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赤と青と金

「黒化ねえ、俺には無いな」
「同じく。いや、私自体がヤツの黒化と言えるのかな」
「ボウズの黒いのはあの入れ墨のヤローじゃねえのか?」
 気だるい日差しの午後。公園のベンチでダラダラとしている、マッチョコンビことランサー&アーチャー。話題の中心は先日アホ毛を抜かれて黒くなったセイバーの事だった。
「しかしあのセイバーがハンバーガーをもしゃもしゃ食っている光景はシュールだな」
 あまり食にこだわらないサーヴァントの中では美食家と呼べるセイバー。自分で料理を作らないくせに雑な料理を嫌うと言った、至極面倒な彼女が雑な料理の代表格であるハンバーガーをもぐもぐと食う。むしろ扶養する側にとっては黒くなってくれた方がありがたいのではと思える。
「まあアレの主は満足しないだろうな。自分を酷使することと人に奉仕することに喜びを見出す男だ。ヤツにとって黒化は最大級の悪夢と言えよう」
 他人事のように過去の自分のことを分析するアーチャー。
「しかしなあ、味の好みが変わるって事は趣味思考の好みが全部変わっちまったのか?」
「ハーッハッハ! 待っていたぞこの時をな!」
公園に唐突な馬鹿笑いが響き渡った。

「ところでバイトの方は最近どうだ?」
「いやー、どうも長続きしねえんだわ。まあ食うには困ってないけどな」
「話を聞け、雑種共があッ!」
 他人のフリをしようとした二人を怒鳴りつけるギルガメッシュ。
 例の腹筋全開のセクシャラスな格好をし、ひときわ高い木のてっぺんで叫んでいる姿は「あ、やっぱりケムリと一緒で高いところ好きなんだ」と思わせる雄姿だ。
「ふっ、セイバーの黒化。それは我の時代が来たということだ」
「おーい、あっちで女子高生が指差して笑っているからとりあえず話聞いてもらいたいなら降りて来ーい」
「所詮愚民共に王の行動を理解するのは不可能か」
 一気に飛び降りずにえっちらおっちらと降りてくるギルガメッシュ。その姿を見て色黒の女子高生が腹を抱えんばかりに大爆笑している。とりあえず、アレが王様的行動ならば王になどなりたくない。


「聞いたぞ、セイバーの好みが正反対になったとな」
「とりあえず降りるの待っていてくれてありがとうぐらい言えねーのか」
 ギルガメッシュが木の上から地面に下りるまで結構な時間が経っていた。
「王とは引かぬ媚びぬ省みぬものなのだ」
「それは王ではなくて聖帝の心得ではないのか?」
「セイバーは確かに我の妻にふさわしい女性であった。しかし、唯一の欠点があった。人を見る目がないことだ」
「ランサー。なんでこの男は人の話を聞かないのに自分の話は聞いてもらえると思っているのだ?」
「そんなこと俺が知るか」
「黙って我の金言を聞いていろ。我ほどではないが完璧な女性であるセイバーであったが、趣味の悪さだけはいただけなかった」
 人の話は許さぬが自分は話しまくると言った、見事な我様思考のギルガメッシュ。きっと天上天下唯我独尊を歴史上初めて言ったのは釈迦ではなくこの人だ。
「そもそも雑種の主と我を比較するだけでも罪なのによりにもよって雑種を選ぶとは……許しがたい愚考よ」
 きっと比較はされていない。元々相手にしていないから。
「こういう思考がセイバーは気にくわねーんじゃないのか?」
「自分のせいではなく人のせいと考えるとは奴らしいな」
 ランサーとアーチャーが全うな感想を述べる。
「だがセイバーの好みは黒化することで変わったと聞く。ならば今なら我の愛を素直に受け入れてくれるに違いない」
 裏を返せば普段のセイバーには相手にされていないと言う事なのだが、きっとそれには気付いていない。我様だから。
「では我はセイバーに求婚してくる。貴様らはハーレム状態のわくわくざぶ〜んに入れなかったことを悔いながら細々と生きて行くが良い」
 マッチョコンビのホロウでの最大の屈辱をわざわざほじくり返してからギルガメッシュは去っていった。
「……俺、あの時だけは戦争開始時になんで小僧をキチンと殺しておかなかったのか悔いたんだ」
「貴様なぞまだ良い。私は過去にあそこに居たんだぞ、それで『マッチョコンビざまーみろ』とか思っていたのだぞ? まさか将来自分が追い出されることになるとは当時は全く思ってもいなかった」
 悲しげに笑う合う両者。
「そもそもバゼットが令呪奪われた時点で……」
「正義の味方を目指した時点で間違っていた……」
 不幸比べをしながらドツボにはまっていく不幸な未来の反英雄と古代の英雄。その不幸比べは、生前自分が裏切られて殺された話をお互い持ち出すまで続いた。


「元々たいして嫌われていなかったからこうなったって考えてやるか」
 エクスカリバーの直撃を喰らい黒焦げになって公園まで吹っ飛んできたギルガメッシュを棒でつっつくランサー。いちおう反応しているからまだ生きているようだ。
「いや。どっちにしろセイバーにとってギルガメッシュは好ましくないのだろう」
 投影したスコップで地面を掘るアーチャー。しっかりと「ギルガメッシュのはか」と刻まれた十字架も投影している辺りに手際の良さが見て取れる。
「まあ待てよ。コイツの素敵な髪型に免じて……な?」
 ギルガメッシュの髪型は見事なアフロになっていた。流石はノーマルセイバー以上の力を誇る黒セイバーのエクスカリバーだ。
「それもそうだな」
 アーチャーはペンを取り出し十字架の文字をギルガメッシュからアフロメッシュに書き換えて、再び穴を掘る作業に戻った。

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