、屋敷の中へと突入するだろう。
 中国は何かを決意した表情で門の中央に仁王立ちとなった。
「クビ決定だとしてもここは退くわけにはいきません。この門には私の誇り、私の意志、かけがえのない記憶が積もっているのだから」
「まあそれはそれとしてですね」
「魂の叫びをスルーされた!?」
 小悪魔、恐ろしい娘だ。
「実はパチェリー様から最終兵器だって預かっているものがあるんですよ」
「最終兵器?」
「ええ。でも本人が期待しないでねと言っていたので、どれほどの物かはわからないのですが」
 小悪魔が中国に手渡したものは幻想郷唯一の新聞である「文々。新聞」だった。最終兵器と言うにはあまりにお粗末な一枚の新聞。だが、その新聞は中国にとって最終兵器になりえる可能性を秘めていたのだ。


 小悪魔さんから手渡された新聞の一面は第二回東方最萌えトーナメントの結果速報だった。その中央に大きく書かれた言葉は「紅美鈴優勝!!」という雄雄しい言葉。
 その言葉を見た瞬間……その瞬間だった。
 小悪魔さんがまだ何か喋っていたが、私には、もう聞こえなかった……
 かろうじて……「あ……アリガトウ……」と言えた……
 と……閉じ込められていたものが、ふ……噴出しそうになる。
 み……見える……私の……プライドが……見えてくる……

              中国ー!!

 無数の人達が、私の名を(正式名称じゃないけど)を叫んでくれている。この声こそが私のプライドであり、強さの証明ッ!!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ええ!?」
 新聞をじいっと見続けていた中国の突然の絶叫に小悪魔が驚く。
美鈴の体からは魔力とは違う力、かといって気とも少し違う、何か言い表せない強大な力が彼女の体からほとばしっていた。
「小悪魔さんッ!!」
「は、はい!?」
「私の、私の名を呼んでみてください!!」
「えーと……墺太利?」
 もはやこれが一瞬で読めたらすごいレベルの国名だ。
「できればこの場面でネタは無しでッ!!」
 存在自体がはんばネタキャラの人に言われても説得力はない。
 だが、小悪魔はあっさりとそれに従った。今の美鈴に宿る言い知れない力は、かませ犬を一気に強豪キャラへと押し上げるほどの力だったのだ。
「紅……美鈴?」
「もっと大きく」
「紅美鈴」
「もっとぉッ」
「紅美鈴ッッッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 絶叫する美鈴。もはやブレーキの壊れたダンプカーのように、アクセルをちょっと踏み込むだけで目の前のもの全てを弾き飛ばして暴走しそうだ。
「もっ……もどったんですね! 美鈴さん!!」
 何が戻ったのか良くわからないが、とりあえず地の文は中国から美鈴に戻っている。
「小悪魔さん! 紅魔館の一員としてっ、貴女が見届けてください!」
 先ほどまでの弱弱しいヘタれな中国はもはやここには居ない。ここに居るのは紅魔館の門を守護する誇り高き色鮮やかな門番、紅美鈴だ。
 雄たけびをあげ、美鈴が跳ぶ。その真正面に居るのは、まごう事なき黒白の魔法使い。美鈴は弾丸のごとき速さで突っ込んで行く。
「なっ……!?」
予期せぬ奇襲に対し、魔理沙と言えどそれに対応することはできなかった。


お詫び
このあと中国の誇りと威信をかけた一戦が行われるのですが、時間の都合でカットさせていただきます。なにぶんご了承ください。


「ええっ!? 私の大活躍が描かれるんじゃないんですか!? 
『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
『スペルの詠唱が間に合わないほどの連撃!? 単純な殴る蹴るで魔法を抑えるなんて信じられないぜ!』
とか
『この門を通るのに必要なのは弾幕ではありません。私の闘志を砕けるほどの強い意思! 純粋な力こそが通行証!!』
とかの見せ場もカットですか!? なんとか魔理沙さんを追い返すことに成功したんですよ!! あの激戦の光景をカットしたら私がウソついてるみたいじゃないですか……」
 よくわからないがきっとスゴイ戦いだったのだろう。現に門の周辺は建て替え必須なほどにボロボロになっている。
「誰も認めてくれなくても、私がこの目で見ました。誰か一人でも目撃者が居れば、それは真実の記録です」
 美鈴の願い通りに、この戦いの全てを見届けた小悪魔が優しく微笑む。
「小悪魔さん……」
「美鈴さんの死闘、この小悪魔が見届けました。既にレミリアお嬢様やパチュリー様にも報告済みです。きっと皆さんも意見を変えて下さいますよ」
 優しく美鈴の肩に手を置く小悪魔。それを受けて美鈴が背後を振り返ると……
「あれえ!?」
 紅魔館がエライ状況になっていた。ところどころに穴が開いている上に、中には炎上している箇所もある。門に負けず劣らず悲惨な状況だ。
「な、なんで!?」
「流れ弾がぶわーっと屋敷の方に……でも大丈夫ですよ。あれは不可抗力ですから!」
 それは流石に無理だろう。
 門も守りきって館を攻撃されては本末転倒だ。
 アレを不可抗力と認める判決を出した日には、ヤマザナドゥが怒って三途の川を渡ってきかねない。
「……小悪魔さん」
「はい?」
「ところで報告ってどんな感じで……?」
「はい。図書館の辺りを焼いたのはマスタースパークの余波、玄関はスターダストレヴァリエを美鈴さんが避けた際に直撃して破損、屋根の辺りは……」
「無駄に詳細報告済み!?」
 もう、言いのがれさえできない。
「ちなみに咲夜さんの私室の辺りは彩光乱舞によって破壊されました」
「……彩光乱舞? って私の技じゃないですか!?」
「ええ、もう狙い済ましたようにドカンと流れ弾が」
 全てが終わった……
 もう許されるとか許されないとかそういう次元じゃない。一刻も早く逃げなければクビどころか、本物の首を刎ねられかねない。
 美鈴が動こうとしたその時、空間に違和感が生まれた。なにか時間の歯車が狂ったような感覚、実際止まってはいないのに一瞬出遅れたような感じ。この感覚は間違いない。時を止める程度の能力の発動の兆候。
 時間を操ることで極厚の弾幕の壁を作り上げる技。メイド長である十六夜咲夜の、美鈴の手により私室を焼かれた十六夜咲夜の技だ。
「やっぱりぃ!?」
 気づいたときには無数のナイフが美鈴の周りで刃を輝かせていた。四方八方を囲んだナイフの壁に隙間など一切無い、つまりは――
 ――回避不能!!
 気がつくと弾幕の壁の向こうで小悪魔が合掌している。そしてぽつりと一言だけ呟いた。
「死亡確認」


日曜日
「生きてるって幸せですねえ」
 大方の予想を覆し、中国は生き残っていた。
 地の文も美鈴から中国に戻ってしまっていたが、そんな事は生き延びた喜びにからみれば些細なことなのだ。
 昨日の戦いの結果は確かに燦燦たるものだった。しかし努力は認められた。
 やる気が無いためにこんな惨状になったのではない、やる気がありすぎたせいでの破壊だったのだ。それを責めるほど、この館の人たちは不人情ではなかった。最も、館を破壊した罪の話は別の話といわんばかりにしこたまボコボコにはされたが。
「てなわけで私のカラダはボロボロなんですがちょっと休んで良いでしょうかー」
「駄目。きっちり働きなさい」
 下で見ている咲夜の監視は途絶えない。現在中国は屋根の修復に勤しんでいた。
 破壊した人間がそれを直す。それは当然の話だが、激戦と折檻をやり遂げたこの体では正直な話キツすぎる。でもやりとげなければならない、やらないときっとものスゴイ目に合わされるのだから。
「今日はそっちに集中して良いわよ。もし黒白が来たら私が追い返すから」
 咲夜の申し出はありがたいが、きっと今日は来ないだろう。何故か魔理沙は日曜に来襲したことが無い。気ままな生活のクセに休日を定めているのか、それともただの気まぐれなのかは中国にはわからない。そして、咲夜がそれを知った上で追い返すと言っているのかも知らない。
 とりあえず現在の真実は館を直す事のみ。中国は再びトンカチを振りかぶった。

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