デッドプール　チームアップ！　涼宮ハルヒの憂鬱　後編

• 2011.06.26 Sunday
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「出来ることならば、涼宮さんが来るまでに結論を出したいところですが」
　古泉が、早急に物事を済ませたいと提案してくる。俺もそれには賛成だった。ハルヒよりなにより、俺達の精神が持たない。知っている人間、一人は本物である人間を疑うのは辛すぎる。長門と古泉の、どちらがニセモノなのか。内心舌を出している一人以外は、俺と同じく平穏を装いながら悩んでいるのだろう。ポーカーフェイスが元来得意な二人の顔からは、全く疑い知ることが出来ないが。
「いっそ長期戦にもちこむのはどうだろう。具体的には、驚愕の続刊が出るぐらいまで」
「この丸一日だけで、閉鎖空間に出現する神人が倍増しているのですが。この状況をあと２〜３日続けられたら、機関は壊滅してしまいますよ」
　それひょっとして、倍増どころか激増、１０倍近く増えてるんじゃないか？　今日の古泉の急激なやつれっぷりを見るに。南方戦線から一時離脱してきた日本兵とて、ここまで疲れはててはいないだろう。
「いったい、なんでそんなことになったんだろうな。オレ達人間が、一人一人己の行動を見直す時期が来たのかもしれん」
　自然啓発モノの映画のラストみたいな事を言って、話を閉めようとしているデッドプール。いやどう見ても、昨日からずっと、お前がハルヒに妙なことを吹き込んでいるせいだろうよ。
「えー、でもオレちゃん、特に変なこと言ってないぜ？」
　存在自体が変な生き物がなにか言っている。
「朝比奈みくるのフリをして、それとなくその……ぶっちゃけキョンとくっつかねーかなーってアピールを。ぶっちゃけ、みんなそうなればウィンウィンでハッピーじゃね？」
　よし分かった、もう一度自分の任務を確認しろ。なんで宇宙人と戦いに来たスーパーヒーロー？が、谷口並の思考と使命感で行動してるんだ。俺とハルヒを無理にくっつけて、何が楽しい。
　いや、コイツの場合、どんなことからでも楽しみを見出しそうだな。たとえ自分の発言で、神人がうじゃうじゃ湧いて出ても。
「どうにも合点が行きませんが、実際神人が大量発生している現状、そういうことなのでしょう」
　古泉の言い方は、やけに奥歯にものが挟まったようなまとめ方だった。
「一発でスクラル人を見抜く方法でもあれば、あっと言う間に終わる話なんだけどねー。いやーマジ残念だわー、ホントにそんな方法があればなあ」
　鬱陶しい朝比奈さんなんて、レアな光景だけど決して見たいもんじゃねえな。
　そんな中、何処からともなく可愛らしい着メロが聞こえてきた。
「はい、もしもし。朝比奈みくるです」
　さも当然に電話を取るデッドプール。そのピンクの可愛らしい携帯、まさか朝比奈さんの私物じゃないよな？　そのままデッドプールの携帯だとしても、なんか嫌だが。
「ふぇ？　誰ですか？　あ、はい。間違いですか、それはどうも……残念だったな、ピーター・パーカー！　かわいい女の子だと思った？　残念、デッドプールちゃんでしたー！　おおお、落ち着け、ウェイドもといウェイト！　電話切らないで！　ほうほう、こっちは行き詰まっている、だからそっちに進展はないか？　いやー、こっちも手詰まりですね、ええ。なにせスクラル人の正体を見抜くのは難しくて。え？　正体を見抜く合言葉？　あー、アレ。女子高生のフリが死ぬほど楽しいから、このままあと数ヶ月公表は控えようかと思ってたんだけど。ＯＫＯＫ、ちゃんとやるよ。じゃあ、ＭＪによろしくな！　え！　別れたの！？　ゴメン、知ってた！」
　電話を切り、ついでにイメージ・インデューサーとボイスチェンジャーも切って、デッドプールは真の姿と真の声に戻る。
「今、スパイディから電話で、救出班は上手くいってないけど、なんかスクラル人の変装を見抜く合言葉が分かったんだってさ。オレちゃんもビックリだぜ（ＣＶライアン・レイノルズ）」
　スパイディってスパイダーマンだよな？　本名がピーターとか、バラしてもいいのかよ。
　それにしても、ニセモノが身内に居ると知らされて以来、バラバラになりかけていたＳＯＳ団の心が久々に一つになった。わざわざ、確認したわけではないが、きっと古泉も長門も同じ気持だろう。
　一回コイツ、凄く凄く痛い目にあわないものか。不死身らしいが、それでも出来る限り。
「この合言葉を唱えると、あら不思議。一発でスクラル人がバレるという寸法よ！　じゃあ早速、涼宮のハルヒちゃんが来る前に真実を」
「おっまたせー！」
　バン！と留め金が壊れるような勢いで、開くドア。
「どりゃー！」
　デッドプールはそんな元気な乱入者を速攻でロッカーにぶち込んだ。
「じゃあ早速、涼宮のハルヒちゃんが来る前に真実を」
　ガタガタと鳴るロッカーを必死で抑えながら、仕切り直しを図るデッドプール。ちょっと待て、この状態でその仕切りなおしは無茶だろ。ロッカーもガンガン揺れてるし。その中に居るのは、どう見ても、団長様だろ。
「そうですね。さっさと、終わりにしましょう」
「問題が二つあるならば、複雑な物を優先すべき」
　スゲエ、ついにこの二人が諦めた。ならここは、俺も諦めざるを得ないな。聞こえない、何も聞こえない。ロッカーの中から聞こえる「開けなさいよー！」という声も聞こえない。
「よーしいい度胸だ、お前ら。行くぞ、耳の穴かっぽじってよく聞けよ。馬耳東風なんて許さないからな！」
　外人とは思えぬ語彙の豊富さを見せつけて、デッドプールは全てを決する呪文を唱えた。
「彼は私を愛している！　He loves meー！」

　彼とは、一体誰のことなのだろうか。彼は私を愛している。彼とは人なのか、父親なのか、王なのか、それとも神なのか。スクラル人の考えは分からないが、地球人の俺でも、彼という二人称の重みは理解できた。
「……あれ！？」
　問題は、長門も古泉も、先ほどと全く変わらないことなんですが。当然、俺が実はスクラル人でしたー！なんてこともない。デッドプールですら、困惑している。
「まいったなあ、流石にこれはマズい。合言葉を間違えたか？　あの時、耳掃除しながら聞いてたから。右から左って感じ？」
　なんという、馬耳東風野郎か。
「彼は私を愛している」
　ぽつりと呟く長門。
「間違いがあるとすれば、彼ではなく彼ら、私ではなく私たちのような、簡単な部分かもしれませんね」
　古泉の予想通りなら楽なんだけどな。なにせ、合言葉を持ってきた相手が相手、根本的に間違っていてもおかしくはない。
　彼は私を愛している。自分で口にしてみると、神聖さと共に詩的なにおいも感じられた。
「ええい！　もう本物の上様とてかまわぬ、切りすてぇい！」
　錯乱して、刀を手にし、こちらを向くデッドプール。当然、押さえていたロッカーの扉が開き、デッドプールは吹っ飛ばされた。
「ああもう！　なんなのよ、いきなり！」
　プンスカ怒りながらロッカーから出てきたのは当然……。
「なるほど。そういうことだったんですね」
　全てを理解し、表にまず出したのは古泉だった。長門は表に出さず、俺はまだ完全なる理解が出来ていなかった。
「え？　何よ、みんな。あたしの顔に、なにか付いてるの？」
「別に顔には、何も余計な物は付いてないぜ。余計なのは、身体についてる頭さ」
　一閃。デッドプールの一撃により、ハルヒの首。いや。ハルヒに化けていたスクラル人の首は跳ねられた。跳んだ緑色の頭をキャッチしたのは長門だった。スクラル人の変装は、あの合言葉により解けていたのだ。
「まさか涼宮さんに化けていたとは、盲点でした」
「考えて見れば、アメリカは不干渉でも、スクラルが不干渉でいる道理はないんだよなー。いやホントに盲点だったわ」
「涼宮ハルヒを確保しておいて、こちらにはダミーを設置して囮にする。涼宮ハルヒの力の価値を認めながらも、危険性を考慮しない者にしか出来ない作戦。盲点」
「神人の大量発生は、涼宮さんなりのＳＯＳだったんですね」
「オレが良かれと思ってやったんだ。そりゃあ、良い方向に転がるに決まってるじゃん！　１０％ぐらいの確率で」
　言われてみれば盲点だったな。ハルヒを狙っている＝ハルヒに不可侵であるという方程式は成り立たなかったんだ。今まで「ハルヒを狙っている」と公言している奴は、周りくどい手を使ってきていたから、ハルヒをさっさとさらって、代わりに偽物を置いていくという発想が浮かばなかった。スクラル人の真正直さに、危なくやられるところだった。
　まあこれで、本物のハルヒと朝比奈さんが帰ってきたら、万事解決だ。
「みんな、俺ちゃんに感謝しろよ。なんてったって、策略と出任せにより、もう一人潜入していたスクラル人も暴いたんだからな。ボーナスアタック！」
　……もう一人？
「はーい、キョンくん鏡だよー（ＣＶあおきさやか）」
　妹に似た声を唐突に出したデッドプールは、俺に手鏡を向けてきた。鏡に映っているのは、緑色の肌と尖った耳をしたスクラル人の顔だ。おいおい、なんの冗談だよ。その鏡、何が仕込んであるんだ。
「信じられないのならば、ご自分で顔を触ってみたらどうですか？」
　古泉まで、悪い冗談に乗っている。まったくしょうがないな。耳は先が尖っていて、顎は四角でところどころ割れていて、何より指先が緑色で。
　どういうことだ、これは。俺は宇宙人じゃないぞ。ＳＯＳ団唯一の常識枠にして常人枠たる人間が、実は宇宙人でした。どんなどんでん返しで、どんな無茶苦茶なオチだよ。
「スクラル人の変装術が見破れない理由。それは、自己催眠により、自分の正体と記憶を捨て、対象の記憶と人格を得ること。彼らは変身中、自分が化けていることを忘れる。たとえ心を読まれても、そこにあるのは本人同様の記憶と思考回路だけ。スクラル人である痕跡は残らない」
　つまり、今の俺は、自らをキョンという一個人と思い込んでいるだけだということか……？　そんな、バカな話があるか。だいたい、それじゃあ誰かに成り代わっても意味が無いだろ！　成り代わったことさえ忘れるんだから！
「だからキーワードがあるんじゃないか。“彼は私を愛している”っていうのは、完璧に化けているスクラル人に自らの姿と記憶を思い出させるためのキーワードなんだよ。当然、キーワードが使えるのはスクラル人のみ。オレが言っても意味はないと」
　言葉も出ない。あの時、デッドプールがキーワードを口にした時、ハルヒに化けたスクラルはスクラルのままで、俺が何気なくキーワードを口走ってしまったから、変装が解けてしまったのか。妻を殺したのは、俺だ。
　……妻？　妻だと？　そうだ、思い出したぞ。俺はスクラル人で、この任務を夫婦揃って。いや、家族揃って受けたんだ。涼宮ハルヒに化けていたのは妻で、朝比奈みくるに化けていたのは娘だ。俺達は、きたるべき時までＳＯＳ団団員のフリをし、情報統合思念体と得意な超能力者の情報をかき集めておくのが任務で。
「よーし、記憶も思い出したなスクラル人。今頃本物の三人もスパイディ達が確保しているんじゃないかと。じゃあ思い残すことも無くなったところで、ズバーット惨状！　ズバーット血だるま！　行ってみますかあ！」
　刀を振りかざし、襲いかかってくるデッドプール。逃れようとするものの、身体が動かない。見れば長門が、奇妙な数式を口にしながら、手をこちらに伸ばしていた。なるほど、コレだけのことが容易く出来る宇宙人。本隊が欲しがるわけだ。
　脳天を突き抜ける刺激。首や心臓ではなく、頭のみを真っ二つに切られた。拘束が解け、崩れ落ちる己の身体。この男の理不尽さは、俺の任務も家族の命も、あっさりとさらって行った。
「峰打ち、御免」
　ぜんぜん、みねじゃないだろうが……！　ばかやろう。

　困った。本物のキョンくんが帰って来ていないのに、代役を殺してしまった。このままではＳＳの進行が不可能になる。しょうがないから、このオレ、デッドプールが代役を勤めよう。ホント、しょうがない。
「ところで、質問なんですが」
　ＯＫ、なんの話だ？　ＣＶ小野大輔。
「あなたが対スクラル向けであると言う理由が分からなかったのですが」
　いやさー、実はスクラル人ってオレちゃんには化けられないのよ。オレの身体ってガン塗れじゃん？　スクラル人がオレに変身すると、ガンまでコピーしちゃって、バタンキュー。まあこういう状況だと、絶対スクラル人じゃねえという時点で、信用できる相手と言いますか。アイツら、外見だけならギャラクタスにさえ化けられるからね。
「なるほど。そういうコトでしたか」
　これで万事解決……と見せかけて、実は続きが在るんだよな！　エピローグと言う名の後日談が！
　ああちなみに、エピローグの主人公は本物のキョン君ですから。それでは全てが片付いた、数日後へタイムワープ。

　何か知らぬ間に、大事なモノを盗られていた気がする。そんなことをハルヒに言ったら、あんたそんなにロマンチストだったっけ？と、鼻で笑われた。
　日曜日恒例、不思議探索の日。いつも遅刻組である俺は、今日こそ一等に着いてやろうと気合を込めて家を出て、途中で足を止めてしまった。
　体力が尽きたわけではない。何やら、公園から、聞いたことのある人物の声が聞こえてきたからだ。普通には会えない、あの人の声が。
「ごめんなさい」
　大人の朝比奈さんが、深く頭を下げてお詫びしていた
「無理だった？　無理なの？　ホント無理？」
　朝比奈さん（大）が謝っているのは、謎の赤いタイツを着た男だった。なんなんだあの、ユニークな物体は。思わず物陰から二人を観察してしまう。
「そうです。許可が出ないワケではなくて、そちらの指定する時間軸に向かうのは、わたしたちの技術では不可能で」
「ならしょうがないな。オレがあの場に二人いれば、もしかしたら……と思ったんだけどなあ。だから思わず、真面目に働いて、真面目に頭脳プレイをしちまった」
「本当に、申し訳ないです。せっかく協力してもらったのに」
「いいよ、もう頭を下げないでくれ。未来に行って、未来人を一名ばかし救いたかったんだけどなあ」
　何の話をしているんだろうか。あの赤いのは、未来人ってわけではなさそうだ。いったい朝比奈さん（大）はアイツに何を頼んだんだろうか。
「じゃあさあ、代わりに飲みに行かない？　二人で」
「アルコールはダメなんです」
「未来的にダメなの？　ルール的にダメなの？」
「禁則事項です」
「んー……なら、ケーキでどう？　一緒に喫茶店で甘いものでも」
「それぐらいだったら、大丈夫ですけど」
「ヤッター！　珍しく真面目に働いたかいがあったぜー！」
　すげえ嬉しそうだな、あの赤いの。大人の朝比奈さんと二人で喫茶店デート、そんなご褒美を前にされては、世の男達は誰でも必要以上にハッスルするだろう。
「という訳で、エピローグおしまい！　おやすみ、キョンくん！」
　赤いのは拳銃を取り出すと、俺目がけて撃ってきた。ぷすりと、頭に刺さる麻酔弾らしき弾。眠気に支配される中、朝比奈さん（大）が申し訳なさそうに、こちらに手を合わせていた。
　なお、麻酔の効果は短かったものの、おかげで集合場所一番乗りの筈が圧倒的なドベになったというのは、どうでもいい余談である。

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