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THE TASKM@STER〜前編〜

 タスクマスター。アメリカの英雄キャプテン・アメリカとの戦いを皮切りに、数々の戦いを経験してきた一流の傭兵。骸骨そのものの顔面と、深く被ったホワイトのケープは死神を連想させ、今まで狩って来た命は本物の死神同様に無数。与えられた仕事を正確にこなす姿、卓越した体術に技術、優れた育成能力。人は彼をこう呼ぶ、“最巧の傭兵”と。ヒーローにヴィラン、最悪や最強は多くとも、最も巧みであると呼ばれる人物はそうそういない。
 現在日本に拠点を置くタスクマスターは、様々な人物や組織から依頼を受け、与えられた職務を的確かつ迅速にこなしていた。見合った報酬が出るのであれば、仕事の内容も正邪も問わない。彼はプロフェッショナルなのだ。
 そう、彼はプロフェッショナルなのだ……。


 誰もが困惑していた。なんでこんなことになったんだろうと、みんな様子をうかがっている。雑居ビルに居を構えるアイドルプロダクションこと765プロは、突如風雲急を迎えていた。
「どうしてこうなった」
 呼び出されたタスクマスターは、目頭を抑えて悩んでいた。呼び出した本人は、まるで765プロの一員みたいに働いている。
「ヘイ、タスキー! オマエ何飲む? コーヒーかお茶か紅茶、どれもお中元の貰い物で、微妙に湿気ってるけど、いいよな? 答えは聞いてない。という訳で、水道水な。日本の水道水は世界一だから、文句はないだろ。むしろ、絶対言わせねえ」
 タスクマスターを招聘し、765プロであくせくと働く男。
「今度は何を始めたんだ、お前」
「おいおい、見てわからないのかよ? プロデューサーだよ、プロデューサー! 今のオレは只のデッドプールにあらず。デッドプールPよ!」
 わざわざタイツの上にスーツを着たデッドプールPは、ノリノリで答えた。
「いきなり前金が口座に振り込まれた時に、突っ返しときゃあよかったぜ」 
 それなりの金額だったので、思わず受け取って、しかもこうしてノコノコと来てしまった。今更ながら、タスクマスターは己の欲深さを呪った。

 まず状況を説明しろ。そうしないと話にならん。そうタスクマスターに言われたデッドプールPは、事の発端、765プロ高木社長との出会いについて喋り始めた。
「オレが適当に歩いてたら、いきなりココの社長に声かけられたのよ。そこでこっちを見ている君、そう、君!って。そしたら、オレのツラ構えを見て、ピン!と来たって。オレのような人材を求めていたって」
「会ったこともない人間の能力を疑ったのは久々だ」
 タスクマスターは、世界一美味い水道水が入ったコップを手にしていた。 
「こうして素晴らしい慧眼を持った、マックロクロスケな社長に頼まれ、オレは765プロのプロデューサーになったってコトだ。全く、最近のマックロクロスケは合体して人型になるんだな。トロールもビックリだぜ」
「社長が黒かろうと、ネコがバスだろうとどうでもいい。問題は、何故俺が呼ばれたかだ。社長の人格以外、普通のアイドル事務所に」
 引く手は数多、タスクマスターはそれなりに忙しい。なんとなくで、一ヶ月以上TVだけをお友達に引きこもってられるデッドプールPとは違うのだ。
「タスキーにアイドル育ててもらおうと思って。タスキー、人育てるの上手いじゃん。前さ、刑務所入ってた時に、アレだ。囚人にハルヒダンス仕込んだらしいじゃん。ってことは、アイドル育てるのも楽勝だろ?」
「違う。囚人を鍛えたことはあっても、ダンスを教えた記憶は無い。そういうお前だって、プロの傭兵だろうが。育成能力とか無いのか? ベテランのクセして」
 傭兵に限らず、どんな職業でも、ベテランと呼ばれる者にはある程度の育成能力が求められる。いくら仕事が出来たとしても、上手く人を育てられないのであれば、組織においてそのベテランの存在は害悪でしかない。新芽を啄む害鳥だ。
「オレとしては、自分で育てる気マンマンなんだけどさあ。ちゃんと一人ばかし、アイドル育てたのよ? 今じゃ、あんな没個性だった娘が、“閣下”と呼ばれ慕われる存在に。でも何故か、メガネッ娘にアイドル育成禁止令出されちゃったんだぜ!? あの、アイドル兼裏方のメガネ、オレの育成能力に嫉妬してやがるんだ。ヒドいと思わないか!?」
「ああそうだな。実にヒドいな」
 当然、別の意味で。
 実は、デッドプールPも育成能力はそれなりに高い。問題があるとしたら、狂った精神面まで教え子に余すトコなく伝えてしまうことだ。個性のない人間や、意志の弱い人間を請け負った場合、たいてい上手くいかない。デッドプールに教育を任せるのは、一か八かのギャンブルだ。
「仕方ない。手伝ってやるよ」
 このまま、デッドプールPを野放しにしておくのはマズい。しかも、芸能界という波乱が起きやすい業界に。タスクマスターは、こんな義務感から仕事を請け負った。まるでヒーローみたいだ。
「ワオ! 流石はタスクマスター! プロフェッショナル!」
 パチパチと拍手するデッドプールP。拍手という賞賛を受けているのに、複雑なのはなぜだろうか。


「ダメです。認められません」
 “じゃあ早速、メガネさんに話してみるよ! 大丈夫、きっと分かってくれるって!”デッドプールPはこう言ったものの、現実は厳しかった。タスクマスター雇おうぜ!というデッドプールPのアイディアは、メガネさんこと律子に一蹴された。
「えー。オレじゃダメだって言うから、タスキー連れてきたんだぜ。超一流の」
 デッドプールPは食い下がるものの、
「あーもう。これ以上、変な人を連れてこられても困るんです、プロデューサー。プロデューサー一人だけで、てんてこ舞いなのに」
 けんもほろろだった。まあこいつだけで手一杯なのは事実だろうなと、タスクマスターも頷く。
「ヒドいよ! リッチャン! オレが何をしたっていうんだい!」
「事務所で雪歩が掘って埋まってた穴、そのまま埋めましたよね? 平安京エイリアンだぜーって言いながら。掘り出すの、大変だったんですよ?」
「なんだそっちか。オレはてっきり、イオリのデコで実験した話を出されるかと。目玉焼きは焼けなかったけど、黒い紙は燃えたぜ? マジで」
「反射? 日光の反射ですか? 流石に燃えたのはウソですよね」
 やいのやいのとやかましいくせに、話が進んでいない。デッドプールPと律子の相性が良すぎるのだ。ボケとツッコミという辺りで。
「……まあ、とにかく。俺はタスクマスター、一度請け負った仕事はキッチリと行う男だ。アイドル育成は未経験だが、やってみせよう。一ヶ月でどうにかしてみせるぜ。そうだなあ、Sランクも事務所の引越しも、思うがままってところだ」
 このままじゃあどうしょうもないと、傍観を決め込んでいたタスクマスターが二人の話に割り込んだ。
「おいおいタスキー。作中時間一ヶ月でSランクって、360やPSPでも無理だぜ。アーケードだったら、発狂レベル突入だから」
 デッドプールPが分かってねえなあコイツという感じで、タスクマスターの肩に手をかけて、寄りかかる。
「私も、プロデューサーと同じ意見です。アイドルを育てるって、そんなに簡単なことじゃないですからね」
 律子も不機嫌だった。プロデューサー業に興味を持ち、なおかつアイドルでもある律子から見て、タスクマスターの楽観視した態度は少々腹立たしいものであった。
 タスクマスターはデッドプールPをどけ、事務所にあったラジカセのスイッチを入れた。ラジオで流れていた曲は「ALIVE」。かつて伝説のアイドルと呼ばれた、日高舞の代表曲だ。
「ちょうどいい。このアイドルは、見たことがある」
 それだけ言って、タスクマスターは肩でリズムを取り始めた。デッドプールPはタスクマスターの意図を察知し、椅子や机といった邪魔者をどけ、自分は椅子とポップコーンとコーラを用意して、困惑する律子の隣に座った。
「プロデューサー。いったい、何事ですか!?」
「HAHAHA、自信が無くなるぐらい、スゲエことだよ」
 デッドプールはポップコーンを頬張りながら、上機嫌で笑った。


 数時間後。
「ギャー! ガガガ、ガイコツ!?」
 スタジオでダンスの練習をする真の前に、タスクマスターが現れた。
「紹介するわ。プロデューサーならぬ、新コーチよ」
 タスクマスターには、律子が付き添っていた。タスクマスター一人では、いくらなんでも未知すぎるし、怖すぎる。そして律子は、タスクマスターを認めていた。
「コーチ……ですか? 何の?」
「決まってる。アイドルのコーチだ」
 真の疑問に対し、タスクマスターは真正面から堂々と答えた。


「これで良しと。甘い、甘い。タスキーもリッチャンも甘すぎる。自腹だぜ、自腹? リッチャン経費にウルサイから。何の目的も無ければ、自腹で前金払うワケねーじゃん。オレの野望に、誰もまだ気づいていないみたいだな」
 事務所での留守番を命じられたデッドプールPは、まるで黒幕みたいなことを言っていた。
「あのー。思いっきり、私聞いちゃってるんですが……」
 二人と入れ違いで帰ってきた、小鳥さんが申し訳なさそうに言う。
「いいじゃん。誰も聞いてくれなかったら、オレが寂しいし」
「聞かれちゃマズいのでは!?」
 流石に律子のように上手くはいかない。小鳥さんにはスキルが足りなかった。主にツッコミの。
「とにかく、順調、順調。ところでコレ、靴墨とイカスミと墨汁。どれを塗りたくれば、マックロクロスケかな?」
 デッドプールPは、本気で妙なことを企んでいた。

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